「こんにちは先生。欲しい植物があります、あと今週も本を置かせてください」
「ミスターハセオ。その前にレポートだ」
「先生へ。愛をこめて、レイ・ハセオ」
「ラブレターは欲していないが?」
舐めた口をきいてすみませんでした、とレイはレポートを差し出す。レイが寮監であるスネイプから禁書の棚の許可を得るためには、彼が借りた本に対するレポートの提出が義務付けられている。内容は多岐にわたるが今回は人の魂と不滅の霊魂についてという学生が論ずるにはきわどい内容のものだった。
レイからすれば趣味の赴くままに読書をしているだけなのだが、禁書の棚にある知識の悪用はそう難しい話でもないので仕方のないと割り切っている。
レイ本人は知らないことであるが、この処置はダンブルドアからの達しでもあった。あの老人最大の後悔とその姿を重ねたのだろう。かつてこの緑の学び舎で今のレイとほど近い知識を欲した青年がいた。彼は今闇の帝王と呼ばれている。
「レポートは受け取った。本は必ずここで読むこと。我輩の目の届く場所でな」
「その条件って何とか曲げたりできないですか。ほんとに難しいんですよね」
「何故?」
「だって、先生の前でってことは。先生は研究だったり授業の準備したりするじゃないですか。それ見てるの楽しすぎて読書がおろそかになって、すんごい時間かかるんですよ」
人が興味深いことをしている様子が気になるタイプなのだ。本に集中してしまえばそこまで気になりはしないのだけれど、そこに至るまでに時間がかかる。ただでさえレイは魔法薬学そのものを愛しているし、この偏屈な教授のことが大好きだった。
「なら借りなければよい」
「本は読みたい、先生に話しかけたい、あわよくば来年の授業内容が知りたい……俺困っちゃいます」
「口が減らないですな、ミスター。そのような暇があるのならば本でも読んだらいかがか」
「はぁい……、の前に一つ。先生」
レイは本を唯一許された棚に差し込むとスネイプに両手を差し出した。これはアルバイトください、のジェスチャーだ。
彼は小銭稼ぎに出来のいい薬を学生相手に売っている小金持ちである。その小金で欲しいものや研究設備を充実させているが、それでもまかりならないものがある。特に、スネイプの薬草棚に並んでいる入手難度超級の植物だ。その危険性から学生の身では到底手に入れることができないようなものも多数ある。
「何を求めている」
「鰓昆布」
確かに、入手難度は高い。しかし、学生が手に入れることが難しいか、と言われれば否。時間さえあればレイの財布なら余裕の品だった。であれば、事態は急を要するということだろう。ならば多少足元を見ても文句は言うまい。
「若い魔法使いたちは鍋の使い方が荒い」
「げ、新入生の使った鍋の修繕っ!」
積まれた鍋はうずたかく。思ったよりも比重の重いバイトにレイはげんなりしかけたが、これも親愛なる先輩のためだ。その価値はあるだろう。
レイはさっそく腕まくりをすると鍋の修繕と清掃を始めた。もちろん、魔法はほとんど使えないので空いた穴を直すような最低限が彼の精一杯だ。故に多少時間がかかる。深呼吸をして精神統一。レイは杖を握って修繕を始めた。
これが罰則であればさぼらぬように見張らねばならないが、そうではない。相手はレイであり、彼のことは何年も目をかけている。目を離したとて、小狡いことができるような性格でもないことはよく知っていた。
とはいえ現状彼に鍋修繕を依頼するくらいにはやることがない。授業の準備も済んでいるため彼の近くで今回のレポートに目を通し始めた。
「えぇ、なにこれすっごい。大爆発したんですかこの鍋。見たことない大穴」
「ロングボトム並みの才能の持ち主だ。大物になる」
「わぁお、英国ジョーク」
よいしょーっと、レイが気合を入れて杖を振れば穴のサイズは半分になる。一度でふさがらない不甲斐なさに泣きたくなるが、できないなら二回やればいいだけのことである。そいやー!できちんと穴をふさいだ。
