モンスターハンター~狩人レナードの軌跡~≪改稿版≫ 作:ATA999
早いもので、お主たちももう15歳じゃ。今まで色々と勉強をしてきた成果を見せてみい!
お題は村の近くで繁殖してきておるランポス共を倒す事じゃ。何、心配する必要は無い。お主らも良く知るベテランハンターを同行させる故、その者の言う事を良く聞いて行動するんじゃぞ。
……武運を祈っておる、無事に生きて帰ってきなさい。
「スゥー……ハァー」
深く息をするレナードの鼻に、新緑と雨上がり特有の匂いが混じりあいながら入ってくる。どちらも普段から嫌な類では無いのだが、殊更良い匂いに感じるのは心境故だろうか。
レナードがいる場所はララノア村にある狩り場に近いベースキャンプ、一歩足を踏み出せば狩り場という場所でレナードは深呼吸をしていた。
「んー、緊張するにゃあちと早いんじゃねーのか? レナードよぉ」
「わっと、ヴァンさん……頭撫でないで下さいよ」
「おー、なんだコイツぅ。いっちょ前に子供扱いしないでってか、ん? ガキだねぇ」
そう言い、レナードにヴァンと呼ばれた壮年の男はより強くワシャワシャとレナードの髪の毛を撫で上げる。
ヴァンはこの村唯一のハンターだ。何十年もの間、卓越した技量と豊富な経験によってララノア村や隣接する村々をモンスターの魔の手から助けてきた歴戦の強者である。その為、ハンター見習いとして訓練を積んできたレナードとしても、使う得物こそ大剣とライトボウガンという違いこそあるものの、目指すべき目標として尊敬の念を込めて接していた。
だがレナードとヴァンの関係はそれだけでは無い。
「ベルの奴、まだ準備が出来てないんですか?」
「ガンナーはな、砥石さえ用意してりゃいい大剣使いと違って、弾の管理があるんだよ。必要な量を持ってきているかとか、湿気を帯びて無いかとかな……ま、女の支度にゃ待たされるのが男ってモンなのよ。今後もウチの娘とコンビ組むってんなら、覚えといて損は無いぜ?」
ヴァンは、次世代のハンターであるレナードとベルの指導役であるのと同時にレナードの幼馴染、ベルの父親でもあった。
一切娘に継がれる事の無かった青みがかった黒髪を短く刈り込んだ姿は、動きが邪魔にならないように鍛え抜かれた筋肉と彫りの深い顔立ちと相まって精悍の一言に尽きた。使用している防具は≪ハンターシリーズ≫。防御力ではモンスターの素材を用いた防具に一歩劣るが、そもそもライトボウガン使いは攻撃を受け止めず回避する立ち回りを前提としている。それを考慮すれば、癖が無くバランスのとれた良い装備である。肩に担ぐ≪サンドフォール≫は左手や右手で持つ部分が磨り減っており、一見しただけで良く使いこまれているのが分かる。
「そのライトボウガン……確か、ドスガレオスの素材から作ったヤツですよね?」
「お? おお、良く知ってるな。そうだ、何年も前に砂漠で何とか倒したんだよ。コイツはとにかくリロードが速え、リロードしてる最中ってのはガンナーにとっちゃ一番の隙が出来る時だからな。……にしてもガキの頃からずうっと独り身の俺としちゃあ、そこら辺をカバーすんのに色々と苦労したモンよ」
そうしみじみと語るヴァンの横顔には、それまでの経験から来る重みが感じられた。
「俺も、倒せるようになれますかね?」
「ん? ははっ、気が早えよ。まずはこの近場で不自由無く動ける程度に慣れなきゃあな、行けるかどうかの判断も出来やしねぇ。どっちにしろ、だ。……早い男は嫌われんぜ、気もアッチの方も、な」
「なっ……!」
「アッチって何なの?」
「なあっ……!?」
ようやく準備を終えたベルが絶妙に最悪なタイミングで会話に入って来た事で、レナードは酷く狼狽してしまう。と、そこでヴァンの顔がニタニタと笑っている事に気が付く。
(このオッサン、わざと……!)
