魔法がろくすっぽ使えない落ちこぼれがスリザリンにいる。それはグリフィンドールからすれば格好の的だった。行き過ぎた子供というのは限度を知らず、レイに呪いを飛ばす。無論、寮生が近くにいるときには助けてもらえることが多いのだが、いかんせん彼ははみ出し者。一人でいる時を狙われることが多かったのである。
フィジカルが優れているわけではないレイは逃げそびれて軽傷を負うことも多い。五回に一度は医務室にお泊りという不名誉な結果を残しており、そのたびにあのカス消し飛ばしてやろうか、と心を揺らしている。けれど、相変わらず杖先から出るのは威力なんてちっともないお粗末すぎる武装解除だった。
「いやほんとにさぁ、最終的にはお前らの骨まで溶かしてなかったことにできる薬作れるのはこっちだぞって一回脅してやろうかな。でもな。実績がないんだよな。作ったらたぶん退学になるしな」
何度目かもわからない医務室のベッドでレイは険しい顔をしていた。まさか腕の骨がなくなるとは思ってなかったのだ。度が過ぎた"グリフィンドール的悪戯"で彼は怪我を負ってしまったのである。
マダムポンフリーに、腕の骨ごと失ったのは近々で二人目ですよ!と言われたがグリフィンドールあたりで流行ってるんだろうか。今世紀最悪の流行と言っていい。
「人の利き手に故意に骨なくす呪文当てていいと思ってる?傷害罪で出るとこ出れば勝てるやろこれ」
俺は恨みを忘れないタイプ、とレイは脳内にある閻魔帳にあのくそ野郎の名前と顔面を記載しておいた。
「ぬーーあーーーーのみたくなーーーい!」
レイは最悪の味をしている骨生え薬をちびりちびりと飲みながら改良策でも考えることにした。この薬は文字通り失った骨を一夜にして生やす薬だ。全身骨抜きになったとて翌日には元に戻すというのだからとんでもない薬物である。是非ともマグル界の一般医師に売りつけて億り人になりたいものである。言うまでもないが魔法界のものを外に持ち出すのはとんでもなく違法だ。
「三年住んでみて思ったけどさ、英国魔法界は味に無頓着すぎんだよね。魔法薬のあらかたはもう少しマシな味にできる」
効果を薄めず、香りをつけたり味に変化をもたらす草花がある、と一、二年の間に経験として学んだレイである。
最初こそ、医務室に薬を卸しているスネイプに味付けの改定を懇願したが聞き入れてもらえなかった。ゆえに自分で研究しつくしたのだ。当世風に言えばエナジードリンクである。
そして、医務室大常連のレイはこの薬を求めてやってくる学生の存在に気付いた。五年生と七年生である。彼らはふくろうとイモリに備えて苛烈なまでの勉学に励んでいる。夜、眠ってしまいライバルに負けてはことだ、とこぞって元気爆破着の処方を受けに来るのだ。カップ一杯でそこそこ元気になれるのはレイもよく知るところだった。皆、味など気にせずカパカパと飲んでいるのである。不味くても仕方ないと言いたげに。そこに商機を見つけた。
薬効は通常より低用量で、どれだけ飲んでも精神に異常はきたさない。しかしよく効く眠気覚ましの栄養ドリンクとして二年生の中ごろには魔法薬学教室の片隅で販売を始めたのである。売れ行き好調で放課後は学校で一番の大鍋をかき混ぜ続けたのは記憶に新しい。
マダムポンフリーとスネイプによる入念で厳重なチェックを乗り越えた折り紙付きの逸品。おかげで元気爆発薬は今現在五種類のフレーバーがある。学業用として売り出したものの、こんな都合のいいものに飛びつかない学生はいない。今やレイ印の元気爆発薬改、は局所的人気を博すパーティドリンクとなっていた。こちらのポケットが潤うのでどんどん売りさばきたいところである。
そして、その商売に目を付けたものがいた。
「いよーう、やぁっと捕まえた」
「お前がスリザリンの天才?」
「……今すぐマダムって叫ぼうかな」
「「そいつはいただけない」」
シレンシオ!と唱えられてしまえばレイは騒ぐこともできなくなった。畜生。グリフィンドールはクズの寮。こいつらの寮だけ吹飛べ、カス。
見れば同じ顔が二つ。グリフィンドールでも札付きのワル。フレッドとジョージ、ウィーズリーの双子だった。
脳内で親切なドラコが絶対関わるなと騒ぎ出すのも仕方のないことだろう。俺もその通りだと思う。意味はないとわかっているが、シレンシオがかかったままのレイは毛布の中に逃げ込む。名付けてカメさんスタイルである。
