鈴仙は、重い荷物を抱えたまま、
永琳のいる薬室へと向かって歩き出した。
彼女の心は、この偽りの平穏が長く続かないことを予感しながらも、
冷静に、次の永琳からの指示を待っていた。
薬室の扉を開けると、永琳は相変わらず薬草の山に囲まれていた。
「ただいま戻りました」
鈴仙は無言で会釈し、買い込んできた食材と薬草を所定の場所に分類して置いていく。
その手つきは手慣れたものだ。
永琳は手を止めず、小さなガラス瓶に液体を注ぎながら言った。
「ご苦労様。人里の様子は?」
「変わりありませんでした。ただ……」
鈴仙はそこで言葉を切った。
永琳の視線が、鋭く鈴仙に向けられる。
「竹林で、月のウサギと思しき隊員とすれ違いました。
単独行動のようでしたが、おそらく偵察かと」
「……そう」
永琳はそれだけ言うと、再び手元の作業に戻った。
その表情は相変わらず穏やかだが、鈴仙には彼女の思考が高速で回転しているのが分かった。
「報告は以上です」
「分かったわ。優曇華、少し手伝ってちょうだい」
永琳は新しい調合鍋を指し示した。いつもと違う、少し特殊な形状の鍋だ。
「これは?」
「あなたが戦闘時に飲む薬の、強力版よ。近いうちに異変が起きる。戦闘中に過去の戦争の記憶がフラッシュバックして動揺する可能性が高まる。それを抑えるための薬」
(なるほど、戦闘特化型ってわけ)
鈴仙は、普段飲んでいる薬とは違う、明らかに実戦を意識したものであることを察した。
これは月の影響とは関係なく
、純粋に彼女自身の精神的な弱点を補うためのものだ。
永琳は新たなメモを差し出した。
そこには、鈴仙でも見慣れない薬草の名前と
、調合の手順が記されていた。
「この薬は、『明鏡止水(めいきょうしすい)』。
服用すると、精神的な動揺を一切排し
、心を無に保つことができる。過去のトラウマに囚われることを防ぐための、
あなた専用の薬よあと能力を使いやすくなるわよ」
「この材料を、指示通りに砕いてすり鉢に入れて。濃度と温度管理は私が行うから」
「承知いたしました」
鈴仙は無言で作業に取り掛かった。
『明鏡止水』の材料は、幻想郷の湿地帯に生える希少な「草」と、永遠亭の裏庭に自生する月の波動を帯びた「銀月苔」、
そして永琳特製の月の都の秘薬の混合物だった。
鈴仙は、まず「正気の草」をすり鉢に入れた。
石のすりこぎで、ゆっくりと、一定のリズムで砕いていく。
月の都の訓練で培われた正確さと忍耐力が、
こんなところで役立つとは思わなかった。
草の青臭い匂いが、徐々に甘く爽やかな香りに変わっていく。
次に、「銀月苔」を加える。苔は乾燥していて硬いが、砕くと微細な銀色の粉末になった。
それが草のペーストに混ざり、全体が淡い緑色に染まっていく。
永琳は、頃合いを見計らって、秘薬の液体を数滴垂らした。
途端、鍋から立ち上る湯気が、月の光のように青白く輝いた。
「温度を一定に保って」
永琳の指示に従い、鈴仙は薪の火加減を微調整する。
この作業も、もう慣れたものだ。
窓の外は、もう夕暮れ時。橙色に染まる空は美しいが、この平和な時間も長くは続かないだろう。
永琳の準備は、異変がすぐそこまで来ていることを示している。
鈴仙は、無言で、しかし迅速に作業を続けた。
これは、来るべき戦いのための、自分自身を守り、強化するための準備なのだ。
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そして、長い時間をかけて、ようやく薬が完成した。
淡い青白い光を放つ丸薬が、小さな瓶に収められた。
「よし、これで十分な量ができたわ。おありがとう、優曇華」
「いえ」
鈴仙は一礼し、薬室を出た。外はすっかり夜の闇に包まれている。
(疲れたわ……お嬢様も呼んで、夕食にしましょうか)
鈴仙は疲れた体に鞭打ち、厨(くりや)へと向かった。
人里で買い込んできた新鮮な野菜や米が、山積みになっている。
(今日は何にしようかしら。お嬢様は肉が苦手だし……シンプルな野菜炒めと、お味噌汁でいいかしら)
鈴仙は手際よく食材を取り出し、包丁を握った。
トントンと、軽快な包丁の音が静かな永遠亭に響き渡る。
この日常の音こそが、今は何よりも心を落ち着かせてくれる
。
もう一人の住人、蓬莱山輝夜は、いつもこの時間になると腹を空かせて現れる。
手際よく夕食の準備をし始めた
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(今日は何にしようかしら。お嬢様は肉が苦手だし……シンプルな野菜炒めと、お味噌汁でいいかしら)
鈴仙は手際よく食材を取り出し、包丁を握った。
トントンと、軽快な包丁の音が静かな永遠亭に響き渡る。
「ご飯、まだー?」
案の定、廊下から輝夜のお嬢様の呑気で、少しだけ不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「今作ってますから、少しお待ちください!」
鈴仙が応じると、輝夜は足音を立てながら厨に入ってきた。
その顔には、隠しきれない退屈と空腹が滲み出ている。
「遅いわよ、優曇華! 私もうお腹ぺこぺこ」
「すみません、今日は人里まで買い出しに出ていたもので」
「買い出しかぁ。私も行けばよかったわ。退屈で死にそう」
輝夜は、調理台に肘をつき、つまらなそうに鈴仙の手元を覗き込んでいる。
「優曇華が作った方が美味しいもの」
鈴仙は内心で苦笑する
。野菜を炒める音がジュウジュウと鳴り響き、香ばしい匂いが漂ってきた。
「ねえ、優曇華」
「何でしょうか」
「あのさ、私最近思ったんだけど」
輝夜は、急に真面目な顔をして鈴仙に詰め寄ってきた。
「……何でしょうか?
「私と永琳、どっちが好き?」
「はぁ~」
。包丁を持つ手が止まる。いつも姫様は唐突このようになんだいをだしてくるww
「どうでもいいじゃないですか 誰が一番とか」
「 重要な問題よ! 、、、、、、、、、、、、、、優曇華はいつも永琳とばかり薬作ってるじゃない」
「それは仕事ですから! お嬢様はいつも寝てるか遊んでるかでしょう!?」
「むー! そういう優曇華も、私と一緒に遊んでくれないじゃない!」
輝夜は頬を膨らませ、まるで駄々をこねる子供のようだ。
「……とりあえず、夕食が作り終わる、席についてください」
鈴仙はため息をつきながら、完成した料理を大皿に盛り付けた。
永琳の分と合わせて三人分。
「はーい」
輝夜は不満げにしながらも、素直にダイニングテーブルへと向かった。
鈴仙は永琳を呼びに行き、三人で食卓を囲む。
永琳はいつものように静かに食事を始めるが、輝夜は一口食べるなり、
また口を開いた。
「ねえ永琳、優曇華が私のこと好きじゃないって言うのよ」
「……輝夜、食事中は静かに」
永琳は冷たくあしらうが、輝夜はめげない。
「ほら見て! この野菜炒め、愛がこもってないわ!」
「お嬢様、いい加減にしてください」
鈴仙は抗議する。この永遠亭の日常こそが、月の都とは違う、
平和な生活なのだと改めて感じながら、鈴仙は目の前の夕食を食べましたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー