劇場版・少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

23 / 49
失恋じゃないよ

 

 週末。室井咲は、髪を切った。

 元のワンサイドアップの髪型は変えないまま、髪の長さだけをうなじより上になるように、ばっさりと。

 

 

「……失恋したの?」

 

 月曜日に教室に登校してからの、ナッツの第一声である。

 

「失礼な。イマドキそんな古典的な理由で散髪するもんか」

 

 咲は鞄を机に置いて席に着いた。ちなみにナッツの前が咲の席である。

 

「じゃあ純粋にイメチェン?」

「そうそう。もう中学生だし。ちょっと遅めの中学デビュー。どうよ」

「前よりはオトナっぽくなったんじゃない? でもなんか、女子は女子でもイケメン女子って感じで、カワイイってのとはちょっとちがうわね」

「イケメン……」

 

 咲は項垂れたが、少々でもオトナらしく見えるのならいい。

 何せ咲はヒマワリのロックシードの副作用で今以上の成長が見込めないかもしれないのだ。

 

 一生、実年齢より若く見られるなら、一女子としては儲け物だ。

 だが、問題が一つある。

 

「これでヘキサと並んでもおかしくないかな――」

 

 ヘキサは普通の少女らしく成長していると、トモからのメールから読み取れた。

 

 今は良くても、いつかヘキサがオトナの女になって、咲だけが小学生の容姿のままという日が来たら。

 

「ん? なんか言った?」

「べつに」

 

 咲はナッツに背を向け、鞄の中の教科書を机に入れ始めた。

 

「おーっす」

「……おはよう」

 

 学ランのモン太とチューやんが教室に入ってきた。彼らは自席に鞄を置くと、咲とナッツの近くへ来た。

 

「おわ咲の髪がタイヘンなことに!」

「……失恋?」

「ちーがーうーっ」

 

 言ったのはチューやんのほうだが、咲はモン太のほうの両頬を摘まんで引っ張った。チューやんにやりたくとも、長身のチューやん相手では背が届かないからだ。

 

「何でおれ……?」

「……ドンマイ」

 

 チューやんがモン太の背を叩いた。

 

「そうだ。なあ、咲。カイトからのエアメール来たか?」

 

 貰い手は咲なのに、モン太のほうが楽しみにしているようだ。

 

「来たよ。ちょうど髪切って帰ってから。相変わらず空港で買った観光名所のポストカードで、送った日付以外のメッセージもなかったけど。ぜーったい! 現地には行ってないと思うんだけどね」

「でもでもっ。“あの”駆紋戒斗からチョクで手紙もらってるのなんて咲だけじゃん。チームバロンの人たちだってもらってないって言うし」

「そうかもしんないけどぉ」

 

 写真を送るなら戒斗の姿が映ったものがいい。手紙を送るなら戒斗の近況が書かれたものがいい。

 そう思ってしまう咲はワガママなのだろうか?

 

 チャイムが鳴った。

 

 モン太とチューやんが「じゃあな」と言って自席へ戻って行った。

 

 咲は教壇に向き直り、担任教諭が来るのを待った。

 

 

 今日もまた普段と同じ一日が始まる。

 一少女のささやかな変化など、時間は気にも懸けずに流れ出す。




 「女子が髪を切るのは失恋した時」のジェネ線がどこまでか切実に知りたい。

 ヘキサと並んでの~、のくだりは、実は映画版への伏線だったりします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。