ラブホテルZは閉業しました   作:中二階

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ラブホテルZは閉業しました

 ミアレシティの騒動が終わって五年が経った。

 野生ポケモンを大量に呼び込み、人とポケモンをホロの壁で仕切ることを余儀なくしたあのメガエネルギーの狂乱から収まって以降、街は急速に平穏を取り戻しつつあった。

 

 四年前、メガエネルギーの結晶がほとんど見られなくなった。

 三年前、1番~5番までのワイルドゾーンが撤廃された。

 二年前、6番~11番までのワイルドゾーンが撤廃された。

 去年、観光用として残すことに決まった20番を除き、残り全てのワイルドゾーンが撤廃された。

 ゾーン内に生息していたほとんどのポケモン元いた住処へと帰って行った個体もいれば、街に居着くことを選んだ個体もいる。

 街に危険を呼びかねないオヤブンと呼ばれるポケモン達は一度ジムリーダーや四天王といった実力者が捕まえた上で、その後元々の生息地に返すか、それが不可能と判断された場合は彼等が預かり、徐々に人に慣れさせていくという方針で決定された。

 

 そして今年。

 都市開発を担っていたクェーサー社の社長が正式に代わったことが報道され。

 

 ホテルZはすっかり寂しくなってしまった。

 

 変わりゆくミアレの様子を視界越し、そして画面越しに見続けて。

 俺ことエデルは溜め息を吐く。

 

「はぁ……」

 

「きゅるる?」

 

 机に突っ伏している俺の顔をフラエッテが覗き込んでくる。

 彼女は俺の恩人の一人でホテルZの旧オーナーのパートナーであり、友人と共にミアレの動乱の静めることに尽力してくれた特別なポケモンだ。

 元々旧オーナーの終の住処として建てられたこの場所はフラエッテにとっても同様の扱いなようで。

 彼女は今の現状に寂しさを感じてはいても、全く危機感を感じてはいないようだった。

 

(ま、そりゃそうだけどさ)

 

 ホテルZを潰したくない。出来ることなら繁盛させたい。

 そんな気持ちは単なるエゴでしかない。

 俺、タウニー、デウロ、ピュール。かつて旧オーナー、AZさんに世話になった俺達が勝手にやっているだけ。

 

 色々工夫してはいるのだが、如何せん立地が悪いこともあって中々客はやってこない。

 頼みの綱のSNS運用も、はっきり言ってまるで効果がない。

 

「客自体はたまーに来るんだけどなぁ……。……主にデウロのおかげで」

 

 現在のホテルZは今や有名ダンサーになったデウロの下積みの場所として、濃いファンが聖地巡礼に来るくらいだ。

 一時期はそれでやっていけていたのだが、飽きられてきたのか今じゃほとんどやってこない。

 ピュールは余りメディアには出るタイプじゃないから、そもそも余りホテルZにいたことを知られていない。どちらかと言えば、おばあちゃんに反対されていたことの方が有名だ。

 

「どーっすっかなぁ……」

 

 ポケモンとの共生をコンセプトとして掲げているミアレになぞらえて、ポケモンと共に過ごすホテルというコンセプトは二番煎じどころか百番煎じ以下だった。

 おもてなしの工夫もしたが、ウチ以上のクオリティの場所は沢山ある。

 立地が悪い。シンプルに部屋数が足りない。増築しようにも金が無い。そもそも余りホテル自体を弄りたくない、等々。

 

 考えれば考えるほど、真っ当なやり方では無理という答えばかりが浮かんでくる。

 

「真っ当、真っ当かぁ……」

 

 AZさんはどのように扱っても良いとは言っていた。

 売ってしまうのも良いとも。

 だが俺はホテルとして残していきたい。

 行く宛なんて無かった俺を受け入れてくれ、安らぎを与えてくれたように。

 

 俺も誰かを受け入れる、そんな場所を作りたいのだ。

 

「うーん……!」

 

「きゅるるるぅ」

 

 駄目だ、頭が痛くなってきた。

 昔の知り合いを頼るか? いや、駄目だ。

 俺がこの街にやってきた経緯を思い出せ。そんなこと、出来るわけがない。

 

「うーん………………!」

 

 真っ当な方法……真っ当な方法……真っ当じゃない方法…………!

