モンスターハンター~狩人レナードの軌跡~≪改稿版≫   作:ATA999

12 / 20
依頼人:怒った男
オレッチが砂漠を軽快に渡ってたら、アイツらに囲まれたんだ! 
持ってた食料を囮にして何とか逃げ出したんだが、このままじゃ腹の虫が収まらん!
オレッチの代わりにアイツらを懲らしめてやってくれや!



第十一話 鳥も痺れを切らすまい!?

「寒いな……」

 

クルプティオス湿地帯、通称『沼地』に着いたレナードは、腕をさすりつつ一言そう呟いた。

地理に関しての知識がレナードには無い為理由は分からないが、ここは昼間は常に雨が降り注いでいる場所だ。故に常に薄暗く肌寒い。更に言えばこの地には地面に毒素が含まれている。昼間こそ雨のおかげで毒素が薄まっているが、夜は雨の水分が無い為に毒素が濃くなり毒沼となって表れてきている。そういった土地柄にも関わらずここにハンターが訪れるのは、『毒』に関連した際には非常に優秀な素材がある事や、天然の洞窟の中には≪灰水晶の原石≫を始めとした数多の良質な鉱石も存在している。非常に低温だからか本来であれば雪山のような寒い土地にしか存在しない≪氷結晶≫がある事にレナードが気付き、以前それを買う為に商人に大枚はたいた事を後悔するのはまだ先の話である。

 

閑話休題。

 

「まぁ、ホットドリンクが必要な程では無いけども」

 

如何に気によって体力が向上しているハンターとはいえ、雨に打たれ続けながら長時間心身を疲弊させるクエストを続けていれば風邪を引いてしまう事は避けられない。念には念を入れ、結局レナードは前言を撤回しホットドリンクをぐびりと飲み干すのであった。

 

「あいつ等、大丈夫かなぁ……」

 

クエストに出ていく前、口元を拳で拭いながらレナードが思うのは言うまでも無くセイディとベルの事である。自分でくっ付けたとはいえ、やはり荒療治な具合は否めない。少々性急に過ぎたか? とも今更ながら考えてしまう。

 

「あいつらどっちも何だかんだで意志曲げんからなぁ……」

 

気温の低さとはまた別の理由で、レナードはブルリと身を震わせる。

 

「とは言え、毒は必ず集めとかねーと。アイツがやってくるのはそう遠くないだろうし」

 

レナードの脳裏によぎるのは、あるモンスターであった。強靭無比にして災害と同等と称せられる程の存在。古龍である。その中の一つ、風翔龍・クシャルダオラ。風を司る存在であり、ゲームでは暴風雨を引き連れ最初に主人公と相対する古龍でもある。

 

しかし恐れる事は無い、古龍とて如何に強大とは言え生物には違いないのだ。人が積み上げてきた知識を基に相手の弱点を攻めていけば必ず討伐出来る筈だ。現実では無い電子の世界にせよ数多の古龍を屠ってきた実績があるレナードは、確かな自信と共にそう確信する。

 

「ふふん、来るなら来てみろ風翔龍……! あ、いやまだ来るなよ、準備出来てないから」

 

クシャルダオラ最大の弱点は毒だ、毒が付与されるだけで彼の龍は古龍にあるまじき程に弱体化してしまう。その為レナードはこの沼地で≪ドスイーオス≫のようなモンスターを狩って毒属性を持つ片手剣を作成しようとしていた。毒にさえしてしまえば、クシャルダオラも恐るるに足らず。この世界の常識を持つ者からすれば根拠のない慢心、レナードからすれば根拠のある確信で以て自信溢れる態度を取っていた。

 

「さて……行くか」

 

拙速は巧遅に勝るという言葉通り、周囲の風景を観察する事も程々にレナードは狩場へと駆け出す。

 

そうする事で、多少意図的に彼女達の事を考えないようにした事を否定する事は出来ない。

 

 

 

 

 

 

「だから、ここに詳しい私が指示を出すって言ってるんです!」

「アタシに決まってるでしょ!」

 

