セドリックディゴリーと蛇の後輩   作:かみさきはづき

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◆2020/9/1 ③

「今でも感動する。あんなに綺麗な場所ないって」

「だったら、退学になっちゃうような行動は控えるべきじゃないかな、おバカさんたち」

「「え?」」

 

アルバスとスコーピウスが振り返れば疲れ切った表情のレイがいた。学校の隅っこからここまで猛スピードでやってきたのだ。正直、この神秘のお城は教師にだけでも姿現しおよび、姿くらましを許可してほしい。

 

「今すぐに城に帰って校長と親にぶちぎれられるってのが僕から出せる案、一つ目。きっと今なら夕飯抜きで済む」

 

君が学校に来てないって知ったドラコの顔、考えたことある?と弱いほうを突けば簡単にひるんだ。この場合スコーピウスは物の数ではない。問題はこっちの頑なボーイだ。

 

「アルバス」

「僕たちセドリックを救うんだ」

 

アルバスの放った言葉にスコーピウスの顔が青ざめた。人一倍気にしいで繊細な彼はレイの傷がセドリックそのものであるとよく知っていた。

そして、大切な人を失った痛みはたとえ何年たったとしても癒えることはないのだと。可哀想なほど身を固くしてアルバスを見つめる。

 

「先生の友達だったんだろ!今ここにはタイムターナーがある!」

「そりゃねぇ」

 

ドクン、とレイの心臓が嫌な感じに脈打った。むやみやたらな幸福はここで時間切れ。ここからは自分の悪運を信じるっきゃない。

実は心肺機能にとんでもない負荷かがかかるんだよね、用法容量を無視すると。俺くらいしかあんな量のフェリックスフェリシス一気飲みはしないだろうから知らないだろうけどさ。

 

「じゃあ、案二つ目。そのいたずらに僕も混ぜる」

 

てっきり強制送還だと思っていた二人の子供の目が揺れる。まさか大人に、それも学校の先生にそんなことを言われるなんて思ってもみなかったのだ。

 

「僕がいれば粗方のことは誤魔化してあげることができる。どう?大人の証言って心強くない?」

 

まったくもって不良教師であるが背に腹は代えられない。自分の願いと彼らの感情、折り合いをつけるのならこの案を通す必要がある。

 

「見ちゃった以上、見て見ぬふりはできないよアルバス。この冒険の選択肢は二つに一つ」

 

のるか、そるかだ。

アルバスは表情を変えた。覚悟を決めたのだろう。教師としては今すぐ止めなければならない。けれど運命の女神には前髪しかない。

彼がレイに見せたのはタイムターナー。黄金に輝く球体。時の番人をはぐらかして丸め込む無敵の円環。

 

「先生。僕たち共犯だ」

 

それはレイが大嫌いなグリフィンドール的蛮勇。感じのいい言葉で彩って、罪を罪とも思わぬ不遜。今この手を取ることは悪だ、堕落だ、裏切りだ。

けれど。ここにいるのはスリザリン。狡猾で高潔。尊い深緑を心に宿した、はみ出し者。

レイはポケットに仕込んであったポリジュース薬を飲む。中に入っているのは生徒の毛髪。教師であるのをいいことに毎年特定の生徒から拝借しているのだ。

無論、相手は何も知らない。

もとより成人男性としては比較的小さいレイはさほどの関節痛もなく生徒になる。最も、かつて飲み込んだ例の薬の副作用を考えたらどんな痛みも苦ですらない。

少し大きくなってしまったローブは変身術でダームストロングのそれへと変えた。その判断の速さに生徒二人は開いた口が塞がらない。

 

「まぁ、見かけだけならこんなもんかな」

 

時間ないから早くやろう、とレイはタイムターナーに手をかざした。いくらなんでも説明が欲しい二人は待って待っての大合唱だ。

 

「早い、先生早いよ。適応が早すぎておかしい」

「僕もそう思う。いきなりダームストラングに潜入することまでわかってるのはどうして?それに、急になに飲んだの!?」

「なにって、ポリジュース薬……魔法薬学の教師ですよこちとら。ローブの中は薬品でいっぱぁい」

 

僕がフクロウ便各地に出しちゃったから時間ないよ!ほら!はやく!そう急かせば二人の顔色は明確に変わった。激怒する親の顔が脳裏に浮かんだのだろう。

 

「先生が敵か味方かもわかんない!」

 

ぎゃいぎゃい文句を言いながらアルバスはレイと同じように手を伸ばす。あと一人。仲間はずれが大の苦手な甘えん坊のスコーピウスだ。

おいで、と声をかければ一瞬の思案。けれど、レイの知らない冒険が、スコーピウスをほんの少しだけ強くしてしまった。時計を合わせて彼もまた手を伸ばす。

 

「俺が君たちに優しいのはね、スリザリンなれば」

 

去る、去る。今が去る。彼らを探す親の声をかき消して。

決して帰らぬ時を遡り。まげられぬ理を捻じ曲げるために。

時が管理する世界から浮いていた彼らに重力が降りかかったのは数秒後。大歓声に祭りの気運。トライウィザードトーナメント、その只中だった。

響き渡る声はルードバグマン。レイの眼前ではセドリックがドラゴンと対峙していた。

 