 

「…………あ」

 

 自然に『じゃない』方へと流れる自分の思考に嫌気が指しつつ。

 遂に俺は思いついた。いや、思いついてしまったというべきか。

 だがもうこれ以外に道は無い。五年も考えて一向に答えが出ないのだ。

 

 人は過去の経験を基にして前へと進む。

 一度は蓋をした過去だが、もう一度やってみても良いかもしれない。

 そう、バレなきゃいいのだ。

 

「きゅるるるるぅ!」

 

 光が灯った俺の顔を見て、フラエッテが嬉しそうに飛び回る。

 ごめんフラエッテ。俺はいつかお前に『はめつのひかり』を喰らわされることになるかもしれない。

 その時は甘んじて受けますから、どうか一度だけ、挑戦させてください!

 

「……コンセプトは『一人でも満足できる愛のホテル』、だな」

 

 

「ありがとうございました! 最高でした」

 

「はいはーい、またのお越しをー」

 

 昨日お泊りいただいたお客様がホテルマン冥利に尽きる満面の笑みを浮かべて扉を潜る。

 最高でした。ホテルのオーナーとしてこれに勝る言葉は無い。

 お客様にご満足いただけるサービスを提供できたこと。その何よりの証明を何度も頭の中で反芻しながら、俺は独り椅子に腰かける。

 

(…………売れちゃったよ)

 

 以前よりも遥かに多くなった利益を帳簿に書き記しながら、俺は自身の頭に片手を乗せる。

 想像以上だ。まさかここまで人気が出るとは思っていなかった。

 一部のマニアックなお客様に強い人気が出るような、そんな方向性でいければ良いやと思って始めたこのサービスがまさかここまでの売れ行きを見せるとは、正直言って夢にも思わなかった。

 

「ぬいぐるみラブホテル……。まさかここまでうまくいっちまうとはな……」

 

 俺はコンセプトアピールのために室内中に置かれたぬいぐるみを見渡しながら呟く。

 

 新生ホテルZが掲げたコンセプトは『一人でも満足できる愛のホテル』。

 それはつまるところどういうことか。

 その答えがこのぬいぐるみ達だ。

 

 ピカチュウ・リザードン・ミミロップ・ルカリオ等々……。

 この場に置かれているのは世界中に存在しているポケモン達のぬいぐるみ。

 様々な特徴を持つ、しかしどれも愛らしいポケモン達に囲まれた至福の時間を提供し、お帰りの際にはお好きなぬいぐるみを一つプレゼントする。

 それがこのホテルの大まかなサービスである。

 

 調べたところ、ぬいぐるみと共に過ごすホテルは幾つか存在した。

 そんなホテルに対し、俺は数で勝負することに決めた。

 夜通し裁縫を行い、今まで見てきたポケモン達を全て作り上げた。その数なんと1025種。

 

 当然質の方も負けるつもりはない。俺は経験上そこらの大手メーカーにも劣らぬ腕を持っていると自負している。

 幾つか大手の出しているぬいを購入し、これなら十分に勝算はあると踏んだ。

 

 だがそれだけじゃ勝てないことはわかっていた。

 何せウチはとにかく部屋数が少ない。大量のお客様を呼び込んでパンクするよりも、少なくとも濃いリピーターをつけた方が儲かると考えた。

 だがその手の層がぬいぐるみを好むだろうか? 好まないとは言わない。しかし多いとは思えなかった。

 

 であればどうするか。

 簡単だ。これら1025種のぬいぐるみを、囮に、即ち名目にするのだ。

 

 もう一度言おう。このホテルは『一人でも満足できる愛のホテル』だ。

 愛の ホテル だ。通常のぬいぐるみホテルとは異なる『裏』のサービスが、ここにはある。

 

 ホテルを宣伝するささやかなホームページ。そこのメニュー画面には他の項目よりも少々薄い一つの項目が存在する。

 『リアルドール』サービス。

 その名の通り、非常にリアルで精巧なぬいぐるみがウチにはある。

 そのクオリティたるや等身大であるなど外見は言わずもがな、『中』さえも本物と見紛う出来をしている。

 

 それはポケモンだけではない。誰もが知るあの有名人に()()()()ぬいぐるみも、取り揃えている。

 

 実のところ、世の中には人に言えない欲望を持った人間が多数存在する。

 画面越しにしか会えない人間に触れてみたい。高嶺の花のあの人と重なりたい。人じゃない、苦楽を共にしたパートナーと、一夜の過ちを……!