ぐぬぬぬぬ……と二人してベースキャンプの前で額と額を突き合わせて睨みあう。今回も船頭を務めていたリューズがハァ……と重苦しく溜息を吐く。もう30分は言い合いをしている、いい加減疲れないのだろうかとも思うがそこは流石はハンターという事なのだろう。それに、言うまでも無くこの場の空気は最悪となっている。今回は前回の狩りからそう間を置かずにここに来たので荷物も少ない為、アルトのようなハンター見習いの少年少女もいないので道中は三人旅。口が挟める訳も無いリューズに出来たのは、こんな状況の二人を押し付けたレナードを恨む事だけであった。

 

「私は師匠と一緒に砂漠で狩りをした経験があるんです! だから私がリーダーになるのは当然なんです!」

「経験って言うんだったらアタシの方が長くハンターやってるし、その分だけ臨機応変に事態に対応できるわよ! それにアタシは後衛、モンスターから離れてる分だけ指示も出しやすいわ! アンタは道案内だけしてればいいのよ」

「そんな事言って、ガンナー用の防具は剣士用に比べて薄いんだからもし近付かれたらパニックを起こして指示どころじゃ無いんじゃ無いですか!?」

「なんですって!」

「なんなんですかっ!」

 

再度睨みあう二人。

この二人の譲らぬ主導権争いは、実のところレナードが関係していた。

レナードとしては特に深い意味も無く別々の場所で二人に「じゃあ、頼んだぞ」と言い残した訳だが、その言葉が悪かった。頼むなどと言われた二人はお互いがお互いにパーティのリーダーとして意識してしまったのだ。

 

とても全てを聞いてなどいられないリューズは無限ループに陥ったかのような状態だと思っていたのだが、話題はいつの間にやらお互いの事に移っていた。

 

「大体アンタは年上に対する敬意ってモンが足りないのよ! 全く、何でレナードもこんなチンチクリンを弟子にしたのかしらねっ!」

「ち、チン……!? い、言いましたね~!? ベルさんこそ、そんな性格じゃ自分勝手で我が儘な性格じゃ師匠に嫌われてるんじゃ無いんですか!!」

「……ッ!?」

 

その言葉を聞いて、荒ぶっていたベルが突然怯んだように口を噤む。

 

「ち、違うモン……レナードは、そんな事言わないもん……!」

「もん!? ……ふふん、また随分と子供っぽい口調をするんですねー!」

 

相手が怯んだと見るや、常よりも数段凶暴と化したセイディは相手の弱点を執拗に嫌らしくも攻めたてていく。狩りにおいて情けも容赦も排除するその有様は、正しくハンターの在り方と言っていいだろう。唯一の聴衆であるリューズは「女、怖いぞー……」と言って完全に腰と言わず全身が引いていたが。

 

そうこうしている内に、セイディも口論の熱が冷めてきて幾分落ち着いてきた。途中から上機嫌な様子で目を瞑って話していたので気が付かなかったが、互いに言い合う事で熱しあっていた相手のベルが口を閉ざして俯きながらプルプルと震えていた為であった。というか、端的に言うと泣きそうである。その様子を見て平静に戻ったセイディは非常に慌ててしまう。

 

「あ、あれ……?」

「……いじめっ子ー」

「だ、黙ってて下さい!?」

「……アタシ。ホントはもっと泣き虫で、人見知りで、引っ込み思案だったんだ……」

「ええー……?」

 

何やらベルによる独白が始まってしまった。雲行きが怪しくなってきたのを、セイディはハンター特有の危険察知能力により肌身で感じ取る。

 

「でも、何故か知らないですけど。なーんか妙に既視感があるようなー……?」

「何言ってんだー、お前とレナードがおいらの船の上で身の上話した時と同じ展開なんだぞー。全く、あの時は中々大変だったってのに……」

 

リューズの指摘にセイディの頬が引き攣る。あの時自分は村の現状に焦っていっぱいいっぱいだった為にどんなモノか詳しくは覚えてはいなかったが、まさかこちら側がこんなにも胃が痛い物だったとはセイディは想像だにしなかった。

 

(し、師匠……。今度、何かお酒でも奢ります……)

 

今ならば、きっと酒場のカウンターでパティも含めて共感しながらお酒を飲める気がする。

やや現実逃避気味にセイディが思考している間にも、ベルの内心の吐露は続いていた。

 

「昔、ね? 10歳ぐらいの頃、レナードに聞いた事があったんだ。近所の悪ガキ達にからかわれた言葉の中に、『お前みたいな根暗女のブスなんか、誰が嫁にもらってくれるんだよ!』って言われたから。『ねぇレナード、レナードもやっぱり明るくて笑顔がかわいい女の子の方が好きなんだ……よ、ね?』って」

