セドリックディゴリーと蛇の後輩   作:かみさきはづき

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一幕
◆2017/9/1


「アルバスセブルスポッター」

「スリザリン!」

 

教師の中でざわめきが起こる。

その中で早く夕飯でないかな、と皿を見つめていたのはただ一人。魔法薬学教師となったレイである。

 

ホグワーツでの最終決戦、ボロボロになったホグワーツを立て直すためあらゆる大人の力が働いた。魔法族の利点を生かし、すぐに再建された魔法の城。そこで彼は教職についたのだ。

無論、年が若すぎるため最初の数年は彼の目付け役であるスラグホーンに師事し、助手として教員生活を始めた。とはいえ学生の時分からスネイプと共同で薬学会に論文を発表していた彼は各界からの覚えもよい。そのうえ、スラグクラブ出身ということもあり、あっという間にその地位を確立していった。

押しも押されもせぬホグワーツの魔法薬学教師。それが今の彼だった。

 

少ない友人たちとはまれにあっているが、やはり日本と英国を隔てる距離の壁は大きい。日本には煙突飛行ネットワークの拠点も少ないのも大きいだろう。

せめてスマホ使えたらなぁ、と神秘の城の科学嫌いを呪うこともしばしばだ。

 

組み分けも終わり、マクゴナガル校長のありがたいお言葉に耳を傾ける。そしてようやくの食事。いただきます、と日本人らしくすべてに感謝してから手を付けた。今日はローストビーフである。

取り繕ってこそいるが相変わらず人間にこれといった興味のないレイである。しかし、仕事は仕事。食事を口に運びながらスリザリンの寮監として新入生の顔を見ておいた。

 

「(えーっと、あ。あれはスコーピウス。緊張しちゃって可愛いでやんの。ドラコによろしく頼まれてて、それと仲良さそうなのが、アルバスセブルスポッター。俺が嫁なら絶対やめさせる名前。でも意外だな、ポッターの子がスコピと一緒にいるなんて。てっきりグレンジャーんちの子といると思ってたんだけど。んーと、これはグリーングラス家の男の子に、あ。あれはパンジーの娘。顔が似すぎてる……いやぁ、最近毎年思うけどもしかして同世代スリザリンで独身なのって俺だけじゃない?え、こわ。ユウトもイッケイ君も結婚してないのに。もしかして英国ってこういう感じなの?こわ。だって、みんな十二歳くらいの子供がいるってことは逆算してぇ、あ、やめよこわ。こっわ……)」

 

まぁ、俺の人生は普通の人の半分だし。残された時間はあとどれくらいやら。こんな親の元に生まれる子が不幸ってもんでしょ。

レイはローストビーフを口に運びながら人生について考える。人生、すなわち。友人と研究と魔法薬学。オーライ。何一つとして欠けざる最良の穏やかなる暮らし。面倒見る子供は学生だけで十分。

 

新学期とあっていつもより格段豪華なデザートまで堪能し、レイは手を合わせる。幾分か視線を感じるがおそらく新入生からだろう。これが日本式だということが知られ、彼ら彼女らの日常の一部になるころには季節が冬になる。

あぁ、新学期だなぁ。今年は鍋に何個穴が開くかなぁ。レイは後で愉快な上級生たちを巻き込み、賭けをすることを決めた。イギリス人は何故か老若男女問わず賭け事が好きである。

 

「さぁ、皆さん。静粛に。食事も済んだことでしょう。まずは在校生の皆さん、お帰りなさい。今年もあなた方にお会いできるのを楽しみにしておりましたよ。夏休み後ということもあってまだ頭の中はお休みモードかもしれませんが、明日からは授業も始まります。初日から遅れる、なんとことがないようしっかりと気を引き締めて。そして、新入生の皆さん。入学おめでとうございます。七年間という長いようで短い学生生活です。存分に学び、高めあい、素晴らしい魔法使いになることを教師一同心より願っています。それでは今年の注意事項です。今からいう言いつけはしっかり守るように……」

 

マクゴナガルのお決まりの口上をきっかけに監督生たちが視線をかわす。新学期一発目の校長の話は大体定型だ。簡単なあいさつに始まり今年の注意事項と、新入生への激励である。この間に監督生たちは協力し合い、生徒をまとめる手はずを整えるのだ。そうすることで浮足立つ新入生を取りこぼさず各寮へ案内することができるのである。今年から監督生を任されることになった新五年生は先輩の動きを見て学ぶ。

 

「さぁ。皆さんさぞ疲れたことでしょう。私の話はこれでおしまい。ここからは寮監と監督生にお任せいたしますわ」

 

その言葉を皮切りに出入り口に近い寮から大広間を去ってゆく。残ったのは教師だけである。ざっとミーティングをすれば皆、マクゴナガルが意外としょげていることに気づいた。ポッターがを逃したことが口惜しいのかもしれない。教師という立場ではあるが、やはり自分たちは卒業生。自分の寮こそが最高だと信じている。