 恋人を作るでもなく、それでも消せない倒錯欲求を抱える。こういう人間は実に多い。世の中の大半を占めていると言っても良い。

 普段は理性でそれを隠しているだけ。社会に迎合するため、好きな人に嫌われたくないがため、欲望を抑えて理性的に振る舞っているだけ。

 

 ホテルZはそういった行き場の『愛』を放出し、自分と向き合うための場所だ。

 蓋をし過ぎた愛情は時に暴走する。それを誤魔化さないことで、各々が前を向いて生きていけるのだ。

 五年前、ミアレの危機を乗り越えた面々もそうだった。

 決して清廉とは言えない欲望を抱えている者達。彼等はそれを誤魔化さず、向き合い、それでもミアレを守ることを望んだ。

 

 このコンセプトにはそういった俺達の思いが詰まっていると言っても、過言じゃないとも、言えなくもないんじゃないかなぁ…………?

 

(……ま、まあ? 別にバレてないし? よく似てるってだけだし? 別に本人じゃないから法律的にも多分セーフだし? そうセーフ! セーフです!)

 

 正直な話、ここまで売れるとは想定外だった。

 誰しもスケベ心は隠していきたいものだ。我慢して我慢して、それでも耐え切れなかった人が来る場所。

 俺はそういう店を想定していたというのに。

 

 バレなきゃセーフ。

 だがそれはバレたらアウトと同義なわけで。

 

「あぁ~~~~~~~!」

 

「きゅるる?」

 

 俺は以前とは全く別の理由で、悶々とする日々を送ることになっている。

 予約リストさえも結構先まで埋まってるのだから、暫く先までこの悶々は続きそうだ。

 

「こんにちはー」

 

「あ、いらっしゃませー!」

 

 お客様がいらっしゃった。

 俺はいつものように宿泊(レジストレーション)カードとペンを用意しようとして……。

 

「やあ、暫くぶりだねー」

 

「ま〝っ!?」

 

 声の主の顔を見て、体を大きく震わせた。

 

「こ、これはこれは、探偵さん……」

 

「あはは、ずっと言ってるけど、マチエールで良いんだよ?」

 

「あ、ははは。そうでしたね、マチエールさん……」

 

 マチエール。

 彼女は過去に開催されたZAロワイヤル、そして現在開催されているZAカロスロワイヤルのいずれも不参加ではあるものの、四天王あるいはチャンピオンクラスの実力を誇るポケモントレーナーである。

 それだけなら何も脅えることはない。だが彼女はカロス随一のトレーナーであると同時に、ミアレでは比肩する者のいない有能探偵でもあるのだ。

 

 街のトラブルを解決する探偵。時には犯罪者と相対することもある彼女を目の前にして、グレーゾーンを歩いている人間が警戒するなという方が無理な話である。

 いつも柔和な笑顔を浮かべている彼女だが、今日に限っては目の奥が全く笑っていない。

 

「き、今日はお泊りですか? その、予約の方は……?」

 

「ごめんね、今日はそのつもりで来たわけじゃないんだ。ちょっとお話を聞きたくてさ。今、時間あるかな?」

 

「……も、もちろん構いませんよ。ええ。お茶淹れるんで待っててください」

 

「大丈夫大丈夫。すぐ終わるからさ」

 

「へ?」

 

 ガシッと肩が掴まれる。

 一見そうは見えないが、探偵で鍛えているだけあって筋肉質だ。

 体のラインを鮮明に浮き上がらせているスーツをよく見ると、相当鍛え上げられているとわかる。

 純粋な腕力じゃ勝ち目がない。俺はすぐにそう悟った。

 

「どうしたの? 何か具合悪そうだけど?」

 

「た、探偵さんこそ目が変ですよ。体調が悪いならお休みになられては?」

 

「心配ありがと。でも大丈夫。犯人を見つけなきゃいけない時はいつもこうなっちゃうんだ。あとマチエールね?」

 

 へ、へぇ~?

 流石は名探偵。獲物を見つけたジュナイパーの如く、決して逃がさないという強い意志を感じる瞳だぜぇ……。

 べ、別に俺は、そんな目を向けられる謂れはそんなにないはずなんだけどな~?

 

「そ、そうですか。それで、聞きたいことっていうのは?」

 

「うん。この間、とある女性から依頼を受けてね。旦那さんが連日帰ってこない時があるんだって」

 

「はぁ……」

 

「それでね? 調べてみると、旦那さんはとあるホテルに出入りしていることがわかったんだ」

 

「そ、そのホテルの名は?」

 

「なんとびっくり! ホテルZっていうんだって! 珍しい名前だよね?」

 

「そ、ソウデスネー! とても珍しい! シンプルな名前ですねー!」

 

 アカン。こらアカン。

 バレとる。完全にバレとるわ。

 どういうことだ……? 裏サービスのことはSNSなんかにはあげないように誓約書まで書かせたってのに!