「そういえば先生、進路相談なんだけどさ」
「今年はフクロウ試験だったか」
「先生、俺大人になったらここで先生やりたいんだけど、難しい?」
「教職は生徒を守るだけの魔法力が必要だが?」
「きびし……」
えん、と不可解な鳴き声を上げてレイは鍋の修繕に戻る。
魔法は元来、魂と魂の器と肉体とが複雑に絡み合って発生する。魔法使いの魂には魔力が備わっており、子供のころからそれを用いて魔法を行使する。魂は成長とともに大きくなるのが一般的で、比例して魔力も増える。けれど、これは肉体と同様で無限に伸び続けるものではない。
ゆえに、あふれた魔力は魔法使いにしかない器官である魂の器に蓄えられる。そして枯渇することがないようになるのだ。大人の魔法使いが魔法の使い過ぎで倒れることがないのはこのためだ。
魔法とはすなわち感情などを起点に発生する原初の魂の魔力が器にたまり、幼少期より鍛えた魔力回路を使って行使されるという理屈である。
レイに足りないのは純然たる魔力だ。彼にはこれが人の半分程度しかない。ただし、こちらに関しては成長とともに解消される可能性が高い。魔法の行使が下手な魔法使いなんて星の数ほどいる。鍛錬と訓練を摘めば日常生活において問題ない程度には誰しも平均化されるのだ。
そう、レイの問題はそこではない。
彼の問題は魂、その器官の大きさにある。どういうことか、人の倍ほどもあるのだ。ゆえに器にたまるはずの魔力は魂から染み出さずそのまま。魂そのものを成長させるための因子も一般的な魔法族の倍は必要になっている。
魔法族の成長というのは肉体と魔力と魂の三要因が複雑に絡み合って起きる。どれが足りなくても不安定になるのだ。無論、さすがにこの状態は異常であると言わざるを得ないので聖マンゴに定期通院を余儀なくされている。しかし、まったくもって成長の兆しがない。
おかげでレイは十六歳になった今も小学生と見まがう外見を有していた。知り合いが順当に成長期を迎える中、百六十センチすら超えない身長。ため息をつこうがこればかりはレイの力ではどうにもならない。
定期的に染めている赤紫がかった髪が唯一、彼の外見上の気に入りである。体質を悲しむのも何か違うと感じるので平気な顔をして生活しているが、コンプレックスではあった。
魂も悪ければ魔力も足らない。その状態で肉体が成長するわけがないのだ。無論、それに関しては理解している。いっそのこと魔力が皆無なら諦めもつくのだが、まがりなりにも魔法使いとして成り立ってしまっていた。
一般的な魔法使いであれば一度でいいことを二度。倍掛けすればいいだけのこと。そう自分に言い聞かせて放つルーモスマキシマは一般の魔法使いのルーモスに等しかった。ゆえに、できないものはできないときっぱり諦め、何とか折り合いをつけて生きていた。
それに、レイは筆記試験や魔法薬学のように呪文が必要な教科でなければ人並、もしくは抜きんでた才覚を有している。だからこそ彼はここで教職につくことを夢見ていた。それがさらにダンブルドアの疑念となっていることはスネイプすら知らないことである。
「すべての教科が満遍なくできんことには、とても勤まりますまい」
「先生も学生時代は秀才だったの?」
「左様」
「そこで謙遜とか否定とかしないのがカッコいいよね」
ぎー!っと喚きながらレイは鍋に魔法をかけ続ける。魔法を放つたびに汗をかき、謎のオノマトペを繰り出しているは仕方のないことだ。本当に力の限り魔法を放たないとマイナスをゼロに戻すこともできないのである。
「ハセオは魂とは何だと思う」
「んぎいいいい、なぁおおおおおれえええ……!っしゃ。えっと、ハイ、魂。最近の興味事。磨きながら話しますね。ちょっと待って布どこだ、アクシオ布、お、あった。あの辺で動いた。取りに行こ」
