劇場版・少年少女の戦極時代   作:あんだるしあ(活動終了)

41 / 49
高司舞を救うことが何を意味するのか?

 

 

 鋼鉄の花の足下にようやく辿り着いた碧沙と光実を迎えたのは、異様な怪人の群れだった。

 

(胸に数字のないナンバープレート……って、城乃内さんが戦ったっていう怪物?)

 

「階段の上に登ってて!」

 

 碧沙は慌てて近くのらせん階段を登った。

 

「光兄さん、そいつら、インベスじゃない!」

 

 ヘルヘイムにまつわるモノ特有の甘ったるい香りがしない。

 むしろ、漂うにおいは、幼い頃に一度だけ会った機械人間のジローのものに近かった。

 

 光実が戦極ドライバーとキウイの錠前を出した。

 

「変身!」

《 ハイーッ  キウイアームズ  撃・輪・セイヤッハッ 》

 

 キウイを丸ごと模したアームズが光実の頭上から落ち、常とはまた別の龍玄へと変えた。

 龍玄は両手のキウイ撃輪を、走る間も惜しいとばかりに揮いながら、怪人の群れへ突っ込んだ。

 

『邪魔だっ――ハァッ!!』

 

 龍玄はキウイ撃輪ごと2回転、3回転。撃輪から生じたソニックウェーブで半径約5メートル圏内の怪物を斬り、爆散せしめた。

 

 龍玄はブドウの鎧に換装し、ロックビークルを投げてローズアタッカーを展開させた。

 

『後ろに乗って!』

 

 碧沙は答えず、すぐさま階段を下りて駆け寄り、ローズアタッカーの後ろに乗って龍玄の腹に両腕をきつく回した。

 

 

 

 

 碧沙たちを乗せたローズアタッカーが、ついに鋼鉄の花に突入した。

 

 龍玄はまるで舞が囚われた場所を知っているかのようにローズアタッカーを右へ左へ、時には上へ走らせた。乱暴な運転に、碧沙はとかく龍玄にしがみついているしかなかった。

 

 もちろんタダで通してくれるほど敵も甘くはなく、怪物は幾度となく兄妹の前に現れた。

 龍玄はそれらの怪物をブドウ龍砲で正確に撃ち抜き、一度として停まることはなかった。

 

 ついに碧沙たちは、白く壁が光る青い回廊――舞が囚われたポットが目視できる場所まで辿り着いた。

 

 

『! 危ない!』

「えっ」

 

 龍玄が碧沙の脇腹を荒く掴んでローズアタッカーから飛び降りた。

 直後、壁から弾丸が放たれ、一瞬前まで彼女たちがいた空間を撃った。

 あのまま乗っていたら、と考え、背筋が粟立った。

 

「高司さんは」

 

 舞は何かの溶液で満たされたポットに、長い黒髪を揺らめかせながら沈められている。

 

『僕の後ろから離れないで』

「う、うん」

 

 龍玄が一歩を踏み出した。

 その一歩が敵の射程圏内だったのだろう。回廊の壁からそれこそ無数に青いケーブルが射出された。

 

『どけぇ!!』

《 ブドウスカッシュ 》

 

 初めはブドウ龍砲でケーブルを撃ち落としていた龍玄だったが、あまりのケーブルの多さを捌き切れず、四肢を拘束された。

 龍玄の体が浮き、縛られた手からブドウ龍砲が落ちた。

 

 碧沙はとっさに落ちたブドウ龍砲を拾い、ポットに向けた。

 龍玄が拘束された今、このトリガーを引けるのは碧沙しかいないと思ったからだ。

 

『ダメだ、碧沙!!』

 

 びくっ、とトリガーにかけていた指が手ごと震えた。

 

『その銃の反動はアーマードライダーじゃなきゃ受け止めきれない! 兄さんが言ったろ! 自分を粗末にするなって!』

「で、も…でも、わたしっ…これくらい、しか…!」

 

 舞と紘汰に運命の重さを押しつけた。発端は碧沙なのに、碧沙は何の罰も受けずに今日まで生きてきた。生きてきてしまった。

 

『それでもダメだ』

「光、兄さん?」

『大丈夫。信じて。僕はお兄ちゃんだから』

 

 ぎりぎりでふり返った龍玄は――光実は、笑っているように、見えた。

 

 龍玄のブドウの鎧が弾け飛んだ。

 

 締め上げていた鎧がロストしたことで、ケーブルから一瞬だけ龍玄は解放された。碧沙の手の中のブドウ龍砲も粒子化した。

 

 緑のライドウェアだけになった龍玄は、前転してケーブルの束を抜け出し、再びブドウの錠前を戦極ドライバーにセットする。

 

(変身の中間解除! これで光兄さんは逃げ出せて、武器も光兄さんの手に戻る。そうなれば)

 

 換装を完了した龍玄がブドウ龍砲を構えた。すでにエネルギーチャージは終わっている。

 

『いっけえええええ!!』

 

 ブドウ龍砲から放たれる、龍の息吹。

 それはポットだけを的確に破壊した。

 

 割れたポットから、白いドレスの舞が落ちてきた。

 龍玄が走り、舞が地面にぶつかる前に舞を受け止めた。そこで光実が変身を解いた。

 

「兄さん! 高司さん!」

 

 碧沙は沈黙したケーブルの束を踏み越えて走り、光実たちの近くにしゃがみ込んだ。

 

 舞がうっすらと目を開け、光実と碧沙を順に見た。

 

「ミッチ……ヘキサちゃん……」

「高司さんっ」

 

 舞は、微笑んだ。

 

「やっと高司さんを救えた――」

「うん。やっと、だね」

 

 光実が碧沙の、一本線の傷のある掌を握ってくれた。碧沙は光実の手を握り返した。

 

 ――遠い日の知らずの罪を雪げたかは分からない。それでも、やっと、あの日から停まっていた何かが、碧沙の中で息を吹き返した。

 

 

「あ」

 

 そこでようやく、光実と手を繋いでいたことに思い至った。

 

 全身が沸騰するように熱くなった。

 

 すぐにでも光実の手を振り解きたかったが、理性で羞恥心を押さえつけて堪えた。ここで離したら、次はいつ素直になれるか分からない。

 

「久しぶりだね。手、繋ぐの」

「光兄さんの手、熱い」

「さっきまで変身して戦ってたんだから、許してよ」

「貴兄さんの手と同じ感触がする」

「そう?」

「――ありがとう。高司さんを救ってくれて」

 

 碧沙と光実は、何年かぶりに、心から笑い合った。




 碧沙、勇気を出して光実に歩み寄りました。結果はもちろん(*^^)v

 拙作本編では、舞の死因に光実でなく碧沙が絡んでいるからこそ、貴虎も光実も妹の心を解放するためにこうして戦ったわけです。
 碧沙自身の手によるものではなかったですが、他ならぬお兄ちゃんが舞を助けてくれた。そのことでやっと碧沙も楽になったでしょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。