「隠れちまったぜ相棒」
「無理やり引っぺがすと遺恨が残る」
「全裸で踊るか」
「調べといてよかったな、ニホンの習慣」
がさごそ衣擦れが聞こえたのでレイは慌てて顔だけ出した。ローブをいそいそと脱ぎだした双子に首を横に振る。こんなの見られたら学生生活も一巻の終わりだ。もうほとんど終わってるのに、これ以上おしまいにされてたまるか。
「むぐーーー!!むぐうぐ!むぐむ!」
「アマテラス、よりは簡単だったな」
「脱ぐのもやぶさかじゃなかったんだけどな」
「「改めまして、ハロー、天才!俺たち君の力が借りたいんだ!」」
「……?」
フレッドが杖を一振りすればレイの口が開いた。何一つ理解ができない襲撃にレイの人見知りが発揮される隙さえない。
「え、いや?なんですって?」
「力を借りたい」
「薬に味付けるの得意だって聞いんだ」
「元気爆発薬改の話?炭酸入りコーラ味に不満がある?」
「あれは天才的なアイディア」
「おかげでジャンキーになるとこだぜ」
「よ、用法容量は守ってくださいよ。怒られんの俺なんですからね……」
毎日飲んでる!と笑う同じ顔にレイは規制対象の文字が浮かんだ。依存性や常習性に関してはスネイプのチェックを乗り越えているので大丈夫だとは思う。けれど、一旦持ち帰らせてほしい。少なくとも白衣の女戦士の砦たる医務室でする話ではない。
「あの、約束するから。逃げないって。あの、だから、今日のところはお引き取りいただけますでしょうか」
「退院はいつ?」
「最短で明日ですね、えぇ……」
「「じゃあ、逃げないように迎えに来なきゃだな」」
「ひ、ひぃ……わかりましたよぅ……」
レイはマダムポンフリーの視線を察知して去っていった双子の背を見つめる。世の中に、出会いが最悪から始まる物語は多々あれど、これに関してはもうそういうレベルではない。まさにテンペスト。
たった数分の邂逅でしかなかったのにレイはすっかり疲れてそのままベッドに倒れこみ、ぐっすりと寝てしまったのだった。
◆
そして翌日のことである。腕の骨は完璧に再生され無事退院。見計らったかのように医務室前に張り込んでいた双子に両側から挟まれた。ただでさえ運動嫌いな引きこもりが、すくすく伸びたクディッチ選手に敵うはずもなかった。しっかり手を握られ逃げる気さえ失せる。その姿はあまりに有名な宇宙人の捕獲写真のようだった。
そして、何を思ったのか双子は意気揚々とレイをグリフィンドール寮の前へと引っ立てた。無論、慌てたのはレイである。
「は?いや?え?まって、俺グリフィンドールには入れないよ?みて!?双子、見て!?俺のローブの色見て!?いやすぎる、赤すぎるクリスマスカラー無理、無理、むり、むりだってばぁ!!!」
陸に上がった鮮魚のようにバタつくレイは流石に青い顔をしている。グリフィンドール寮に入ったなんて知れてみろ。はみ出し者なりにスリザリンで築いたぎりぎりの地位が瓦解してしまう。
「いーーーやぁああああっ!イッケイくん!イッケイくんーーーー!」
その騒ぎ声が聞こえたのだろう。扉の向こうからイッケイが現れた。彼は数少ない日本人仲間。初登校時に列車を共にしたレイの友達である。
「なにしたのレイ」
「俺は何にもしてない!信じて!」
「フレッドとジョージに喧嘩売った結果、次のイタズラグッズの実験台になったとかではなく?」
随分とおっかないセリフが聞こえてレイは恐る恐る双子の顔を見上げる。双子は何か言いたげににっこりしていた。
「ご、御冗談でしょう……?」
哀れにも震え始めたレイの手を一層強く握って、彼らはイッケイと話し続ける。
「「本当にイッケイと知り合いだったんだな」」
「あれ、フレッドもジョージも僕の話信じてくれてなかったんだ」
「だって、こいつスリザリンだぜ?」
「いっくらグリフィンドールきっての魔法道具技師殿の言葉と言えど」
「そう簡単には」
でもこれで証明完了。なにより、窮地にイッケイの名前を呼んだことが一番の証明だろ。
双子は妙な納得をしてそのまま反転した。どうにも本気でここでの用はこれだけだったらしい。レイさん虐めないであげてね、のありがたいお言葉を発し、イッケイは中へと戻ってしまった。それ言うくらいなら助けてくれ。
完全に諦めたレイは双子に従うことを条件に手を離すことと、彼らの間を歩くことをやめることを許可された。それだけでも後々言い訳ができるので心が楽になる。
