モンスターハンター~狩人レナードの軌跡~≪改稿版≫   作:ATA999

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依頼人:ジャンボ村の村長
さあ、遂に村の存亡を賭けた戦いが始まるぞ。
敵は飛竜、≪翼蛇竜・ガブラス≫だ。質も数も十分、相手にとって不足は無い。
心の準備は良いか、みんな? オイラはもう、とうの昔に出来てるぜ。



第十四話 村人こぞりて

「村長……お気をつけて」

「ああ、パティ。キミもな」

 

レナードがやる気に燃えるリューズと共に激流を上って行く頃、村は静かに準備を終えようとしていた。

つい先程まで怒涛の如く降り注いでいた雨は、不思議と止んでいた。ぬかるんだ地面と湿気た空気だけがその存在を証明していた。静かな、あまりに静かすぎる周囲の光景。正に嵐の前の静けさと言える。くゆる篝火だけが、その存在を殊更に主張するように揺らめいていた。

 

そんな中、村人たちの指揮をする為に村に残る村長と、碌に歩く事も儘ならぬ老人と幼子を纏めて一所に避難させる役割のパティが、蛇竜・ガブラス襲撃前における最後の会話をしていた。

 

「村長……やっぱり、貴重な戦力である教官を私達の坑道に回すのは止めた方が良いんじゃ無いでしょうか。現役の皆さんや村人の方たちと一緒になった方が……」

「いや、それはちょっと待ってくれ。なんせガブラスは狡賢いからな、そっちの方に行く可能性は否めない。だからどうしても、年寄りや子供が集まった所にも最低限の戦力は置いておきたいのさ。あの坑道なら入口は一つで横幅も小さいから、守りやすいし入口さえ守り抜けば抜かれる心配も無い……それにしても、あの時のワンワン泣いてた子供が今や立派なお嬢さんで、オイラ達の心配をしてるなんてなぁ。ホントに、人間って言うのは成長が早いモンだよ」

 

どこか感慨深げに呟く村長。パティを見る目は、慈しみに溢れていた。

 

「……村長の坊や、ここにいたの。向こうで最後の確認をしている所だから、坊やも立ち会ってきなさい」

「ああ、分かったよ。……それじゃあな、パティ。ちょっと騒がしくなるけど、もう誰かにしがみついて泣くんじゃあないぜ?」

「もうっ! さっきは成長したって言ってたのに、私をいつまでも子供扱いしないで下さい!」

 

腰に手を当てむむっと怒るパティにハハハと笑いを返しつつ、村長は軽やかに駆け出す。その後ろ姿を見て、パティはどうにも心配が馬鹿らしく思えてきた。いつだって、村長は自分が寂しがらないように尽力してくれていたのだ。今度だってそうなるに決まっている。

 

愛おしげにコチラを見つめてくる竜人族のお姉さまにペコリと頭を下げながら、どこか軽やかにその場から立ち去っていく。

 

「……血は繋がらないけれど、親子ねぇ。歩き方がそっくり」

 

クスリと口元に手を当て笑い。妙齢の美女はそう漏らすのであった。

 

 

 

 

 

 

「乾杯っ!」

 

ガツリと木製のジョッキがぶつかり、辺りに鈍い音が響く。勢いよくぶつかった拍子に中身が跳ね零れ落ちる。透明な液体、その正体は人を酔いに誘う酒では無くただの水であった。

 

「んぐ、んぐ……ぷはぁ! あーやっぱりマズイなぁ、オイ!!」

「ヌハハハハッ! まぁ、キンキンに冷えたビールはぜーんぶ事が終わった後の方が上手いと300年ぐらい前から決まっているからな! 多分だが」

「違いないわい」

 

教官と親方は主のいない酒場の片隅、いつもの場所で二人並んで最後のちょっとした儀式を行っていた。

 

「……それより、親方。貴様本当にその腕、問題は無いのであろうな?」

 

