変な女子に目をつけられてしまった哀れな男 作:無無
高度育成高等学校。
大仰で鼻にかけたような胡散臭い名前のこの学校に、俺は今年の春から──今日から通うことになっている。今は学校行きのバスに揺られている最中で、あと十分ほどで到着する予定だ。
バスの乗客は俺と同じ、高度育成高等学校の制服に身を包んでいる学生ばかりだ。
......今更ながら思うが、真っ赤なブレザーとかどんな高校だよ。それに下は緑色の長ズボンときた。
派手というより、奇天烈。この制服を考案したデザイナーは頭がぶっとんでいるとしか思えない。
エロゲなんかに出てくる制服もだいたいおかしなものばかりだが、この制服に比べればかなりマシな部類だろう。
家からバス停までの道すがら、ちらちらと奇異の目を向けられるのは中々に辛かった。
(はぁ......早く着かねえかな)
ぼやっと窓の外を見ながら、ため息をつく。
ああ、憂鬱だ。
バスは嫌いだし、制服はダサいし──隣に座ってる奴は頭おかしいし。
「今、ため息をつきましたね。なるほどなるほど。これから始まる高校生活に不安を隠せないようですね。このスカ〇ターはどうやら本物のようです」
何やらわけのわからんことを隣で言い連ねる存在──俺と同じブレザーに身を包んでいることから、こいつも高度育成高等学校の新入生だということが窺える。
最初こそ同級生の女子──それも結構顔が可愛い子と隣同士になれてテンションが上がったものの、蓋を開けてみれば、かなりの変人。
ドラ〇ボールに出てくる戦闘民族が装着しているような単眼式のヘッドマウントディスプレイを頭に取り付けているところからまずおかしいが、何より嫌なのは、無視を決め込んでいる俺にしつこく会話を試みてきていることだ。
「戦闘力は5ですか。太った農夫と同じ戦闘力ということは大したことはなさそうです」
ああ、嫌だ。
周囲からは知り合いだと思われてるんだろうな。
でも、断じて違うからな。この女子は妙に馴れ馴れしい態度を取ってくるが、初対面だ。
「私の戦闘力は......おっと、これは盲点でした。自分で自分の戦闘力を測定することはできないときましたか。であれば、当然第三者に測定してもらうのが道理というもの」
嫌な予感がする。隣の女子はかちゃりと装置を外すと、こちらにすっと差し出してくる。
なんだよ、つけろってか?
てか、何だその無言。話しかけても無視されるからって、その無言の圧力かけてくるのやめろよ......。
「............」
「............」
しばらくの沈黙が続く。
周囲をちらと見てみれば、何人かが俺達の動向に注目していることが伺えた。
「......ったく。仕方ねえ。貸せよ」
「お、ようやく私の気持ちが伝わったようですね。はい、これであなたもフ〇ーザ軍の兵士です」
俺は女子生徒から装置を受け取ると、頭に装着する。
クソ、恥ずかしすぎるんだが......。
こいつ、割と混んでるバスの中でよくこんな恥ずかしいもん堂々とつけられたもんだぜ。
ああ、嫌だ。今、こっちを興味深そうに見ている同級生と同じクラスになる可能性があるという事実にゾッとする。
心の中で文句を言いつつ、俺は女子生徒の要望を満たしてやるために不本意ながらも、測定を始めた。
横にあるボタンを押すと、オーラ?の音が流れ出し、30秒ほど経過すると停止した。
ランダムで戦闘力を判定する音声とかは出ないらしい。
「どうですか?私の戦闘力は」
興味津々といった感じでこちらに身を乗り出してくる女子生徒に俺は真正面から言ってやった。
「戦闘力たったの5か…ゴミめ…」
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バスを降りてから少し歩くと、すぐに校門が見えた。
