モンスターハンター~狩人レナードの軌跡~≪改稿版≫   作:ATA999

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第十二話 嵐の前の

「はぁ……ふぅ……んー、降って来ちまっただなぁ」

 

木々がひしめくテロス密林を、大きな荷物の塊が歩いていた。そう思わせる程に、背負子に載せた商品と比べ小さな老婆が小さな歩幅で、しかししっかりとした足取りで一歩、また一歩と北方の村より南下してきていた。

 

「……ん?」

 

ふと、雨の向こうに黒い『何か』がいる事に気が付く。

 

『グルルル……』

 

途端、雨や風が今までの比では無い勢いで吹き荒れはじめる。

暴風雨が場を支配するその中心に、「ソレ」は堂々とした態度で居た。大地に根を張る大木すらも吹き飛ばされてしまいそうな風の中、一切揺らぐ事も無く悠然とした態度で地を踏みしめていくその態度は、周囲に己が命を脅かす天敵のいない強者特有の態度であった。

 

「ソレ」は、退化した前足が翼へと変わっていった飛竜の形状とは違い四本の脚で歩んでいた。飛竜が≪ワイバーン≫と呼称されるのなら、「ソレ」は英雄譚に登場するような、≪ドラゴン≫と言うのが最もしっくりと来るだろう。背に生える翼ですら鋼の如き強さを思わせる。

 

「ソレ」は現在、周囲に群がり小賢しくも食物連鎖の頂点に位置する力を利用しようとする者達を意に介する事も無く、ただの気紛れによって世界を回っていた。

 

『ガアアアアッ!!』

「あ、あわわわわっ!?」

 

暴風雨にもかき消されぬ程の大音量で咆哮を上げ、「ソレ」――風翔龍クシャルダオラ――は天高く飛び上がる。自由気ままに、縛られるものなど何も無く暴虐を尽くすのだ。人知を超えた力を持つ強者ゆえに、それを為す自身は無自覚なままに。

 

 

 

 

 

 

「レナード……お前、自分の言ってる事が解っているのか?」

 

単刀直入にレオンはレナードへ問い掛けた。ここはジャンボ村の西部にあるレオンの住む家、その中に入ったレオンとレナード、そして現在のレオンのパートナーであるジャニスという自称・修行中のハンターが席を共にしていた。

 

「ああ、俺の言ってる事が馬鹿馬鹿しい妄言に聞こえる事は分かる。でも、そこを押して頼みたい。――俺に、二人の持っているダイミョウザザミの素材を売ってくれ」

 

ひたすらに真摯な態度でレナードは二人に頭を下げる。何も素材を依頼で欲している者に渡す事は特段珍しい事でも無く、何らおかしい事では無い。ギルドを通さずにと言うところは咎められる点だが、逆に言えばそこしか咎められるところは無い。

 

その点で言えば、レナードの態度は必要以上に仰々しいと言えた。だが、そこに含まれた意味も加味すればそれほどおかしなものでは無い、いや、むしろ足りない程であった。

 

「悔しいが、レナード……お前の腕なら、一か月もあれば十分にダイミョウザザミの素材は集められる事は認めざるを得ないだろう」

「そんな時間は無いんだ……お前も分かってるだろうが」

「……だとすると、お前本当に……」

「ねーねー。一つ質問! レナード君、キミホントに古龍を狩ろうとしてるの?」

 

部屋にあった椅子に逆向きに腰掛け、背もたれにあごを載せながらジャニスは疑問を投げかけてくる。

 

「ああ、そうだよ」

 

何も恥じることは無いといった態度で言い切るレナードに、レオンとジャニスは眉を寄せ難しい顔をした。

 

「村長にそう進言したって言うのは嘘じゃ無かったか……! 馬鹿か、お前! オレ達は所詮雇われハンターだぞ、英雄譚の主人公にでもなったつもりか!? そんな妄想を考えるより、早く村長の所に行って発言を撤回しろ! 急がんと村人の避難も間に合わない事になるんだぞ!!」

 

苛々とした様子でレオンはレナードに言い募る。レオンの言う事はこの世界の常識であった。最も被害の少なく済む方法、古龍という脅威が現れそれが避けられると言うのなら避けるという考えだ。

 

だが、被害が無くなる訳では無い。0では無いのだ。

故にレナードは、この選択を受け入れる事が出来なかった。だが、それと同時にレナードの考える脅威自体を無くしてしまおうなどという発想は、この世界においては全くもって非常識な考えであった。古龍という名称は、それ程までに高すぎる壁なのだ。