「そ、そもそも、俺に何の用なんです」
「一つ年上ってだけで敬語はなしだぜ、後輩」
「尊敬される立場じゃないかんな」
「俺たちは同類だと思う」
「共同研究者が欲しい」
「「あわよくば俺らに投資してくれ」」
「この人達歌うように喋るなぁ」
適当な空き教室に連れ込まれたレイは物理的に椅子に縛り付けられた。確実に客人に対する態度ではないのだが、こうでもしないと逃げると思われているのだろう。
今、この瞬間も双子に対する心証は最悪を更新し続けている。
それを知ってか知らずか、双子は着実に準備を始めた。空き教室は彼らの魔法で簡易的な実演販売会場のように様変わりしていく。
「「さぁ、ご覧あれ。俺たち双子の研究成果を!」」
次々に目の前で展開されるイタズラグッズ。今すぐ商品化可能なものから難点があるものまで、彼らは惜しむことなく披露した。スリザリンにこんなもの見せていいのかよ、と小首をかしげたくもなるが確かに彼らは面白い。
それに、だ。レイだって面白いことは好きであるし、なによりこれらが実際に売り出されたとき、標的にされるのは確実に自分。だったら内実を知っておくのは悪いことではないだろう。
子供のころ習わされたっきり使っていなかった脳内そろばんをはじいてレイは得をとる方法を思案する。
「でも俺、別に役に立てるようなことないと思うんだけど。手先が器用なイッケイくんならまだしも、俺そんなアイディア力ないぞ」
そもそも俺に何を求めてるの、と問えば双子はにんまり笑ってお菓子、らしきものを取り出した。
見るからにカラフルなそれはいかにも外国のお菓子、という風貌をしていた。なんでこんなに食欲をそそられないのだろうか。日本のグミが恋しいレイである。
「今開発中のお菓子、なんだけど。うまくいかなくて」
「薬効と味とが課題」
「それ、課題じゃないとこなくない?」
薬効はともかく味がだめだなんて、人が口にするものとして致命的ではなかろうか。確実にまずい、と言われるものを口に運ぶのはまったくもって嫌な話である。レイは差し出されたお菓子から目を背けた。食べ物を前に拒絶するなんてのは人生で初めての経験である。
「薬効自体はどんなものを想定してるの?」
「「鼻血、貧血、吐き気、寒気、発熱、腹痛あたりだ」」
「うーん、ずる休み案件」
レイは吐き気、と指さされたトローチをつまみ上げた。見た目は悪くない。ただ、どうしても口に入れる勇気がない。
「他人の作った未承認の薬、しかも体調不良誘発系で味も悪いんでしょ。え、まじで?」
「いざとなったら医務室に運んでくからさ」
「魔法薬学が得意な奴ってイッケイに紹介されたんだよ」
「……、入学三年目にして初めてイッケイくんのこと嫌いになりそう」
レイは他人に期待されると断れないタイプである。えぇいままよの根性でそれを口に含んだ。
「あじ、あじ……おえ……吐き気のゆうはつって、ぐえ、味がもう、あ、だめ吐く、味覚がこれをしょくひんってにんしき、しなおろろろ……」
ゲロ味の百味ビーンズってちゃんとお菓子なんだな。あれってばっちり美味しいんだな。最低の味だけど、さすが製菓会社が作ってるよな。
そんなトンチキなことを思ってしまうほどにゲーゲートローチはゲロ味だった。吐き気の誘発、ではなくてもうこれが吐き気である。体調不良を煮詰めて口に入れたのがこれだ。薬効とかそういうレベルの話じゃない。
「これを、うるの……?」
レイは鼻声になりながら持っていた解毒剤を飲んだ。これ以上の吐き気に見舞われるのも、この味に味覚を支配されているのも生きてきた中で最低の状態である。何とかそこから抜け出そうと甘草キャンディーでリセットをはかった。
「いざ効かせようと思ってそれっぽい成分混ぜたらこうなった」
「バランスはとれたけど、味がそうなる」
双子はゲーゲートローチのレシピをレイに見せる。目を通せば理屈は通る処方だった。だからこそ惜しいと思うのだ。
「ぅん、いたって悔しいけどやりたいことはわからなくないし、薬品のバランスはうまいと思う。でも、ダメ。本気でだめ、口が泣いてる。あれをトローチと認めるわけにはいかない」
レイはレシピを眺めながら自分ならどうするかを考えた。この香り的に、効き目が出すぎている気がしないでもないのでこの球根の含有量は減らしたほうがいいな、とか。お菓子として成り立たせるために混ぜた白糖が一周回って悪さをしているのではないか、とか。突ける穴はいくらでもありそうだ。
