セドリックディゴリーと蛇の後輩   作:かみさきはづき

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◆2020/9/18 ②

「え?戻って来たの?」

「スコーピウスに言われて諦めがついた」

「本当にぃ?」

 

君、そういうタイプじゃないよねぇ、とあからさまに疑念を向けられるが、想定内。

部屋に入る前に怒っちゃだめだよ、絶対。と釘を刺されているアルバスは気合で平常心を保つ。

余計な癇癪を起してしまわないように脳内ではAから順番にクディッチ選手の名前を唱えていた。

 

「もう余計な冒険はしない。先生がちゃんとローズを戻してくれるって約束があるから」

 

先生は約束を破らない、そうだろ。彼が大人を信じる、と言い切ることのありえなさ。しかし、それを頭ごなしに否定すれば彼からの信頼は失われるだろう。

そして、二度と取り戻せない。

レイは明日の授業のために必要な薬草を量りつつ二人の真意を探る。

 

「なら、どうして戻ってきたの?」

「スコーピウスがタイムターナーみたいんだって」

「もう一生見ることもないんだろうなぁと思ったらもったいないなって思っちゃった」

 

絶望的に無理な言い訳であるが、スコーピウスは魔法史オタク。もうこれきり壊され、歴史の露に消える魔法具を見ておきたいというのはわかる話である。

レイも似た立場だったら最後にまじまじ見たいと思うかもしれない。

 

「……いいけど、余計なこと考えたらダメだよ?」

 

レイは仕事の手を止め、二人を準備室に通した。

とはいえ今のさっきだ。箱に入っているとはいえ、机に置きっぱなしである。しかも、こちらを警戒しているのだろう。レイは一つしかない扉の前に立ちふさ

がっている。

 

「それじゃあ、ちょっと、開けるね……えへへ、」

 

こういう嘘が得意ではないスコーピウスはなんだか変なテンションで箱を開けた。これを持ってダッシュすればどうにかなるんじゃなかろうか、と淡い期待をしていたのだがまずもって無理である。

何か考えが浮かぶまでこの時間を引き延ばすしかない。

 

「綺麗だ……」

 

黄金みたいにぬらりと輝く。良くも悪くも目の肥えたスコーピウスにはこれが本物の金ではないということはわかっていた。けれど、不思議なきらめきだ。それはこの物体が金以上に価値がある【時】を司っているからだろうか。

 

「昔はね、ホグワーツでも指折りの生徒には制限付き簡易タイムターナーが貸し出されてたんだよ」

「もしかして先生も!?」

「そんな馬鹿な。いっただろ。僕は魔法はからっきしだったって、グレンジャーとか?貸し出されてたって噂がある、あくまでも噂だけどね」

 

でも、魔法戦争が終わって。過去を誰にも改変させないためにタイムターナーはすべて破壊された、はずなんだけど。作れる天才はいるんだよなぁ。

 

「ノットは上手に作ったけど、時間制限と魔力の暴走による痛みが発生する。でも、この技術は彼の頭の中にある。だったら、これからさらに純度を上げることだってできるはずだ」

 

レイはスコーピウスが持っているタイムターナーに手を伸ばした。時計の針を彼にとって戻りたい過去に合わせて、そうして、もう一度今に戻す。時を合わせても発動させなければ勝手にさかのぼることはないのだ。

あぁ。魅入られてしまう。変えることができる過去が今手の中にある。あなたの代わりに俺が死ぬんだっていいよ先輩。先輩にもう一度会えるなら。

 

「はい、おしまい。もう見ただろ。箱に戻して、スコーピウス」

「あっ、もうちょっとだけ……」

「そんな可愛い顔したって駄目だよ。君たちが何をしたいか詳細まではわかんないけど、これは貸してあげられない」

 

僕も舐められたもんだね。

流石に無理。と取り上げられ、箱に収められてしまった。アルバスとスコーピウスは顔を見合わせる。何か策はないかと視線は揺れ、明らかに不審な動きをしてしまった。無論、それを見逃すレイではない。彼らの挙動不審ぶりはいっそ面白くなってしまうほどだった。どうしてこう突っ走ってきてしまったのか。せめてもう一段階暗い策は練った方がいいだろうに。この見通しの甘さ、今度注意してやろう。

 

「はい、退出命令。流石に看過できないです」

「いや、でも、」

「僕は最終手段として親に言いつけるができる立場だからね。忘れないで」

「あっ!」

 