 

「……すまん。俺がやろうとしてる事は博打だって事は解ってるんだ」

「だったら……!」

「それでも……根拠はある。勝つ可能性の高い博打なんだ」

「…………」

 

レオンは腕組みをし押し黙る。狩りの腕前についてだけは、レオンとてレナードの事を(業腹ではあるが)評価しているのだ。その為一応は、その古龍という天変地異の化身とでも言うべき存在に勝つ可能性、その根拠とやらを聞こうとした。

 

「ふーん……で、その根拠ってのはいったい何なのかな?」

 

興味を惹かれた風なジャニスに促され、レナードは彼が知る限りのクシャルダオラの情報を話した。無論確定した情報のみだ、少しでも希望的観測の入った情報は話さない。

 

「毒で内臓機能を低下かぁ、なるほど……確かに、それだけ分かってれば付け入る隙はあるかもしれないね」

「ジャニス! お前まで何を言っている! いいか、ハンターは稼業だ。時に危険な賭けに出なければいけない時もあるだろう、だがそれは今じゃない! 今のこの状況は、自分の命を最優先にして動く場合だ! ギルドでもそう戒められただろうが!」

 

ハンターは、つい自分の実力を過信して退くべき時に退かず致命傷を負ってしまうことが多々ある。これは新人熟練腕の良し悪しは関係なく起こり得る事態であり、優秀な人材の損失を恐れたギルドがある時『あくまでハンターは稼業であり、危険だと判断すれば自分の命を最優先にするように』とのお達しを告げた事があった。

 

「ギルドでもそう戒められた……か。ヌハハハハ! そう出来れば苦労はすまい!」

「この声は! ……って、何かこんなセリフ実際に言う事になるとは思わなかった」

 

レナードの若干歪められた表情などお構いなしに現れたのは、予想通り教官であった。いつもの通り自信満々に腕組みをしてレオンの家の入口に立っている。

 

「話はそこで、全て聞かせてもらったぞ!」

「いや、何でいるんスか……」

「ウム、あまりに我輩の訓練所をご利用する者が少ないのでな! 人生の限りある時間を無駄にせぬよう、ちょおっと草花を愛でながら深謀遠慮をしつつ村の散策をしていたのだ!」

「ふーん、要は誰も来ないから暇つぶしにお散歩してたって事かなー?」

 

小首を傾げながら言うジャニスの要約を聞くまでも無く既にレナードとレオンの二人は察しが付いていた為、今も腕組みをしながら冷や汗を掻いている教官を突き詰めるのも面倒だなという理由から、さらりとジャニスの言葉を無視していた。後、僅かながらのデリカシーでもって。

 

「――戒めるという事は、逆に言えば、そうでもせねばソレを皆守れてはいないという事だ」

 

空気が、変わった。

咳払いと共に気を取り直して語られた教官の言葉は、張り上げるように語られてはいないというのに、常とは違い重み……言わば『経験の重み』とでも言うべきものが存在していた。

 

「我輩は現役時代、己の命を最優先にと冷徹に狩りの前に述べていた者達が、いざその時になったらば家族を、恋人を、親友を、総じて仲間達を守る為に自らの命を投げ打ってでも助けようとしている光景を幾度となく見た事がある。我輩自身、投げ打つ側にも、そして投げ打たれる側にもなった事がある」

 

腕組みはそのままに、教官はそっと目を閉じる。まるで命を散らしたかつての戦友達を瞼の裏で思い浮かべ、黙祷を捧げているかのようだった。

 

「そこな若輩者は自分の事をレオン、貴様の言う所の雇われハンターなどとは考えず、村の一員であると認識しておるのだろう」

 

そうだな? と問い掛けるように見てくる教官に対し、レナードは力強く頷く。実際その通りであった。そもそもの話、古龍を避けるために集団で避難をするとして、だ。一体ドコに避難をするというのか。まだ発展途上とは言えジャンボ村の村人の数は既に100を超え300人近くなってきている。当然、着の身着のままで向かう訳も無いだろう。家財道具一式も含めれば、相当な集団となる事は明白だ。そんな集団をいきなり受け入れてもらえる、都合のいい場所などありはしない。

 

