セドリックディゴリーと蛇の後輩   作:かみさきはづき

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◆2020/9/1 ②

老人ホームでエイモスを訪ねれば、今日はお客様が多いですねぇと癒者に言われる。セドリックが死んでからというものすっかり偏屈になってしまったと聞いているし、そんな老人にそうそう客がいるとも思えない。

 

「あの、僕以外の客人についてお伺いしたいのですが」

「構いませんが、」

 

どういった内容でしょう。そう訝しがる彼女にレイはホグワーツの教師のあかしを見せる。もし、その客人が学生であれば今自分がここにいる理由をわかってもらえるかもしれない。すれば彼女ははっと顔色を変える。

 

「そう、よね。今日は新学期。私、どうして彼らのことを不思議に思わなかったのかしら。特急に乗っている時間よね」

「学生二人は黒髪に緑の目、プラチナブロンドに青い目の二人組でしたかね?」

「えぇ、ええ。そうですとも!引き留めておけばよかったわね、本当に申し訳ございません、」

 

彼女の口ぶりからするにもうここにはいないのだろう。レイはすぐに後を追おうかとも思ったのだが、何かが引っかかる。だからこそ冷える心臓を押さえて彼女にエイモスの部屋への案内を頼んだ。

彼が今住んでいる部屋。ノックをして入ればいいだけなのに手が動かない。癒者は不思議そうにその様子を見ている。

そうだ。ハッフルパフの寮にもこうやって入れなかった。あの時はセド先輩が助け舟を出してくれたけど。俺はもう大人で、セド先輩は今ここにはいない。だから、しょうがない子、ではいられない。

 

「エイモスさん、いらっしゃいますか?」

 

ノックに返答が帰ってきて、扉を開けた。清潔で家族の写真が何枚も飾られている彼の部屋。あんなことさえなければきっと彼は今でも家族の愛の詰まった家に住んでいて、きっと、きっと。

レイは泣いてしまわないように内ももをつねった。これくらいなんてことはない。大丈夫、そう言い聞かせる。

 

「僕は、ホグワーツで教師をしているレイハセオと申します。ここに学生が来た、と聞いて後を追っているのですが」

「レイ?」

 

名前を呼ばれた。しわがれて響きも狭い。それは老人の声。けれど、ああ、この人は彼と血の繋がった親だ。よく似た響きを持ったそれに耐えきれなくなってしまう。

 

「あの、えっと、その、これは」

「よく来たね」

 

急に訪ねてきて、あまつさえ泣き出した成人男性に怒鳴るでもなく、穏やかに話しかけるエイモスに驚いたのは癒者のほうだ。この様子であればここにいなくても平気だろう。彼女は面会が終わったら声をかけるように言うと場を離れていった。

 

「エイモス、さん。急に泣き出してごめんなさい」

「いいんだ。私は君を知っている」

 

掛けなさい。そういって椅子を指さされたのでそれに従う。知っている、とは一体どういうことなのか。彼との面識がないレイは狼狽えるしかない。

 

「セドリックの友達。合っているかな」

「あの、これ以上泣いたら干からびちゃうんで、その、」

 

レイは手持ちのハンカチでびちゃびちゃになった顔面をぬぐうと少しだけ真剣な顔をして彼に向きなおる。全てフェリックスフェリシスの力であるとわかっているが、本当にカサカサになってしまいそうな気がして。

 

「エイモスさん。僕はセドリック先輩の友達なんですが、今日は別件できました。今日は、うちの生徒の件で。本当はセドリック先輩のお話とかすっごい聞きたいんですが。今日は仕事なんで、本当は聞きたいんですよ!?なんなら、家族写真に目を奪われてます。えぇ!?ちっちゃいセドリック先輩かわい~!みたいな。だから、また今度、僕個人として訪ねてきてもいいですか?」

 

矢継ぎ早に話しかければエイモスは笑った。遠い昔。最愛の息子から聞いていたのだ。変わった、けれどとても面白い友達の話を。顔も見たことがない、写真すらない、エイモスが聞いていたのはその名前だけ。日本語の響きは珍しかったから脳の片隅に残っていた。息子の声で。

 

「彼らは私の姪とタイムターナーを取りに行ったよ」

「タイムターナー……?」

「そうだ。彼らは今頃英国魔法省にいるだろう」

「全部壊したって話じゃ……」

「やつらは非情だ、このおいぼれの願いすら聞き入れてはくれない」

 

エイモスに突如怒りの炎がともる。まるである一定の言葉を耳にしたらそうなるように仕組まれているかのようだった。特定イベントをクリアしたら同じことしか言わなくなってしまうノンプレイヤーキャラクターのように。

 

「エイモスさん、もしかして。セドリックのこと助けようって考えてますか?」

「セドリック!私の息子!スペアなんかじゃない、私の大切な息子!」

 

もとより頭の回りばかり早いレイは幸運薬の作用も相まって圧倒的な速度でパズルを組んでいく。

おそらく、エイモスには何らか魔法がかかっている。服従呪文でこそないが、それなりに高度な闇の魔法。これをエイモスに行使した人間が後輩二人を惑わせているに違いない。

キーワードはおそらく【タイムターナー】自分が発するのでも、他者からの言葉でも、等しく激高するように仕向けられているのだろう。人間性をまるで無視したこんな魔法、人に向けていいはずがない。