「ねぇ、アッチて何の事なの? パパ、レナード?」
「ん~、ベルにはちょっと早いかな~。コイツは男同士の秘密って奴なのさ」
「そ、そうそう!」
「何それ訳分かんない。アタシだけ仲間外れって事? そんなのヤダよ」
「ま、まーまー! そんな事より、初めての狩猟へいざ出ぱーつ! って事で」
仲間外れを嫌うやや甘えん坊な性格のベルが機嫌を悪くしないよう宥めつつ、慌ただしく狩り場へと歩を進めるのであった。
「はっはっは、大変だなぁ」
「アンタのせいでしょうがっ!?」
◇
「シッ……! 見ろ、いるぞ」
中央は広場のように開けており、西には高台、南東部には大小様々な木々が乱立している、そんなエリアの中で。
先程までとは打って変わった緊迫した声色が、二人の新米ハンターへと注意を促した。一歩狩場に踏み込んだその時から既に、ヴァンを中心としたその場の雰囲気は、常時の飄々とした様子など微塵も感じられぬほどに張り詰められていた。目の前の様子を油断なく木陰から見やるその横顔は、歴戦の強者という言葉がこれ以上ない程に相応しい。
そんなヴァンの所作を、レナードとベルは見逃す事の無いよう目を皿にして観察をしていた。目の前の『活きた教科書』の行う一つ一つの動作は、レナードとベルにとっては金言に等しい。安全な場で行われた訓練の際には今一つ実用性の感じられなかった行為が、狩場の質感というフィルターを通して見れば、一転必要不可欠な物に思えてくるのだから分からないものだ。とにかく、二人がこの機会を蔑ろにするはずが無かった。
そんなヴァンの指示した事の為、二人はヴァンの観察を止めて素直に指し示す方を息を殺して見やる。するとそこには怪我でもしているのか、一切動きを見せないランポスがいた。
「ランポス……!」
「じゃあ、俺が……!」
「まぁ、待ちな」
剣士だからと意気込んだレナードが三人が身を潜めていた草むらから出ようとするも、ヴァンに肩を掴まれ引き戻されてしまう。
「二人とも、ランポスの習性についちゃお勉強してんな?」
素直にコクリと頷く二人。その様子にヴァンもまた満足げに頷く。
「本気で覚えようとすりゃ、キリがねぇ訳だが。ランポスは――まぁ、ランポスに限らず鳥竜種みんななんだが。まず群れる、そして狡賢い。最後に、人間に極度に敵愾心を持っている。この三つだけ覚えてりゃいい」
「それだけで……?」
新米二人は眉を顰める。ベテランハンターであるヴァンの言う事ではあるが、そんな事は二人でも知っている事だ。と言うか、辺境に住む者ならば子供でも知っている。
そんな心境を察したのだろう、ヴァンは困ったように笑みを浮かべて二人に向き直る。
「それだけって言うがな。例えばお前らは、【ランポスは狡賢い】って事は知ってるだろうが、具体的にどの程度の行動を起こせる程度に狡賢いたぁ言えんだろう?」
「そりゃ、まぁ……」
レナードはバツが悪げに口ごもった。経験に勝る知識無し。単に知っている事と真に理解している事の違いなど、自分だけが持つ『ゲーム知識』が原因で妙な先入観を抱いて致命的な失敗をせぬよう、日頃から自分自身に言い聞かせていた筈の事だったからだ。
「例えば、だ。アイツらも殆どしないから、ギルドでもよく省略されてて教えられないとは思うんだが――」
突如、振り返ったヴァンは後ろに向けて装填してあった弾を撃ち込む。
『ギギャア……』
ダーンという音が鳴り響いた後、そこにあったのは柔らかい右目を撃ち抜かれ脳まで弾が達したランポスの亡骸のみであった。
「仲間が囮になってな、見えやすいトコで足引き摺ったりなんなりして気を誘うだろ。そんで、それに釣られてる奴の後ろからガブーッてな寸法よ。な、狡賢いだろ?」
「「…………」」
いたって気軽に投げかけられる言葉に、返る言葉は無い。
経験に基づく確かな知識然り、振り向き様に目を撃ち抜くという射撃の正確さ然り。その他も含め、ここに来るまであらゆる面で差を見せられ、最早二人はぐうの音も出なかったのだ。
「じゃあ、お前等。ちっとそこの高台で俺の狩りを眺めてな」
そんな状態であったからだろう。戦力外通告と取ってもいい内容だと言うのに、二人はそんな言葉にも逆らう事無くすごすごと高台の上へと避難するのであった。
「……ふふ。これで、自信過剰な意識は修正出来たかね?」
