「先生!マクゴナガル先生!!」
「校長とお呼びなさい、と言いたいところですが。あなたがそれほどまでに慌てるということは何かあったのですね?」
「スコーピウスマルフォイと、アルバスポッターの姿がありません!!!」
「気絶しなくなっただけ素晴らしいです。今すぐ両家にフクロウ便を!」
「俺が言うことでもないんですが確認、しなくていいんですか!?もうフクロウ便!?」
「マルフォイはともかくポッターですよ?」
「そんな、フレジョですよ、みたいに言わないであげてください」
うちの可愛い後輩なんで、といいかけて止まった。アルバスはウィーズリーとポッターの血を引いたサラブレッドである。何がとは言わないが。
しかも、困ったことに二人ははみ出しっ子。彼らも虐められないために気配を消すのはお手の物である。電車に乗ったか乗らないか、と突き止めるのすら至難の業だろう。ここはローズに問うのが早いかもしれないが、彼女を探している時間すらも惜しい。
「校長、新学期に校長がいないのは大問題ですから、僕が行きます。スリザリンは優秀なので、僕がいなくてもあらかた説明できると思います。あーっと、ようし!がんばるぞ、おー!」
レイはピカイチの機動力をもって列車に向かう。学校を出てしまえば大人の魔法使いは姿現しができるのでホクズミードへはあっという間だ。
一撃で駅舎の前に出て、大慌てで中に入る。もう、生徒は人っ子一人おらず、あるのは荷物のみ。列車に至っては車内清掃が行われていた。
レイは大慌てで車内販売の老女を探す。このタイミングであれば彼女はまだ列車の一部に戻ってはいないだろう。
実は、車内販売はこの列車の要ともいえる魔法だ。彼女は人間ではないのである。子供を守るために施された列車の魔法に付随しているに過ぎない。
彼女の目的は終点に至るまでに列車から誰も降ろさないこと。それは生徒は勿論、教師もである。
かつて、列車に乗る必要があったダンブルドアが途中で魔法省に呼び出され、姿くらましをしようとしたことがあったらしい。その際にも彼女は頑なに途中下車を認めず、抵抗を繰り広げ、決着がついたのは駅に着いた頃。肉食獣のようににんまり笑う老女にダンブルドアは頭を抱えたという。
彼女は近代英国で最も偉大な魔法使いさえも手を焼く古い古い守護魔法だ。
逃げようとした双子が彼女に捕まり窓の外で宙ぶらりんになっていたのは今でもレイの脳に焼き付いている。グリンゴッツと同じくらいに強固な守り。蒸気機関の要塞、ホグワーツ特急である。
「よかったまだいた!ヘイ、マム!」
よろ、と足取りおぼつかず老女はレイに寄ってきた。その様子はただ事ではない。彼女は魔法そのものであり、疲労や痛み、またはそれに準ずる肉体的苦痛はないはずなのだ。
「あぁ!坊ちゃん!逃げられましたわ!!生徒二人に!何たる失態!なんたる、何たる……!」
マダムは鬼の形相を維持したままレイに泣きついてきた。その事実にクラっと来たが、いまは倒れるべきではない。
あぁ、本当に。寿命を縮めておいてよかった。おかげであのおバカちゃんたちを追っかけることができる。教職にも魔力は必要不可欠って、こういう時のためだったんですね、スネイプ先生。
レイはマクゴナガルと両家にフクロウ便を飛ばし、思考を巡らせた。
彼らは一体どこへ行ったのだろう。動く列車から逃げたとしたら線路沿いには違いない。家に帰るわけにはいかない二人だ。
自宅がだめなら、親戚の家が順当な行先であるがこれらは家出をする先としてあまりにふさわしくない。すぐに親に連絡がいってしまう。
ならば、匿ってくれそうな成人済みの友達の家あたりも考えられる。しかし、その思考はすぐに却下された。何せスコーピウスはまだしも、アルバスに夏休み中に年上と懇意になり家出を手伝ってもらう、などというコミュニケーション力は備わっていない。これは彼らを見てきた教師として断言できる。
かといって、コミュニケーション能力が高いスコーピウスの発案か、といったらおそらく否。彼はこういう大それたことができるタイプではない。廊下すら走るのをためらう優等生タイプだ。どうせ一緒に逃げよう!とでも唆され友達の言うことだから、と聞いてしまったのだろう。
アルバスもアルバスで無茶苦茶な考えなしではあるけれど、彼の中で成功するわけがないと結論付けたことはしない性質である。となると、やはり頼る先がある?でも、どこで、誰に、どうやって頼るつもりなのか。
「あー、まーじでどこ行ったんだ……?」
頭を悩ませるレイの前に一匹のフクロウがとんでくる。運ばれてきた手紙を見ればマクゴナガルの文字が躍っていた。
「今に至るまで魔法省から未成年魔法使いの魔法執行に関して報告は、なし」
ならば、子供の足で行けるところ。あの二人にヒッチハイクの才能はないだろうし、ホグワーツ特急が走っているのは人気のない山間。子供の足だけでマグルの人里に降りることなんてできるはずもない。そこまで学校に来たくなかったのか。
いやわかるけど。俺も学校好きじゃなかったけど。
「だめだ、ちーっともひらめかん。あぁ、もうさぁ、!こんな時に魔法薬学教師でよかったなぁって思うね!」
レイはポケットに入れてあった最高濃度のフェリックスフェリシスをあおる。ちょっとハッピーバカになるけど致し方なし。可愛い後輩、もとい生徒のためだ。
手がかりがないなら手がかりを作るまで。レイが薬の効きを感じ、目をつむっているとアルバスとスコーピウスの荷物が目の前に現れた。これらはこの後各部屋に運ばれるはずである。
よく見れば、アルバスのカバンのカギは壊れているようだった。プライバシー侵害!と良識が心の中で叫びをあげるが、かまっていられない。教師特権、とレイはカバンを開ける。
開けた拍子にノートがめくられ、目に飛び込んできたのは懐かしい笑顔。セドリックディゴリーに関するスクラップ。この写真が使われた校内新聞は自分ももらった記憶がある。第二の課題の後、彼がきらきら笑う新聞の切り抜き。記憶にある姿と寸分たがわぬ十七歳の彼はこちらに向かって照れくさそうに手を振っていた。
「なんで、」
勝手に涙がこぼれる。ノートに落ちたそれを拭おうと持ち上げれば、エイモスディゴリーの文字と彼の現住所が書かれた切れ端が落ちてきた。
セドリックの死が受け入れられない自分は彼の墓にも行ったことはないし、葬儀にも参加しなかった。だから、医務室で聞いてしまったあの声が最後の記憶だ。
住所は老人ホーム。一体どうして、それがアルバスのカバンから出てくるのだろう。
「えぇい、これもセド先輩の思し召し!この住所だな、待ってろお馬鹿さん!」
フェリックスフェリシスが効きすぎていてマイナス思考になれないレイはその切れ端をポケットに押し込み、アルバスのカバンを直す。
「っしゃ!いくぜ、聖オズワルド魔法老人ホーム!」
レイは愛しい先輩の笑顔を久しぶりに思い出して上がった口角のまま、ホグズミード駅から姿をくらましたのだった。