変な女子に目をつけられてしまった哀れな男   作:無無

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勉強会

「──話は以上だ。ご清聴感謝する。仔細については、後ほどクラスチャットで連絡する」 

 クラスポイントの説明が真嶋からされた日の放課後、葛城はすぐに行動を取った。

 帰りのHRが終わると、クラスメイト全員を呼び止め、今後のクラスの方向性についての議論をするべきだと声高らかに宣言をしたのだ。

 クラスの方向性──つまり、今後いかにAクラスがクラスポイントを高い水準で維持し、他クラスを引き離すことができるか。

 小テストの結果が公開された後、真嶋はクラスポイントについていくつかの補足を行った。

 月に支給される額の増減にだけクラスポイントは関与しているわけではなく、クラスの昇級、降級にも密接しているという。現時点での最上位はAクラス、最下位がDクラスとなっている。

 BクラスとCクラスがそれに挟まる形で、つまるところ今朝発表されたクラスポイントの順位どおりということだ。

 葛城はこのままAクラスという最上位を保ちたいと考えており、殆どのクラスメイト達も葛城の意見に賛同しているようだった。

 俺としては順位自体はどうでもいいんだが、貰える金額は魅力的だ。

 日々の生活態度を正し、テストで高得点を取るくらいのことなら喜んで協力しようと思う。

 ただ......話の最後に葛城が提案した勉強会については気が乗らない。

 クラス全体の学力の底上げ、連帯感の強化に繋がると葛城は主張しており、実際そのとおりだと思うが──うーん、面倒くさい。

 それに葛城が主催するとなると、堅苦しい空気になることは間違いないだろう。

 葛城に対して失礼だとは思うが、勉強会というより補習授業を受けている気分になるんじゃないかと思う。

 そんなのはごめんだ。

 なので、俺的には不参加の方向で進めようと思っている。

「森下、お前はどうするつもりなんだ?」

「当然、不参加です。私も暇ではないので。今日も大仕事がありますし」

「嘘つけ。昨日もベンチで仰向けになってたじゃねーか」

「おっと。スケジュールが押しているのでこれにて私は失礼します」

 そう言い残して、逃げるように森下は去っていった。

 まあ、森下が不参加なのは予想どおりだ。

 むしろ参加希望だったら、どこかで頭を打ったんじゃないかと心配になるレベルだ。

「勉強会か......」

 神妙そうな顔で小さく呟いたのは、吉田だ。

 意外だな。吉田のようなタイプは、こういう勉強会といったイベントには喜んで参加すると思っていたが、何やら迷っているみたいだ。

「......なあ、白石は参加すると思うか?」

 まあ、そういうことだろうと思ったよ。

 白石が参加するかどうかだけでよくここまで真剣な顔が作り出せたものだ。普段は何も考えてなさそう顔してるくせに。

「自分で聞けよ。つか、逆に聞くが、白石が不参加ならどうするんだ?」

「そこが迷いどころなんだよなぁ。白石が来るなら参加は確定なんだけど、来ないとなるとどうすっかな」

「まずは明日の第一回に参加してみればどうだ?白石が来れば次回も参加して、来なければ欠席すればいい」

「正直、それが固いよな。でも、ちょっとそれ感じ悪くね?」

「それが気になるなら、白石の参加不参加問わず、全参加するしかないな」

「全参加かぁ......」

 そう言うと、わかりやすく吉田が嫌そうな顔をした。

 さっきの話だと、葛城は週3回で放課後に勉強会を開くとのことだった。

 あくまでも中間テストまでの間とのことだが、それでも週3回となると中々に面倒だろう。

 白石の参加という餌がない可能性を考えれば、吉田としては快く首を縦に振ることは難しいらしい。

「参加するなら頑張れよ。俺は参加しないけど」

「はぁ!?まあ、お前小テストの点良かったもんなぁ。勉強会なんて参加せずとも、高得点は取れるってことか......」

「そこまで思い上がってねえよ。ただ、何となく葛城の開く勉強会は堅苦しそうだと思っただけだ。あ、これ本人に言うなよ」

「言わねーよ!はぁ......白石、どうすんのかなぁ」

 吉田の頭の中は白石のことでいっぱいのようだった。

 