数十センチ程度こちらへ向かってから、床に落ちた布を足を使って取りに行く。魔法使いとしてはありえない光景だが、彼ならさもありなん。しかも、鍋の修繕でかなり力を使っているのだ。魔力切れに等しい。
疲労で息を荒らげながらレイはスネイプの問いに答える。
「魂、とは。肉体に結びついているもの、と捉えます。捕らえられているでもいいかもしれません。何らかの因子によって引っ付いてるだけで、それが断ち切られると肉体を持った人間としては死にます。ならば、肉から解き放たれたゴーストは純粋な魂であるか、という問題に行き当たりますが。これは魂ではないと解釈します」
「何故そう判断した」
「闇の魔法の光、から引用いたします。この本に載っていた興味深い事例がありまして。病に侵された肉体から魂を救い出すことはできるのか、という内容ですね。これそのものは血の呪いからの離脱を目標にされた実験です。で、魂を目に見える形で切り分けることには成功するんですが、結局霧散してしまうんですよ。そしてそののち、ゴーストとして現れた。魂は霧散したのに霊体はある。では、魂はゴーストではないのではないか、と俺は思います、その霧散する魂を何とか縫い留めることができないかなぁ、って面白い視点だと思いませんか。できれば魔法薬で!できれば!!」
「……その調子では夜が明けてしまいますなぁ」
「うっひ、すいません」
レイは鍋を磨く手を高速で動かしながら話を続けようとした。しかしそれはスネイプによって遮られる。
「あと一つ。今持っているそれを磨き終わったら報酬を与えよう」
「ええっ、優しい。我らが寮監はこんなにも優しい。スリザリンなれば」
「左様。ここまでの優遇、貴様がスリザリンなれば、だ」
きゅっと磨きあがる鍋はどことなく誇らしげだ。レイはこういった掃除のことも嫌いじゃなかった。
本当はクリームクレンザーを用いて鏡面仕上げにしたいほどである。つやピカな鍋たちが魔法薬学教室で光をはじき返し、ミラーボール化。週末にはご機嫌ダンスホールになるさまなど見てみたいが、まずもってスネイプがいるうちは無理だろう。確実に自分といたずら双子が戦犯として吊し上げられること間違いなしだ。
それに魔法薬学に使う素材の中には直射日光を当てることが禁忌の素材がいくつもある。そういうものに限って単価が高い。
「っしゃ!おわり!終わりましたよ先生!」
ぴっかり輝く大鍋を運び定位置に戻す。残りはスネイプの杖の一振りで片付いた。大層羨ましいが魔法の才能がない以上、自分の研鑽だけではどうにもならないことを知ってる。だから、高望みはしないのだ。自分には魔法薬学がある。できることを極めた方が効率がいい。
汗を拭きながらレイが一息ついているとスネイプは棚から鰓昆布を選び取り彼の前に置いた。
「お前のことだ。ポッターにではないのだろう」
「まぁ、彼とは面識ないですからね」
こっちからの一方的な認知は面識とは言わないですし。そんなものまで面識と呼ぶのであればハリーポッターはイギリス魔法界すべてと面識があることになってしまうだろう。
「使い道は聞かないでおく」
「あはは、明日にはわかっちゃいますよぉ。ってか、ほぼこれ公然の秘密みたいなものですし」
「スリザリンのストレンジャーがレイブンクローやハッフルパフにご執心、とはあまり聞こえがいいものではないがね」
「レイブンクローとは今戦争中で、グリフィンドールの敵はスリザリンの仲間では」
「随分慣れたな」
「寮監直々のご指導のたまものです」
素晴らしいああ言えばこう言う、でしょう?とレイが笑って見せるのでスネイプはどこか満足げにほほ笑んだ。どんなものであれ生徒の成長というものは嬉しいものである。
「用法容量を守るように」
「守んないとお魚一直線だから怖いですよね。ハッフルパフプリンスの親衛隊にぼこぼこにされちゃう、」
「してもよいのですぞ」
「僕友達には優しいんですよう」