「校門は意外と平凡だな。まあ、一応は国立だし、ド派手な装飾ってわけにはいかないか」
「確かにそうですね。ですが、忘れてはなりませんよ。いくら平凡な見た目をしていても、その本質は地獄の門。ひとたび潜ってしまえば、もう二度とこちら側に戻ってくることはできません」
すっと、隣に並んできたのは、先ほどのスカ〇ター女子だ。
こいつのせいで、同じバスに乗り合わせた同級生から白い目で見られることとなってしまった。
「アホ言うな。卒業したら出られるだろ。まあ、三年間外に出られないって考えると、確かに地獄の門って言い方も大袈裟じゃないかもしれないが」
「抜け穴としては、退学という手段もありますね」
「入学早々、よくそんな後ろ向きな発想ができるな」
至って真剣な表情で、飄々と妄言を嘯く女子を非難する。
けれども、女子は俺の言葉など欠片も響いていないのか、「では、いきましょうか」と自分勝手に俺を帯同させようとしてくる。
ああ、惜しいな。
この女子、名前は知らんが、見た目だけは確かにいいから、それだけに中身が残念なのが惜しい。
「ま、いつまでも校門なんて眺めてても仕方ないか」
決して言いなりになるわけじゃないが、俺は女子の後ろに続いた。
「ほお、クラス分けですか。AクラスからDクラスまであるみたいですね。クラスがアルファベットなのって珍しいと思いませんか?」
「まあ、な。大抵は1-1とか数字のみで完結してるパターンが多い。さて、俺のクラスはっと.....」
クラス構成が記載された掲示板をざっと見てみると、すぐに俺の名前が見つかった。
──どうやら、Aクラスらしい。
クラスの人数は......40人くらいか?覚えるのが、中々大変そうだ。
.....そういえば、この変人女子はどのクラスになったんだろうか。
お願いだから、Aクラス以外で頼む。
「ふむ、Aクラスですか」
嘘だろ。4分の3をここで外すか?
今朝からだいぶ迷惑をかけられた変人女子がまさかのクラスメイトであるという事実に俺は大きく肩を落とす。
幸先はあまり良くないらしい。
「どうかしましたか?」
「......いや。まあ、これからよろしくな」
こうして、俺と変人女子はクラスメイトとなったのだった。
教室に入ると、既に大半の生徒が席についていた。
朝礼にはまだ早すぎる時間だが、随分と集まりがいいな。
言っちゃ悪いが、どいつもこいつも真面目そうなやつばっかりだ。
校門付近にはガラの悪そうな生徒もいくらかいたが、そういった類の生徒は現時点ではこの教室にはいない。
あえて挙げるとすれば、教室の真ん中らへんの席に座っている強面の男が気になるくらいだ。
うわ、あそこにいる奴なんて、朝っぱらから熱心に英単語帳なんて読んでやがる。
あれはこの教室内でもピカイチだな。
俺はその調子でクラスメイト達の様子を観察してみるが──な、なんだ。あの美少女は......。
目に留まったのは、一人の女子生徒。
足が悪いのか、机の縁に杖がかけてあった。
「そう......俺はこの時、恋に落ちていたのだ。少女らしからぬ冷静さを纏い銀髪をたなびかせる彼女に目を奪われた。たとえ、あの子にどんな危険が迫ろうと、俺が必ず守ると──そう決めたのだ」
「おいおい、やめろ。意味不明な心理描写を勝手に付け足すな。そんなキザな台詞、現実で吐くやつがいるかよ」
いつの間にか隣にいて、またしてもちょっかいをかけてくる変人女子の戯言を制止する。
「ですが、これに近いことは考えていたのでは?」
「ただの人間観察だ」
まあ、ぶっちゃけ目を奪われたのも事実だし、スカートから覗くガータベルトがちょっとエロいとは思ったが、それだけだ。断じて、恋に落ちたなんてことはない。
「あの女子だけじゃない。クラス全体を観察してたんだよ。クラスメイトがどんな人間かって気になるもんだろ」