遠く離れた位置にまで移動した二人を確認したヴァンは、意味深な笑みを浮かべて呟いた。
人が成長していくにあたって大事なのは、目標とする場所の位置と現在自分が立っている位置の二つだ。いずれも正確である事が求められてくる。目標とする場所が分からなければ、フラフラと別の方向へと歩きだしてしまうし、自分が立っている位置が分からないままに歩き出してしまえば足を掬われて転んでしまうからだ。
今回、ヴァンが新米二人に対して行ってきた実力差を見せつける行為は正にこの二つを同時に理解させる為であった。この行為はハンターの数が少ない辺境の村等で特に行われている手法であり、現にヴァンもまた新米の頃に先輩ハンターの力量に打ちのめされた記憶がある。
(今回の場合、目標とする場所とはつまり、経験に裏打ちされた実力のあるハンターの事。自分が立っている位置とはつまり、今現在の正確な力量の事だ。……ま、あの二人なら素直だし、これだけでも十分まだまだだって事は分かってくれるたぁ思うがね。念には念を、てな)
二人がエリア端にある高台へ移動したのを確認した後、ヴァンは腰のポーチから取り出した角笛を、エリア中に響き渡らせるかのように高らかに吹き鳴らす。
その音に釣られて寄ってきたモンスターは、元からエリアにいた囮役のランポスに加え新たに4頭、突進が厄介なブルファンゴも2頭ヴァンの元へと寄ってきていた。
本来、モンスター達を見境なしに引き寄せる効果を持つ角笛は、防御力に長けているランス使い等が使用するのが定石だ。間違っても、装備の薄いガンナーが使う物では無い。むしろどうにかしてモンスターの注意を惹かぬようにするかもガンナーとしては重要なスキルと言える。
「おーおー。大漁大漁! ひい、ふう、みぃの……ん、村長からの依頼はランポス8頭の狩猟だったから、こいつら狩りゃあ殆どクエスト達成だな!」
にも関わらず。そんな定石など知らぬとばかりに不敵な事を述べるヴァンの顔には、ただ獰猛な笑みだけが浮かび上がっているのであった。
◇
「お前の父さん、化け物だな……」
「ちょっと、他人のパパを化け物呼ばわりしないでくれる?」
「……あー、じゃあ超人」
「……ん、それなら良し」
それなら良いのか……と、未だにどこか感性の掴み切れない幼馴染の事を横目で見やる。
二人は今、エリア西にある高台にうつ伏せになって顔をのぞかせるという身の潜め方をしていた。ベルの手には得物のライトボウガンである≪クロスボウガン≫が、レナードの手には双眼鏡が持たれている。双眼鏡は、狩りの最中には中々使うタイミングが無いのだが、こと観察においては非常に有用なアイテムであった。これもまた、実際に狩りに出て知った事である。
ランポスの眼の水晶体から作られたレンズ越しに見るヴァンが、モンスターの群れへと真正面から突っ込んでいくのが見える。
ランポスの鉤爪を紙一重で躱しつつ至近距離から一撃で撃ち抜く様は、レナードからすればライトボウガンと言うより双剣か何かの立ち回りを彷彿とさせた。一撃でモンスターを撃ち抜くカラクリは、武器や弾の性能も然ることながら、近ければ近い程に威力が高くなるという点にある。身の危険は度外視で、純粋に威力の事を考えてその距離で戦っているのだろう。「当たらなければ、どうという事は無い」という訳だ。
いずれにせよ、『ガンナーは遠距離で戦う』という概念から逸脱したものと言える。
「何か、舞うように戦ってるよな。それにスゲェ至近距離。ライトボウガンだからシールドも無いはずなのに、ヴァンさん怪我が怖くないのか……おお、見たか今の? ブルファンゴの突進を利用してランポスの動き止めて、そんでダーンだったぞ」
「…………」
興奮しつつ話しかけるレナードだったが、返る言葉は無かった。疑問に思い、双眼鏡から目を外し隣を見やると、そこには食い入るようにスコープを見つめるベルの姿があった。
大剣を用いるレナードと違い、ベルはヴァンと同じくライトボウガン使いである。
親としてと言うより、同じ武器を用いる先達として、その埒外の狩り方には色々と思う所がある筈だ。この場所に来て双眼鏡を覗いた時からどこか観戦気分に入ってしまっていたレナードは、ベルの邪魔をしないよう口を噤む。そして、いつの間にやら成長している妹の様に思っていた同い年の幼馴染を、優しい目で見守った。
