セドリックディゴリーと蛇の後輩   作:かみさきはづき

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◆2020/9/21 ③

「マクゴナガル校長!い、今すぐポッター家と、マルフォイ家へ連絡って、ああぁ!俺がフクロウとばしたが早いか!?違う、フルーパウダー!ふるーぱうだー!」

「落ち着きなさい。冷静に!あなたの取柄でしょう。早急にわかりやすく言うんですよ、ハセオ。何があったのです」

 

校長室に走り込んできたレイは思考ばかりが先行しているらしく成人男性に有るまじき手の挙動を見せている。先行する割にまとまらない考え事に対して指揮でもとっているのだろうか。

その慌てっぷりは到底普通のものではない。彼がここまでおかしな挙動をとる、ということは生徒の一大事だろう。マクゴナガルはレイの次の言葉を待った。

 

「二人が消えました!居ないんです!」

「なんですって、どうしてわかったのです!?」

「怒られるのを承知で言いますが、夜間外出ふくろう小屋を見逃したんです……」

「あなたという人は!身内に甘いにもほどがあります。何ごとなのか説明してもらいましょうか」

「夜、二人でふくろう小屋に行くって言ったから見逃そうと思ってて、でも、心配だから様子だけは窺おうと思ってたんです、でも、居ない。待てど暮らせど来ない。来ないから寮まで戻りました。寮内にもいない。居ないんです、二人が、」

 

震える手。帰ってこない大切なモノ、に苦い記憶を持つ彼だ。生きた心地もしないのだろう。それでも、彼女は彼に激を飛ばした。今は自分の過去に飲まれている場合ではないのだ。これを更なる後悔にしてしまわない為にもできることに全力で取り組む必要がある。

 

「トラウマを呼び起こしている暇があるのならば最善手を取り続けなさい。貴方にはそれができるはずです」

「うっ、あ、はい、はいできます……先生、二人を探さなくちゃなりません。だから、えと、えと、ちょっと、クレイグに借りてきます。ええ、あの子が持ってますよね、地図!」

 

忍びの地図は生徒会長に、と手渡したことを思い出したのだろう。マクゴナガルは膝を打つ。何がどう変わってしまうかもわからない中で生徒を動かすのは危険であると即座に判断したらしい。彼女は考えを改めた。

 

「校内にいてくれればそれだけで御の字。それより先は大人で考えましょう。私は両家に連絡をします。頼みましたよ、ハセオ!」

 

飛び出した校長室。レイは走る。暗い校舎の中を一人で。いつしか慣れてしまったこの闇。昔は怖くて怖くて仕方がなかったのに。それ以上に怖いことをたくさん知った今、暗闇はほんの少しだけ優しい。それに、だ。こんな時に限って現れがちなピーブスだって姿を見せないんだから最高にツイている。

たった二人の生徒に対してなんでこんなに必死なのか。自分は、セド先輩に会いたい一心でこの城にいるはずなのに。それ以外ないと思っていたのに。今の自分を走らせている原動力は一体なんだろう。

みんなみんな、嘘だ。先輩が死んでからこっち、人生の全てを嘘で塗り固めてきた。だって、これは大好きな人の仮面なんだから。自分を教師として成り立たせているのは自分じゃない。レイにとってもしも、大好きな人が生きていてくれたなら、の姿でしかないのだ。本来の自分は教師の風上にも置けない私念の塊でしかない。それでも。

 

「あの子らが傷つくのは違うだろ……!」

 

嫌なのだ。もうこれ以上。大切だと思った人が世界からいなくなるのが。奪われないためなら何でもしよう。失わないためなら命くらいいくらでも切り売りするから。あぁ、どうか。どうか。これ以上。俺から何も奪ってくれるな。

談話室に飛び込んで、中にいた生徒にクレイグの所在を問う。彼の慌てっぷりにただ事ではないと察したらしい生徒たちは様子伺いの質問を投げたそうにしているが、そこはスリザリン。好奇心に何とか蓋をして早急に彼の居場所を教えた。

