ミアレの暴君   作:ふみどり

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※本編シナリオクリア後推奨※


ようこそ、ミアレへ 1

 こんばんは、ミアレシティに住む良識ある一般人(男)です。いまぼくが置かれている状況について、できるだけ端的にご説明します。

 ぼくはただ、激務に激務を重ねて疲れた身体を癒やそうと、ものすごく久し振りに自宅で休もうとしただけなのです。しかし諸事情で家に入ることができず、仕方がないので家の近くにあるホテルに宿を求めてみれば、何とホテルにいたのは従業員(仮)の女の子がひとりだけ。営業するな鍵閉めとけと。悪意ある言い方になりますが、このままでは成人しているかも怪しい女の子と一晩同じ屋根の下でふたりきりになってしまうというのです。いや本当に勘弁してほしい。ぼくは人一倍そういうことに気を使わなければならない立場なので、ならもう野宿でいいと踵を返そうとしました。すると彼女は久し振りの客を逃がすまいとごねはじめ、ついには片手が腰元のポーチにのびていきました。ぼくだって彼女のことは知っています、ランクAのトレーナーが気軽にモンスターボールを出そうとしないで欲しいのです。

 この疲れ切っているときにバトルなんてしたくありません。だいたいぼくの相棒もさすがに不機嫌通り越して憤怒です。いまバトルさせるのはさすがにまずい。危機感の足りない彼女は一緒にホテルを管理している友人を連れ戻してくれるわけでもなさそうなので、仕方なくぼくはあんまり使いたくない手を使うことにしました。

 

「あ、カラスバくん? いまねぇ、ホテルZできみのお気に入りとふたりきりなんだけど」

 

 数分後、ホテルZのロビーには部下の女性を連れたカラスバくん(げきおこ)(ゲット不可)(いらん)の姿がありましたとさ。めでたしめでたし。

 

「何もめでたくないんやけど何? ド深夜にひとのこと呼び出しくさって、ええご身分やなぁホンマ」

「ぼくは来て欲しいなんて一言も言ってないよぉ? けどジプソくんじゃなくて女性の部下さんを連れてきてくれるなんてきみは本当に話が早いよねぇ。彼女の宿泊費、僕がもとうか?」

「いらんわ! おい」

「はい! セイカさん、セイカさんのお隣の部屋は空いていますか」

「あ、空いています」

「では私はそちらに宿泊いたします。寝ずの番でお守りしますのでご安心ください!」

「えっこのホテルのベッドすごく気持ちいいですよ!?」

 

 違うそうじゃない、と言えばいいのかどうなのか、この子いつもこんな感じなの、という視線を隣のチビに送るとさりげなく目をそらされた。そうかこんな感じなのか。

 いくら凄腕のポケモントレーナーとはいえ、防犯意識というものはもっていてほしいものだ。それだけミアレで安心して過ごせているのなら喜ばしいことだが、ワルい人間なんてこの世にはいくらでも存在しているのだ。それこそいまぼくの隣にいる彼のように。

 しかし、お説教をするにはさすがに体力が足りないし時間が遅すぎる。時計の短針はすでに頂上近くを指していた。

 人間の状態異常(ねむけ)もどうぐで治ればいいのに、と思う反面、すでに最近栄養ドリンク(くすり)漬けで過ごしていたことに思い至り、考えるのをやめた。さすがに無理をしすぎた。彼女に何かしらのアクションをするかどうかは明日のぼくに任せよう。

 それじゃ、と首元のネクタイを軽くゆるめた。

 

「ぼくもチェックインさせてもらおうかな。部屋はきみたちと違う階にしてねぇ」

「あ、ハイ! カラスバさんもご宿泊されますか?」

「せやな、一番ええ部屋……いや、しゃーないからコイツの隣でええわ」

「おやまあカラスバくん、きみ本当にぼくのこと好きだねぇ」

「何するかわからんやつはちゃぁんと見張っとかんとあかんやろ」

「立場考えたら普通逆なんだけどなぁ」

 

 立場、ときょとんとした彼女を笑顔で流し、部屋の鍵を受け取った。疲れた身体をひきずるようにエレベーターへと向かう。その背後で「何や、ホンマにあいつのこと知らんのか」とカラスバくんの呆れたような声が聞こえたが、どちらかというと知ってるきみのほうが普通じゃないんだよと。

 ただでさえ細い目がさらに開かなくなってきた。エレベーターに乗り込み、振り向いて一対の不思議そうな視線と二対の蛇睨みを受け止める。ぼくが元気だったら「恐がって(ビビって)あげられなくてごめんね」くらい言ってあげるのだが、いまは大目に見てもらいたい。

 ふっと息をついて口角をあげる。カラスバくんの頬がひくりと揺れたような気がした。

 

「……じゃあ、お先に。カラスバくん、きみも彼女たちのいる階に行っちゃダメだからねぇ」

「アホ言うとらんと早よ消えろや」

「ひどいなぁ、言葉が過ぎるとサビ組潰すよぉ?」

 

 カラスバくんのこめかみに血管が浮かぶと同時に、エレベーターのドアが閉まった。実際あの程度の暴言で動くほどぼくも暇ではないのだが、彼に対しては刺せる釘は刺しておくことにしている。カラスバくんはきちんと自分の立場を弁えているひとだけれど、今後もそうだとは限らないのだから。こっちはその気になれば罪状なんていくらでも挙げられるのだ。いまは()()()()()()()()()だけだという事実を、何度でも思い出させる必要がある。

 エレベーターのわずかな振動に全身に浴びながら、首から上の力を抜いた。頭がかくりと後ろに倒れ、レトロな天井灯が目に入る。

 眠気が限界に近い目には、こんなお気持ち程度の灯りですら眩しくて辛かった。

 

「……警察官(おまわりさん)てめんどくさーい……」

 

 つい零れた呟きに、腰元のモンスターボールが咎めるように小さく震えた。

 




こういうのが読みたいなと思って書きました。
こんな話どこかに落ちてませんか助かる命があるんです。
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