観察は大事だ。
これから、共に学校生活を送る仲間なのだから、観察を行い、クラスメイトの生態を知ることは必要だ。
大袈裟かもしれないが、誰であれ自分と接触する可能性のある人間を観察することで、俺はこれまでの人生をそれなりに上手く生きていくことができてきたと自負している。
「なるほど、物色──失礼、観察をしていたのですね。ねっとりとした──いえ、鋭い視線でクラスメイトの観察をしていたと。いいと思いますよ、私は」
こいつは......。口調こそ同意の色を示しているものの、全く理解が得られていない。
何よりこの若干引いたような表情。
変人に変なもの扱いされるのは、中々に屈辱なものだ。
「──人間観察、俺は良いと思うぜ」
変人女子の態度に歯噛みしていると、後ろから肩を叩かれる。
振り返ってみると、そこには半笑いを浮かべた金髪の男。
髪を後ろで括っていて、耳にはピアスをつけていた。外見だけの印象で言えば、いかにもなチャラそうな男。
「付き合う人間はちゃんと選ばなきゃな。考えが似てそうな奴がいて、嬉しいよ」
金髪男は人の良さそうな笑みで俺の考えに同意を示した。
「何ですか、あなたは。いきなり会話に入ってこないでください」
「はは、そんなキツイこと言ってくれんなよ。藍ちゃん」
棘のある口調に怯むことなく、変人女子を愛称で呼ぶ金髪男。
距離の詰め方えぐいな。初対面の女子を名前呼び、そしてまさかの『ちゃん』づけ。
チャラそうという第一印象は間違っていなかったらしい。
けれど、そんな軽い態度が気に入らなかったのか、変人女子──もとい『あいちゃん』が無表情から一転、ゴミを見るような視線で金髪男を睨んでいた。
「次に私のことを馴れ馴れしい呼称で呼べば、この男が黙っていませんよ」
「......へえ。仲良さげだとは思ったが、そういう仲なのか。入学早々、羨ましいな」
「いや、断じて違うからな。こいつのただの妄言だ」
変な勘違いをされそうだったので、即座に誤解を解く。
「そうなのか?じゃあ、俺にもまだチャンスはあるってことだな」
「口が減りませんね、この男は。それと......なんで私の名前を知ってるんですか?」
変人女子の疑問。それは俺も気になっていたことだ。
教室の正面には座席表が張り出されてるから、クラスメイトの名前を事前に把握することは可能だが、あくまで着席した状態じゃないと実際の人物と名前を一致させることはできない。
変人女子と俺はまだ席についていないから、座席表からの特定はできないはず。
「簡単なことさ。このAクラスの女子は全員で20人。俺は既に19人の女子と挨拶を済ませ、名前を聞きだせている。後はただの消去法だ。ほら、簡単だろ。森下藍ちゃん」
変人女子──森下藍というらしいこの女子に釘を刺されてなお、金髪男は名前呼びを続けた。
隣から「二度目はないと言ったはずです。ほら、やっちゃってください」と肘で突かれるが無視する。
「そんで、お前は芦名善、だろ」
続けて、金髪男は俺の名前を特定してくる。
「それも消去法か?」
森下の名前を特定したのと同じやり方を使ったのだろうと尋ねてみるが、金髪男は首を振った。
「いーや。お前の名前に関しては元から知ってただけさ。顔を見て、すぐにピンときたんだ」
「──名前は知られてても、顔は知られてないと思ったんだがな」
「はっ、一方的に知られてるってのは気味が悪いよな。俺は橋本正義っていうんだ。これから仲良くやろうぜ」
言い捨てると、金髪男──橋本は背中を向け、また別の人間に話しかけにいった。
──俺のことを知ってる、か。あんな出来事、もう誰も覚えてないと思ったんだけどな。
「座席表を見てきました。どうやら、芦名善と私は隣同士らしいです。行きますよ」
「......まじか」
赴くままに書きました