静かで落ち着いた空気を割くようにレイは談話室を進む。そして、その奥で友と談笑していた彼を見つけた。

 

「クレイグ!クレイグパウカージュニア!」

「レイ先生?どうしたんですこんな夜に。そんな大慌てで、俺なんかしましたっけ、」

 

フルネームで呼ばれて驚いたのだろう。クレイグは明らかに怪訝な顔をしている。手元には今週の魔法薬学の課題。凄い褒めたい。中身を見たい。でも今はそれどころじゃない。

 

「例の地図、今持ってる!?」

「地図……?あぁ!地図!緊急ですね?すぐ持ってきます」

 

察しの良い彼は羊皮紙を机の上に置くと目にもとまらぬ速さで寝室へと向かった。そして戻ってきた彼は目当てのものを手にレイを談話室の隅っこに引っ張る。明らかにその表情には謎の愉悦が浮かんでいた。

 

「唱えていいですか、いいですね?」

「……やってみたかったんだ?」

「そりゃ、こんな最高のマジックアイテムで教師にちょっぴり恩を売れるんですよ。嬉しくて嬉しくて!」

 

クレイグの物言いがあまりにも模範的スリザリンだったので思わず笑ってしまった。真珠の粉でも何でも褒美はいくらでも取らせよう!と調子よく彼に告げれば満面の笑みである。

クレイグは杖を地図に突き立てると密やかに合言葉を唱えた。

 

「我ここに誓う、我よからぬ事を企むものなり……!」

 

机一杯に広げられた地図。目当ての名前を探してレイの目はせわしなく動く。捜索の視線はいくつあってもいいや、とクレイグに彼らの名前を告げると明らかにテンションが下がった。

 

「後輩だろ、可愛がってやれよ」

「俺も先生の後輩なんで……」

「わぁ、めんどくさい事に巻き込まれたなぁ、みたいな顔しない」

「はーい……って、居ましたよ!先生。クィディッチの競技場です」

 

こんな時間に一体何を?と小首をかしげるクレイグの横でレイは顔を青ざめさせる。脳裏を埋めるのは迷路の課題。時間移動、競技場。心臓に嫌な負担がかかって今にも吐きそうだ。

 

「……あれ、二人の横……来訪者?来訪者って書いてありますよね?」

 

クレイグが指を刺したのは彼らとともに競技場にいる名無しの足跡。それすなわち、ホグワーツに足を踏み入れたことのない者だ。

これは忍びの地図に複数ある脆弱性の一つだ。生まれてから一度もホグワーツ生であったことのない者は地図に名前が表示されない。なぜならこの地図はあくまでも、ホグワーツ城の魔法に依存しているからだ。

ホグワーツ城は組み分け時に名前を記録し、一人ひとり全く異なる魂の形を読み取る。それもってして新入生のデータを蓄積しているのだ。一度登録されてしまえば、卒業は勿論、死んだとしても城に名前と魂の形のデータが残り続ける。いわば指紋照合用データベースのようなそれだ。

そこに対してホムンクルスの術を用いてある種のハッキングをしたのが悪名高き、天才悪戯集団である。

そのデータベース用のデータが流し込まれ、この地図の歩く足跡は運用されている。作者らの更新がなくとも新しい名前がきちんと記載されるのはそれが理由であるし、スネイプをピンポイントでおちょくることができるのもそこから技術をとっているためだ。

だからこそ、ホグワーツ生以外がこの地図上に現れるときにはおしなべて【来訪者】という扱いになる。魂の形を読み取って名前と照合するシステム上、照合する名がなければその処理をされるのである。

 

ゆえに、今、アルバスとスコーピウスの側には完全なる部外者がいる。レイはその人物に心当たりがあった。

彼らの側に居て、ホグワーツにゆかりがない人間。すなわちデルフィーニディゴリーだ。

彼女がいかに危険な人間か計り知れない。良かった。監督生総出で二人を探しにやらなくて。もし、鉢合わせでもしたらどんな対応をされるか分かったものではない。

闇の魔法使いを前にしたら、命というものは途方もなく軽いのだから。

 