 

眉を困ったように寄せ気落ちした様子で語るベルの髪同様に桜色をした目は、力が抜けたように垂れ目に変わっていた。きっと本当は優しくも穏やかな性格をしていたのだろう事はセイディ達にも予想はついた。

 

「そしたらさ。『そうだなぁ、ベルはもうちょっと自信を持って皆を引っ張るぐらいになれば、もっと魅力的な女の子になるんじゃ無いかな。ああ、今でも十分に可愛いけどな』なんて言ってくれちゃってー……えへへ」

(あれ……いつの間にやら、何か惚気られてる? と言うかそれって、お兄さんがおませな女の子に言うような感じなんじゃ……)

 

思いはすれど、口には出さず。と言うか、性格を意図的に無理して変える程の努力が無駄でしたなどとは流石に不憫すぎるのでセイディには口に出せなかった。

 

しかし、今までの態度が自分の好きな人の為に背伸びをしていた仮初の姿だった。そう考えると、途端にセイディには目の前の女性が好ましくも思えてきた。

 

最早当初の背筋を伸ばし睨みつけてくるような様子は微塵も見せず、未だモジモジと何やら独り言を呟いているベルに語りかける。どこか恋話が大好物なおばちゃんの雰囲気を醸し出すように口元のニヤニヤを隠しながら。

 

「いやー、それにしても師匠も隅に置けませんねぇ。こんな可愛らしい人に好かれてるだな・ん・て!」

「な、にゃにをぅ!? ンンッ! ……何を、言ってるの。私はただ、レナードは幼馴染だし? 家族同然と言ってもいい間柄な訳だし? つまり家族が困っているのを助けるのは当然の事だし? つまり当然の事を当然のようにしているだけな訳であって――」

「そうですね、そうですねー。さあさ、時間も押してきましたしちょっとばかし巻きで行きましょうっ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよー! 絶対分かってないから、それー!? ……あぅ、またコケた」

 

既に持参する道具の準備自体は終了していた為、二人とも脇に置いていたポーチを引っ掴みぎゃーぎゃーと姦しくベースキャンプから出ていく。

 

「ケンカしたかと思えば仲直りかー……女心は河の流れより解かりにくいぞー」

 

後には、勢いに取り残された形となったリューズが独り。多分、自分には一生理解できないだろう事を確信し溜息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

「いたわね……」

「いましたね……」

 

互いに息を殺しつつ、最低限の確認をする。遮る物の何も無い広大な砂漠であるエリア2付近にある岩場に身を潜めつつ二人が見ているのは、ゲネポス達の群れのリーダーであるドスゲネポスだ。見ている場所の関係上背中しか見えないが、何の生き物かは不明ではあるものの、とにかく肉をただ一頭だけ傲慢に食い散らかしている最中である。周囲に侍っているゲネポス達は、そのお零れに与るという訳だ。

 

「周囲には……1、2……6頭ですか、結構多いですね」

「でも、二人なら何とかなる数だわ。多少時間がかかっても、無理はせず確実に仕留めましょう。ドスゲネポスへは、今回の接触はペイントボールを当ててマーキングするだけでも構わないわ」

 

ベルの出したやや消極的な方針は、狩りの際には安全第一なセイディとしては願っても無いものであったが、彼女の一見勝気な態度とは正反対のものであった。やはり目の前の女性は、本来はハンターになど向かない穏やかな女性なのだとセイディは思う。思うが、決して口には出さない。それは、理由はどうあれここでこうしてハンターとして在る彼女に対する侮辱にしかならないからだ。

 

「分かりました」

 

そう、言葉少なに返す。ここに来るまでに情報は共有済みであるし、狩りともなれば気持ちを切り替えろとは彼女達共通の知り合いであるレナードの言葉だ。弟子であるセイディが、それを守らない訳が無かった。

 

「まずはアタシが狙撃して一頭か二頭仕留めるわ。セイディはその後に駆け出して。死角はアタシがカバーするから」

 

そう言い得物の≪ショットボウガン・蒼≫を構えるベルの様子は、流石に堂に入ったものであった。

 

「え、でも。ここから……行けるんですか?」

「舐めないでよね! これでも今まで殆ど初弾を外したことは無いのよ」

 