何故なら純粋に土地が無いのだ。いや、土地はある。だがより正確に言うと、人間が安全に過ごせる土地が、だ。現在この世界の人間達が住む街や村は、一部の例外を除けば強力なモンスター達の縄張りに入らず、かつ地形的にモンスターに攻め込まれにくい場所に作られている事が殆どだ。当然際限なく広げる事など出来はしない。そんな状況下で村一つ分の人間を受け入れる事など不可能に近い。では村人達を少数に分ければ、と考えるだろう。だが例えば弱い草食の獣が群れを成すのと同じ理屈で、襲いやすい少数で狩り場を横断する事など自殺行為に近い。弱者は群れるのが最良の方法なのだ。

 

それに関連してくるが、ハンターの護衛の数も問題になってくる、如何にレナード達が獅子奮迅の活躍をしたとしても僅か数人で100人以上の村人は絶対に守りきれない。ただでさえ過酷な旅路だ、あるいは体力の無い老人や女子供から落伍者も出てきてしまうかもしれない。

 

頭の中で考えただけでこれだけの問題が山積しているのだ、一人でも村人が死んでしまうかもしれない方法はレナードにとって看過出来はしなかった。それが現代日本人の感性から来る物だったとしても、狩りの合間であるならともかくこんな時にまで非情ぶって直そうとは到底思えなかった。

 

最小限の被害で済ます方法では無く、被害ゼロ。今までの生活の基盤を無くさずに、かつ誰一人の犠牲者も出さずに済む方法。それこそがレナードの目指す目標であり、その手段が原因となる古龍の排除という事なのだ。

 

「まぁ、一匹狼の貴様に分かれと言う方が難しいのかもしれんが。一所に身を置き暮らす村人にとって、村とは大地であり小さな世界なのだ。そうも容易く生きる場所を変えるなどという決断は出来んだろう」

「……チッ、もうオレは知らん。勝手にしろ!」

「……! ありがとう、助かった!」

 

腕を組み、顔を背けながら吐き捨てるように言い放たれたレオンの言葉は、少々分かりにくいながらもレナードを支持する何よりの証拠であった。

この時ばかりはレナードも、レオンに頭を下げ素直に感謝の意を告げる。

 

「私もその話に乗っちゃおうかなー! 意地っ張りのレオン君も、素直になった事だしねー」

「……フン! オレは意地っ張りな訳でも、素直になった覚えも無い!」

「ジャニスも、ありがとう! これで防具を作れるよ」

「ウム、これで貴様も万全の準備が出来ると言うものだな! 精々我輩に感謝するが良い、ヌワッハッハッハ!」

「おい。お前ら、オレを無視するなッ! ……おいッ! おいと言っているんだ!!」

 

独りがなり立てるレオンは、結局誰も相手にする事は無かった。

 

 

 

 

 

 

「……本当に、良いのね?」

「ああ、もう決めた事だ!」

 

酒場の前で、村長と竜人族のお姉さまは深刻な様子で話をしていた。議題は言わずもがな、現在この村に近付いてきている古龍・クシャルダオラについての対処方法であった。

先程のレナード達と同じく、竜人族のお姉さまはここから逃げ出す事を提案。逆に村長は、一人のハンターが古龍を倒す事に賭けるのであった。

 

「……けれどその決断は、破滅へ向かう選択よ。坊や、アナタは、そしてアナタ達はあまりに古龍の事を軽く見過ぎている」

 

竜人族のお姉さまはどこか気だるげに、しかし瞳の奥に真摯な想いを込めて昔馴染みである村長の翻意を促す。長年≪古龍観測局≫の一員として働いてきた彼女は、この場にいる誰よりも古龍について精通していた。当然その脅威にも。

 

「お姉さん……オイラだって言わせてもらおう。きっとオイラはお姉さんの言う通り、古龍の事についてお姉さんからしてみれば何にも知らないんだろう。でもね、一言だけ言わせて欲しい――アンタは、あまりにハンターの事を軽く見過ぎている」

「…………」

 

暫しの間、両者は無言で見つめ合う。やがて、視線を外したのは竜人族のお姉さまの方であった。

 

「……分かったわ、好きになさいな。古龍観測局の調べでは、この村に最接近するまでには後五日から七日。精々、対策をしっかりとなさい……全く、あの洟垂れ坊やが立派になったものね」

「よしてくれよ、照れるだろ?」

「……まぁ、失敗も人を成長させるためには必要って言う訳だしね。精々被害が少なくなるように心掛けなさいな、坊や」

 