 しかもアイツ既婚者だったのかよ! クソ! 既婚者がラブホに来るんじゃねぇ! 結婚してんなら欲望くらう抑えろや! こちとらお独り様に向けたサービスを展開してるってのに!

 

「しかもほら、これ見て?」

 

「は、はいぃぃ?」

 

 探偵さんがスマホロトムを見せてくる。

 そこにはホテル名こそ出ていないが、ウチのぬいぐるみは映している。そしてそれらはひたすらにここを褒め称えるポストだった。

 主なワードは『最高』・『素晴らしい』・『快適』。

 しかし中には色々と過激な言葉も含まれていて……。

 

 ウチがただのホテルじゃないことを疑うには十分な内容だった。

 

「一応他の利用客の関係者や本人にも話を聞いたんだけどね? 皆言ってたんだ、ホテルZに籠りがちだって。しかも自分達は連れて行ってくれないんだって。利用客の一人は素直に教えてくれたんだ」

 

「……へ、へぇ」

 

 ふざけるなアァァァァァァァァァァァ!!!!!!!

 言わないって契約書書かせたろうが! 訴えてやる! 絶対に訴えてやる!

 けど訴えたら俺も捕まるぅぅぅぅぅ!!!!!!

 

「おかしいと思わない? 同じ街に住んでるっていうのにホテルにわざわざ、しかも連日泊まるなんて。しかもそれが数人いて、そのことを必死に隠そうとしてるんだよ?」

 

「……そう、ですかねぇ?」

 

「そうだよ。何かあるって考えるのは、おかしなことかなぁ?」

 

 探偵さんが俺の顔を覗き込んでくる。

 両頬に手を添え、目を反らすことを許さない。

 

「ちょっと、調べさせてくれないかな?」

 

「そ、それは……。その、関係者以外立ち入り禁止ですので……!」

 

「だったら関係者なら構わないよね?」

 

「へぇ!?」

 

 また一人、新しい人間が入ってきた。

 その顔はまたしても俺のよく知る人間で。

 

「たたたたたた、タウニー!?」

 

 現クェーサー社の社長にして、かつてMZ団のリーダーだった者。

 タウニーはにっこりとした笑顔の奥に全く笑っていない黒い瞳が鎮座している。

 

「ほら、このホテルってMZ団なら好きに使っていいって、前に言ってくれたよね?」

 

「そ、それはその、そうですけど……」

 

「だったら入らせて貰うね」

 

「ちょちょちょ、ちょっとォ!」

 

 五年前にあった強引さが出ている。

 本格的に社長の教育を受けるようになってからは落ち着いてきたと思っていたのに!

 

「困ります困りますって!」

 

「私は困らないから。フラエッテも良いよね?」

 

「きゅるるる!」

 

「いやいやいやいや!」

 

 勘弁してくださいよ姐さん!

 

「メガニウム、止めて」

 

「メッガァ!」

 

「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!! 助けてくれぇェェェェェ!」

 

 抵抗虚しくボールから出てきたメガニウムの蔓に四肢を絡めとられる。

 俺のポケモン達は外で日向ぼっこをしている。こっちは気づかないはずないが、アイツ等はアイツ等でこういう時には俺の言うことをあんまり聞いてくれない。

 

 それでも叫ぶ。後ろで色々ガサゴソを物色されているが、一縷の望みを託して叫ぶ。

 しかし現実は非情であった。

 

「…………あーあ、やっぱり」

 

「うわぁ……」

 

 後ろからタウニーの呆れ声と探偵さんのドン引きする声が聞こえる。

 それを聞いて、俺は自らの終わりを悟った。

 

「ピュールの時と同じことしてたんだ? あの時もカナリィのラブドール作って渡してたもんね?」

 

「私達のも、お姉ちゃんのもある……。……ねぇ、肖像権って知ってる? 私が教えてあげようか?」

 

「ほ、本人じゃないです! よく似た別人です! 当社の完全オリジナルとなっております!」

 

「…………」

 

「すいませんでした」

 

 屈した。俺だって命は惜しい。

 ていうかヤバいなこの探偵。 本当に堅気か? ギャングとかヤクザとかその辺でも全然通じそうな目つきをしてやがるじゃねぇか……!

 

「さっ、てと……。これどうしようか?」

 

 手に持っていたぬいぐるみを無造作に放り投げ、タウニーは椅子に座って足を組む。

 流石現社長だけあって威圧感のある振る舞いだ。怖い。

 

「うーん、警察に突き出しちゃえば一発でお縄だよねぇ」

 

「そ、それだけは! それだけはご勘弁を!」

 

 そんなことされたら何のためにこの街へ来たかわからなくなる!