だからだろう。レナードはベルよりも、そして当然離れた位置で戦闘しているヴァンよりも先に気が付いた。
涎を滴らせ舌なめずりをしながら背後より足音を殺して迫りくる、一頭のランポスがそこにいた。
「……ッ!?」
咄嗟の行動であった。慌てた為にベルに声を掛ける事も出来ず、レナードはただベルに覆い被さるように身を動かした。
「キャッ!? ……ちょっと、何!?」
「く、このッ!」
『ギギャアア!』
肉を切り裂く用途で用いられるギザギザとした歯を、喉元へ突き立てようとしてくるランポスと、両手でその顔を掴んで必死に食い止めようとするレナード。更にはレナードの下にいる為邪魔をしないよう碌に身動きが出来ず、オマケに格闘の最中に得物のボウガンに体が当たり高台の下へと落ちてしまったベル。
三者が縺れあいながらも必死に戦い合う様は遠くで戦うヴァンの様な一種の美しさとは程遠い、正しく泥仕合といった様相を呈していた。
牙に加え爪を突き立ててこようとするランポスに対し、レナードも籠手を着けた腕で以て顔面を殴り付ける。レナードは防具を着けている為にランポスの牙が中々通らず、レナードの拳も腰が入っていない仰向けの体勢の為に大した威力も無かった。
均衡を崩したのはレナードの足であった。ランポスの腹部に足をねじ込む形から蹴り上げたのだ。ダメージはそれ程でもないが、問題は無い。距離を取る事が目的であったからだ。
「ボウガン取ってくる!」
「おう!」
短い応答の後、ベルはヒラリと高台から飛び降りて行った。
後に残ったのは、手元にある≪アイアンソード≫を構えたレナードと、警戒をして威嚇の咆哮をあげるランポスのみである。
「…………」
徐に、レナードはアイアンソードを正眼へと構えた。
本来の狩りであれば、有り得ない事である。状況が刻々と変わり、臨機応変な対応が求められる狩場においては、機動力が重要な要素となってくる為だ。
熟練の大剣使いならば、基本の立ち回りとしては移動の際は常に背に収め斬りかかる時に抜刀しながら攻撃する。あるいは足を止め、攻撃は最大の防御とばかりにモンスターに反撃を許さぬよう怒涛の連続攻撃を行うといった攻撃方法か。どちらにしても、抜刀した状態での行動は、機動力を無視している。何故なら、大剣は重さが――材質によって大きく変わってはくるが――、レナードの持つ鉄鉱石製のアイアンソードで300kgは下らない代物。むしろ軽い方だ。『気』の使用によって持ち、振り回す事こそ辛うじて出来るのだが、抜刀したまま走り回る事など土台不可能と言える。
だが、今回レナードにとって機動力は必要が無い。ボウガンを取りに行ったベルが戻ってくる、ヴァンがモンスターの群れを狩猟し尽くしてこちらにやってくる。いずれの場合もレナードにとって好ましい状況と言える。
時間は、レナードにとって味方なのだ。ならば、亀のように身を竦めての待ちの一手は理に適っている。
レナードが動く気配が無い事を感じとったのか、ランポスが動き始めた。いきなり飛び掛かって来るような縦の動きでは無く、身の軽さを存分に生かした軽快なフットワークで左右へと動きレナードに照準を絞らせない。
ランポスが動くたびに重い大剣をランポスの方へと向けるのだが、その動きは鈍重の一言に尽きる。幼さすら残るその身に大剣は余りにも重すぎた。
その間隙を突いて、ランポスが大きく回り込むように横合いから接近をしてきた。
「くっ……!?」
(大剣じゃ、対応できねぇ!?)
ガランと音を立て、大剣が地に伏せる。
レナードは得物である大剣を手放すという大きな決断をした。この状況において、当たらない大剣よりも速さこそが鍵を握る。そう判断したからであった。
再度喉元目掛けて牙を突き立ててくるランポスに対し、レナードは冷静であった。冷静に、迷わず左腕を盾とした。
「グ、ウッ……!」
あるいは。
全くもって冷静では無かったのかもしれない。援軍が駆けつけるまでの時間を稼ぐだけならば、大剣を盾にして防御に徹したり、逆に大剣なりなんなりを捨てて少しでも身を軽くして逃げ出すと言うのも手だ。見栄えや今後の醜聞さえ気にしなければ、命は助かるだろう。
だが、前提が違った。胸に燻る小さな火種が、レナードにその行動を良しとはしなかったのだ。
(目の前のコイツは、何としてでも俺が狩る……!)
