劇場版・少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

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鎧武外伝 バロン編
鏡のようにそっくりだから


 室井咲は今日のダンスを披露するステージへ走っていた。

 

 例のオールスターステージ以来、ビートライダーズはチームの垣根を超えて踊る大きな輪となった。

 今日のステージも、チームバロン×チームリトルスターマインのコラボステージなのに。

 

(うう~、これ絶対チコクする~! 学校の先生のお手伝いなんてたのまれてあげなきゃよかった。もう始まってるよねこれ時間的に。うあ~!)

 

 急いでいた咲は前しか見ていなかった。

 そのせいで横から出て来た人物とぶつかって、こけた。

 踏んだり蹴ったりである。

 

 咲はつい相手を涙目で睨みつけ、――毒気を抜かれた。

 

「戒斗、くん? 何そのカッコ」

 

 ぶつかった相手は戒斗で、いかにも高級な薄藍色のスーツを着ていた。

 

 戒斗は咲を一瞥し、特に何を言うことも、助け起こすこともせずに再び歩き出した。

 

(ぶっちゃけ何であんなカッコしてるのかチョー気になるんだけど。戒斗くん、赤系しか着ないのに。てか何で怒ってたんだろ。ぶつかったから……じゃないよね)

 

 紘汰との接触率は高いが、戒斗はあちこちを渡り歩いているせいか会える機会が少ない。

 せっかく紘汰と協力し合う仲に戻れたのだ。戒斗とも手を結び直したい。

 

 咲はスマートホンを出して、今日一番のステージには間に合わない旨をメールにしたため、ナッツに送信した。そして、戒斗を追いかけて走り出した。

 

 

 戒斗が(咲にも分かるほどに)怒気を露わに向かったのは、工場地帯の一角。

 

 そこには何かから逃げてきたように息を切らす舞と――戒斗に瓜二つで、チームバロンのユニフォームを着た青年がいた。

 

「戒斗が、二人!?」

 

 舞が驚いて戒斗と、戒斗そっくりの青年を何度も見比べている。

 

 咲はといえば、興味本位で付いて来て、予想を超えた展開にぽかーんとして声も出なかった。

 

「偽者だ。そいつは俺じゃない」

 

 戒斗は歩いていくと、彼の鏡写しのような青年の首根っこを猫の仔のように掴み上げ、乱暴に引っ張って歩き出した。

 

「ええっと……」

 

 咲は慌てて戒斗たちを追いかけた。

 

 

 

 

 

 まずは服を元に戻さなければ、また周囲が誤解する。適当な場所で着替えようと、戒斗はシャプールを引っ張って行った。咲が付いて来たことに対しては、特に何も思わなかった。

 

「ね、ねえねえっ。あなたダレなの? 戒斗くんの何?」

「えっ? あ、ええっと、僕はシャプール。ちょっと事情があって、カイトに入れ替わってもらって」

「確かに双子って言われても違和感ない~。あ、あたし、咲ってゆーの」

「サキだね。僕もびっくりしたんだあ。日本に僕そっくりの人がいるなんて思わなかったもん」

「何が『入れ替わってもらって』だ。人をクスリで眠らせた挙句、知らない間に服まで着せ替えたくせに」

「え!? だめじゃん、それ! リッパに犯罪!」

「あう……」

 

 戒斗はシャプールを引っ張って工場の一つに入った。幸いなことに無人だった。

 

 戒斗は薄藍色のスーツを脱いだ。シャプールに対して言外に服を返せと訴えた。

 シャプールは、戒斗とは対照的なほどに分かりやすい残念な表情で、チームユニフォームを脱いだ。

 

 咲は彼らが服を元に戻す間、外で待つことにしたらしい。

 さすがに小学生とはいえ、異性の着替えをまじまじと見るわけにはいかない、という良識はあるようだ。

 

 赤と黒(トランプツートン)のチームユニフォームを着直し、戦極ドライバーとロックシードも取り上げる。これでいつもの駆紋戒斗だ。

 

 用もすんだ戒斗は工場を出ようとした。

 

「カイトみたいに! ……自由に生きてみたかったんだ」

 

 シャプールの言葉は、事のカラクリを知った戒斗にとって安っぽいものとしか聞こえなかった。

 

「とぼけるな。自分の命が狙われているのが分かっていて俺と入れ替わったんだろう?」

「命? 僕の?」

「忠告しておく。戻ったらお前は死ぬぞ。お前は自分の父親に命を狙われてる。せいぜい気をつけて国に帰るんだな」

 

 散々こちらの都合を引っ掻き回したのだ。この程度の意趣返しは許されるだろう。

 

 例えシャプールの命が危険に曝されようが、それしきで死ぬ弱者に用はないし、危機を逃れる程度の強者であれば戒斗が助力するまでもない。

 

 戒斗は今度こそ工場を出た。

 

 

 出入口で待っていた咲が、戒斗を認めて顔を上げた。

 

「もういいの?」

「後は奴自身の問題だ」

 

 歩き出した戒斗の後ろを咲が付いて来る。勝手に付いて来たとはいえ、幼い少女をこういった場所に放って帰るわけにもいかないので、何も言わなかった。

 

「い、いいの? あの人、ほっといちゃって。おぼっちゃま育ちっぽいし、このままロトウに迷うかもだよ?」

「気になるならお前が戻れ」

「あたしは! ……今日のバロンとの合同ステージすっぽかしたから、今からでも行って謝らなきゃなんだもん。ヘキサここんとこ来ないから、リフトの人数足りなくて、あたしまで抜けて、センターのザックくんゼッタイこまってるだろーし」

 

 戒斗は無言で足を進めた。

 これ以上、シャプールと関わってトラブルになるのは御免だ。

 

「~~っわかったってば! いいよ、自分で行くよっ。あの顔だと()()()()()()()()()()()()みたいだから!」

 

 ふいに戒斗の頭に過去の光景が弾けた。

 

 

 ――酒に酔った父に暴力を振るわれる母と、幼い自分。

 ――痛みと、親という絶対の存在に痛めつけられる、悲しさ。

 ――それらに対して何もできることがなかった、駆紋戒斗というコドモの弱さ。

 

 

 戒斗はふり返った。

 すでに咲は行ってしまったようで、そこには誰もいなかった。

 

 元来た道を、戒斗は、走り出した。




 皆様お待ちかねのバロン編でございます。

 時間的には、シャルモンでブラーボに襲われかけて舞とシャプールが逃げ出した直後です。

 原作では自発的に戻ってきた戒斗ですが、ここでは他人(咲)の言葉をきっかけに過去を思い出して戻ってきてもらいました。トッキュウジャー編と同じですね。
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