ザックはとあるビルの屋上にいた。
ここは去年の運命の戦いで、ザックが戒斗を殺そうとした場所で、結果的に湊耀子を死に追いやった場所だ。
落下防止用の鉄柵まで歩いて行って、鉄柵に手をかけた。
少し下に視線をずらせば、遠い地上を急かされるように行き交う人々が見えた。
――湊はこの高さから落ちた。そして、戒斗の腕の中で息を引き取った。
掴んだ鉄柵に額を押しつけた。
戒斗やペコたちビートライダーズの前では明るく振る舞える。心配させたくないし、何より、戒斗にこんな苦い記憶を思い出させたくないから。
それに加え、チームという垣根がなくなり、混成ビートライダーズとなった若者たちを実質的にまとめているのはザックだ(元チームバロンのメンバーからは戒斗を総まとめに、という声もあったが、却下した。戒斗はビートライダーズを辞めて久しい上に、今は世界旅行に忙しく沢芽市にめったにいない状態だからだ)。そのような立場上、情けない姿をチームメイトに見せるわけにはいかない、という意地と義務感もあった。
一人で抱えていられない気持ちになれば、ここに来て、あの日を頭にリフレインする。それで過去が変わるわけでも、ザックが許されるわけでもないのに。
――独りで何でもできると思っていた。自分一人が上手く立ち回れば、誰も傷つけずに戦いを終わらせられると――驕った。
この場所に来れば嫌でもその頃の己を思い出し、恥じ、悔いる。
それでもザックはこれからもこの場所に来ることをやめないだろう。
たとえ犯した罪に押し潰されそうになろうとも。たとえこの場所が彼に痛みしかもたらさなくとも。
ポケットの中でスマートホンが短く鳴動した。
ザックはワインレッドのスマートホンを取り出し、点滅するSNSのアイコンをタッチした。
次の合同ステージの打ち合わせをしたいという内容だった。
(感傷に浸ってる間にも、時間は平等に流れてく、ってか)
「今から行く」というメッセージを打ち込み、スマートホンをポケットに戻した。
今の自分はきっと笑っていると思えた。好きなダンスを目一杯、心通わせた仲間たちと共に披露するための話をしに行くのだ。心が躍らないわけがない。
(俺って現金な奴)
この場所に来れば、恥じ、悔いる。これからもこの場所に来ることをやめないだろう。
それでも、ザックの大事な“仲間”は、ザックに沈んだままでいることも許してくれない連中ばかりだ。
踵を返し、屋内へ繋がるドアを開けた。
年季の入った軋みを上げて、ドアは、閉じた。