 俺は二人の足に縋りつく。プライドだなんだと言ってられない。

 苦節九年、ようやく手に入れた真っ当な生活を手放す羽目になるなんて絶対の嫌だ。

 まあ半分くらい、いや九割五分くらいは自業自得な気もするが、俺はそんなことで納得ような潔い男ではない。

 

 コスプレAVの発展版みたいなもんだと思えば良いじゃんか! と喚くだけ喚いてみる。

 しかし無駄だった。有無を言わさぬ冷たい表情で黙らせられる。ポケモン達も助けてくれないし、多分詰みだ。

 

「私達は悲しいんだよエデル。昔苦楽を共にした仲間が、同じ仲間をこんな風に消費してるなんて。デウロが聞いたらどう思うかな? きっと怒るよ。MZ団でしてたこと、忘れちゃったんじゃないかって」

 

 どうする? どうすればこの状況を切り抜けられる?

 

 俺は諦め半分で思考を巡らせる。そんな状況で、助け船を出したのは意外にもタウニー達だった。

 

「けどさ、私も心苦しいんだ。色々と苦労をかけた仲間が逮捕されちゃうっていうのはさ」

 

「私も、エデルくんには助手として働いて貰った恩もあるしね。これから一生檻の中っていうのは可哀想だと思っちゃうな」

 

 タウニーが立ち上がり、傍に控えていた探偵さんも一歩を踏み出す。

 つま先が地面についた膝小僧にぶつかるような距離まで距離を詰め、俺を見下ろしてくる。

 

「だからね、エデルくんが心から反省してくれるなら、この件は黙ってあげてても良いかなって思うんだ。現状ミアレの平和を脅かしているわけじゃないからね」

 

「勝手に人の人形を作って知らないおじさん達の処理をさせていたことも、AZさんとの思い出のホテルを変態達の集いにしていたことも、反省してさえくれるなら許してあげる」

 

「は、反省……?」

 

 タウニーが右肩を探偵さんが左肩を掴み、俺を強引に立たせてくる。

 久しぶりの対面だからか、身長差があることを忘れていた。コイツも探偵さんも、こんなに大きかったのか。

 

 それに二人して目がおかしい。それは酷く恐ろしく、そして懐かしい気分にさせてくる。

 

「忘れちゃってるみたいだからさ……」

 

 タウニーが膝を曲げて腰を落とす。

 彼女の口元が耳に寄せられる。吐息がかかって擽ったい。

 だけどちょっぴり気持ちがいい。

 

 ああ、やっぱり俺は酷い人間だ。

 仲間のことを、何も覚えちゃいかなかった。

 ジガルデの力を借りてミアレを救ったから勘違いしていたのか?

 ポケモン達の力を借りてAランクになったから、勘違いしていたのか?

 

 あんなに理解(わか)らせられたっていうのに、どうして今の今まで忘れていたのか。

 そもそも俺は、女性にされるがままにされるのがお似合いの、処理人形(ぬいぐるみ)だったじゃないか。

 

「――――使われる側の気持ち、思い出してみよっか?」

 

 その瞬間、俺から抵抗の意志は抜け落ちていた。

 

「懐かしいなぁー。昔はデウロと二人で搾り尽くしてあげたっけ。ピュールとAZさんにバレないようにするのが大変だったよ」

 

「私も探偵業の合間に色々お世話してもらってたなー。最近は忙しくて、本当にご無沙汰だったよね」

 

「私も。でも私はエデルのこと忘れたことなかったよ。毎晩毎晩、エデルのこと思い出してたもん」

 

「私もー。なのにエデルくんってばあんな人形なんかにうつつを抜かしてるんだもん。……これはもう、ねぇ?」

 

「そうだね。もう一度、MZ団のリーダーとして、骨の髄まで理解(わか)らせてあげる」

 

 事前に入っていた予約リストは全てキャンセル。

 扉の前には『貸し切り中』という文字の書かれた看板が立つ。

 

 日が落ち、ミアレを中心としたカロス地方に赤いホロの帳が降りる。

 昼には昼の、夜には夜の喧騒が響くミアレの街の人目につかない場所にひっそり佇むホテルZ。

 奇しくもそれは人に言えない欲望を発散することにおいて最適な立地となっていて。

 

 俺が発する嬌声は誰の耳にも聞こえることはなく。

 夜はいつものように更けていた。

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