変な女子に目をつけられてしまった哀れな男 作:無無
既にお気づきの方もいると思いますが、原作からの大量の文章コピーはご法度なので、ところどころ言い回しを変えてます。
客船は島の外周をぐるっと周回した後、桟橋に慎重に接岸された。
下船のアナウンスに従い、俺達はタラップをゆっくりと伝って、無人島へと降り立つ。
綺麗な砂浜に青い海、そして、島の内部へと続く深く生い茂った森。都会で生まれ育ち、ビル群に囲まれた生活を送っていた俺にとっては、どれも縁遠いものであり、同時にとても新鮮な景色だった。
だからこそだろうか。この場所でどうやって一週間を過ごすのか、あまりイメージが湧かない。
バカンスというのだから、居住地や食料品など、学校側がある程度のサポートをしてくれるはずだが、見たところ、この島にはありのままの大自然が広がっている。ペンションで一週間を過ごすと聞いていたが、そのような建物は島の周囲には見当たらない。
そうなると、必然的に外周からは確認できない森の奥に建てられているということになるが......俺はどうにも嫌な予感を胸中に抱いていた。
下船前には私物の回収が行われた。教師陣により、かなり厳重なチェックが為されたため、学年全員が下船するまでに結構な時間がかかった。ペットボトル一つでさえ回収される徹底ぶりに面食らっている生徒も何人かいたようだ。
けれど、殆どの生徒は面倒がりながらも受け入れており、これから島内で行われるバカンスに思いを馳せているようだった。この一週間どうやって過ごそうかなどを思い思いに楽しそうに語る生徒達の顔には、疑念や不安などのネガティブな感情は見られない。
「これより、点呼を行う。各クラス、担任教師のもとに整列をするように」
指示に従い、俺達Aクラスの生徒は真嶋先生のところに集まり、整列した。
前に立っているのは、例のごとく吉田。
真嶋による点呼が行われる最中、吉田がこちらを振り向く。吉田にしては、珍しく難しい顔をしていた。
まさか、こいつも俺と同じように違和感を感じているのだろうか。
「わからねえな......」
「何かひっかかることでもあるのか?」
「女子の水着ってどう褒めるのが正解なんだ......?やっぱ可愛いってストレートに言われた方が嬉しいもんかな。それとも、似合ってるよみたいな感じでサラっと流すべきか?」
だよな。そんなことだろうと思ったよ。
まだ島に到着したばかりというのに、もう既に白石の水着姿への感想を真剣に考えているところは流石吉田というべきか。俺も変に疑問なんか抱かず、このくらい頭空っぽにできれば楽なんだけどな。
担任教師達による各クラスの点呼が完了すると、前に用意されていた白い壇上に真嶋が上がった。拡声器を片手に持った真嶋の顔はいつにもまして険しかった。
「本日、天候にも恵まれ、この島に無事に到着できたこと、まずは嬉しく思う、一方で1名が病欠につき欠席となったことが残念でならない」
欠席者とは、Aクラスの坂柳有栖のことだ。
入学から今までずっと皆勤賞だったというのに、このタイミングで体調を崩してしまうとは不幸なやつだ。
運の悪い坂柳を胸中で哀れんでいると、真嶋が大きく咳払いをした。
それから、生徒達を見まわしてから、一言。
「──これより、本年度最初の特別試験を執り行う」
「......え?」
思わず、誰かが驚愕の声をあげた。瞬間、伝播するように整列する生徒達にざわめきが生じはじめる。当たり前の反応だ。それだけに真嶋の発言はあまりに唐突過ぎた。
バカンスを楽しみにきたはずなのに、いきなり特別試験が始まるなんて言われるんだからな。
動揺する生徒達に構うことなく、真嶋は用意していたであろう言葉をつらつらと拡声器に乗せる。
大まかな内容はこうだ。
今から、生徒達はこの無人島で1週間の共同生活を送る。生活はクラス単位で実施することとする。
試験期間中の乗船は正当な理由なしには認められない。
居住空間、食料品の確保は生徒たち自身で創意工夫する。
最初にいくつかの支給品が用意されるみたいで、テント2つ、マッチ1箱、懐中電灯2つがクラスごとに支給、歯ブラシは生徒1人に1つずつ、日焼け止めは際限なく支給されるそうだ。
あとは、俺には関係ないが、女子の場合は申請すれば、生理用品を支給してもらえるらしい。
それにしても、テントがたったの2つとはな。
男子と女子で分配すると、テント1つにつき20人程度が入れればいい想定。
20人が入れるキャパのテントなんて想像がつかないが、遊牧民が使ってるようなどでかいテントでも支給してもらえるのだろうか。もし、全員が入れないとなれば、無人島生活早々寝床をかけた紛争が勃発するだろう......が、流石にそれはないだろう。
自然以外に何もないこんな場所で、まともな遮蔽物もなく、野ざらしの状況が続けば、どんなに頑丈な人間でも耐えられない。俺が今しがた頭に浮かべたような大型テントが支給されるか、もしくは何かしらの手段で別途、テントが入手できる仕組みになっているはずだ。
そんな俺の考えは正解だったみたいで、真嶋は特別試験の詳細なルールについて説明を始めた。
まず、第一に今回の試験は『自由』がテーマとなっているらしい。
海で泳ぐもよし、バーベキューを楽しむをよし、キャンプファイアーを仲間と囲むのもよし、全てが咎められることなく自由だそうだ。ただ、これらの娯楽に興じるにあたって、必要なのはやはり道具だ。
水着がなければ海を泳げないし、肉がなければバーベキューが成り立たず、キャンプファイアーを楽しむのも──いや、これはマッチ棒と乾いた木材とある程度の人手があれば可能か。
まあ、とにかく基本的に娯楽には、準備に必要な道具が必要という話だ。
なら、道具はどこから?