現在の彼女達はゲネポス達に気付かれぬよう距離を置いて身を隠している。幾ら彼女のライトボウガンに、弾速が上がる事で飛距離が伸び弾道のブレも抑制される効果のある≪ロングバレル≫が取り付けられているとは言っても、とてもではないがセイディの知るライトボウガン使いのハンターではこの距離で獲物を仕留める事など叶わない。

 

ライトボウガンは、確かにモンスターに接近する剣士に比べれば遠距離からの攻撃とはなる。だが素人が考える物よりは、意外とその距離は近くなる。少なくとも現代の狙撃手の様に安全圏から一方的にというのは無理な話となっている。ライトボウガンにおける推奨距離とは命中精度や威力の減衰を考慮に入れた、ハンター達の長年に渡る経験の賜物なのだ。

 

セイディは密かに舌を巻く。もしそれが本当に為せたならば、先ほど吐露された心の奥底の気性はともかく紛れも無くハンターとしての技量を兼ね備えている事になる。先ほどのハンターに向いていないという感想を撤回せねばなるまい。それもこれも全ては実際に彼女の腕前を見てからの事ではあるが。

 

セイディもまた、いつぞやのイャンクック討伐に用いていた≪ハンターカリンガ改≫を更にランポスの素材で強化した≪サーペントバイト≫の位置をそっと触り確認する。ランポスを素材に使っているだけあって一言で言えばランポスをモチーフとした肉厚な鉈のような形状をしている。そのずっしりとした確かな質感は、セイディに頼もしさを感じさせる。

 

「…………」

 

集中していっているのだろう、見る見るうちにベルの顔から表情が削ぎ落とされて無表情へと移り変わっていく。一人きりの狩りならば、周囲に気を配らねばいけないのでこんなにも深く一点に集中する事は出来ないが、今はベルの横にはセイディという仲間がいる。その為警戒などお構いなしにスコープの中の世界へと没入する事が出来たのだ。少なくとも、僅かな間ならば後ろを任せられる程度には、ベルもセイディの事を信用していた。

 

(左……右……立ち止まって鳴き声……左)

 

始めのうちは目標であるゲネポスの動きを頭の中で言葉に起こしつつ行動をトレースしていく。ガンナーに必須技術である獲物の行動の先読み、そしてそれと並行して大気の情報を始めとした周囲の環境の情報を、今度は脳の無意識下で演算もこなしていく。僅かに獲物からずらされている≪ショットボウガン・蒼≫の銃口は、そのブレをも計算に入れている事の証左である。

 

当たる。銃口の安定の為に呼吸を止め、そう確信を持ちながら落とされた引き金は常に比べ酷く軽い気がした。ターン、と遮る物の何も無いエリアに響き渡る音で放たれた≪LV2 通常弾≫は、大気を切り裂くように標的のゲネポスの頭部へと、まるで吸い込まれるように命中した。頭部など米粒よりは辛うじてマシ程度の遠距離から放たれたにも関わらず、その弾丸はゲネポスの頭骨を砕き飛び散った脳漿と共に赤い液体を砂漠の乾いた砂へと染み込ませる。紛れも無く即死であった。

 

「やった、命中っ!」

「まだよ!」

 

初めて眺めた妙技を見て浮かれた様子のセイディを、未だスコープから目を逸らさないベルが短く叱責する。

 

ゲネポス達は一様にこちらへ向けて吠え立ててきている。まだ岩場等の反射する物体が多ければ反響で出所が判りもしなかっただろうが、今いるこのエリアには殆どそういった物が無い。既にゲネポス達にはこちらの居場所が丸分かりとなっていた。

 

「もう一頭……」

 

額から湧き出てくる汗を拭う事もせず、汗が入らぬよう目を細めながらベルはそう呟く。汗の原因はこの暑さだけでは無く、極限までの集中が原因だ。

 

こちらに向かってくるまでにもう一頭仕留めておく。彼女の目論見は少なからずの疲労と引き換えに達成された。

流石に二度続けてヘッドショットはならなかったが、それでも狙いは対象を穿ち二頭目のゲネポスを撃ち抜いてみせた。

 

「はふぅ……上出来!」

 

やっとスコープから顔を外し男らしく腕で汗を拭う。まだ狩りは続くが、ひとまずは上々と言える滑り出しであった。

 