「最終的にどうなれば成功なの?」
「効果は一、二時間でいい。本気で具合が悪い、というよりは授業に行きたくないな、って時の救世主」
「ポンフリーの目をごまかすことができればパーフェクト」
「なるほどね……?俺個人としては、お菓子として成り立たせ、食べた人の味覚にトラウマを植え付けないが商品としての最低条件」
それをクリアするためには薬効を邪魔せず、香りや味をまともにするための薬草が必要、ということになる。つい、魔法植物や魔法生物由来の成分に目を向けがちになってしまうがいうなれば、カカオだって薬草だ。使えるものは何でも使うのが実験の醍醐味である。
「言ってることは理解できた。何がしたいのかもわかった。でもそれってすごい高度だ」
「「だから、力が借りたい」」
「なぁにそれぇ、おもしろぉ……」
悪戯心できらきら輝く双子の瞳。それと同じようにレイの好奇心が首をもたげた。少し難しいことにチャレンジするくらいが人生楽しいのである。それが無駄であれば無駄であるほど、魂が震えるタイプなのだ。
ただし、レイには一点だけ懸念がある。それはこの学校に入学し、四領に振り分けられた瞬間に発生している。
「……これ、たまたま投げた先に運悪くグリフィンドール生がいて、どうしてか口を開けてて、ほんとに偶然それが俺の腕の骨を抜き取ったやつで、なんでかわからない神様の悪戯でそいつがこのお菓子を三種類くらい飲み込んじゃったとしても、問題はないよね?偶然だもんね?」
「「俺たちは、ありとあらゆる俺たちの周りで起こる事象はすべからく完璧に偶然だった、哀れだとは思うが不幸な事故である、って言い張ることにしてる」」
「最高」
スリザリンであるレイはご多分に漏れずグリフィンドールのことが嫌いである。からかいもイタズラも彼らから降りかかるレイにとっての禍だ。それに対してやり返しを要求することの何が悪いのか。
「グリフィンドールにもイイヤツっているんだね。イッケイくんだけだと思ってた」
「「お誉めに預かり恐悦至極」」
なんでか恭しく頭を下げた双子にレイは珍しく条件提示をした。それは、自分の身を守るため、ひいては自分の将来の名誉を傷つけないためのお願いだ。
「手伝うよ。面白そうだし。でもさ、将来教師になりたいからズル休みスナックボックスの開発に携わったって知られたくない。だからなんかあだ名で呼んで」
双子は顔を上げてお互いを見た。そしてにんまり笑って新しくできた友人にあだ名をつける。
「「
呼ばれたことに顔色がパッと明るくなった。どうやらレイも納得がいくあだ名だったらしい。
「交渉成立だな、ドクトル」
「これから頼むぜ」
「うん。ずる休みスナックボックスに関しては顧問料として売り上げからちょこっとちょうだい。そのかわり、と言っては何だけど俺の稼ぎから二人のイタズラグッズ研究に投資させて」
その言葉に双子はハイタッチをしている。共同研究者と同時にちょっとしたパトロンを見つけたのだ。まさかそれらを叶えたのがスリザリン生とは思いもよらなかったが渡りに船。この大波には載るしかないだろう。
ただ、双子が予想外だったのはレイという人間は手ひどい悪戯を受ける側だった、ということだろう。自分の手が入ったものに関しては必ず安全装置をつけるように要求したのである。特に薬品の取り扱いに関しては人一倍厳しかった。
「する休みスナックボックスにはいるお菓子に関してはずる休みするぞ!って意識しないと効かない仕様にしとく。俺みたいなのがまた出るといけないから。悪戯、で済んでるうちは可愛いよ。でも笑えないそれは犯罪だ」
薬学を愛し、薬を軽視しないからこその言葉である。その『意識しないと効かない』処方のほうがよほど難しい気がするのだが簡単に言ってのけるあたりできるのだろう。逆プラシーボである。
「でも今回はやります!カスは痛い目見とけ!俺が痛かったから。因果は応報でなきゃならんからね!」
勝手に盛り上がりだしたレイを真ん中に挟んで双子は大笑いしだした。こんなに明るい奴だとは思っていなかったのだ。
「スリザリンってもっと根暗な寮だと思ってた」
「場所も地下だしな」
「俺なんかは確かに根暗だよ。でも君たちとウマが合わないだけでいい奴はいっぱいいる」
