変な女子に目をつけられてしまった哀れな男 作:無無
「それにしても、意外だったな」
探索の道すがら、島崎がふいにそんなことを言った。
「何がだ?」
「お前なら、もっと葛城に反発するものとばかり思っていた。クラスとしては、満場一致で議論を早々に終えられたのは喜ばしいことだがな」
「たまたま、葛城と意見が一致しただけだ。敵対してたとしても、自分の意見を捻じ曲げてまで無理に反発する必要はないだろ」
そう返すと、「そうか」と短く島崎が返すが、あまり納得はしてなさそうだ。
それもそうだ。島崎含むこの場の4人にとっての芦名善という男は、坂柳派、葛城派を潰すと豪語した極めて好戦的な男としてのイメージで固まっているのだから。
「芦名くん。私はちゃんとわかってますから、安心してください。好意的な姿勢を見せて、葛城くん達を油断させる作戦なんですよね」
「そうそう。無人島最終日、大団円の中で背中からザクっといくつもりなんだよねぇ。流石は芦名くん」
「お前ら、発想がこええよ......芦名でもそこまでは考えないだろ。でもまぁ、結局最後はすっげぇことやってくれるって俺は信じてるぜ!」
ああー、刺さるなぁ。仲間からの期待の眼差しが。
でも、悪いな。俺は葛城の背中にザクっと不意打ちを決めたりするつもりはないし、皆が望むような凄いことをするつもりもない。龍園から提供される物資をたよりに、平々凡々な無人島生活を送るつもりだ。
それを今ここで言って、吉田達を萎えさせるような発言はしないが、最終的には俺は期待に応えてやることはできない。
俺がのらりくらりとやっている最中、葛城派が頑張って無人島生活を盛り立て、勢力を強める。
対する俺は、この特別試験を機に衰退の一途を辿り、周囲からは「芦名派?ああ、そういえばそんなのあったな」くらいのポジションに最終的に収まることができるとみている。
周りに流されて、龍園のアホみたいな契約に反対意見を出さなかったのも、偏に目立ちたくなかったからだ。
ひとたび俺が自分の考えを口にすれば、それに乗っかるクラスメイトは一定数いる。だからこそ、俺はこの一週間はできるだけ口を閉ざしていることに決めたのだ。
この特別試験は、『芦名派衰退プロジェクト』の足掛かりとなるだろう。
だから、今回の試験は葛城達に精一杯頑張ってもらわないといけない。
戸塚にリーダーを勧めたのも、発破をかけたのも、全ては葛城派の繁栄のためだ。
リーダーに志願し、熱意を示した戸塚はきっとたくさんのスポットを確保できるよう奔走することだろう。
頑張りすぎて空回りしたり、他クラスにリーダーであることを見抜かれるなどのヘマをしなければ、Aクラスの勝率は限りなく高まる。
「おっ!?あれは......!?」
何かめぼしいモノを見つけたのか、ふいに吉田が驚きの声をあげた。
「どしたの、ヨッシー。急に大声出して」
「小屋だよ!ほら、あっちの浜辺だ」
「吉田、お前。小屋程度ではしゃぎすぎだろう」
島崎が冷静に指摘するも、吉田の興奮は冷めやらない。
吉田が見つけたという小屋は崖の下に位置していた。一見、これといった特徴のない普通の小屋に見えるが、琴線に触れるものがあったのだろうか。
しかし、目視で確認できるレベルではあるものの、小屋のところまで到達することは難しいだろう。
なんたって、崖の下だ。ハシゴでもあれば──。
「ハシゴがありますね。少し見えづらいですが」
......本当だ。良く見つけられたな。
ほぼ自然と同化していたハシゴの存在に気付いた白石に感心していると、吉田がウキウキとした感じでハシゴに近づいていた。
「行く気かよ」
「そりゃあ行くだろ!」
「なんでそんなに小屋にご執心なんだよ」
小屋を見つけた程度でテンション爆上がりの吉田に俺は引き気味に尋ねる。
「こんな見えづらい位置にあるんだ。つまり、学校側はできるだけこの小屋の存在を知られたくない。なんでかわかるか?」
「......さあ、なんでだろうな」
鼻につくような吉田の口調を若干うざく感じながら、俺はそう返す。
「──この無人島試験の勝敗を決めてしまうほどのとんでもないモノがあるからだ」
「......ッ」
......俺は吉田の言葉を受け、少し考える。
ゲーム脳、RPG脳といってしまえばそれまでだが、この学校は普通の学校ではない。
現にバカンスと称して豪華客船に運ばれ、辿り着いた無人島で一週間に及ぶ生活を送ることとなった。
ルール説明にはなかった、何かしらのアイテムが島内に隠されていて、それらの運用次第で勝敗をひっくり返せる......なんて可能性もあるかもしれない。
吉田の突拍子の無い考えをくだらないと一蹴することは簡単だ。
けれど、有り得るかもしれない未知の可能性に手を伸ばしてみてもいいんじゃないか。そんな風に思い始めていた。
「──吉田。俺も着いていくぞ」
「流石は芦名。俺はわかってくれるって信じてたぜ」
そうして、2人でハシゴに近づいていき、今まさに降りようとしたときだった。
「あー、あれ。スポットっぽいね。なんか変な装置ついてる」
「確かスポットを使用するには、キーカードで占有する必要がありましたね」
