変な女子に目をつけられてしまった哀れな男 作:無無
うちのクラスの森下藍が、放火の疑いでDクラスの生徒達に追われているらしい。
何かやらかすと思っていたが、まさかそこまでやるとは......。
いや、正直なところ、森下が放火をしたなんてことはないと思っているんだが......森下だからな。100%やっていないとは言い切れないのが悲しいところだ。
試験2日目に、Bクラスのベースキャンプに潜入して、キーカードを盗んできたという前科がある以上、今度はボヤ騒ぎに乗じて、カードを盗み出そうとしたという線も十分に考えられる。
更に言えば、あの時、森下は全く反省していなかったのだ。
自分は、かの天下の大泥棒、石川五右衛門の末裔がどうとかで、血が騒いだとか言って、むしろ誇りに思っていそうだった。
そういった情報を踏まえてみると、やはり森下に100%の信頼を置くことは難しいと思ってしまう。
「逃亡したとは聞いたが、どこに逃げたんだ?」
普通に考えれば、Aクラスのベースキャンプに直帰するのが当たり前だが、あいつは常識とはかけ離れた世界の住人だ。常識に当てはめて考えるのは、悪手になりうる。
......仕方ない。取り敢えず、森下が潜んでいそうな場所を一通り回ってから、ベースキャンプに戻るとするか。
そうして、俺は伊吹からこっそり拝借した懐中電灯をたよりに、島内を少しだけ歩くことにした。雨が鬱陶しいが、木々を傘代わりにすればギリギリ耐えられないわけでもない。
歩いていく中、俺はふと龍園と結んだ契約を思い出す。
BかDのリーダー情報が手に入り次第、正式に契約が成立するということだが......Bに関しては、スパイとして潜入させていた金田が音信不通になったため、リーダー情報の奪取は難しいらしい。
そして、次にDクラスだ。
Dクラスに潜入していたのは、先ほど色々とあった伊吹に違いない。
綾小路は言葉を濁していたが、伊吹はキーカードを盗み、Dクラスのベースキャンプから逃亡中だったのだ。
しかし、堀北に追いつかれ、戦闘に発展した。
そこに俺が運悪く居合わせてしまい、襲ってきた伊吹を堀北との協力プレイにより上手く倒すことに成功した。
龍園が自身の配下を使って実行しようとしていた、リーダー情報の奪取作戦。
......スパイの1人である金田は任務失敗(森下のせい)。同様に伊吹も任務失敗(俺のせい)。
そうなると、龍園の作戦は失敗に終わったといえる。他でもない、契約相手のAクラスの手によって。
現物もしくは写真で、正確な情報を伝達することのできない龍園は契約内容を履行しなかったことになる。
対して、俺達は既に前払いの形で、200ポイント分の物資を提供してもらっている。
『証拠は写真か現物で。写真であれば、カメラ代はCクラス持ちだ。あと、BクラスかDクラスか最低でも1クラスのリーダー情報が提供されなければ、契約は反故となる。その場合、お前らから提供された200ポイント分の物資は返却しない』
こんなことを俺は龍園に対して、言った。
......正確なリーダー情報が提供されなければ、契約は反故。200ポイント分の物資は返却しない。
今、正にこの状況になろうとしている。
当然、俺は意図して、この状況を作り出そうとしたわけじゃない。
金田の件に関しては森下の暴走が原因だし、伊吹の件に関しても、降りかかる火の粉を払ったに過ぎない。前者は、まぁ百歩譲って俺に過失があるとしても、後者に至ってはただの正当防衛に他ならない。
けれど、龍園目線で考えたらどうだろう。
契約に賛同していながら、その実、契約の裏をかくような真似をして、契約による旨味のみを一方的に享受しようとするムーブ。
──俺はとんでもないカス野郎に見られるんじゃないか。それこそ契約相手である、悪名高い龍園を軽く上回ってしまうレベルで。
「......やめよう」
俺はこれ以上、深く考えないことに決めた。
龍園の作戦が失敗したと結論付けるのは、今の段階では早すぎる。金田は消息不明なだけで実は既にBクラスの情報の奪取に成功しているかもしれないし、伊吹もあそこから奇跡の脱出劇を果たしたかもしれない。
そう悲観的になることはないのだ。
今はただ、契約成立の無事を祈ろう。
もし、不成立になったなら......俺は今度こそ、最低最悪の謀略野郎として校内で後ろ指を指されるような存在になってしまうだろうから。
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森下の捜索から30分ほど経過した頃。
俺は前方に見覚えのある姿を発見した。
俺の足音を聞いて、前方の人物──戸塚弥彦がこちらを振り返った。
表情はすぐに憎々し気なものに変わる。
「......芦名。こんなところで何をしてるんだよ」
「森下の捜索だ。そういうお前は?」
「クラスの為の行動をしている。点呼にすら参加せず、クラスの足を引っ張るお前と違ってな」
「......悪い。すっかり忘れていた」
伊吹達との騒動やら森下探しやら、色々なことがあって、つい点呼のことを失念していた。
1人欠けているだけでマイナス5ポイント。たった5ポイントと侮ってはいけない。
もしかすれば、この5ポイントが勝敗を分けるのかもしれないのだから。
俺は戸塚に対し、頭を下げる。
戸塚はそんな俺を見て、薄ら笑いを浮かべた。
「お前が探している森下だが、点呼にはいたぞ。徒労だったな」
「まじかよ......」