 ───────────────────────────

 

「おいっ!こなかったんだが!」

 場所は食堂。

 牛丼を頬張りながら、吉田が叫んだ。

「それは残念だったな。やっぱり来なかったのか、白石」

「ああ、そうなんだよ......おい。やっぱりってなんだよ。まさか、知ってたんじゃないだろうな?」

「いや、知らん。ただ、さっき思い出したんだ。白石はこの間の小テスト、80点だったからな。不参加でもおかしくはないと思った」

「まじかよっ。可愛いだけじゃなくて、頭も良いのかよ......」

「らしいな。Aクラスには頭の良い女子生徒が軒並み揃ってるが、白石も例外じゃない」

 他のクラスの事情はわからないが、小テストの結果を見る限り、おそらくAクラスの学力の水準は高い。周りのレベルが高すぎるだけで、あの内容の小テストで70点が取れる吉田は比較的優秀な部類には入るのではないかと思う。

「それで、勉強会はこのまま出席し続けるのか?」

「そこが悩みどころなんだよなぁ。最初は白石が第一回に来なくても、次回以降も行こうとは思ってたんだ」

「今は思ってないってことか」

 なるほど。吉田の複雑そうな顔から、第一回の勉強会がどういったものだったかうっすら想像できた。

 吉田は基本的に人懐っこく楽しい雰囲気が好きなやつだ。たとえ、意中のクラスメイトがいなくとも、それはそれとして楽しめるメンタリティを持っているだろう。

 ただ、そんな賑やかしの吉田でも楽しむことができない空気が勉強会にあったら話は別だ。

「葛城なぁ。悪い奴じゃないし、むしろ良い奴ではあるんだよ。でも、ちょっと固いっつーか、こっちまで気を引き締めざるを得ないっつーか。まあ、如何せん空気が合わなかったんだよなぁ」

 やはり原因は葛城だったか。

 確かに葛城の学生らしからぬ立ち振る舞い、指導者や政治家のような雰囲気は吉田には合わなかったのだろう。   

これは俺の勝手な推測でしかないが、白石が参加しなかったのも同じような理由かもしれない。緩い感じでふわふわとした不思議な印象を抱かせる白石と葛城では明らかに属性が違う。水と油と言ってもいいかもしれない。

「でも、一部の奴らには好評だったぜ。特に戸塚とか。あいつやばいんだよ。同級生なのに、葛城のことをさん付けで呼ぶんだぜ。もう一生ついていきます!みたいなノリでさ」

 戸塚弥彦か。確か葛城の隣の席に座っている生徒で、自己紹介の時、既に葛城に熱い視線を向けていたのをよく覚えている。

 当然、勉強会も参加するのだろうと思っていたが、吉田の言うように、相当葛城に心酔しているらしい。

「一番やばいのは戸塚だが、他の奴らも相当だぜ。もうAクラスのリーダーは葛城だと思ってるっぽい」

「リーダー、か。まあ、今のところ一番リーダーらしい振る舞いをしてるのは葛城だよな」

 昨日の説明を聞いて思ったが、葛城自身も既に自らをリーダーとしてAクラスを導いていこうとする気概を感じる。

「だよなー。もうAクラスは葛城を中心に回っていくんだろな。あー、そう考えると俺も勉強会ちゃんと参加して、リーダーに着いてった方がいいのかな」

 乗り気ではなさそうだが、仕方ないといった感じで吉田がため息をつく。

 葛城がリーダー。確かに今の流れのままいけば、そうなるかもしれない。

 けど、俺としては、Sシステムの仕組みにいち早く感づいた彼女も気になっている。

 勘だが、彼女──坂柳有栖は元々4月の最初の説明時点で既にSシステムを理解していたんじゃないかと疑っている。あの時の坂柳の一点の曇りのない瞳と堂々たる態度を思い返すと、そう思えてならなかった。

 それに一番は坂柳に対するクラスメイトの反応だ。

 支給額の変動に慌てていた姿が嘘だったかのように、一様にじっと坂柳の言葉に耳を傾けていた。

 ああいうのをカリスマと言うのだろうと、あの時の俺は思った。

 