誰もが頭に浮かべたであろう疑問に答えるように、真嶋は続ける。
「この無人島における特別試験では、各クラスに試験専用のポイントを300支給することが決まっている。ポイントを支払うことで、このマニュアルに載っているモノなら何でも購入できる。食料品から娯楽品まで幅広くラインアップされているから、後でじっくり目を通すといい」
数十ページはありそうな分厚いマニュアルを真嶋が掲げた。
なるほど。だからこその『自由』か。これからどんな一週間を過ごせるかは、俺達次第というわけだ。
「最後に──この特別試験終了時には、配布されたポイントの残りを全てクラスポイントに加算することとする。また、試験中に体調不良等の理由でリタイアする生徒がでた場合は、一人につき30ポイントが引かれる」
Aクラスには、現時点で欠席者が出ていることから、270ポイントからのスタートとなる、と真嶋が付け加えた。坂柳の欠席による、配布ポイントの10分の1が失われた状態でのスタート。開始早々、手痛い損失となったが、体調不良の坂柳を責めることは誰にもできない。
損失を受け止めて、どう行動を起こしていくかが重要になるだろう。
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全体説明が終了すると、今度は各クラスで分かれて、担任教師から説明を受ける形になった。
俺達の場合は、引き続き真嶋先生が担当してくれる。
真嶋先生から開口一番に渡されたのは、腕時計だ。
試験期間中は装着が義務つけられており、万が一取り外したりした場合は、ペナルティが課されるらしい。
この腕時計は高機能なようで時間の把握から、装着者の体温や脈拍などの健康チェック、果てはGPS機能までついているらしい。無論、学校側が生徒の安全を確保するための安全装置といったところだろう。
「そうなると、海で遊べないな」
「急な豪雨に打たれた時も壊れるかも......」
「安心しろ。完全防水だ」
「おっしゃー!」
真嶋の一言に水没の心配をしていた生徒が歓喜する。
見たところ、耐衝撃性にも優れていそうだ。学校側の絶対に腕時計が壊れないようにしようという配慮が感じられる。よっぽどのことがない限り、破損することはないだろう。
「次に本試験での、禁止事項を説明しよう。マニュアルの最後のページを見てくれ」
真嶋が指さすページには、禁止事項と書かれた項目が記載されていた。
要約すると、体調不良者一人につきマイナス30ポイント。午前8時、午後8時に実施される点呼に応じなかった生徒一人につきマイナス5ポイント、ゴミの投棄、過度な伐採等による環境汚染でマイナス20ポイント、暴力行為、略奪行為で対象者は全プライベートポイントを没収。所属するクラスは失格。
大まかにいえば、このくらいだ。
暴力行為、略奪行為がペナルティとしては一番重いが、こんな血生臭いなことをしでかす奴なんているはずがない。だって、俺達は本来バカンスにきているんだ。特別試験で本来想像していたものとは大きく形を変えたが、それでもポイントの運用次第で、この無人島生活を充実感のあるものに変えることは十分に可能だ。
まぁ、そもそもAクラスは、全体的に真面目な生徒が多く、暴力なんてもってのほかだ。
最も気性が荒いとされる戸塚でさえ、すれ違いざまに肩をぶつけてくる程度に留めているのだ。
「点呼についてだが、場所は、君達が一週間を過ごす拠点──ベースキャンプを一つ決めてもらい、そこで点呼を実施することとする。正当な理由なしにベースキャンプを変更することはできないから、場所決めは慎重に行ってくれ」
さっきのペナルティの説明だと、定められた時刻に点呼に応じない生徒一人に付きマイナス5ポイント。
総額の300ポイントからすれば微々たるものだが、塵も積もれば山となる。できれば、ベースキャンプは地形が安定していて、アクセスがしやすい場所にした方がいいな。後は、目印になるものがあれば、場所がわからず点呼に遅れるといったリスクを最小限にできるだろう。
「次は、これだな」
真嶋が近くにおいていた段ボールから取り出したのは、折りたたまれた小さな段ボール。
慣れた手つきで真嶋が組み立てると、青いビニールを中にセットし、その上から更に白いシートを被せた。
「災害時などに使われる簡易トイレだ。男女共用で使ってもらう。ああ、心配することはない。中にセットする袋は無制限に支給されるし、ワンタッチテントがついているから、他人に見られる心配もない」