小さな瓶にはお目当ての植物。日本人としてこれを叩いてから鰹節と和え、ポン酢でさっぱりいただきたいところだがそうじゃない。めかぶが恋しいレイではあったが、さすがにこれを食材として扱うのは憚られた。
うきうきと瓶から出して適切なサイズに切る。セドリックの身長と体格からしてこれが適量だろう。薬より幾分かラフな扱いでいいのが魔法植物の不思議なところだ。よほどの過剰摂取でもなければ人体の中で相殺される。そのうちこれに関しても理由を調べてみたいものである。レイは鰓昆布を二つの瓶に分け、ポケットにしまった。
そして向かったのはハッフルパフの寮前である。ほぼスキップの勢いで廊下を歩いたが、よくよく考えれば自分はスリザリン。どう考えても門前払いである。
「お、俺のばか、ばか……人付き合い苦手なのに他寮に突っ込んでいけるわけないだろばか……」
ひーん、とレイがたどり着いた扉の前で右往左往していると、周りに人が集まってきた。いくら心優しきハッフルパフとはいえこのところは厳戒態勢なのだ。学校代表を有する寮として実に正しい判断だと思う。
「スリザリンが何の用だよ」
アーニーマクミランがレイを強めにつつくとレイは面白いほどに飛び上がった。これでは何かをしに来ました、と言っているようなものであるが、この反応は彼が人間嫌いの人見知りだから起きてしまった反射である。
「あ、あやしいよねごめんな。ほんと、俺もどうかと思う、うん、」
レイは一瞬このまま彼に鰓昆布を託してしまおうかと思ったが、自分が逆の立場だったと仮定すれば絶対にセドリックへは渡さない。
であれば。ここは逃げるが吉だが、変な風に逃げたが最後、明日セドリックに近寄ることすらできなくなるだろう。それはさすがに避けたい。
今までこういった対人関係を近くにいるユウトやイッケイに投げていたツケが回ってきたというべきか。ついにこの瞬間が来てしまった。
レイはテンパり過ぎて五年も住んでいる割にたどたどしい英語で弁明を始める。言い訳だけは得意だった。
「俺も応援してんだ、セドリック。俺ほら、日本人でスリザリンではストレンジャー扱いでさ。全寮での代表とかかっこいいなあって。たまたまハッフルパフの寮の前通りかかったから、一目会えたら嬉しいなってミーハー根性。明日試練で集中しなきゃいけない時にほんっとごめん……」
元来、ハッフルパフは優しい寮だ。そんなことを言われたらふんわり甘くなってしまうのも仕方がないことだろう。それに寮のスターを褒められて悪い気などするものか。
「流石に、俺の一存で会わせてやるよとは言えないけどありがとな」
「いいやぁ、こっちが悪いんだよ。ハッフルパフ生の気も知らないで勝手に期待しちゃったんだから。いや、ほんとごめんなぁ……俺の短慮でピリつかせて……」
「うん。流石に考えなしだと思うよ僕も」
寮の扉が開くとセドリックが顔をのぞかせた。危うく神様仏様セド先輩、と叫びそうになる心地を抑えた限界人見知りはその場で硬直する。
それを察した優等生殿は気を聞かせて近寄ってきた。無論、レイの言ったことに嘘がないよう細心の注意を払うことも忘れない。ごく小さな、それこそレイにしか聞こえない声でしょうがない子だなぁと笑う。
「応援してくれてありがとう」
「えぇ?超スマート……」
「僕に何の用かな?」
差し出された手を握れば政治家かよ、という美しい微笑みを向けられる。対外的に作られたパーフェクト優等生様の光をもろに浴びてしまい灰になりそうだったが何とか耐えた。
レイは手に持っていた小瓶をそっと握り直し、繋がっているもう片方の手に重ねる。そして、本懐を遂げたのである。セドリックも慎重に、それが誰にも見えないように握りこんだ。
「明日、頑張ってくださいねディゴリー先輩」
さわやかスマイルに充てられた、というか引っ張られ、レイも負けじと営業スマイル。周囲にあれ、あのスリザリン生いい奴じゃない?の空気さえ漂う。こうなればこっちのものである。