ハンターは仕事、生業だ。仕事において、冒険はするべきでは無い。しなくても良いのならば、命を落とす危険な行為などするべきでは無いのだ。
そんな常識はレナードとて理解が出来る。彼とて、自己犠牲と献身の果てに成り立つ正義の味方などになりたい訳では無い。
だが、それと同時に。こうも思うのだ。
気骨無くして何とする。無謀と勇敢ははき違えてはいけないと言うが、ではこんな時はいつだって逃げなければいけないのか。何のこの程度と鼻息荒く敢えて前に進むからこそ、活路の光が死中に見出せる場合もあるのでは無いのか。
狩るべきモンスターを狩る、為すべきクエストを為す。千差万別あるアク強きハンター達のそれが、それこそが共通した狩人として為すべき事では無いのか。
「なら、俺はっ……!」
そう呟いたレナードは、右手で剥ぎ取り用のナイフを掴み、そしてランポスの左目に突き立てた。
『グギッギャアアッ!?』
「オオオオオッ!!」
顔を返り血で赤く染め上げながら幾度も、幾度も、左腕に食らいついて離さないランポスの顔を抉っていく。ランポスの咀嚼力はどうやらスティールアームの硬さを上回っており、既に下にある肉まで貫いてしまっている。だが皮肉にも、それが同時にランポスがレナードから離れられない要因ともなっていた。
「カハッ、カハッ……!」
やがてレナードはどんなに吸っても足りない程に、まるで喘ぐかのように呼吸を繰り返す。
既にランポスは絶命していた。必要以上に切り刻まれた顔面はズタズタとなっており、既に原型を留めてはいなかった。おまけに左手も食らいつかれてブンブンと首を動かされていた為に、腱こそ切れてはいないが結構な出血と傷跡となっている。
ヴァンが見れば、褒めてはくれない事は容易に察しがついた。
とは言え。
へたり込むように座り込み、回復薬を飲み干しながら空を見上げる。胸にこみ上げるのは充実感だ。
「フフフ、ランポス一頭に何て様だよ……」
込められているのは自嘲か、それとも別の何かか。自分でもよく分からない思いと共に、含み笑いが止まらない。
「もう少し、上手くやれると思ってたんだけどなぁ……」
瞬間、銃声が二つ鳴り響く。
「――そーね、全く」
『ギギャアッ!?』
慌てて横を見ればもんどりうって倒れたランポスが、そして反対側には銃口から硝煙を立ち上らせたクロスボウガンを構えたベルがいた。
「パパみたいに一発じゃ倒せなかったわ」
「……そーな」
レナードには苦笑いしか浮かばなかった。
◇
「うし、そいじゃ帰るかお前ら」
はーい、へーい、と疲労から気の抜けた表情を浮かべ、全身から疲れたオーラを発してノロノロと歩く二人の新米ハンターの様子を見やり苦笑いを浮かべる。
(ガキだガキだと思ってきたが……な)
いや、子供と言うのは間違ってはいないのかもしれない。子供の方が、成長著しい物なのだから。
(気弱で甘えん坊な性格だったベルもそうだが……)
むしろ、ヴァンが驚いたのはレナードの方であった。
レナードは、幼い頃から大人びた少年であった。いや、その表現は的確では無い。大人しいという印象も無く、むしろ活発といって良い程に同年代の子供達と一緒に良く動き回っていた。大人びた、というのはその際に遊んでいる様子が同年代では無く、まるで大人が遊んであげているかのように周囲に目を配っていたからだ。
周囲に目を配る事が出来ると言うのは、ハンターにとって大事な事の一つだ。その為、当人が決める事である為にヴァンとて直接言いはしなかったが、レナードの父親がハンターであった為ハンターを目指せばいい線を行くのではと期待もしていた。
だが、レナードにはハンターとしては大きな欠点があった。
血を厭う傾向があったのだ。より正確に言えば、生き物を傷付ける事に抵抗を持つ、といったところか。
抵抗らしい抵抗をしてこないケルビを捌く事にすら躊躇していた程なのだから、折り紙つきと言える。
それを踏まえて考えてみれば、確かにヴァンの知る限りレナードは大きくなるまで喧嘩らしい喧嘩をしていないように感じる。
なまじ子供らしからぬ知恵を持つから、衝突する前に上手く言い包めたり気を逸らしたり出来てしまうのだ。
将来の村長候補としては頼もしい限りなのだが、ハンターとして血を厭うのは致命的とも言える欠陥であった。
そんな問題を乗り越え、今自分の足でしっかりと狩り場に立っている。その事にヴァンとしては驚嘆せざるを得ないのだ。
(人物評価を見誤るとは、俺も年取ったかね……?)
ハンターとなってこの方、外れた事の無い選別眼が外れてしまった事に気弱な言葉を心中で漏らしてしまう。
(だが、まだだ。まだ、このガキ共を一端にするまで、俺が先に立って導いてやらにゃあならんわな)
口の端に笑みを浮かべる。いつもの飄々とした表情を浮かべ直し、疲れから前傾姿勢となっている二人の背中を勢いよくバシーンと叩くのであった。
時系列が違うので、一応番外編という位置づけに。