レイの目がどんどんと険しくなる中、アルバスはなにかとっておきを思い出したように彼に威嚇するような笑顔を向ける。

 

「実は、ジョージ伯父さんから聞いたことがあるんだ」

「なにを?」

「ずる休みスナックボックスの監修者のあだ名」

「へぇ……」

「ジョージ伯父さんとフレッド伯父さんにはもう一人、仲間がいたんだってね」

「へえぇ……」

「ドクトルって呼ばれてた、魔法薬学にやたらめったら強い仲間の話」

「アル、何が言いたいのかな?」

「いいや?何にも。ただ僕は知ってるよって話をしただけだよ、先生」

 

得意げな顔。これをバラされたくなくば言うことをきけ!という脅しのつもりなのだろう。しかし、甘すぎる。発想も詰めも。教師たるものその程度の脅しで揺らぐような人生は送っていないのである。

 

「アルバス。今から君に意地悪を言うよ?」

「どうぞどうぞ」

「もしも、僕のあだ名がドクトルだったとしよう。今なお彼らに手を貸していたと仮定して。僕の魔法薬学の知識なしに新商品を開発するのって難しいと思わない?これでも学術誌に名前が定期的に上がる一級薬学者の自覚はある。そんな僕の手が借りれなくなる、なんてことになったら。ジョージ伯父さんは君になんて言うだろうねぇ?」

「ぐぅ……」

「ぐうの音しか出ないようだね。ま、脅しにしても甘い甘い。マダムパティフットの店の内装くらい。残念だったね。スリザリから五点減点」

 

もう少し作戦を練ってから来ればよかったか、と二人、肩を落とした時。準備室の隣、薬品管理庫からガシャンと音がした。誰がいるわけでもないはずなのだが、ネズミだろうか。

レイは音の発生源へと近づく。倉庫の扉を開ければ換気用の小窓が割れ、薬品が散乱していた。

 

「えっ、は?なに、なんなんだよもー!」

 

しかも、よりにもよって希少ラインの瓶が散らばっているではないか。これにはさすがのレイも涙目である。

 

「ぎゃん!空気に触れちゃいけないのに罅入ってる!強化ガラス割るとか悪意しか感じねぇんだけどやだもおぉーー!」

 

そのレイの様子を見て、二人は目くばせをした。いまだ。今がチャンスである。足音一つ立てないように、しかし迅速に。タイムターナーの入った箱をひっつかむとアルバスの鞄に入っていた透明マントをかぶって教室を後にした。

魔法薬学教室とは対角線上にある一番遠い廊下にたどり着き、息さえできないような緊張感からようやく解放される。ついにやってしまった、が顔面に出すぎているスコーピウスを励ましてアルバスはこの後のために必要なこののことを考えた。

 

「スコーピウス、第二の課題はどこなんだっけ」

「湖」

「湖、そっちかぁ!」

 

まさか君、水着の用意とかってとこちらを伺うアルバスにそっと水着を差し出す。あまりに用意周到なそれにアルバスは目を見開いた。

 

「じゃあもしかして、湖に潜る方法も!?」

 

それは、とスコーピウスが口を開きかけた時、校内に一斉放送がかかった。

 

「スコーピウスマルフォイ、アルバスポッター、今すぐに職員室へ来るように。親御さんがいらしてますよ」

「これは、どっちだ!?」

「ただの面会だったらこんな風に呼び出さないと思うな。面会に来たパパに僕らの悪事が伝わったんだ……」

「今度こそ引き離される、悪けりゃ僕はグリフィンドールにねじ込まれるかも」

 

さぁ、っと血の気が引いたアルバスはスコーピウスの手を引いて三階の女子トイレへと走った。まだ、ホグワーツを素敵な魔法の城だと思っていたころ。酔っぱらって帰ってきた父から聞いたことがあるのだ。ホグワーツの水の流れは基本的に大イカのいる湖に繋がっているのだ、と。

水の中で息をする方法はない。でも、逃げるだけ逃げなきゃ。世界で一番大切な友達と離れ離れなんて絶対に嫌だ。

そして、トイレに逃げ込もうかというときにアルバスは何かを踏んで盛大にすっころんだ。大理石の床は尻もちには適しておらず痛みに涙が浮かぶ。

 

「いったあああああ!なんだよ!ゴミをこんなとこに置くなんて!!!」

「アルバス!アルバス違う!これっ!」

 