「......」
「......」
キーカードを持つ戸塚はここにはいない。
俺達は泣く泣く仮拠点に戻ることにした。
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探索班の出動により、合計で5つのスポットを見つけることができた。その中には、当然俺達が発見した謎の小屋も含まれている。
「初日で5つのスポットを発見できたのは上々の成果だ。これより、発見した全てのスポットの占有に乗り出そうと思う。それが終われば、テントの設営、食事の準備に入るが、いいな?」
話がまとまると、早速葛城が仕切り始めてくれた。
葛城派を中心にクラスメイトは葛城の指示に従うが、何人かは面白くなさそうな顔をしている。
無論、他派閥の生徒だ。
特に坂柳派はトップが不在なこともあって、葛城が仕切る流れに不満を持っているように見える。
それでも、わかりやすい反発はせず、今のところは表面上は従う動きを見せているようだ。
まず、向かったのは、葛城が発見したという大きな洞窟。
探索してる際に見つけた時点で、既にスポットとして占有していたようだが......大丈夫だろうか。
確か探索開始前、スポットを見つけても、一旦放置という方針だったはずだ。
それなのに、戸塚は占有を行った。
葛城の指示か、あるいは戸塚の独断か。どちらかはわからないが、あまりにも軽率だ。他のクラスの人間に占有の瞬間を見られていないことを祈ろう。
戸塚は洞窟を抑えられたのがよほど誇らしいのか、クラスメイトに自慢げに発見した時の経緯を語っていた。
しかし、誇りたくなる気持ちも理解はできる。この洞窟のスポットは大当たりだ。
中はあまり汚れていないし、ここ自体を居住空間──つまりはベースキャンプにしてもよいくらいだ。やはり、雨風を防げるのが一番大きいだろう。今のところ、無人島は晴天だが、天気がいつ荒れるかもわからない。
もし、開けた場所にベースキャンプを構えていた場合、大雨でも降ったら、中々に厳しい生活を強いられることだろう。その点、洞窟なら、雨が降っている間、中に籠っていればよい。
クラスメイトからも好感触だったようで、他に良い候補地が見つからなければ、ここがベースキャンプとなるだろう。
その後、3つのスポットの占有を実施したが、どれもベースキャンプとしては不向きだった。
ただ、その内の1つは、付近に野菜や果実が収穫できる箇所があったので、食料の調達場所として最適である。
食料を継続的に調達できれば、ポイントを食料品に充てる必要がなくなり、他の生活雑貨の購入に充てることができる。上手くやり繰りすれば、龍園からの200ポイントのみを生活に使い、元々Aクラスが保持している270ポイントを丸ごとクラスポイントとして確保しておくこともできるだろう。リーダー当てに失敗しないという条件つきとなるが。
「ここがお前らの見つけた場所か。はっ、辺鄙な場所だ。ベースキャンプには確実に向かないな」
最後に来たのは、俺達が見つけたスポット。
到着早々、戸塚から辛口コメントを貰ってしまった。
まぁ、確かにベースキャンプとしては使えないという意見には素直に同意する。
4、5人しか入れなさそうな小屋で、なおかつ周りには何もない。
「崖下なんて、よくこんな場所を見つけたものだ。スポット占有の際、他のクラスの生徒に見つかる危険は少ないだろう。アクセスが悪いが、得点源としては使えそうだ」
葛城からは、そこそこ評価が良いようだった。
俺達は、早速ハシゴを降り、小屋に向かった。
「......これは、釣り小屋か」
小屋に入ると、そこには釣り用具一式が数セット用意されていた。
また、崖上からは見えなかったが、小さな桟橋が突き出ていた。
俺と吉田が期待したような、勝敗をひっくり返すような劇的なアイテムはなかったが、釣り道具──これは馬鹿にはできないぞ。
小さな喜びを頭に浮かべるが、戸塚は馬鹿にするような嘲笑を浮かべていた。
「もったいぶっておいて、あったのは釣り道具だけか。こんなのマニュアルからも安値で手に入る。それにもっと釣りに適した場所はあるだろう」
「てめぇ!」
とにかく俺達をこき下ろしたい戸塚に吉田が掴みかかろうとするが、すんでのところで俺が止める。
「まだ我慢すんのかよ!言われっぱなしで黙ってられるかよ!」
「落ち着け、吉田。クラスメイト同士で争っても仕方ないだろ」
「そ、そうだ。ちょっと揶揄っただけだろ。全く説得力はないが、芦名の言う通りだ」
いざ反発されると日和った態度を見せた戸塚が、俺の言葉に同意する。
......こいつには俺もむかついてはいるが、暴力に訴えるのは違う。
やるならもっと、スマートにだ。
「なあ、戸塚。この小屋は俺達が管理していいか?確保したスポットは他のクラスの人間に奪取されないよう守る人間が必要だろ」
「はぁ?勝手にしろよ......あ、いいですよね?葛城さん」
「芦名が管理したいというのなら、異論はない」
葛城の了承に加え、他のクラスメイトからの反論もなかったため、釣り小屋は俺達が管理することが決定したのだった。