敢えて教官は親方の顔を見ずに、ちびちびと生温い水を飲みつつ問い掛ける。教官が言っているのは親方の左腕、かつてハンターであった親方がハンターを辞める事となった原因だ。腱が切れ、辛うじて繋がったものの握力は今現在でも怪我をする以前の半分にも満たない。

 

「……ビールの入ったジョッキを握る事は、出来る。出来の悪い若造の頭をこれでもかとぶん殴る事も、出来る」

 

(……が、自在にハンマーを振り回す事は出来ない、か)

 

言葉に出さない次の言葉を、教官は心中で察する。その事実を、決してこの男はそれを認める事はしないだろう。先の言葉とて、負けず嫌いな親方にとっては最大限の譲歩と言える。

 

その直接の要因となった巨大なガノトトス、彼の仲間が死んでしまい彼自身こうして後遺症を残す事となったとしても、それ自体は恨んではいないだろう。いつだって自然とは命がけの戦いなのだ、それまでは自分達が勝ち続け、その時は負けたというだけの事。

だがその怪我を理由にして十全に戦えぬ言い訳としてしまう事だけは、自分自身が許しはしないといったところか。

 

「ハーハッハッハ、だが俺にはまだこの右手がある。この、ハンターを辞めてからも只管に鍛え続けたこの右腕が!」

 

確かに、鍛えに鍛えたのだろう。その右腕は自慢するに相応しく、あまりに逞しく力強かった。シオマネキのよう、とまでは行かずとも、一回りは太く見える。現に今まで腕相撲では負けなしと言う連勝記録まで作り出していたのだ。……とある夜にレナードに負けるまでは。

 

(あの時は名勝負だった。「今日はものすごく調子がいいわい」などと言っていた親方と、酒によって僅かに酔いが回り狩場にいるかのように普段よりも気が昂っていたレナード。両者の体の内で高めに高めた気がぶつかり、削り合うかのように火花を散らした。長時間のせめぎ合いの果て、親方は実に豪快に投げ飛ばされたものであったが)

 

何せ台にしていたブレスワインの入っていたタルが粉砕してしまったのだから、そこに加わっていた両者の力の凄さがよく分かる。

 

とにかく、問題は無いという事だろう。何やら自信有り気な表情を浮かべる親方を見て教官は結論付ける。

そもそも、左腕で心配なのは筋力では無く握力なのだ。似ているようで、まるで違う。包帯で腕を固定するなりして握力を補えば、特に問題も無くかつての凄腕ハンターの再臨だ。現役時に比べ、少々腹が出てしまったというのが気に掛かるところではあるが。

 

「まぁ、あのちびすけも中々やりおるわい。心配なかろう……俺の事より、教官。お前はどうなんじゃい。まさかとは思うが、現役から離れて腕が鈍っとるんじゃなかろうな?」

「それこそまさかだ! 我輩の信念的なポリシーにして心中への戒めを加味したモットーたるは、常在戦場であるからしてっ!」

「お前、ホントにその辺の言葉理解して使っとるんだろうな……」

 

親方はナマズのような髭を撫でつつ呆れたように漏らす。傍らに置いてある手入の行き届いた武器を見る限りは問題は無いのだが、どうしても言葉までを評価に加えるとややこしい物となってしまう。

 

(まぁ、詰まる所個性の強いキワモノと言う事だわい)

 

自分の事を棚の上に挙げ、そう結論付ける。

談笑の合間に時折豪快に笑いを混ぜつつ肩を並べて不味そうに水を飲む。お互いに同じような行動を取っているその後ろ姿は、どう見ても似た者同士という印象しか第三者に与えないことに、終ぞ親方は気付くことは無かった。

 

 

 

 

「……よし、爆薬の方は問題無さそうね」

 

彼女の確認していた爆薬は、高熱を秘め爆発性を持つニトロダケと、火に触れると爆発する性質を持つ火薬草を擂り潰し、一定の配分で合わせた物だ。

その為、乾いている火薬と比べると粘度が高く湿気には強い。流石に直接大雨を被れば保証は出来ないが、空気が湿気ている程度であれば問題無く爆発してくれる筈だ。

 

