「──やべ」
思わず声が漏れた。
がらり、と崩れた天井が頭上から迫るのがスローモーションに見える。
目の前に立つ
──轟音を立てて、洞窟の一部が崩落した。
……と、言うのが約3ヶ月前。
幸いと言えるかは怪しいが、崩落に巻き込まれながらも大怪我をしただけで命に別状がなかった俺は、自宅療養と称して怠惰に時を過ごしていた。……流石に手持ちたちの世話は欠かしていないが。
傷は既に塞がり、砕けていた骨もほとんど繋がっている。まだ若干身体……特に重傷だった右腕の動きは鈍いものの、それは単純に長く動かせなかったせいだろう。ちゃんとリハビリもしないとなぁ、と考えながら身体を起こす。
「グルル……」
「さすがにもうそこまで重傷じゃねぇよ。心配性だなヘルガーは……」
「……ガウッ」
「いった!? ちょっと姐さん今なんでどついた!?」
傍に控えていた相棒……ヘルガーが支えるように擦り寄ってくるので、笑いながら頭を撫でてやる。……照れ隠しなのか角で脇腹をどつかれた。加減はされていても普通に痛い。
そのままフン、と鼻を鳴らしてさっさと部屋の外へと駆け出していく黒いボディを見送って、俺は窓辺へと近付き、そこから庭を眺める。
平屋のこじんまりとした家屋に比べてとても広い庭。
そこを駆け回るのはブースターとウインディ。その視線の先を辿って空を見れば、既に赤い残像と化しているたぶんファイアローだろう飛行物体が飛び回っている。スピード自慢のギャロップがノッていないのは……まあ、この後起きるだろうアレに巻き込まれたくないからだと思われる。ぶっちゃけ面倒なのは正直わかる。
片隅のテーブルセットではマフォクシーらが集まりしっとりとめらめらオドリドリの舞を観賞中らしい。中々に好評なようでおひねり代わりのきのみがだいぶ積まれていた。その山からこっそりと盗み出そうとしてとっ捕まっているのはバオッキーだ。マルヤクデにぐるぐる巻きにされてシバかれているが、まあ自業自得だな。それにおしおきに使っているのが“ほのおのムチ”な分、まあ加減はされているのだろう、たぶん。
少し奥に見える小高い岩山……あそこも一応敷地内だ。そこからは何かが砕けたり、ぶつかり合うような音が響く。バシャーモ辺りのストイックな連中がまた修行と称して暴れ回っているのだろう。あの辺りを寝床にしているマグカルゴやセキタンザンが苦情を出さない程度に収めてほしい。……なんか今爆発したな。バクガメスでも殴ったかあいつら?
右を見ても左を見ても、空も地面も屋内も、どこを向いてもほのおタイプばかり。
そんな家に暮らす俺は、ただの一般炎使いトレーナーである。
……なお、当人の自認に関わらずトレーナーカードにはしっかりと『エリートトレーナー』の記載がされている模様。
「……あ、姐さんがキレた」
視線の先で、部屋を後にしたヘルガーが追いかけっこから何故かフレアドライブ合戦になりだした
▽イサリ(漁火)
自称一般炎使いトレーナーのエリトレ。成人済み男。
パルデア出身かつアカデミー卒。あとついでにチャンピオンランク保持者だが、現トップ就任前……旧体制時代の難易度が今より低かった時に取ったものなので今もう一度テスト受けたらちょっと怪しいかも。
バトルジャンキーというほどでは無いがバトルが好きで、チャンピオンランク獲得後は色々な地方を旅しながらバトルの腕を磨いていた。そして数年前に帰国して集まった炎ポケモンたちと暮らせる土地を買い、定住を始める……が、それ以降も割と留守にする機会が多い(ついふらっと旅に出がち)。
パルデア外のものも含めた多種多様なほのおタイプと暮らしているが、伝説幻的な奴らとはあいにく縁がない。気にはなっている。
手持ちが炎染めなのは好きだから……ではなく一番の理由は自分に合っているから。ほのおタイプに限らずポケモンはなんでも好き。
相棒は最初に手にしたポケモンであるヘルガー♀。ニックネームは特につけない派だが姐さんと呼んだりしている。
現在は療養中のため激しいバトルにはドクターストップがかけられている。
▼ヘルガー♀
れいせいな性格。ちょっと怒りっぽい。
イサリの初めてのポケモンにして一番の相棒。片角が折れている。
最古参として庭の秩序を守ったりイサリの護衛をしたりツッコミを入れたりするのが主な役目。実質保護者。