「行きます!」

「常に周囲へ警戒を忘れないようにね!」

「分かってま、す!」

 

駆け抜け様、セイディは一頭だけ突出してこちらに向かってきていたゲネポスの喉を狙い横薙ぎに≪サーペントバイト≫を振り抜いた。柔らかい部位なため、勢いよく血潮が飛び散る。

 

「へぇ……!」

 

無駄の無い鮮やかな手並みである。技量も然ることながら、ゲネポスの体の構造といった知識にも精通していなければ出来ない芸当に、ベルは片眉を上げる事で賞賛の意を告げる事にする。無論後ろを向いて駆けているセイディには気付かれないが。ハンターの中でも年若い自分よりも尚2つ年下というのに加えて、互いに力量の分からぬ中でのパーティという事なのでどうなる事かと思っていたが、どうやらその心配もなさそうだ。

 

セイディには突出した天賦の才こそありはしないが、狩りに赴くに向けて為すべき事は為している。その堅実な戦い方はベルに年齢以上の心強さを持たせるに値した。

 

「さあ、アタシも行くわよ!」

 

ベルもまた、身を隠していた岩場から飛び出し駆け出す。ドスゲネポスを除いたゲネポスの数は残り3頭だ、未だ予断を許す事は出来ない。

 

先に駆け出したセイディを囲もうとするゲネポス達を、ベルが牽制をするように≪LV2 通常弾≫を撃つ。先ほどの様に悠長に狙いを定める事が出来ないので甘い狙いとなった弾丸は、バックステップを踏んだゲネポスに躱される。

 

「チッ、すばしっこい……!」

「ベルさん、閃光玉使いますか!?」

「まだよ、まだ取っておいて! これぐらいなら囲まれた内に入んないわ」

 

やがてゲネポスに回り込まれ退路を断たれてしまう。

合流し背中合わせになったところで短く問い掛けてくるセイディに、同じくベルは短く指示を出す。

と同時に、ガンナー用のポーチから通常弾とはまた違う、新たな弾を取り出し手早く装填していく。

 

剣と盾を構えるセイディよりも、一見無防備に見えるベルを狙おうと考えたのかゲネポスが一頭ベルの喉元へ食らいつきに来る。

 

「――残念」

 

ゲネポスの牙がベルの柔肌に食い込むよりも、僅かに装填が完了する方が早かった。≪ショットボウガン・蒼≫の銃口が大口を開けて間抜けにも飛び掛かってきているゲネポスに向く。精密な狙いを付ける必要などない、この弾はそういう代物なのだ。

 

≪散弾≫。それが新しく装填した弾の名前だ。そもそも名前からしてベルの得物の名はショットボウガンなのだ、ショットガンのように対象に複数回命中してくれる≪散弾≫の運用に重きを置く事は容易に想像が付く。

 

その弾の威力の一つ一つは、通常弾の一撃に比べれば弱いと言わざるを得ない。だがその一撃の弱さを扇状に弾をばら撒く事で補う。すばしっこく小さな相手には有効であるし、逆に図体のデカい獲物にも複数で命中していく為に有効となる弾なのである。

 

ゲネポスもまた、軽やかなフットワークでこちらの攻撃を本能的に躱そうと動き回っている。ここは避けられない散弾で相手に手傷を与え、然る後に動きが鈍ったゲネポスを別の弾で止めを刺す――。

 

という常識を。ベルは容易く覆す。

 

まるでライトボウガンそのもので攻撃するかのように、抉るようにゲネポスへと突きだしたのだ。その後、間髪入れず弾を射出。ほぼ零距離で放たれた≪散弾≫は、飛び掛かってきていたゲネポスの体に数十の弾丸となって襲い掛かる。翼を持たぬゲネポスでは回避できる訳も無い、散弾はゲネポスの体をまるで蜂の巣のようになるまで穿ち続け、その勢いは鱗を貫きその肉を抉り取るに十分な威力となっていた。ボロ雑巾のようになった体で、それでも微かに鳴いた声だけがそのゲネポスが生きていた証拠であったが、それも砂漠の乾いた空気に露と消え形も残りはしなかった。

 

「よしっ、次……っ!」

 

考え得る最上の結果で撃破出来た事に浮かれず、再度ライトボウガンに装填する弾を通常弾へと変えつつ鋭さを増した眼差しで次の目標を見やる。

 