人間である以上すべての同族と仲良くする、というのは無茶な話である。どうしたって生育環境や性格の違いがあるから。無茶をして呪いあう仲になってしまうくらいなら最初から付き合わない方がいい。
けれど、もし。手を取り合える可能性があるなら。人は手を伸ばすべきなのだ。しっかり握りあえるように。
「じゃあ。俺を面白がってくれたお礼に俺からも一つお見せするね」
レイは双子ばかりが研究成果を見せるのはフェアじゃないと思い、自分も研究中の薬をローブの内側から取り出した。それは変身術を利用せずに髪の色を変える薬品である。
スポイトで取り上げて毛先に垂らせばレイの赤紫の髪は艶めいた金色に代わる。
「俺の赤紫は普通に美容室で染めてる。染めた髪にも有用なことはわかってもらえたかな。髪質にもよるけど、薬効が切れるまで。具体的には二日か三日ヘアカラーチェンジができるよ。混ぜ物によって色は変えられる」
「揮発性は?」
「そんなに高い薬品じゃない」
「木櫛なんかに薬液しみ込ませるのできるか?」
「あー、ヘアカラーチェンジ櫛ってこと?試したことないけどできるんじゃないかな。薬液がしみ込む木材にもよる。成分混ざってダメになる可能性もあるし、そこは実験しないと分かんない」
「特許とってあるなら専売契約が欲しい」
「ゾンコにとられる前に!」
「スネイプ先生に頼んで申請中だから契約書巻こうか?うち商家だから父さんに聞けばやり方教えてもらえると思う」
三倍は目を輝かせる双子の瞳が地面に落ちる前にレイは口約束だけでもあれだから、と一筆書いた。これがどこまでの効力を持つかはわからないが、ないよりいいだろう。
「悪用はしないでね。悪用が分かった時には契約解除するから」
思っていたより何倍もビジネスの話が通じる相手であったことに双子はまた一つ笑みを深くする。いずれはゾンコをもしのぐ悪戯専門店を開きたいと願っている双子だ。こういう仲間がいると心強いものである。
レイはポケットに薬をしまうとメモ帳に彼らの思い付きをしたためた。実際に面白いアイディアだ。実験の価値はあるだろう。
「あ、そういえば、今までの流れには全然関係ないんだけどさ。一つ聞きたいと思ってたことがある」
レイはメモ帳をしまい双子に向き直った。ウハウハの双子は機嫌がいいので今ならどんな疑問にも答えられる心持である。
「なんでも答えるぜ」
「今日のロニー坊やのパンツの色とか」
「パースのパンツの柄とかな」
「パンツは……知らなくていいんだけどさ。ウィーズリーって何人いるの?全部兄弟?きみたち全学年にいない?一部は親戚?」
「そういうのこそマルフォイに聞けば?」
突然だされたドラコの名前にレイは目が泳ぐ。ドラコは別に友達ではないのだ。幼馴染で比較的とっつきやすい、イイ奴ではあるかもしれないけれど。
「え、いやだよ……。なんで俺から誰かに話しかけなきゃいけないんだよ、目の前に世界で一番正しく答えてくれる双子がいるのに。合理じゃなさすぎだろ」
レイからすればもっともな言い分である。眼前に当事者がいるのに答え合わせが行われないのは紳士的な行いではない気がする。
むす、っと頬を膨らしたレイを双子は笑った。
「しかたない、フレッド。披露してやるか。あれを」
「だな、兄弟。じゃあ、行くぜ」
「「ウィーズリー数え歌」」
「ウィーズリー数え歌?」
上機嫌な双子はテンズリトルインディアンのリズムに合わせてウィーズリー家の子供たちの歌を歌い出した。
「長男ビル、エジプト大好き。次男のチャーリー、ドラゴンキーパー。三男パーシーがり勉監督生。四男五男は俺たち双子。六男ロナルドハリーの友達。最後はジネブラ俺らの妹、可愛いプリンセス」
その歌詞からするに、兄弟はトータル七名。長男と次男は卒業済み。校内には現在五人のウィーズリーがいるらしい。興味があるわけではなかったのだが、謎が解けてすっきりしたレイである。
「で、自己紹介も改めて済んだところで。ご納得いただけたか。ドクトル」
「ここまで聞いてやっぱりやーめたってのはナシだぜ」
「あはは。あんなに面白そうなことやめるわけないだろ。これからよろしくね。フレッド、ジョージ」
握られた両手の温かさ。他人に必要とされる自分を認めることが苦手なレイであるがこれは心地が良いと思った。
こうして、レイは薬学顧問として時折双子の手伝いをすることになったのである。