「クレイグ、何があっても寮生を学校から出さないで。いいか、全監督生に通達。今から寮を出たら罰則。罰則っていうか、出た人数に応じて五十点は減点。窓から眺めて情報収集のみよし。出来れば各寮で点呼。うちはアルバスとスコーピウスは居なくていい。居ないのが問題なんだけど、後で。ホグワーツの秘密にするから、いいかい。クレイグ。君にしか頼めない」

「そんな緊急事態なんですか……この来訪者が問題ですね?」

「おそらくね。確定ではないけれど」

 

後で顛末教えてあげるから!と彼に言えばすぐさま準備を始めた。かつて、あまりに便利なコインを作ったグレンジャーに倣い、監督生たちは独自の連絡手段を持っている。四寮の心理的距離が昔より多少近くなったことによる利点だ。

緊急事態を察知したらすぐさま集まって情報共有。そして拡散、全校周知の素晴らしい連絡網を持っているのだ。ともすれば全校集会を執り行うより話が早いこともある。今回もおそらくそうなるだろう。

 

「任せたぜ生徒会長」

 

肩を叩けばクレイグは仕方ないなぁと言わんばかりに笑った。彼は確実にレイの言いつけを守るだろう。

 

「約束ですからね。ちゃんと教えてくださいよ。事と次第によっては先生のお茶会に呼んでくださいね!」

 

地図を携えたレイはスリザリンの談話室を抜けて競技場へと急ぐ。

なんでこんなことに。また、また誰も救えなかったらどうしよう、と手が震える。もうこれ以上。失いたくないのに。

考える時間も惜しい。動くなら今だ。どうにか彼らを追わなければならない。この奇妙な来訪者が本当にデルフィーニディゴリーであるならば二人の身が危ない。エイモスに錯乱の呪文だけではなく深い闇の呪文をかけるような魔女だ。害意の塊に違いない。

こんな時のためにあんなに痛い思いをしてまで魔法を手に入れたのだ。レイの持っている誰かのための魔法は今やこの城において一、二を争うほどに洗練されたものになっている。

どうか、どうか間に合ってくれ。マクゴナガルに報告することすら忘れて、レイは満月のもとに繰り出した。結局、教師というやつはみんな似通るのかもしれない。何より可愛い生徒のためなら心臓が破裂する寸前でも走ってしまう。

もし間に合うのであれば。せめて下手人の顔だけでも拝めるのであれば。行幸。

本当は行き先が分かっているのだからこちらもタイムターナーを用いて追いかけたい。ただ、今現場にあるのが二つ目なのか、はたまた彼らが隠し持っていたものなのか。今持っている情報では分からない。でも、捕まえることさえできればそんなのはすぐにでも。

 

レイが競技場に踏み込んだ瞬間、時空の揺れを感じた。そして、小指と胸の痛み。膨大で安定した時空を捻じ曲げるにはかなりの魔力が必要となる。驚異的な魔具を用いてそれの手助けをしたとしても巻き起こる揺らぎは大きなものだ。

慌てて地図を見ても三人の姿は綺麗さっぱり消え去っていた。

 

「っ、ああ!クッソ!逃げられたっ!最悪だ!ありえねー、うーーわ。うわ、時間がない、五分、五分で世界が変わっちゃう!」

 

レイはまた走り出す。何はともあれ校長室だ。競技場からは遠いがショートカットを駆使すれば多少は速くたどり着ける。こんな時ばかりは空を飛べるタイプのアニメーガスになりたいと思うのも仕方がないことだろう。箒を呼び寄せてもいいのだが、レイの操縦技術を考えれば校内を走った方がまだマシだ。

人生最高速度でレイは走る。そして校内最初の曲がり角にて、これまた物凄い勢いで走り出したハリーポッターに跳ね飛ばされてしまった。

 