「こっちも、ざっと見た感じじゃ問題無いみたいだぜ。……それで、遂に来ちまったみたいだな」

 

徐に声を低くした村長に釣られ、彼女はどんよりとした曇り空を見る。

時折吹く風に紛れ、ギャーギャーと甲高く耳障りな音が近付いてくるのが分かる。

 

「……もう、ゴメンナサイなんて言ったってどうしようもないわね」

「おや、いつにも増して弱気じゃあないか?」

「……アラ、坊やの事よ? アナタ昔、悪戯して大人に追い掛け回された時に泣いて謝ってたじゃない」

「お、オイラの事はどうだっていいんだよ!!」

 

クスクスと笑うのを苦み走った表情で見やりながら、村長は溜息を吐く。そこにガブラスに対する恐怖など、一欠けらも存在してはいなかった。

 

 

 

 

 

 

村の男達には自信があった。何も根拠の無いものでは無い。

その根拠が、牙を持たぬ無力な獲物では無いことに起因している事は言うまでも無い事だ。確かな腕前の鍛冶師が作り上げた捕食者への反抗の牙、短い時間ながらも確かな手ごたえを感じるほどに濃密な習熟時間。手に持つハンターナイフという金属の光沢放つ牙が、彼らの心を安定させる役割を果たし、身に纏う同じく鉄鉱石とケルビの皮で出来た≪レザーライトシリーズ≫も着用している。更に言えば、傍らには同じ訓練をこなしてきた家族同然の仲間達。総勢60名強。如何に飛竜種といえど、これで対抗できない訳が無い。

 

「き、来た……」

 

その、恐怖を紛らわせる為に塗り固めた偽りの落ち着きを。

 

『ギヤァ、ギ、ヤアッ……!』

 

世界の食物連鎖の上位に位置する飛竜の姿と鳴き声は、さながら陣風に吹かれる木の葉のように容易く吹き飛ばしていく。

 

「あれが……俺たちの、敵……」

「あんな数を、俺たちが……」

「お、多いだろう……?」

「む、無理だ……! やっぱオラ達じゃあ、無理だったんだぁ!」

 

通常、古龍に付き従うかのように現れるガブラスの数は10~20、多くとも50前後と言われている。

 

それですら、対処しきると断言するには多すぎると言うのに。

 

「……目算で、200ってトコロかしら」

「想定してた最大数の、4倍以上って訳か……!」

 

ジャンボ村に迫りくる飢えた飛竜は、余りにもその数が多すぎた。

 

「……今からでも、村人たちをパティ達のいる坑道へ避難ってのは」

「……無理ね。あの坑道の大きさでは中に入れるのは今入っている人達で限界。親方さんの頑丈な船の中、鍛冶屋のお婆様の工房の中……。ガブラスの攻撃を凌ぎ切れる場所なんて、そんな都合のいい場所は早々見つかる訳も無い。……なまじその点が上手くいったところで、私達が中でブルブルとおっかなびっくり震えている間に、家畜のアプトノスやらなにやらを食い尽くされてはいオシマイ。……晴れて、村人全員路頭に迷う事になりましたとさ、なんて事になるわよ」

 

隣に立つ女性の懇切丁寧な説明に、村長は溜息を吐く他無かった。村長とてそんな事は知っていた、ただ確認をしたかっただけなのだ。

 

問題を回避できるかどうかの確認、では無い。

困難な問題に真っ向から立ち向かわねばならない事を、だ。

 

一つ二つと深呼吸をした村長が顔を上げた時、見違える程自信に満ち溢れた表情で以て指示を出し始める。

 

「……あら。てっきり、坊やの事だから怯える村の人達を一人一人励まして回るかと思ったけれど」

「ホントなら、オイラもそうしたいけどさ。でも、そいつは後回しだ。――今はココに並んだコイツ等を、一頭でも多く奴らにぶち当てる事だけ考える」

 

村長の見やった先、そこには大量に並べられた≪打ち上げタル爆弾≫が用意されていた。

 

(……お見事)

 