 

「ジェームズは被る前からグリフィンドールオーラが駄々洩れだったんですけどねぇ」

 

三世代にわたりポッターと言えばトラブルの代名詞。それを嫌というほど知っている世代のレイであるからこそ、アルバスセブルスポッターもグリフィンドールに組み分けされて欲しかったと思う。

 

「その点、彼はハットストールまではいかないが長考でしたな」

「最近ではスリザリンのレイノルズ以来ですね」

 

古参教授の最近、は十年単位で昔の話であるのはこの場においては若手のレイはよく知っている。教師職あるあるなのかもしれないが、時間間隔の欠如を感じるレイである。特にフリットウィックは昨日のことのようにルーナラブグットの組み分けに関して語ったりするので手に負えない。

 

「(にしても、ポッターかぁ……、うーん、やぁ、ポッターかぁ……)」

 

レイはポッターの名字が好きではない。子に罪はないと理解していても苦手なものは苦手であるし、レイがこの城において大切にしていたもののほとんど全てを彼が奪っている。

大人として、この城で働くものとして。ハリーポッターの少年期がどれほど過酷なものであったかはわかっているつもりだ。それでも、どこかで許せていないのだ。彼のことを。

 

「(でも、スコピは嬉しそうだったからな)」

 

そこがレイからすれば更なる頭痛の種なのである。いまだにドラコと懇意にしているし、スコーピウスのことは彼が生まれる前から知っている。無邪気で可愛いスコーピウス。あんなに可愛く聡明な子なのに、世間は彼が闇の帝王の息子だなんてありえない噂を吹っ掛けた。レイからすれば失笑ものだ。けれど世の中が疑いの目を向けるのであれば、どれほど正しくなかろうともそれは正となってしまう。

そんな彼が同世代の中であんなに朗らかに笑っているのをレイは初めて見た。であれば、アルバスは是が非でも欲しい人材へと変わる。何せスコーピウスは、友達と呼べる存在をここまで作ることすらできなかった。

その噂話に惑わされず蠍の王子様と仲良くしてくれるなら彼を乳児期から可愛がっている自分としてはこれほどなく嬉しいことである。

 

「聞いていますか、ハセオ?」

 

彼らの友情についてに脳の大部分を割いていたレイはマクゴナガルの声で呼び戻される。ミーティングの内容はぎりぎり耳に引っかかっていた。

 

「聞いてます。何の因果かスリザリンに組み分けされた英雄の息子に優しくしろって話ですね。闇祓い出身の法執行部部長に親や祖父母を取られた子もうちの寮には多いから、目を光らせておきます」

「聞いていたならよろしい。特別扱いをしろとは言いませんが目をかけてあげてくださいね」

「承知しました、マクゴナガル校長」

 

ミーティング終わり、レイも名残惜しいが準備を始めた。天井を見上げれば星空。新学期を迎える九月一日は新入生のためにこの部屋は屈指の美しさを有している。フリットウィックとマクゴナガルによるとっておきの魔法だ。

 

「フリットウィック先生」

「おやおやハセオ君。キミは本当に学生が抜けないねぇ」

「は!つい!癖で!二十年くらいたつのに!」

 

フリットウィックはからころと不思議な声色で笑う。純粋な人ではない彼は年を取っているはずなのに見た目がちっとも変わらないのだ。ゆえに、気を抜くとあの頃に戻ってしまう。

 

「それで、なんですかな。私に用があるのでは?」

「そう!この天井の魔法!いつか教えてもらいたいなって思ってて。マクゴナガル先生もいい年ですし、いつか僕もパーッと!」

「ほほほ、君も随分魔法が上手くなりましたからね。練習して、来年の新学期を目指しますか」

「是非!」

 

約束を取り付けて寮監は解散する。生徒たちはこの後休むだけだが、大人はそうもいかないのである。寮の説明に、新入生の荷物チェック。上級生相手の禁止品の持ち込みチェックをこなしてそのほか沢山、エトセトラ。とにかく仕事は多岐にわたる。

とはいえ、スリザリンは意外にすることが少ない。何せ、闇が崩れた今でもスリザリンに入る生徒というのはあらかた血筋が決まっているのだ。誰も彼もが顔見知り。実際レイもほとんどの生徒と学校外であったことがある。

 

スリザリンは純血主義の影響も相まって横の繋がりが恐ろしく広く、それでいて深い。血縁の樹を辿ればどこかしらで繋がりがあるのが常だ。

そんなコミュニティの中だからこそ様々なマニュアルが存在している。教師の目をすり抜けて禁止品を持ち込む方法から、動く階段の攻略マップ、嫌いなあいつへのピーブスの賢いけしかけ方まで。

彼らは幼少期から学校での過ごし方、というものを聞いて過ごすのだ。入学後の楽しみが少ない気もするのだが、【完璧であること】に対するプライドが人一倍強い性質を持つスリザリン生にとっては必須の事前教育である。

