劇場版・少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

13 / 49
「この世界」におけるイレギュラーたち

 元はチーム鎧武のダンスステージだった場所は、サッカーを観る人や話題にする人で溢れ返っていた。

 その中で、浮かない顔をする青年が一人。咲は迷わず駆け寄った。

 

「紘汰くん!」

「咲ちゃんっ? と……君は、あの時の」

「ラピスに聞いたよ。紘汰くん、ラピスのこと知ってるんだって?」

「ああ……ええっと、俺は葛葉紘汰」

「サキから聞いてる。ボクはラピス。よろしく、コウタ」

 

 ラピスは満面の笑みを浮かべた。

 

「サキと一緒に観てたよ。コウタたちの試合。コウタの言う通りだった。サッカーって楽しいね。誰も傷つかない。命の失われることのない戦い。すごいよっ。こんな戦い方があったんだ」

 

 ラピスは数歩踏み出し、広場の観衆を見渡した。

 

「この街は平和だ。もう何も犠牲にすることない」

 

 別のチームを応援しているサポーター同士でも、険悪な雰囲気にならない。近くでは、有名な炎のエースストライカーが点数ボードをボールで蹴り抜き、観客はパフォーマンスに喜んで拍手している。至る所がサッカー、サッカー、サッカーだらけだ。

 

「こんな楽しい日々が永遠に続けばいい。そうは思わないかい?」

 

 咲と紘汰をふり返ったラピスの表情に、嘘は欠片もなかった。彼はこの、まるで儚いユメのような平和を、本当に愛していた。

 

 咲は紘汰と、互いに困った顔を突き合わせるしかなかった。

 

 

「紘汰!」

 

 呼ばれて、咲も反射的にふり返った。

 駆けてくるのは咲が知らない金髪の青年。

 

「裕也」

「探したぞ。いつもドルーパーズにいるくせに、今日に限って外歩きって。ひょっと次の試合に向けて柄にもなく緊張してたり……誰だ? その子」

 

 咲は最初、裕也がラピスのことを指して言ったのだと思い、ラピスをふり返った。

 しかし、そこにはすでにラピスの姿はなかった。

 

「え、っと……友達。咲ちゃんっていうんだ」

「あっ、は、はじめまして。室井咲です」

「相変わらず交友関係広いな~お前。――俺、角居裕也。これでもチーム鎧武のリーダーなんだぜ。ヨロシク」

「よ、よろしくです」

 

 咲は慌てて頭を下げ――見つけてしまった。自分の背の低さだから見つけられた。

 裕也はズボンのベルトに、見たこともない、黒ずんだロックシードを括りつけていた。

 

「そうだ。舞から予選突破祝いにシャルモンでお茶しないかって。咲ちゃんも来るか? 女子は好きだろ、スイーツとか」

 

 咲は紘汰を見上げた。紘汰は肯いた。

 

「じゃあ、ごいっしょ、させてください」

 

 歩き出した裕也に、一歩遅れて咲は踏み出した。

 

 

「――紘汰くん。あの人って」

「……死んだはずなんだ。俺が初めて変身した時に殺したインベスなんだから」

 

 二の句を継げなくなりそうになりながらも、どうにか咲は呑み込んだ。

 

「あの人も、アーマードライダーだったの?」

「いや。あいつのベルトとロックシードは俺が使ってる。あいつはアーマードライダーになれなかった。それが?」

「あ、ううん。あの人、ロックシード持ってたから、あの人も鎧武のアーマードライダーなのかなって思っただけ」

「裕也がロックシードを――?」

 

 すると紘汰は考え込むように俯いた。邪魔してはいけない気がして、咲もまた黙り込んだ。

 

 

 

                     ***

 

 

 ――その頃の呉島邸。

 

 光実は遅い朝食をすませ、自室へ戻るべく階段を登っていたところだった。

 

「光実」

 

 階下から貴虎の声がして、光実は足を止めた。

 ふり返った貴虎は、いつものキャリーケースを持ったスーツ姿。見た目に何らおかしな点はない。

 

「最近集中できてないようだが、何か悩みでもあるのか?」

「っ」

 

 兄のそのたった一言が、危うく光実の擬態を剥がすところだった。

 

「……別にそんなことないよ。兄さんは、出かけるの?」

「ああ。碧沙の見舞いにな」

 

 声を上げなかった自分を褒めてやりたい。光実は心底そう思った。

 

「あいつが目覚めた時、そばにいてやらんと寂しがるからな」

「う、ん。そう、だね。碧沙は兄さんのこと、大好きだもんね」

「光実」

 

 自分を見上げる貴虎は、どこまでも優しい表情をしていて。大切な者を慈しむまなざしをしていて。

 ずっと欲しかったはずのものがこんなに近くにあるのに、光実の心は貴虎から離れていくばかりだった。

 

「碧沙はお前のこともちゃんと好いてるぞ。俺が妬くくらいにはな」

「……そう」

 

 気をつけて、と定型句を投げかけた。貴虎は玄関から出て行った。

 

 光実は気が抜けてその場に座り込んだ。

 ――今朝もどうにか貴虎を欺き通した。

 

 

 そもそもの始まりはどこだったのか。光実は回想する。

 

(僕と兄さんはレデュエの下で囚われの身になってるはず。ならこれは僕が見てる夢? でも夢にしては、今日までの毎日にリアリティがありすぎた。痛みも五感もちゃんとあった。限りなく現実に近い何か。何が起きてこうなったのか、確かめないと)

 

 光実は、「この世界」に入ってから日課となった情報収集のため、荷物を取りに自室に戻って行った。




 まさかの「王妃役」はヘキサにやってもらいました。王様にとってはジュグロンデョでしょうが、同時に妻の面影も重ねてたと解釈いただければ幸いです<(_ _)>
 でもこれってつまりヘキサは出番なしってことなんですよね。
 天下分け目の時といい、劇場版だとヘキサが不遇だ…orz
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。