スコーピウスがアルバスを痛めつけたゴミ、こと小瓶を見ればそのラベルには鰓昆布の文字が躍る。運は自分たちに向いてきたらしい。

 

「それ、食べて潜ればいいってこと!?」

「そう、そうだよ!やったね!!」

 

二人が手を取り合って喜んでいるとぶくり、手洗い場から灰色の影が現れた。

 

「あら、おかしいわね?今あんたたち潜って行ったじゃない?」

 

マートルは不思議そうに二人を眺めている。しかし、久しく嘆いていない永遠の灰色魔女見習いは可愛らしい男の子二人に興味が湧いたらしかった。

 

「今、潜って、って言った?!」

「えーえ。先生に追われてるからって、このお城は本当に不思議ねぇ。飽きなくていいわ」

 

キラキラ金色の道具を使って上手に逃げたものねーえ。とマートルは笑う。そして、スコーピウスの中ですべてが繋がった。

 

「水着、オッケー、あとは鰓昆布。何してんのスコーピウス。パパと先生が来ちゃう、早く着替えて」

「わかった、わかった、ウィゾー!あはは、すごい、すごいやアルバス!」

「着替えろったら!」

 

アルバスはテンションがおかしくなってしまったスコーピウスの着替えを手伝いつつタイムターナーの時間を合わせる。しかし、それはすぐにスコーピウスに止められた。

 

「今度は何!?僕言われないとわかんない!」

「もう一つ、やることがある」

「どういうこと?」

「すぐ説明する!だから今は僕を信じて!」

 

スコーピウスがセットした時間はたったの十分前。

 

「アルバスセブルスポッタアアアアア!!」

「わ!!!!レイ先生!!!!」

 

とんでもない声量のそれに二人は肩を跳ねさせた。そして、驚いた拍子にタイムターナーを起動させればごく短い時間で巻き戻る。時間が近いため反動もかなり緩やかなものだった。

水着姿の少年二人が女子トイレにいるという誰かに見られたらまずすぎる状況にアルバスは慌てて透明マントの中にスコーピウスを招き入れた。

 

「行こう!アルバス!」

「どこに!」

「どこって、魔法薬学教室!」

「なにしに!?」

「窓ガラス割りに!!」

 

比較的察しの悪いアルバスでも、気が付いたらしい。余りにタイミングが良すぎたタイムターナー奪取のからくりに。

 

「しなきゃいけないのは、窓ガラスを割ること、鰓昆布の瓶を見つけること、君に鰓昆布の瓶で転んでもらうこと、定刻までに女子トイレに戻ってすぐに時間を戻して湖に行くこと!いい、一分一秒も無駄にできない」

 

スコーピウスらしくないあまりに大胆な策にアルバスのほうが驚いてしまう。こういう無茶は自分の得意分野だと思っていたのだが。

 

「スコーピウス、スコーピウス?」

「うん。自分でも心臓がどきどきしてる。この四年で君に似てきちゃったのかもね」

 

時間がないよ、と手を引かれる。透明マントをひらめかせて二人は魔法薬学教室へと向かった。そして、作戦を決行する。

 

『なら、どうして戻ってきたの?』

『スコーピウスがタイムターナーみたいんだって』

『もう一生見ることもないんだろうなぁと思ったらもったいないなって思っちゃった』

 

教室の前、自分たちの横を風も音もたてずに通り抜けて準備室に忍び込む。つい十分前にしていた会話を思い出しながら薬品管理庫の扉にアロホモラ。本当に、魔法使いにとって鍵は無意味である。

アルバスとスコーピウスは棚の中から鰓昆布を探し始めた。

 

「えっと、えと、鰓昆布、鰓昆布……」

「なんだよこの並び順。こういうのって名前順とかにするんじゃないのか、わかりにくい!」

「あはは、」

 

スコーピウスは荒ぶるアルバスを横目に、レイの癖について考える。明確に何らかのヒントがあるはずなのだ。オタクが管理する棚というのは。

レイはどういう人間だろう。何を基準に世界を見ているんだろう。優しくて、寂しがり。ちょっと意地悪。それで、美味しいものが好きな食いしん坊。

 

「いや、まさかね……?」

 

スコーピウスがあたりを見回す一際目を引く棚があった。他がかろうじて意味がわかる薬草の並びをしている中において異質で異様。

キラキラしい鉱石や、チョコレートみたいな、でもどう考えてもチョコレートではない謎のかけら。綺麗な色した毒キノコに蛍光紫の液体。明らかに一貫性がない中に、鰓昆布はいた。