どこの誰だか知らないけれど、この魔法を使ったやつはとんでもないクソ野郎だ。到底許せるものではない。

非合法タイムターナー、消えた生徒、闇の魔法使い。ゆっくり噛みしめて作戦を練る。エイモスを使ったということはセドリックにかこつけてポッター家の子に取り入るためだろう。狙ったのがアルバスなのはポッター家の他の子供たちがあまりにもグリフィンドールだから。

 

もしも、下手人が自分だったら、何をするだろう。子供たちにタイムターナーを盗ませて。目的が見えない。法を犯しても変えたい過去がある。大それた目的のために子供でも使いつぶせるような、そんな人間。あまりに闇深い。ほんの少しだけ、そいつに自分の姿を重ねてうすら寒くなる。

レイは深く息を吐くと脳内に彼の姿を思い浮かべた。大丈夫。右から二番目の星は今だって輝いている。踏み外していない。まだ飛べる。

 

「エイモスさん。俺ね、セド先輩を待ってるんです。ずっとずっと、黄昏の放課後で」

 

彼の手を取って視線を合わせる。先ほどまでとは違って明確に濁ったそこに、光が映り込むように。借り物の光だけれど。彼にはきっと届くと信じている。

 

「ホグワーツでは信じる者に答えが与えられる。だからお願い、俺を信じるって言って」

 

夢から覚めたように目を見開いて、エイモスは手に力を入れた。そして誰にも聞こえないようなか細い声で最愛の息子の名前を呟く。流れたのは大粒の涙。すべてを失った老人の唯一。

レイは彼から手を放して彼のこめかみに杖を当てた。必要なのは歪んでいない記憶の記録。黒幕を探すためのヒント。こればかりは彼の許可がなければ犯罪になる。

 

「君を信じよう」

 

ああもうほんと。あなたたち親子ときたらよく似てる。たったほんのちょっと。人生のうちで数分、お喋りしただけの俺なんてこんな簡単に信じてくれちゃうんだから。心配になるほどのお人よし。きっと先輩は彼に似たのだ。

 

「ありがとう、信じてくれて」

 

緩やかに記録を取り出す。淡い銀色の靄、それを手持ちの瓶に詰めた。そして、ひどく疲れた顔をしているエイモスにレイは声をかける。

 

「エイモスさん。今度は俺として遊びに来てもいいですか」

「……いつでもおいで」

 

顔を上げればセドリックの写真と目が合う。こちらに笑顔を向けて手を振る彼はあの日のまま。また明日、ここで。と約束したあの日のまま。

 

「セド先輩は写真映りすらよくって嫉妬しちゃうや」

 

レイは彼の部屋を後にする。帰り際、センターで事務処理をしている癒者に声をかければあんなに穏やかなあの人を見たのは初めてだ。と言われた。不思議とその言葉が引っかかる。

 

「姪御さんに怒鳴ってばかりで」

「そう、なんですね。今日はどちらへ、って。流石にこれはお答えいただけませんね。そちらの彼女はおそらくうちの生徒ではないでしょうし」

 

えへへ、と無害を装って探りを入れる。ついでに自分はセドリックの後輩なのだ、とだけ言えば誰も自分がスリザリンとは思わないだろう。

あの闇の時代はいまだに皆の心に根深く巣食っている。そのため、若い世代はともかく、年上にはスリザリンの受けがあまりにもよくないのだ。元スリザリン生を除いては。

 

「デルフィー、って呼ばれてたかしらね。ああ、そうだわ。記名帳みましょうか。ええと。あった。あった、デルフィーニディゴリー」

「デルフィーニ、ディゴリー。ありがとうございます。また来るときにはお会いできるかなぁ」

「……エイモスさんのお見舞いは少ないの。誰かとお喋りすることは体にいいから時々、お顔を見せてあげてくださいね」

「もちろん!」

 

レイは彼女に頭を下げて老人ホームを後にした。そして、ポケットからペンシープを出す。これは今のところレイしか持っていない特別製である。

何せこれはイッケイ作の魔法具だ。器用な彼はなんでも小さくしてしまう。それでいて美しい装飾が施されており、カッコいいガシェット好きのレイからすると完璧な一品というやつである。

日本に帰った彼はこういう魔法具を作っては売る、マグルっぽく言えばハンドメイドクリエイターとして生きている。生計を立てられるほどいい精度の品物を次々作るというのだからその手腕は一級品だ。

レイはスマホほどのサイスのペンシープにエイモスの記憶を流しいれた。

魔法省、蛮勇、そしてタイムターナーとデルフィーニディゴリー。組みあがったパズルに絵が浮かび上がる。

これだから、グリフィンドールの奴らはいけ好かないんだ。こちらが法を犯せばすぐに吊るすくせに自分たちのそれは勇気で正義だと甘く見る。俺の友人を危険にさらす。考えなし。本当にあり得ない!双子とイッケイくんを除き!

 

「っかーーー、マクゴナガル先生にフクロウ便!足りないんだよ時間が!もう!ああバカバカ、おバカさんども!」

 

考えろ。今、どこに行くべきか。タイムターナーを使ってセドリックを救いに戻りたい過去はいつか。うん、大丈夫。俺は当事者だった。どこでどんなことをしているか。

第一の課題。それを邪魔するのにふさわしいのは。

 

「禁じられた森!」

 

 

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