昔馴染みの女性に褒められ、顔や頭をつるりと撫でてむず痒そうに鼻の下を指でこすっていた村長は最後の言葉に身を固くする。結局、この女性にはいつまで経っても自分は叶わない事を再認識する。スタスタとどこかに歩いていくお姉さまに、村長は情けなさそうな顔をしながら見送るのであった。

 

 

 

 

 

 

「付いてくるなって言うのは、一体どういう事なんですか!」

「そーよ、アタシ達はそんな言葉なんかじゃ納得できないわよ!」

「お前ら、帰ってきた途端に息ぴったりなの何でなんだよ……?」

 

息を合わせて抗議をする二人に、レナードははっきりと辟易とした顔を浮かべた。自分の知り合い達が仲良くなって、おまけに力を合わせて何か事を為すのは誠嬉しい事ではあるのだが、その矛先が自分自身に向けられているとなると溜まったものでは無かった。

 

「そんな事はどーでもいいの!」

「そうです、どうでもいいんです!」

「あ、どうでもいいんだ……」

 

自分が少なからず頭を悩ませていた案件を一蹴され、レナードは若干顔が引き攣るのを感じていた。

 

「そんな事より! 古龍討伐に向かう事はまぁ百歩譲って良しとしましょう? 危険だけれど、レナードが決めた事だもん。どうせアタシ達が言ったところで変えないんでしょう?   

でもどうしてアタシ達がお留守番なのよ! ……そんなに私達の事、役立たずだと思ってるの?」

「違う、そうじゃない」

 

哀しげに述べるベルに、レナードはきっぱりと否定の意を込めた言葉を告げる。

 

「じゃあ、どうして……?」

「……古龍が出現する時にはな、決まってあるモンスターの群れが現れるんだ。名前を蛇竜≪ガブラス≫って言う。こいつらは必ず結構な数で群れていて、普段は古龍のお零れを狙って集まる習性にある。そしてそんなこいつらの区分は……飛竜種だ」

 

二人の息を呑む音が鮮明にレナードの耳に聞こえたが、まるで何も聞こえていないかのように説明を続けていく。

 

「ガブラスの特徴は、飛行能力が優れていて常に空を飛んでいると言ってもいい程長い滞空時間を持っている所にある。その為体は細く、その割に長大な翼を持っている訳だが。それを生かして上空から毒液を吐いて来たり、鋭い鉤爪で襲い掛かってきたりする……。弱点は大きな音だ、一度下に落ちてしまえば体の構造上しばらくは起き上がって飛び立てないからそこを狙え。それと、弱いやつを優先して襲いかかってくるみたいだから気をつけろ、弱みは見せないようにしろ……まぁ? 幸い一頭一頭を見てみれば、イャンクックよりは強くない奴らだから。問題はその物量って事だな、何せ一頭二頭というレベルじゃ無いんだ。何十、あるいは最悪何百と村にやってくるかも――」

「ちょちょちょっと、ちょっと待って! ……え、飛竜が何百頭もこの村にやってくるって言うの?」

 

ベルは戸惑うように聞き返してくる。当然だ、一頭一頭を狩るのにも綿密な準備の元に行われるのだから。及び腰になるのも致し方ない事ではあった。

 

「……正直、な。ガブラスがクシャルダオラに付いてるって聞いて、迷ったんだ。例え俺の方が上手く古龍を追い払えたとして、ガブラスに村が襲われたら何にもならないからな」

 

レナードは、溜息と共に隠していた心情を吐露した。自分が行くと言った手前決して誰にも話しはしなかったが、目の前の少女達には気が緩んだのかつい弱音とも取れる発言を口にしてしまっていた。

 

「大丈夫ですよ! 私達が手を合わせれば、きっと一山いくらの連中なんて一ひねりです!」

「セイディ……。アナタ、一体どこからそんな自信が出てくるのよ……でも、うん。確かに、そんな気がしてきたわね! 私達ならきっと大丈夫だわ!」

「そうですよ、それに私達だけじゃありませんし! レオンさんとかジャニスさんとか、後教官だって戦ってくれますよね流石に」

「それはそーでしょ。普段誰も訓練所使わないからって、毎日前を通るたびに暇そうにしてるんだから。こんな時にくらい動いてもらわないと、ただ騒がしくてはた迷惑なだけよ」

「ですよねぇ、現状無駄飯喰らいなのは否めません」

「む、う……確かに、教官やアイツ等もいる訳だから、意外といけるのか……?」

 