その奇妙な棚のラベリングは【美味しそう】である。

 

「ダメでしょ食べちゃ!」

「スコーピウス!静かに!」

「ごめん……!」

 

それはそれとして、あったよ!とスコーピウスが目くばせをすればアルバスは満面の笑みでサムズアップ。あとは向こうの自分たちがタイムターナーを奪う隙を作りつつ、うまく逃げおおせるだけである。

スコーピウスは小声でアルバスにさっきの恐ろしい棚をひっくり返すように依頼した。

 

「いいの?」

「僕たちの時にもひっくり返ってたから大丈夫、で、すぐに逃げるよ」

 

さん、にー、いち、とカウントダウンしたスコーピウスに合わせて棚をひっくり返す。スコーピウスはスコーピウスで窓を盛大に割った。

人生の中で一等悪いことをしている自覚があるが、あとで怒られればいい。世界なんてきっと、簡単に元に戻せる。

 

『ぎゃん!空気に触れちゃいけないのに罅入ってる!強化ガラス割るとか悪意しか感じねぇんだけどやだもおぉー』

 

倉庫にやってきたレイと入れ違い、二人は女子トイレへと走った。そして、アルバスが来る前に小瓶を適当な位置に設置し、自分たちは鰓昆布を口に含む。そして、タイムターナーをセットした。

 

「ありがとうマートルさん!」

 

君のおかげでこのシステムに気か付けたんだ。

柔く笑うスコーピウスにないはずの血流が頬まで染めてくれたようで嬉しくなるマートルだ。この子が死んだら仲良くしよう。あのハリーに似た男の子も可愛いからあり。モテキってやつかしら。

 

「いくぞ、スコーピウス」

「うん!」

 

手を引かれたスコーピウス。ぎりぎりのタイミングで鰓昆布を飲み込んで二人、心が躍る大冒険へ出かけた。

 

「うぅん、忙しい子たち!また楽しい冒険してるのかしら!」

 

 

 

 

絶対あそこだろ、あいつらやりやがった!とレイが駆け込んだのはマートルのいる女子トイレ。

しかし、そこにいるのはニコニコ、女の顔をしているトイレの妖怪だけである。

 

「レディ、学生二人を見ていませんか?」

「あはっ!あんたそんな感じになったんだ!」

 

教職デビューってやつ?とからかわれた。基本的に陰気の方向性が違うので彼女とは上手くやれないレイである。やっぱりどれだけ大人になっても、女の子苦手だ。

 

「いや今のは僕が気持ち悪かったんだけどさ。ドラコ似のとハリーポッター似の男の子来なかった?」

「透明ないたずらっ子たちのことかしら~?内緒って言われてるのよねぇ」

 

レイはその発言に膝から崩れ落ちた。ここがトイレだとかなんだとか、知ったことか。超重要アイテムを盗まれた上に、逃げ切られるなんてあまりのふがいなさに涙さえ出ない。

 

「あんのおバカさんども!!!俺初めてだよ!?自分の寮の生徒から点数引きたくなったの!さすがに!ぜってーゆるさん、帰ってきたらスリザリンから大減点する!!!!」

 

ソノーラスもかくや、でトイレに響く声。まさかすぐ後ろにその保護者がいるなんて知らないレイはさらなる悪態をついてしまう。

 

「タイムターナーは持ってかれるし、もう、なに、こないだの幸福の前借が原因か?そんな副作用あったっけ?でもさ、でもさぁ!俺悪くないじゃん。俺止めたじゃん。使っちゃだめよって言ったもんね!なのに、教師の目を盗んでまで、いやほんと、なんでよ?透明マントはズルじゃん。ズルじゃんよぉ!ポッターはさぁ、子供にどんな教育してんの!?分別ないガキに透明マントなんか渡しちゃダメに決まってんだろ!馬鹿なのか。グリフィンドールってなんでいつもあぁなの!?上手に使え、の意味はき違えんなや!あんぽんたん!!!」

「レイ、素が出てる」

「あ”!?」

 

声をかけられたほうを振り向けば、父兄に校長。今日が俺の命日か。今自分の眼前に並んでいる人間の九分九厘がグリフィンドール(バカの寮)出身者だ。弁明の方法が思いつかない。