そのため、レイがメイン業務にしているのはそのほかの子供のフォローだ。純粋なマグル生まれは今でもこの寮にはほとんどいないが、帽子が見ているのは血筋ではなく素質。どうしたって例外は現れてしまう。

最も、ブラック家の直系血統がいない中で純血筆頭であったマルフォイ家がいまやああである。可愛いスコーピウスは王様の器を持ってはいない。

血統由来の差別がまるきりなくなったわけではないが、その主義主張を唱えると白い眼をされるようになった。これが時代の流れである。

マグル生まれといえど昔の自分と同じ扱われ方になるだろう。貴族社会に迷い込んだ奇妙な平民。それくらいの排他に違いない。

 

それよりも。今回はきっちり様子を見とかねばならないのがいるのだ。校長直々のお達しもある。

問題を起こしそうなあの苗字。事実、彼の兄はそりゃあもうお茶目さんだ。案外器用で、授業も楽しんでいるのでお気に入りの生徒ではあるが。

 

「あー、スコピと仲良しっぽいのはいいけど、ポッターかー、ジネブラの血が強いといいなぁ……」

 

レイは大広間から少し下って魔法薬学教室に入る。そして、準備室から談話室へ直行できる教師専用の扉を使って新入生たちよりも早くその場に姿を現した。こうすると、生徒たちからの受けがいいのだ。後から来た先生がもういる!みたいなちやほやを感じることができるのでレイの気分もすこぶるよくなる。

そして、今年もきちんと驚きと尊敬を得ることができた。

 

「ありがとうありがとう……。生徒諸君、これは簡単な魔法です……。というわけで、僕がスリザリンの寮監、レイハセオです。顔見知りも多いね。どんな前情報を聞いているかは僕にはわからないけれど、ここはそんなに悪いところじゃない。ちょっと仲間思いが過ぎるところはあるけどね。時々学会とかでいないこともあるけど、基本的にはこの城にいるから困ったことがあったら声をかけて。なんならみんなのお父さんやらお母さんとそんなに歳が変わらないから普通に接してくれていいよ。でも授業中は威厳がなくなっちゃうからオンとオフは切り替えて。僕からはそれくらいです」

 

何か質問は?と笑顔で問えば硬かった表情の数人が和らぐ。アルバスもその一人だ。口元に浮かぶのは不安と、いたずらっ子の笑み。意外と理性の強そうな瞳に惹かれた。

ポッター家の子がスリザリン。意外といえば意外だけどスコーピウスとの様子を見ればすぐに理解はできた。おそらく彼らははみ出しっ子同士心を通わせたのだろう。たった一人でも、そんな友達がいればどれほど心強いか。レイはよく知っている。

 

「さ、みんな疲れたろ。お父さんお母さんから諸々を僕に渡すように言われてると思うけど、明日でよろしい!きっと欲しいのはふかふかベッドだろうから。はい!お休み駆け足また明日!」

 

レイが二つ手を叩けば監督生が新入生を寮へと案内した。それを面白がるのは談話室の端っこでチェスにいそしんでいた最高学年たちだ。彼らはもう七年近い付き合いになるのでこの優しげな先生の本性に感づいている。

 

「一見、幼稚園の先生みたいですよね」

「新入生がいつ、この先生は様子がおかしいぞって気がつくか賭けでもしない?」

「いいね。のった。先生は笑顔で鞭振るうタイプなのになぁ」

 

先生の人当たりがすこぶるいいのは他人に興味がないからなのにねぇ、と図星をつかれてしまったレイである。

彼がトレースするよう心掛けているお星さまの威光でかなり誤魔化せるのだが一部例外がいる。それが魔法界貴族の中でもより位の高い家の子供たちだ。彼らは幼いころから大人の中にいるため、仮面をかぶった者をすぐに見抜いてしまう。

 

「なんで名家の子供って僕に騙されなくなっちゃうんだろうねぇ、」

「先生レベル見抜けないと社交界を上手に渡れないので」

 

手厳しい彼らも元々はとても初心で可愛かったことを覚えている。初めての魔法薬学の授業できらきら輝いていたおめめのこと忘れてないぞ、俺は。生徒の成長をこの身で感じる。これが教職の楽しみか、とオジめいたことを思ってしまった自分に震えた。

彼らの言う通り。自分が優しく見えるのは人に興味がないから。人当たりがいいのはそのほうが面倒でないから。打算だ。すべて。面倒ごとを起こさないための。

欲しいものを手に入れるために。その瞬間を逃さないために、レイはこの城で教師をしているに過ぎない。

 

「その賭け、僕が胴元になってもいい?」

「先生が?」

「うふふ、どうぞどうぞ。賭け代はなんです?」

 

賭け代はフェリックスフェリシス、負けたら鍋掃除にすれば上級生たちは面白いほどに食いついた。

さぁ、明日からは可愛い新入生たちへの授業が始まる。

 

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