しかも都合のいいことにアジア人というのは幼めに見える。レイは成長期という概念が今のところない世界で生きているため、本人曰く"年の割に小さい"ほうでもあるしそれが功を奏したのだろう。
最終的には、よかったらまた遊びに来なよ、の言葉までいただいてしまった。あれぇ!誰もいなくても俺一人で生きていけるじゃーん!と調子に乗りワクワクで寮へ帰れば即座にソファーに座らされた。
天国から地獄へ無抵抗一直線すぎてしどろもどろになるのも仕方がないだろう。
「ハッフルパフ寮で随分と可愛がってもらったようですね」
スリザリンの王子様である。レイのテンションは急降下した。いや、菓子をくれるいい奴ではあるのだ。ドラコは。ただ、ちょこっと。ほんのちょこっと厄介なだけで。
ハセオ家は家業の都合、マルフォイ家と親交がある。彼の家は趣向品として一級品の葉巻を扱う商社なのだ。その品質に目をつけていち早く英国に呼び込んだのがマルフォイ家なのである。そのおかげもあり今となってはマグルはもちろん、魔法族でもハセオ印の喫煙具を使っているものは少なくない。
日本では中小企業扱いであるが、マルフォイ家と懇意にしているということで顔はとてつもなく広い。特に英国魔法界、貴族社会においては。
「ふへぇ、へっへっへ……あの、その、へへっ坊ちゃんお気になさらず、俺の趣味ですから、ほんっと、ほんとにそう」
「グラップ、ゴイル」
後ろに控えていた二人により握らされたのは高価な菓子。こうすれば無下にできないということをドラコはよく知っている。家訓と食欲により、いらんです!と断ることができないレイである。
「お前たちは下がれ」
その一言でレイ以上の食欲モンスターたちは談話室を後にした。今この場にいるのはレイとドラコの二人きりだ。ブラック家がいない今、マルフォイ家の権力の使い方を見せつけられてレイとしては非常に居心地が悪い。
「敵の敵は味方だそうですね」
「おっしゃる通り、」
一体どこからさっきの話が漏れたんだよ。壁に耳あり障子に目ありのイギリス版があるってのか。それとも、本当にあるのか、魔法界には!と確認したくなったが今はそのタイミングではない。レイは目の前に用意されている紅茶と菓子に手を付けた。
「一理ありますので今回は自由にしてください。ですが。あなたはスリザリン生です。その自覚はおありですね?」
美しくも冷たいアイスブルー。レイがもう一人の友人であるイッケイと表立って仲良くできないのはここにある。スリザリンとグリフィンドールは犬猿の仲。たとえ元の仲が良かったとしても、ここでは分かたれる。それが理だった。
「穴熊の助けを借りて俺が得意技で獅子に一矢報いるのぐらい、大目に見てくれるだろ」
異邦人。されどスリザリンにいる以上はこの仲間のために生きる必要がある。たとえ自由な魂を殺しても。それは実家を守るためでもあるのだ。
みんな俺の友達なんだ、と言ったらどんな顔をするだろう。この寮に一人もいない、大切な存在なのだと。けれど、言えるわけもない。自分は狡猾な蛇だ。感情をあらわにすることは社交でない。ドラコもその考えに則って釘を刺しているに違いない。周りに見える形を使って。彼は彼で優しいやつなのだ。友達ではないけれど。
「わかっていただければいいんです」
スリザリンでは形が重んじられる。スリザリンの王子様たるドラコが誰しもの目に見える形で、敵の敵は味方といった。すなわち、レイがセドリックと懇意にすることを見逃されたのだ。あぁ、彼は天秤の片皿に何を望むのか。不安で仕方がない。
「そのかわり」
ドラコは美しい貴族の笑みをレイに向ける。父親そっくりな政治的意味合いを多分に含んだそれ。大人同士の取引に似たそれに引っ張られ、最近身に着けはじめた商家の子供の顔がレイにも浮かぶ。
「なんですかお坊ちゃん」
その返答に寄こされたはおよそ彼らしからぬ言葉だった。声を殺して、誰にも聞かれぬように。
「一度だけ、僕の言うことを聞いてください」と。