地獄で叩く! 作:スロウ亀
朝日の光が差し込む部屋に二人の人の姿がある
一人は皇帝陛下、そしてもう一人がオネストだった。陛下は綺麗に皿に乗せられた朝食を食べ終わる
オネストも朝食から肉を頬張っている。そんなオネストに
「食事をポロポロ零さない!」
「ぎゃっぼ!?」
ウィンターのお盆が顎にクリーンヒット
その振り被りはアッパーカットの如く勢い良くオネストをぶっ飛ばす
「キ、キミね。一応大臣だって事分かってますか?」
「それは勿論分かっております。しかし、それでも悪い所があれば言うのが私です」 パンッパンッ
「だったらその何かの切れ端をパンパンしながら見張るのやめてくれる!?大臣の補佐ならそんな事しないよ!他の補佐みたいにやって!」
「家は家!他所は他所!!」
「出たぁぁ!ウィンター君のお母さん節!!」
「良いですか。そもそも上に立つ者の立場でテーブルマナーがなっていないのは如何なものかと思いますよ?それに貴方は……」
ウィンターは何かの切れ端をオネストの頬をグリグリと押し付けながら説教を始める
オネストは口では勝てない事を分かっているので何も言えず言われっ放しである
「ウィンター。もうそれ位で大臣を許して欲しいんだが」
「へ、陛下!」
思わぬ救済にオネストは少し涙目になりながら笑顔で陛下を見る
ウィンターはやれやれという仕草をしながら何かの切れ端を押し付けるのをやめる
「分かりました。陛下がそう仰るのなら」
「ウ、ウィンター君ありがとう」
「しかし常に食事を零すようじゃいけないので。大臣の肉と菓子を没収します」
「やっぱりキミ私に厳しくない!?」
「……それプラス一週間水とパンだけにするぞ?」
「ごめんない。私がいけませんでした」
ボソっと言ったウィンターに即座に土下座するオネスト
しかしいつもの事なのか陛下は呆れ顔をしながら額に手を付ける
「大臣。いい加減ウィンターに勝てないのを認めたらどうだ?」
「ですが陛下!ウィンター君の水とパンって腐る腐らないギリギリの物を出したんですよ!?もうこれは唯の悪意ですよ!」
「はいはい。そんな事は置いといて」
「そんな事!?」
オネストは自分の話がそんな事扱いされ軽くショックする
そんなオネストを無視して食器を片しながら二人の予定が書かれたメモを取り出す
「ではお二人の一日の予定を報告します。まず陛下は、午前から帝都商店の申し込み書類の片づけを。午後からは治安の状況報告による会議に帝都警備隊の人材貸出しと派遣の報告書類だけです」
「うむ。わかった」
「オネスト大臣は午前から破棄されているゴミ捨て場の掃除と洗剤の詰め替えをお願いします。午後は陛下と治安会議をお願いします。午後からは庭掃除に書類整理ですね」
「会議と書類整理は分かるけど、他は雑用だよね?」
「ぶつくさ言う暇があるならやって下さい」
「えぇー!もう分かったよ。はぁまた雑用か」
そう言ってオネストは手馴れたように頭に三角巾を付け、ゴム手袋と掃除用ブラシとバケツを持って部屋を出る
「いつも思うんだが、アレで良いのか大臣」
「良いんですよ。そう言えば昔もこんな事がありましたね」
ウィンターは窓の景色を見ながら昔の事を思い出す
それはウィンターが腐った帝都を叩き直す途中まで遡る
「食事をポロポロ零さない!」
「ぎゃっぼ!?」
何だかデジャブな事だが決して誤字ではない
お盆によるアッパーカットが炸裂する朝食の時間
今のオネストは抵抗力が無く、一発でKO物である
「全く、貴方という人は」
「ウィンター。そろそろ時間じゃないのか」
この頃からスルーを身に付けた陛下
時間の事を言うとウィンターは懐中時計を取り出し、時間を確認する
「そうですね。そろそろ行かなくては」
ウィンターはいつもの様に金棒を片手に部屋を出る準備をする
その際にオネストを引きずってポイ捨てするのを忘れない
「では陛下。これで失礼します」
「ウィンターの方こそ気をつけるんだぞ」
「はい。それでは」
陛下に一礼してウィンター部屋を部屋を出て行った
「………」
「ど、どうでしょうかウィンター様」
「特に問題はありません。言うなら体調不良を訴える職員が出た場合、臨時で入れるように人員を増やした方がいいですね」
「そこなんですが、こちらも不景気で」
場所は変わり帝都警備隊の兵舎にやってきたウィンター
その兵舎の奥にある応接室で職場の状況と職員の仕事背景が書かれた書類に目を通している
それを不安そうに見ていた兵舎のお偉いさん
「仕方ありません。まだこの帝都には犯罪者が溢れるほど居ますからイメージ的には良くありませんし、観光客も年々減ってきてるのも問題になっていますしね」
「それで客足が途絶えて店が潰れたなんて事がありますから、失業する人が増え続けてるって話ですよ」
「そして仕事が選べない状況下でやれるとしたら警備隊だけ」
「そうなんですけど、入隊希望者が居すぎてこちらも困ってます」
互いに不景気で人も金も足りず、溜め息を付いていると外から物音がした
その音に反応しウィンターとお偉いさんはドアを少し開けて見ると、そこには剣を手にした少年の姿があった
「何でしょうかあれは」
「あぁ、あれは一平卒ではなく隊長から志願したいと言った少年です。この不景気でそんな事が出来ないから誰かが追い出すでしょう」