と、心配にしかならないような説明を真嶋がするが、生徒達は当然苦々しい表情を浮かべる。
特に女子生徒は、主に男女共用という部分で嫌悪感を感じる者が多いだろう。
さらに真嶋は排泄物を固め匂いを抑えることができるという給水ポリマーシートの利点を語って聞かせてくれたが、おそらく興味を持って聞いていた者は誰一人いない。
「先生、トイレはその簡易的なモノしかないのでしょうか?」
「仮設トイレを20ポイントで購入できる。マニュアルの最初の方のページに載っているから、確認するといい」
言葉に出していないものの、クラスメイトの意見はいまここに一致しただろうな。
20ポイントはかなり高いが、ポイントの使い道としては最優先にするべきものだ。幸い、Aクラスのクラスポイントは十分にある。むやみやたらに浪費すべきではないが、こういう時は遠慮なく使ってしまった方がいいだろう。
「──では、追加ルールの説明を始める」
「まだ、あんのかよ......」
簡易トイレの説明の時点でかなりテンションを落としていた吉田が更に項垂れる。
「島内にはスポットと呼ばれる箇所が幾つか設けられている。スポットには、占有権が存在し、占有したクラスのみが使用できる決まりだ。ただし、占有権の効力は8時間まで。占有を継続したい場合は、都度占有権を取得する必要がある。また、占有するごとに1ポイントが支給されることとなっている。ただし、試験中に使用できるポイントには加算されず、試験終了後のクラスポイントに最終的に加算される」
かなり重大な追加ルールだ。
島内にスポットが何か所あるかわからないが、仮に10か所のスポットを抑え、安定的に占有権を取得した場合、200ポイントものクラスポイントを試験終了時に取得できることになる。
この特別試験には、陣取りゲームの側面もあるらしい。
そうなると、重要なのはスポットを占有する方法だ。
「スポットの占有に関しては、大きく分けて5つのルールがある」
一:スポットを占有するには、専用のキーカードが必要
一:一度の占有につき、1ポイントを得る。占有したスポットは自由に使用できる
一:他が占有しているスポットを許可なく使用した場合、50ポイントのペナルティを受ける
一:キーカードを使用することができるのはリーダーとなった人物に限定される
一:正当な理由なくリーダーを変更することはできない
真嶋が展開した5つのルール。
最も重要なのは、4つ目の項目。キーカードの使用──つまり、占有権を行使することができるのはリーダーに限定されるという決まりだ。
責任重大。一週間という短い期間だが、リーダーとなった人間はスポットの確保のために島内を駆け回る羽目になるだろう。普通に考えれば、体力があり、安定していない地面を歩くのに慣れた人間がなるのが理想だろう。
「リーダーの選任は君達に委ねられている。よく相談して決めるように。選ばれたリーダーには、最終日の点呼のタイミングで、他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられる。その際、見事的中させることができれば、的中させたクラス一つにつき50ポイント。逆に言い当てられたクラスは50ポイントを支払わなければならない。また、予想を外した場合、50ポイントを失うことになるが、参加不参加は自由だ。自信がなければ、参加しないというのも一つの手段だろう」
なるほど。理想的なリーダーとして、さっきの条件に加え、慎重さも必要みたいだ。
他クラスに自らがリーダーであることを気取られずに、慎重にスポットの占有をする必要がある。
「急だが、リーダーは次の点呼までに決めてくれ。その際、リーダーとなった人間にキーカードを渡す。カードには、リーダーの名前が刻印されることとなっている」
点呼場所のベースキャンプが決まったら教えてくれと言い残し、真嶋が去っていった。
ベースキャンプもそうだが、やはり一番の悩みどころはリーダーだろう。
さっきからリーダーという用語が出る度にこっちをガン見してくる森下をどう説き伏せるかを早急に考え出さないとな。頭が重たくなるのを感じながら、アイデアをいくつか頭に思い浮かべた時だった。
「──葛城さん。俺がリーダーをやってみてもいいでしょうか」
戸塚弥彦──厄介な男が行動を起こし始めていた