彼らの哀れな事故の発端はほんの数分前にさかのぼる。

息子が居なくなったことに慌てふためく親友にロンが言い放った「そんなに慌てることないと思う。だって、見たから。アルバスが憩いのひと時をすごしてるのを。あんな美人、そうそういないぜ?まぁ、惚れ薬のおかげだな。ブロンドで青い髪したイケてるガールフレンドなんてやるよなぁ」という軽い発言。

そこから今回の下手人が誰であったか理解したハリー一行はホグワーツに降り立った。

到着するや否や、息子の一大事にこうしちゃいられない、と彼らは第三の課題の会場だった競技場に足を向けたのである。

マクゴナガルにデルフィーニの件を報告するか否か、でハーマイオニーと三秒ほど揉めたがハリーはすぐに押し切った。

そして、その勢いのまま走り出したハリーは曲がり角でレイとぶつかる。

無論、本気で走った大人同士、勢いは子供の比ではない。一介の薬学教師でしかないレイがハリーにフィジカルで勝てるはずもなく情けなくも撥ね飛ばされてすっ転がってしまったというわけである。

 

「ちょ!大丈夫、ってレイ!」

「あ、ジネ、ブラ……いってて……事故った……辛い……」

「っ!時間がないんだ!前を見て歩いてくれ!」

「あ!?俺も時間がないんだよ!って、たぶんあれだ。同件だ。イライラしてる場合じゃない。二人が、時間移動した。タイムターナーだ、間違いない」

「なんだって!?」

 

なんでそんなことがわかるんだ、の視線にレイは端的に答える。気味が悪すぎる部分に関しては勿論ぼかして。仮にも彼らはあの子たちの親だ。お守りと称して古式ゆかしい小指の呪いをかけたアミュレットを持たせた、なんて言えない。

 

「お守り持たせてんだよ、またなんかに巻き込まれたらことだろ。まさかこんなに近々で使わなきゃいけないとは思ってもみなかったけどさ!」

 

で、そっちもデルフィーニディゴリー探してる?と話を逸らしつつ本題に切り込む。

 

「レイも知ってたのか。念のため認識合わせをさせてくれ。エイモスディゴリーの姪っ子で二十代前半、金髪に青い毛先の魔女だ」

「あぁ、大丈夫。その女で相違なし」

 

現在、すべてが繋がっているのはレイ一人。でも、それを説明している時間があまりに惜しい。

言葉が足りないことで起こる失敗のことなんて百万通りは知っている。それを怠ることがどんな面倒を呼び込むか、も。

しかし、今だけは本当に。時間がないのだ。説明なんて、この歴史が存在していればいくらでもできる。けれど、そうとわからぬ間に何もかもがひっくり返ってしまったら。それこそ一巻の終わりなのだ。

 

「ディゴリー家に錯乱の呪文をかけてる魔女。ろくでもないことになってるってわけだ。ちょっと策を考えるから黙って」

 

できることは何だろう。必要なのは今とりうる最善の選択肢を間違えずに選び続けること。であれば、考えられる最悪も想定した方がいい。時に悪戯をした結果、巻き起こる最悪。きっとそれは一つ。彼らが生まれてすら来なくなること、だ。

ハリーに問題が起こるならまだしも、ドラコとアストリア、そしてジニーに何かあるのはレイの看過できるところではない。そうならないためにも少なくとも"今ここ"を肉体と魂に固定する必要がある。多少無茶でもレイにできないことはなかった。

それに、どのタイミングで生徒にこの御一行の来訪が知れるとも分からないのだ。子供というのはかなりミーハーなものである。一度捕まれば事態は一層ややこしくなるだろう。

本来であれば校長室がふさわしいだろうが、時間がない。となるとやはり、レイにとって勝手知ったる場所が好ましい。

 

「何はともあれ、うちの教室に来て欲しい。目立って仕方ないんだよ君らは、忌々しいことに!」

 

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