レイは立ち上がると自らに清め呪文をかけた。汗も埃も消え去ってレイ好みの香水の淡い甘さが蘇る。

そしてチャーミングスマイルを張り付けてレイはマクゴナガルに問う。

 

「マクゴナガル先生。僕は退学ですか?」

「今からあなたが話す内容によってはそうでしょうね、ミスターハセオ。それはそれとして、トランクに詰め忘れたものはありませんか?」

「退学じゃん!」

 

ドラコに目配せするも、さすがに逸らされた。マルフォイ家のご当主にもできないことだってあるよね。学校って治外法権だしね。うーん、明日から無職か~。調剤薬局か聖ジョージ魔法老人ホームの求人出てたりしないかな。

 

 

 

 

「やった!やったね!作戦通りだ!……アルバス?」

 

アルバス、アルバス、と彼が親友の名を読んでみるも返事は一向に帰ってこない。まさか、湖でおぼれちゃったんじゃないか、とただでさえ白いスコーピウスの肌から血の気が引く。

時を戻り、第二の課題。無事にセドリックを太らせ呪文で膨らませることに成功した彼らは、五分を経て元の時代に戻ったはずだった。

これでもう、セドリックが優勝することはない。試合からも退場。パーフェクトなアルバスの案。それにのった。これで、レイを悲しませていた事象が解消されるのだ、と。そんな風に思っていた。

 

「えふっ……っはぁ……あるばす、アルバス、返事して、アルバス!」

 

湖にもう一度潜り、大切な彼を探すもやはりいない。あぁ、どうしよう。また自分たちは余計なことをしてしまったんじゃないだろうか。

スコーピウスが水面に上がると見知らぬ女性がそこに立っていた。

 

「スコーピウス。スコーピウスマルフォイ。湖から上がりなさい。何をやっているんです。さぁ」

「おばさん。助けてほしいんだけど、おばさん?」

 

あまりに慌てていたものだから女性に対する口の利き方すら飛んでしまったスコーピウスである。初対面の女性にそんなことを言えば心証が悪くなるのは当然だが、彼はまだ人生経験の少ない若者。彼の家名と立場を天秤にかけてアンブリッジは大目に見てやることにした。実に寛大な態度である。

 

「アンブリッジ先生とおっしゃい。貴方の学校の校長でしょう」

「校長先生?」

 

いつからマクゴナガル先生はこんなにピンクになっただろう。スマートで猫っぽい印象を抱いていた自分が間違っているだろうか。彼女はどちらかといえば蛙である。スコーピウスが絶句しているとアンブリッジは続けた。

 

「ホグワーツの校長です。マルフォイ家がどれほど優れた家柄であろうと、人をおちょくるような真似は許せません。さあ出て」

「水の中に男の子がいるんだ。おばさん、あっ先生。校長先生!友達がいなくなっちゃって。アルバスポッターが!」

 

スコーピウスにとっての一大事。この緊急事態をどうにかしなければならない、その一心で目の前にいる人間に助けを求めている。

しかし、その名前を聞いたアンブリッジはあざ笑うようにスコーピウスに告げた。

 

「ポッター?アルバスポッター?そんな生徒はいません。ホグワーツにポッターの名を持つ生徒はもう何年も在籍していませんよ。……最後のポッターはひどいもんでしたねぇ。ハリーポッターには安らかに眠れ、ではなく永遠に絶望して眠れと言ってやりましょう」

 

その言葉に凍てつく。四月一日にはまだうんと早いし、なにより、人を悲しませる嘘はついてはいけないのだ。冗談だよね?と問いたいけれどこの恐ろしい魔女にどう質問をしたらよいのかもわからず、一人うわごとのようにつぶやく。

 

「ハリーポッターは死んだの?」

「水の中で変な物でも飲み込んだんじゃありませんか?ハリーポッターは二十年以上前にホグワーツでクーデターをおこした一味と一緒に死にました。ダンブルドアのテロリスト集団に加わっていたんです。あの集団は私たちがホグワーツの戦いで壊滅させましたけどね。さあいらっしゃい。どういうゲームをしているのか知りませんが、ディメンターたちを怒らせてヴォルデモーの日を台無しにしたらどうするんですか」

 

ずぶ濡れのスコーピウスを置いて彼女は校舎へと向かう。世界は恐ろしく寒くて、暗い。それに、何かおぞましい闇の生き物の気配を感じてスコーピウスはその身を抱えた。

 

「ヴォルデモーの日……!?」

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