先程まではセイディと背中合わせであったが、敵同様軽快に動き回るのを特徴とするセイディやベルではいつまでもそうしている訳にもいかない。それでも常に目まぐるしく体を回転させながら戦う事でセイディはゲネポスに死角を突かれぬように戦っていた。その刃が見事一頭のゲネポスを捉え息絶えさせていたのをベルは確認する。

 

死角を突かれぬようにしているのはセイディだけではない。

周囲の空間の把握を怠るのは命取りとなっているベルにとっては、既に近付いてきているゲネポスにはとうの昔に視認していた。

そして、同時に。ガンナー特有の卓越したベルの目には、一頭を斬り倒したセイディの後ろに襲い掛かる存在もまた見えていた。

 

ゲネポスよりも一回り大きい体格にV字形のトサカ、裂けた頬の辺りからは隠す事も無く涎が滴り落ちている。

マズイ事にセイディは斬り倒したゲネポスへ残心をしている為、未だ後ろから近づく群れの長ドスゲネポスの脅威に気付けてはいない。常ならば問題にならぬ程の僅かな時間の立ち止まり、賞賛されるべき仕留めたモノへの残心。この時に限っては、それらが合わさり最大の悪手となっていた。

 

「……ッ!」

 

己に突き刺さりそうになったゲネポスの牙を認識すると同時に、ベルは時が遅く感じる。死に瀕した際の極限の集中が、人に生き延びる為に足掻く事が許される時間を与えるのだとは、幼馴染がまるで物知りな先生のように人差し指を立て教えてくれた事だったか。

 

更にもう一つ、幼馴染はそれに関連して教えてくれた事がある。過去の経験から今直面している死の危機を乗り切る方法がないか、脳が必死に探している状態――『走馬灯』が見えてくる、というものである。

ならばベルは知っている。初めての狩りの際、偉大なる先達である父が見せた曲芸染みたあの動き。それが再現できるならば、この危機も乗り越えられるに違いないのだから。

 

時が戻った瞬間、一瞬の逡巡すら己に許しはせずにベルは行動する。側転気味な雰囲気で強引に体を捻り、銃口をドスゲネポスに向け弾を射出する。碌に狙いも付けてはいなかった為に僅かにドスゲネポスの鱗を掠めるに留まるがそれで問題は無い。狙い通りドスゲネポスは僅かに後ろに下がり、セイディに己に迫る危機を気付かせる事が出来た。

 

「くっ、うあっ……!?」

「ベルさんっ!!」

 

その代償は大きかった。己自身に迫りくる脅威への対処を放棄しセイディを助けたベルは、ゲネポスの牙から出ている麻痺毒が皮膚より染み込みその場にうつ伏せに倒れ伏してしまった。

 

(パパの腕には、まだまだ敵わないって訳かぁ……)

 

彼女の父であるヴァンならば、あの時無傷でゲネポスの攻撃を軽やかに躱しつつドスゲネポスに一撃を食らわせ、残ったゲネポスを撃ち殺し、然る後ドスゲネポスを狩っていった筈だ。未だ高い頂きを想い、ほんの僅か、動かせる最大限の力で唇を噛みしめる。

 

ゲネポスの麻痺毒は致死性こそ無いものの非常に悪辣で、五感はそのままに対象の運動能力のみを奪ってしまう代物だ。つまり、ゲネポスの麻痺に囚われた生き物は自分が食べられていく様を身動き一つ取れないまま、尋常では無い激痛と共に味わわされるものとなっている。

幸い他に比べればそこまで強力では無い為、体内の気を高める事で急速に毒素を分解する事が出来る。しかしそれでもすぐにという訳にはいかず、10秒ほどはどうしてもかかってしまう。

 

倒れ伏す砂の熱せられた暑さ、そのざらついた感触は肌で鮮明に感じられるというのに身体に力が入らない。そんな奇妙かつ絶体絶命の状況下で、瞼もまた例外では無く力を失い徐々に下がっていく。

 

少しずつ黒が占めていく世界、そんなジワジワと迫ってくる絶望を。しかしベルは心の中で笑い飛ばす。

 

「よいしょぉっ!」

『ギアアッ!?』

 

 

眩い光は目を閉じていても尚眼球へと到達してくれる。目を閉じていてもゲネポス達の困惑が目に浮かぶ。

 