意外と辛辣な女性陣の評価はさて置き。

熟練のハンターである教官や、現役ハンターが数人存在している。それだけでは無く、村長を始めとした村の皆も色々と動き回ってくれているらしい事をレナードは思い出す。戦えないからと言って決して自分達ハンターに丸投げにしたりはしていないのだ。団結力という言葉が相応しい、村人全員で事に当たっている。その事にレナードは笑みを零さずにはいられない。

 

村の一体感が、僅かに生まれてきた勝ち目の要素が、徐々にレナードの心から憂いを消し去っていくのを感じる。

 

「大体、今回レナードが一番危険なんだからね! こっちの事を心配してる余裕があるんなら、少しは自分の心配してなさい!」

「……良し、分かった! 村の事は皆に任せるから! 必ず守ってくれよな、村も……勿論、お前等の命も」

「当ったり前です! まだ美味しいものいーっぱい食べたいんですから、こんな所で死んでいられませんよ!」

 

結局食い気かよ、そう苦笑しながらレナードは工房へと向かっていった。先ほど譲ってもらったダイミョウザザミの素材でもって、今から工房のばあちゃんに突貫作業で作り上げてもらう予定なのだ。

 

憂いを消したレナードは、前を向き意気揚々と歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

「……行ったわね」

「……行きましたね」

 

その場に残っていた二人は、レナードの歩いて行った前方を見つつそう呟いた。その表情には、レナードと会話していた時とは違い途方に暮れた表情をしていた。

 

「何十もの飛竜だって……どうしよっか?」

「それどころか、何百かもしれませんし……はは。もう笑うしか無いです、はい」

 

一体どうすればいいというのか、まさか戦った経験の無い村人達を戦力に加える訳にもいかない。幾ら自分達だけではないとはいえ、現状戦力であるハンターは自分達含め約4、5人だろうか。具体的な数は分かっていないため概算になるが、一人当たり十頭は見なければならないだろう。連戦の経験も無い二人の心に暗雲が立ち込めるのは、むしろ当然と言える事態であった。

 

「でも……やりましょう。遠くに出ていく男にとって、見送る女は港のようなものなんですから。しっかりと、帰るべき場所を守っていかなきゃいけないんですよ……!」

 

ベルは横にいたセイディの発言の内容に驚き、次に普段の様子とは雰囲気が違う事に再度驚いた。驚いたので、まぁ疑う訳ではないが一応確認をしておく事にする。ハンターとは用心深くあらねばならないのだ。

 

「セイディ……それはとてもいい言葉だと思うわ」

「ええ、私も我ながらそう思います」

「で、一体誰がアナタに教えたのかしら?」

「……い、イヤハヤ。言っている意味が何とも分かりかねますが……これは、大人の魅力溢れるわたくし自身が今までの人生経験から導き出した持論のようなものでして……」

「嘘おっしゃい。アナタがそんな年経た余裕と理解溢れる大人の女性みたいな事思いつく訳ないでしょうが」

 

ばっさりと、隠す気がないのかと言いたくなるほどおかしな様子で言い訳をするセイディの言を切り捨てる。

切り捨てられたセイディは顔を引き攣らせていたが、やがて諦めたように肩を落とす。

 

「故郷の、素敵な奥様方です……」

「やっぱり……」

 

概ね予想通りであった。今の発言は、実際に待つ身となった女性。つまりは誰かしらの妻となった女の発想だと推理していた訳だが、それが見事に的中した形となる。

 

「アハハハハっ! ……まだアナタにはそんな言葉は早いわよ」

「あー、ば、バカにしないで下さいよー! 私だって日々成長してるんですからね、あんなトコとかこーんなトコとか……」

「そういう事じゃ無くって。セイディにはセイディにしか無い魅力があるって事よ。――それにしても、ふぅ。笑ったら、何だか気が楽になってきちゃった」

 

どうせ、今この場でヤキモキしたとしてもやる事は同じなのだ。ならば精々、堂々とこの村に来る脅威とやらを迎えてやろうではないか。日々、尋常ではない命の危機というギリギリのストレスと対峙しているハンターならではの思考でもってベルはそう決着をつける。

 

それに、それこそレナードの方が為すべき事の難易度は高いのだ。いつまでも自分達がウダウダとしているなど、自身のハンターとしての矜持が許さない。

 

ベルは、それまでとは違いどこか冷静さを残すこざっぱりとしたハンターの表情となる。後は突然の変貌に目を白黒させるセイディの陰鬱とした気分を変えるため、ベルは頬に笑みを浮かべながらその作業に取り掛かるのであった。

 

 

 

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