城乃内秀保は、ラッピングされた一輪の白菊を持って、噴水公園に着いた。
公園は遊び回る小さな子どもたちと、木陰のベンチでおしゃべりしている母親たちで賑わっている。城乃内の存在は、この場ではさぞ浮いて見えるだろう。
だが、お構いなしに階段を下り、公園の人工水流の前まで行った。
――初瀬はここで死んだのだと、咲から聞いた。
表面的には、初瀬亮二は行方不明者として扱われている。他でもない城乃内が、行方不明者の掲示板に初瀬の写真付き情報提供の紙を貼った。
事情を知らない彼の家族は今も本土で息子の、兄の帰りを、いつか、いつか、と心の底で願いながら待っているのだろう。
ゆえに彼の墓はどこにもない。墓参りに行こうと思えば、彼の最期だったというこの場所しか思いつかなかった。
コウガネとの決戦の前、城乃内は呉島貴虎に真相を聞かされた。
“初瀬亮二はインベスになって、ユグドラシルに処分された”
城乃内はこっそりマツボックリのロックシードを取り出した。
城乃内自身の戦極ドライバーとドングリのロックシードは、かつての戦いで戒斗に破壊されてしまったから、手元にあるロックシードはこれだけだ。
(黒影って名前も、姿も、ユグドラシルにあっさり掻っ攫われてさ。何も知らない人からすれば、初瀬ちゃんってほんっとバカな奴とか思われるんだろうな。でもね。俺は、黒影の名前も姿も、初瀬ちゃんが一番似合ってたと思うよ。なんて、今まさに黒影を掻っ攫って変身してるお前が言えた義理じゃねえだろ! とか言われそうだな。うわー、すっげえ簡単に想像ついた)
城乃内は人工水流の傍らに白菊を捧げようとして、ふと気づいた。
自分が持ってきた白菊と同じように、一輪のラッピングされた白菊が置かれていたのだ。しかもこちらはメッセージカード付きで。
城乃内はラッピングに貼られたメッセージカードを読んだ。
“生き急ぎすぎだ。バカ弟”
それだけ。宛名もなければ置いた人間の名前もない。
(そういえば初瀬ちゃんのお姉さんも市内で働いてるって言ってたっけ。俺も何か書いてくればよかった。でも書くことなんて……うーん、このお姉さんの文句を超える言葉が見つからないや)
妙に面白い気がして、つい口の端が上がった。だが、自分が心から笑っているわけではないと、他でもない城乃内自身が分かっていた。
城乃内は立ち上がり、噴水公園を後にした。
帰ったら行方不明者の掲示板から、初瀬の情報募集の紙を剥がそうと決めて。
人工の水流の横に残された、白菊は、2輪。
風が吹き、白い花弁がひとひらだけ、空へと舞い上がった。