気で活性化させる事で一般人に比べハンターは短時間で麻痺毒が抜けてくれる。薄らと目を開けゆっくりと立ち上がる。まだ痺れは残っているが、精密射撃で無ければ問題は無い。ニギニギとしながらそう判断する。

 

セイディの投げた閃光玉が、間一髪のタイミングで投擲されたのが目と鼻の先で眼を灼かれもがき苦しむゲネポスの姿によって否応なしに理解させられる。

 

「助かったわ、セイディ。命の恩人ね」

「それなら。その前に助けてもらったのでチャラですよ。むしろそれが原因でベルさんが……」

「はい、ストップ。それ以上はベースキャンプに戻ってから、ね?」

 

この場で反省会をはじめようとする勢いのセイディを留める。まだ狩りは続いているのだ、そんなものは安全地帯で存分にやればいい。その提案にセイディもまた言葉無く頷き同意する。

 

ゲネポスに限らず、視界に頼るモンスターには閃光玉は相当有効な手段である。あれ程鬱陶しくフットワークを使っていたゲネポス達が、目を瞑り立ち止まってあたら吠え散らしているのだ。おそらく、彼らの眼には最後に見た光景がそれはもうくっきりと焼き付いている事だろう。

セイディへ、顎で残った一頭のゲネポスを狩る事を指示し、自分は麻痺の残る指先で以て落ち着いた動作で別の弾を装填する。

 

そっと銃口を前方へと向ける。未だ視界の回復しないドスゲネポスのいる、前方へだ。痺れによる震えも無い、距離や風の有無もまた外れる要因にはなり得ない事を瞬時に判断する。妨害しようとするモンスターも周囲にはいない今、ベルの弾丸がドスゲネポスの頭に当たらぬ道理など有りはしなかった。

 

『ギャウッ……?』

 

トスッ、と。音が聞こえるようなぐらいに呆気なく、絶好の機会で放たれた一撃はドスゲネポスの頭部に見事吸い込まれた。が、未だ健在。怒りに打ち震え視力の回復した血走った眼でベルを見つめるドスゲネポスは、まだ生きていた。

 

しかしベルは動じず、真っ直ぐにドスゲネポスを見つめ何も動こうとはしない。彼女は知っていたからだ、彼女の撃った弾の効果がまだ出ていない事を。そして、もう目の前のドスゲネポスの運命は決まっている事を。

 

『ギャァウッ!?』

「ぃよしっ! 完璧っ!」

 

突如、ドスゲネポスの頭部が爆発をしたのを見て小さくガッツポーズを見せる。ベルが最後に放った弾丸は≪徹甲榴弾≫。標的に突き刺さった後、時間を置いて爆発する強力な弾だ。徹甲の名の通り、堅い飛竜の甲殻を貫く事を目的としている弾である。

 

値段・効果共に現時点でのベルの切り札と言える一発であった。

飛竜の甲殻すら破壊してしまう爆発に鳥竜種であるドスゲネポスの頭部が耐えきれる筈も無く、むしろ半端に硬い為に皮肉にも衝撃が頭蓋で反響し威力を数倍にも高めてしまう。

 

徹甲榴弾の爆発にドスゲネポスの頭部は頭蓋骨の破片や脳漿を撒き散らしながら無残に消し飛んでしまい、僅かに残った部分も砂漠の砂に虚しく飛び散っていった。

 

最後に首なしの死骸となったドスゲネポスが、パタリと砂の上に倒れ伏すのを見て二人はようやく緊張の糸を解く。

 

「やりましたね、ベルさんっ!」

「そうね、お疲れ様! さ、さっさと剥ぎ取って汗ふきましょ? アタシもう汗だくだわ」

「賛成です! 私も、それに加えてゲネポスの血までかかっちゃってるから、実はスッゴク気持ち悪いんですよねー」

「油断したら口の中とかインナーの中とかに砂粒が入ってザラザラしたりするしね」

 

互いに見つめ、クスクスと嬉しそうに微笑みあう。

砂漠という過酷な環境で命を預け合ったからか、思いを曝け出したからか。砂漠に来た頃とは全く違う様子で、剥ぎ取りを終えた二人は和気藹々と帰っていくのであった。

 

仲睦まじくお話をする二人の様子に、一人船を漕ぐリューズが寂しがったのは余談である。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。