週末。室井咲は、髪を切った。
元のワンサイドアップの髪型は変えないまま、髪の長さだけをうなじより上になるように、ばっさりと。
「……失恋したの?」
月曜日に教室に登校してからの、ナッツの第一声である。
「失礼な。イマドキそんな古典的な理由で散髪するもんか」
咲は鞄を机に置いて席に着いた。ちなみにナッツの前が咲の席である。
「じゃあ純粋にイメチェン?」
「そうそう。もう中学生だし。ちょっと遅めの中学デビュー。どうよ」
「前よりはオトナっぽくなったんじゃない? でもなんか、女子は女子でもイケメン女子って感じで、カワイイってのとはちょっとちがうわね」
「イケメン……」
咲は項垂れたが、少々でもオトナらしく見えるのならいい。
何せ咲はヒマワリのロックシードの副作用で今以上の成長が見込めないかもしれないのだ。
一生、実年齢より若く見られるなら、一女子としては儲け物だ。
だが、問題が一つある。
「これでヘキサと並んでもおかしくないかな――」
ヘキサは普通の少女らしく成長していると、トモからのメールから読み取れた。
今は良くても、いつかヘキサがオトナの女になって、咲だけが小学生の容姿のままという日が来たら。
「ん? なんか言った?」
「べつに」
咲はナッツに背を向け、鞄の中の教科書を机に入れ始めた。
「おーっす」
「……おはよう」
学ランのモン太とチューやんが教室に入ってきた。彼らは自席に鞄を置くと、咲とナッツの近くへ来た。
「おわ咲の髪がタイヘンなことに!」
「……失恋?」
「ちーがーうーっ」
言ったのはチューやんのほうだが、咲はモン太のほうの両頬を摘まんで引っ張った。チューやんにやりたくとも、長身のチューやん相手では背が届かないからだ。
「何でおれ……?」
「……ドンマイ」
チューやんがモン太の背を叩いた。
「そうだ。なあ、咲。カイトからのエアメール来たか?」
貰い手は咲なのに、モン太のほうが楽しみにしているようだ。
「来たよ。ちょうど髪切って帰ってから。相変わらず空港で買った観光名所のポストカードで、送った日付以外のメッセージもなかったけど。ぜーったい! 現地には行ってないと思うんだけどね」
「でもでもっ。“あの”駆紋戒斗からチョクで手紙もらってるのなんて咲だけじゃん。チームバロンの人たちだってもらってないって言うし」
「そうかもしんないけどぉ」
写真を送るなら戒斗の姿が映ったものがいい。手紙を送るなら戒斗の近況が書かれたものがいい。
そう思ってしまう咲はワガママなのだろうか?
チャイムが鳴った。
モン太とチューやんが「じゃあな」と言って自席へ戻って行った。
咲は教壇に向き直り、担任教諭が来るのを待った。
今日もまた普段と同じ一日が始まる。
一少女のささやかな変化など、時間は気にも懸けずに流れ出す。
「女子が髪を切るのは失恋した時」のジェネ線がどこまでか切実に知りたい。
ヘキサと並んでの~、のくだりは、実は映画版への伏線だったりします。