 だから、もしもAクラスを引っ張るリーダーが誕生するなら、それは葛城か坂柳のどちらかだ。

 この一か月、クラスメイト達を余すことなく観察したが、彼らに比肩する生徒は一人としていなかった。

 この二人がリーダーとして名乗りを上げ、もし相容れない思想を互いに持っているのだとするなら──Aクラスはきっと面白いことになる。

 白石との勉強会が成立しなかった吉田が嘆く中、俺は胸の内に密かに高揚感を抱いていた。

 

 ───────────────────────────

 

「決めたぜ。俺はもう勉強会には参加しない」

「唐突になんだよ。そんな堂々と言うことでもないだろ」

 朝のHRが始まる前、急に席を立ちあがった吉田はなぜか自信ありげにそんなことを宣言した。

 しかも、ここはAクラスの教室だ。

 大声ではないにせよ、教室にいる何人かには吉田のこの唐突な宣言が聞こえているはずだ。

 当然、既に登校しており、吉田の隣の席である白石にも。

 吉田としては、多分俺とだけ会話してるつもりなんだろうけど。

「まあ、聞いてくれ。確かに俺は勉強会に参加しないとは言ったけど、勉強はちゃんとする!」

「そ、そうか。頑張れよ......」

「そこで相談なんだが。芦名、俺に勉強を教えてくれないか?」

「はぁ?どうしてそうなる。話が見えてこない。そもそも、お前しっかり第五回?まで参加してるんだろ。なんで急にやめて、俺に勉強を教わろうと思ったんだよ」

 第一回以降、なんやかんや言いながら、結局勉強会に出席し続けているものだから、てっきり葛城についていくことに決めたのかと思っていたが、違うらしい。

「芦名、休み時間とかにたまに勉強見てくれる時あるだろ?それで毎回思うんだが、お前って教えるの上手いんだよ。そんで、さらに思ったね。芦名についていけば、更に俺は上を目指せるってな!」

「お、お前、なんかキャラ変してないか?失礼だけど、お前って勉強に熱入れるタイプじゃないだろ。どっかで頭でも打ったか?」

 驚きを通り越して、怖くなってきた。

 勉強会で葛城にしごかれて、おかしくなったのだろうか。

「いいや、俺は至って正常だ......でもあれだな。これから勉強の師匠として仰ぐ芦名に嘘をつくのはよくないか......ここだけの話なんだが、白石に好みのタイプをさりげなく聞いたんだ。あくまで日常会話の中の自然な流れとしてな」

 すっとこちらに近づき、吉田が耳打ちをする。

 日常会話から相手の好みのタイプを聞くのは全然自然な流れでできそうにない気がするが、それは一旦置いておこう。

「そしたらな、なんと頭の良い人が好きらしい。でも、そうなると俺は白石のストライクゾーンから大きく外れるわけだ......だからなっ。ここは一つ、親友である俺の頼みを聞いてくれないか?」

「な、なるほど。理解したが......めんどくせえな。その感じだと休み時間にちょろっと教える感じじゃ駄目なんだろ?」

「ああ。それだけじゃ足りない。隙間時間じゃなくて、もういっそのこと、芦名主催の勉強会を放課後に開いてほしい。なあ、頼むよ。週に3回、いや2回でいいからさっ」

「おい、ことを大きくするなよっ。勉強会は既に葛城が開いてるのに、わざわざ俺が別で開いたら嫌な感じするだろうが!」

「頼むっ。後生だ!俺の学力向上の為に一役買ってくれ!」

 しばらく揉みあいが続くが、一向に吉田が諦めてくれる気がしない。

 クソめんどくせえ......早く真嶋先生きてくれよ。

「......ん?」

 吉田の圧を鬱陶しがっていると、肩をぽんぽんと叩かれる。

「芦名君主催の勉強会、私もご一緒していいですか?」

 声の主、白石飛鳥は柔らかい声で言った。 

 

 

 

 

 




この調子だと一生、吉田と食堂で駄弁るだけの話になりそうなので、そろそろ色々なキャラと絡ませていきたい。
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