そんなことなら、ベースキャンプに直帰すれば良かった。
戸塚の言う通り、森下探しは徒労に終わり、更には、クラスにマイナスを与えてしまった。
芦名派の衰退を目標としている俺だが、クラスに迷惑をかけて、強引に周囲からの評価を落とすことは本意ではない。俺は、日陰者になりたいのであって、裏切り者になりたいわけではないのだ。
俺が自分の不甲斐なさに罪悪感を感じているのを察知したらしい戸塚が、愉快そうにこちらに近づいてくる。
「このマイナスを甘く見ない方がいい。お前の犯した小さなミスのおかげで、葛城派の勝利は確定した」
「今回の試験はクラス間の競争だ。派閥の勝敗なんてないだろ」
「なんだ。負けそうになって既に及び腰か?まぁ、気持ちはわかる」
うんうんと深く頷いた戸塚が俺の肩に手を置いてくる。
「葛城派が主導で行っていた、スポットの占有により稼いだボーナスポイントは250ポイントを超えようとしている。お前はBクラスのリーダーを当てたと息巻いていたが、たったの50ポイントだ。わかるか?俺達、葛城派は芦名派の5倍以上の成果を上げたんだ」
誇らしげに戸塚が語るが、それは......素直に凄いな。
ここまでのボーナスポイントを稼いでいるクラスは他にいないだろう。
戸塚の言い方は鼻につくが、事実、葛城派の尽力は大きい。特にスポット占有に熱中していた戸塚がここまで有頂天になっているのも納得できる。
「お前は食糧事情に関して言えば、それなりにクラスに貢献したのかもしれないが、この試験の本質はどれだけポイントを稼げるか、だ。つまり、試験初日から釣り小屋に引き籠ることを選んだ時点でお前の敗北は決まっていたってことなんだよ」
意気揚々と話す戸塚の口は止まらない。
気分はもうすっかり勝者のようだ。芦名派に勝利できた、という事実は戸塚にとってそれほど愉快らしい。
しかし、葛城派の勝利は俺にとってむしろ歓迎すべきことだ。
スポット占有によるボーナスポイントで、他クラスに大幅な差をつけて勝利したとなれば、当然クラスメイト達からの葛城派への評価は上がる。相対的に芦名派は評価を落とし──無事、衰退への一歩へと繋がることだろう。
「......そうかもな。今回の試験での葛城派の貢献は非常に大きい。対して、俺達がしたことと言えば、Bクラスのリーダー情報の特定と食糧の調達だけ。成果としてどっちが大きいかは言うまでもない」
下手に反論して不機嫌になられるのは面倒なので、あえて戸塚が喜びそうなことを言ってやると、狙い通り、戸塚の口角が大きく吊り上がった。
「はは、芦名。今までの威勢の良さが嘘みたいだなぁ。自分の立場が理解できたみたいで何よりだ。まぁ、今後葛城さんの下につくことになるんだから、今の内に媚びておきたい気持ちはわかる」
......葛城の下につくこと自体は構わないんだが、戸塚に偉そうな態度を取られるのは不快だな。
でも、こういう声がでかく、他クラスから見れば、鬱陶しい奴がいればこそ、俺の影も自然と薄まるもの。
むしろ、戸塚の存在は俺にとって良い方向に作用する可能性もある。
そんな戸塚に俺は少しだけ感謝してから、一言。
「目の下、クマやばいけど、大丈夫か?もう葛城派の勝利が確定してるなら、スポット探しはやめていいんじゃないか?もう明日で試験も終わりなんだし」
純粋に戸塚を心配しての発言だった。
しかし、これが逆に戸塚に火をつけてしまったらしい。
「はぁ......これだから、向上心のない奴は駄目だ。葛城派のため、ひいてはAクラスのため、俺は1ポイントでも多く稼ぐ。芦名、これがお前との意識の差だな」
「お前ほとんど寝てないんだろ。余裕も出てきたんだから、無理するなって」
「もしかして、お前焦ってるのか?これ以上、葛城派に差をつけられたくないわけか。はっ、心配している風を装って、俺を止めようとしたって無駄だ。今までそうやってクラスメイトを騙してきたんだろうが、残念ながら俺には通じない」
もう俺の言葉に耳を貸すつもりはないのか、戸塚が背中を向ける。
戸塚が進行方向は凸凹とした岩場が広がっていた。
今もなお、雨はざあざあと音を立てて、地面を打っている。
雨で濡れた岩の上を歩くのは、危険だ。足を滑らせて、頭を打ってしまえば、大事になりかねない。
「おい、戸塚。行くなら止めないが、慎重に進めよ。視界が悪い上に足元も滑る。それに──」
「黙れ。見苦しいぞ。お前に言われなくても、細心の注意を払って──あっ」
ずるっ。細心の注意を払っていたらしい戸塚は、足元を見ていなかったせいか、濡れた大岩で足を滑らせ、ごちんと鈍い音とともに地面に倒れ伏した。
今の衝撃ですぐに気絶はしなかったものの、意識は朦朧としているようだ。
瞼はほとんど閉じかかっていて、僅かな隙間から俺を見つめているのがわかった。
「芦名......お前、俺を......嵌めた......な......」
そう、ゆっくりと言葉を振り絞った戸塚は、ぱたりと意識を失った。
「何だこいつ............」
無人島試験、6日目、戸塚弥彦が散った瞬間であった。
アンケートの存在をすっかり忘れてました......
24話終了時点のヒロインレース
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一之瀬
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櫛田