劇場版・少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

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かつて非力だった少年少女

「ワテクシに弟子入りしたい?」

 

 閉店時間を狙い澄ましたような時間に “シャルモン”にやって来たペコは、先の頼みを凰蓮に告げた。

 

 ちなみに城乃内がこの会話を聞けたのは、閉店直前の店内の片付けをしていて近くにいたからだ。

 

「はい! あ、ケーキのほうじゃなくて。ええと、俺、護身術みたいなのを身につけたいんです! 俺が知ってる中で人間相手でも強いのって、凰蓮さんくらいしかいなくて。だから、お願いします!」

 

 ペコは勢いよく頭を下げた。

 

「どうしてかしら。もうインベスもコウガネみたいな怪物もいない。仮にいたとしてもアーマードライダーが対処するのが筋。ボーヤの出る幕はなくてよ」

 

 ペコは俯いた。言い負かされたか、と城乃内が思っていると、ペコはぽつりと呟いた。

 

「前に、その、柄の悪い連中に絡まれたんです。そん時、何もできなくて。相手、別にインベスでも何でもない不良くずれだったのに。俺。だから」

「絡まれた時がチャッキーとデート中だったとか?」

 

 1年半前の戦いで、ペコはチャッキーと組んで死線を潜った。以来、ペコとチャッキーのツーショットは、ビートライダーズでは定番の光景だ。だからもしやと水を向けてみた。

 

「ななななんでそこであいつが出てくんだよッ!」

 

 あ、こいつ真剣(マジ)だ。――城乃内はそう確信した。

 

 

 

 

 

 チャッキーは無人のガレージに入った。

 ソファーまで行って身を投げるように座り、ポケットに入れていた物を取り出した。

 

 ヨモツヘグリロックシード。

 

 イザナミインベスという、インベスと本当に呼んでいいのか分からないバケモノを召喚するための、世界に一つだけの特殊なロックシード。

 

 開錠ボタンを押してみた。

 何も現れない。

 

 当然だ。ヘルヘイムにまつわる全ては、紘汰と舞が異性へと連れ去った。

 地球上にいるインベスは、チャッキーが知る限りでは一人だけだ。

 

(あの時はゴタゴタしてペコも忘れてたから、勝手に持って帰って。今日まで捨てるに捨てられなかった。もうインベスゲームもあんな戦いもないのに。持っててもどうしようもないのに。あたし、何で)

 

 毒々しいブドウの形をしたロックシードを、両手で包み込んだ。冷たい感触がした。

 

 ガレージのドアが開く音がした。チャッキーは顔を上げた。

 

「ペコ」

「あ……よう」

「うん」

 

 ペコは階段を下りて来ると、バーカウンターのイスの一つに腰かけた。

 

「――――」

「――――」

「――それ、まだ持ってたのか」

 

 “それ”がヨモツヘグリの錠前を指していると気づくまで5秒ほど要した。

 

「忘れちゃいけないと思って。舞のこと」

 

 このロックシードは舞を助け出すために使ったものだ。助け出した結果としてああなるとは、あの時点ではチャッキーは想像もしなかったが。

 

「ごめん」

「なに?」

「この間。なんもできなくて」

 

 3日前。中規模のダンスイベントがあった。本番より前、ステージの飾りつけのため、ビートライダーズは飾り物を買い出しに行った。

 その道中でチャッキーは、ペコと二人連れだったにも関わらず、複数の男にナンパされた。

 ペコが追い払おうとしたのだが敵わなかった。

 

「別に。気にしてないよ。ペコ、がんばってたじゃん」

「がんばってても、何もできなかったんだから意味ないだろ」

 

 ペコはふて腐れて頬杖を突いた。よほどあの日の“戦果”が腹に据えかねているらしい。

 

「あたしって幸せ者だなあ」

「何だよ急に」

「ああいう目に遭って、助けてくれる人がすぐそばにいたあたしってラッキーだなあ、って」

「慰めてる?」

「思ったこと言っただけ」

 

 そこで会話は途切れた。

 両者とも黙っているのに、嫌な感じはしなかった。

 

(ここでヨモツヘグリを捨てないもう一個の理由言ったら、どんな反応するかな。教えてあげないけど)

 

 ――舞のことが一生辛くて、心に根付いて、いつまでもいつまでも痛いままでも。

 ――失くさない。残された“もう一つの理由”だけは。

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