「本当に戻ってきちゃった」

 

誰にも届かないはずの日本語は、たまたまそばにいたグリフィンドール生の耳に入る。

 

「戻ってきた?」

 

それってどういう意味?とイッケイは反射的に問いかける。彼にしては珍しく日本語だった。基本的に日本語には日本語で返す、という無意識があるのだ。

てっきり知り合いに声をかけられたものと思ったのだが、よく見ればダームストラングの制服。とてつもなく西洋的な見た目の彼がまさか日本語を話すとは思わず、あたりを見回している。

レイは何事もなかったかのように英語で彼に話しかけた。

 

「どうかなさいましたか?」

「ああ、すみません。てっきり友人に話しかけられたものと思いまして。英語、お上手ですね」

「脳筋ばかりではないのですよ」

 

やっべーーー、イッケイくんこういうの鋭いからさぁ!これ以上近くにいると絶対バレる!

レイは今すぐにでも逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、今不審な動きをすれば変な印象を残してしまうだろう。それは避けたい。

何ならこのかぶりつき席でセドリックの雄姿を見たい。いかんせん、一回目にここにいたときには、適当に流し見をしていただけだったのだ。

 

「彼は素晴らしい魔法使いですね」

「え?あぁ。そうですね」

 

右に、左に、セドリックはドラゴンと距離を詰める。さすがの手腕だ。ああ、このまま見ていたいけれどそうもいかない。

レイは後ろ髪をひかれながらも生徒二人を探した。どうにも誰かと揉めている、らしい。誰だこいつ、とグリフィンドールのローブに後ろから近付けばハーマイオニーグレンジャーだった。

 

「うちの後輩が何かしましたか?」

「貴方も随分英語が上手なのね」

 

流暢な英語で話しかければハーマイオニーはひどく懐疑的な表情を向けてくる。

 

「その言い回しが英国流、と分かっていますが嬉しいものですね。父方が英語が堪能なものでして」

 

田舎者のくせになまりがないのね、と言われたみたいで気分が悪い。いるだろ!そりゃ!ダームストラングにだって、英語が上手いやつくらいよぉ!やっぱり気に食わない、なんかわかんないけど気に食わないぞグレンジャー。

 

「そうなのね」

 

グリフィンドールの思い込みの強さときたら。太陽のもと、王道を歩いてるのは自分たちだと思ってるんだから、まったく。

 

「失礼しました、ホグワーツのお嬢さん。君たち。主催校の方に迷惑をかけてはいけないよ」

 

セドリックよろしく見事なさわやかスマイルを披露する。人畜無害スマイルと呼んだこともあるそれは万人受けがいいはずだ。

ほら、と二人に目をやればアルバスの手中にはセドリックの杖、そしてスコーピウスはタイムターナーを持って大慌てだ。

おおっと!?現行犯逮捕は免れないか!?とレイがぞっとし、ハーマイオニーを振り返ると彼女は頬を赤らめ、こちらには気づいていないようだった。

 

「アルバス、先生っ、タイムターナーが!」

 

完璧なはずの円環は狂ったように輝き、時の流れを元に戻そうとしている。まずい、とレイは解毒薬を口に入れた。おそらく、ではあるがこのまま戻った瞬間に彼らの親の眼前にさらされる可能性すらある。

ここに飛ぶ直前、その声はあまりにも近くで聞こえていたから。時を渡りながらの解毒が間に合うかわからなかったが、フェリックスフェリシスの余韻に祈る。

そして彼らはたった五分で過去からはじき出されたのだった。

場所は変わらず禁じられた森。バチン、と筋肉が弾けるみたいな音がしてアルバスが痛みに悶える。

 

「アルバス!!」

 

レイは自分の姿を確認しつつアルバスに駆け寄る。ついでに衣服の変身も解けば問題なくいつも通りに変わる。

ローブをまくり上げ彼の腕を見れば感電したかのようなみみずばれ。暴走した魔力を食らってしまったようだった。

けれど症状の断定ができない今、勝手な処置をするのではなくマダムポンフリーに頼ったほうがよいだろう。痛みに悶えるアルバスには悪いが、少し耐えてもらうよりほかない。

何が起きたのかわからず怯えるスコーピウスを呼び寄せたところで、彼らの親が場へと表れた。

 

「アルバス!」

 

自分の息子が禁じられた森で意識朦朧、なんてろくでもない状況に卒倒しないなんてさすがは元闇祓いである。

それに、いくら親子喧嘩をしているとはいえこういう場合は親に限る。いったん離れて様子を見ればアルバスは父の腕に抱かれて運ばれていった。

茫然自失のスコーピウスも父に連れられて行く。であればやはり、ここで状況を説明すべきは大人であるレイだ。

 

「(口裏合わせる時間だけほしかったなぁ)」

 

保護者にはそれらしく聞こえ、かつ子供を傷つけない言い訳。それを考えながらレイは医務室へと足を進めた。

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