「随分と自信家というか世間知らずというか」
ウィンターはそう言って応接室を出て行く
「あの、どちらに?」
「あの少年に少し話をしてきます。今回の人員に関しては私が何とかしますので、それから職員達には緊急という事で月に一度だけ自宅待機のシフトを組んで下さい」
「分かりました。態々ご足労感謝いたします」
「いえ、これが仕事ですから。では」
ウィンターは兵舎の書類を持ち応接室を出て行く
途中で職員達は一例をしながら見送る。ウィンターは未だに剣を持っている少年に声を掛けた
「どうしました?」
「え?えぇ?」
突然声を掛けられた少年はオドオドとする
「あぁえっと…どちら様で?」
「私はウィンター・C・グランドと申します」
「お、俺はタツミって言います」
未だにオドオドしながら会話をするタツミ
少しして緊張が解れ自分から話す
「あの、もしかして偉い人?」
「こらぁお前失礼だぞ!この方はオネスト大臣の第一補佐官であり、帝都警備隊総合警備管理を任せられているトップの方だぞ!」
「大したものではありませんよ。官房長官みたいなもんです地味地味」
受付の言いようにウィンターがそう答えるとタツミは歓喜な声で話し出す
「だったらさぁ、俺を隊長にして欲しいんだ!これでも1級危険種の土竜を1人で倒せるし、腕には自信があるんだ!」
「そうですね…」
ウィンターは顎に手をやって考える
少ししてから口を開く
「一つ確認をしたいんですが、人と戦った経験は?」
「い、いや無いけど」
「それだと少し難しいですね。対人経験が無いのは致命的ですが、その様子だと指揮を取ったことも無いでしょう。隊長ともなると何十人もの団体を束ね、状況を把握し、即座に判断を下す。力はもちろん必要ですが、それだけでは勤まる事は出来ません」
「…そんなぁ」
ウィンターの厳しい現実に落ち込みモードのタツミ
「まぁ世の中そんなに甘くはありませんし、傍から見れば笑われるか怒られるかの事をしたんですから」
「俺そんな事しましたか?」
「はい。分かりやすくぶっちゃけると『この世の中舐め腐った田舎野郎がぁ!』っと周りは思ったんでしょ」
「そんなストレートに!?」
「屋内中がここまで出掛かっていたと思います」
喉あたりを手で示して言うウィンターのぶっちゃけに仕事していた者や入隊希望者の多くが見えないようにサムズアップ・OKサイン・ピースなど言いたかった事を言ってくれた事に感謝を行動で表した
「まぁ確かに腕っ節があるのは悪いことではありません。少し話が長くなりますし場所を変えましょう」
「え…はぁ」
タツミは言われるがままウィンターと共に兵舎を出た
「なるほど。そういう事でしたか」
場所はオシャレなカフェテラス
タツミとウィンターは見晴らしの良い席に座っていた
ウィンターが紅茶を飲み、タツミの事情を聞いていた
「貴方のような村の貧困問題は今に始まったことではありません」
「そうなんですか?」
「問題としては若者の激減に高齢者の急増もそうですが、何より危険種の被害が最も多いのが今の現状です。環境による影響もそうですが、一番の問題がこの帝都です」
「帝都が?」
タツミは不思議に想い、辺りを見渡す
「帝都は貴方が思っている程良いところとは言えません」
「で、でもこんなに賑わっていて」
「確かにそうですが、悪魔でもそれは表での事です。裏では賄賂・売買・偽造・殺人など数え切れないほどの犯罪者が身を潜めています。特に貴方のような遠くから来た旅人に目をつける輩も居ますしね」
そう言われタツミは背筋がゾッとする
帝都を目指していた道中に危険種から人を助けた時に、忠告をされていたが、タツミはそれでも帝都に向かった
だがウィンターがここまで言われると流石に怖気つく
「けど俺が稼がなきゃ村が」
「そんなにお金が必要なら私が知っている仕事を紹介しましょうか?」
「ほ、本当ですか!?」
「はい。丁度その人も近くに居ますから」
そう言うとウィンターは金棒を取り出す
そしてある場所を目掛けて振り被り、投擲する。剛速球のように投げられた金棒は裏通りに入ると鈍い音と共に「にぎゃ!?」という奇妙な声がした
「少し待っていてください」
ウィンターは席を立ち、金棒が投げられた場所に向かう
しばらくして金棒を手に裏通りから出てくると頭にタンコブが出来ている金髪の女性を引きずって戻ってくる
「え、え~と」
「ではレオーネさん。後はよろしくお願いします」
「いやいや何ごともなかったように話進めてるんだ。アンタの金棒がまだ痛いんだけど」
涼しい顔でレオーネに全て押し付ける
ウィンターは首をかしげながら言葉を返す
「私の事をストーキングするような人にとやかく言われたくありません。そんなに男を引っ掛けまわしたいんですか貴方は。盛りですか?」
「そこまで言うか普通!?」
「失礼しました。ストーカーに常識を言っても駄目でしたね」
「そのストーカー呼ばわりもやめてくる!?私だって女だから傷つくよ!」
「傷が付く?貴方の心は豆腐ぐらいですから当然でしょ?」
「そんなに柔な心じゃない!」
「そうでしたね。木綿ではなく絹でした」
「そういう問題!?」
ウィンターのボケなのかマジなのか分からない会話
そんな会話に翻弄されるレオーネをただ見ることしか出来ないタツミだった
次回はサドアリアをぶっ飛ばします