彼女は言葉に出さず僅かに目を細め、村長への賞賛の言葉を頭に思い浮かべる。

この状況下で、怯えきった村人一人一人を鼓舞していくには余りにも時間が足りなさすぎる。それに加え所詮は見た目と数だけを最低限揃えた即席ハンター、ハンターモドキだ。恐怖心を取り除いたところで百戦錬磨の活躍などしてくれる訳も無い。

 

それよりは、コチラだ。彼女の目の前に鎮座しているのは村の資財を投じて用意された打ち上げタル爆弾、総数およそ300。更に、より確実性を増す為に添えるように音爆弾も取り付けられている。

 

ガブラスは音に弱い、おまけに滞空時間を増やすという理由で長年の淘汰によって軽量化された為、翼を広げた大きさはイャンクックよりも大きいというのに、その体自体は実に脆弱なものとなっているのだ。これら打ち上げタル爆弾や音爆弾の発する衝撃でも十分に有効打となるとの試算も出てある。これら300にも及ぶ打ち上げタル爆弾は、今回の戦闘における最大の戦力なのだ。

 

打ち上げタル爆弾の爆発音で驚かせ、あるいはダメージを与え地に落とした後、ハンターや武装した村人達でトドメを刺す。大雑把に言えば、今回の作戦はこのようになっていた。そしてこの打ち上げタル爆弾による第一段階こそが、最もガブラスの集団との戦いにおいて肝心要の工程なのだ。ならばソコに最も力を入れると言うのは上に立つ者として当然の事。怯えた村人を励ますのには他に適任者は存在するが、こちらはこちらで気候や風向き等の条件を加味して発射のタイミングを計ったり、先程までの豪雨によってタル内部の爆薬が湿っていないか等々と、数え上げて行けばキリがない程に大小様々な作業が存在しているのだ。そしてそれらには竜人族の知識と知恵が少なからず必要となってくる。

 

(まぁ、後ろに女性や雑用程度は出来る子供達が居るって言うのが、何ともアレなのだけれど……)

 

武具を身に付けた男達の後ろを見ると、そこには手に包丁や鍋を持った女性達や六歳から十二歳程度の子供達。妊婦や寝たきりの老人を始めとした最低限の働きすら出来ない者を除いて、村人のほぼ全員が各々何かしら自分でも振るえる物を手にしていた。

 

(ジャンボ村は開拓村……。自然、そこに集う者達は普通の村人に比べれば開拓精神にあふれた気骨ある者達、という訳かしら……)

 

純粋にガブラスとの戦いを考えれば、彼女達は何処かに避難していた方がいいに決まっている。だが、今度は村の財政面がそれを許してはくれなかった。

 

皮肉にも、前述の打ち上げタル爆弾と村人達の武具、守る為に揃えた筈のこの二つが村を苦しめている原因であるのだ。いつの世も軍備には金が食うという事だろうか。村を守る為に致し方ないとは言え、とにかくこれらを用意したが為にジャンボ村の財政は、方々に借金や借りを作り倒し既に限界を迎えていた。

 

要するにこれから襲来してくるガブラス、既にこれ等の素材を剥ぎ取らねばジャンボ村は緩慢に死ぬ他無いという所にまで追い詰められているのだ。

 

ガブラスに食われて息絶えるか、財産が無くなって緩慢に死に絶えるか。

どちらも選択する事は出来ない村の人間にとって、生き残るにはガブラスを倒すだけでは無くその後に剥ぎ取りまでをこなさねばならないという事だ。

 

怪物を倒してハッピーエンドの英雄譚とは違い、何とも世知辛い話である。

 

「……まぁ、とは言え」

 

一見すると何の気なしに、竜人族のお姉さまは一歩二歩と前へ歩む。その実、一頭でも多く確実に仕留める為に忙しく脳内を様々なデータで埋め尽くし、処理をしている真っ最中であった。

 

「世知辛かろうと、少々泥臭かろうと。英雄譚は英雄譚……」

 

すっ、と右手を挙げる。打ち上げタル爆弾の前に位置していた面々が緊張に身を固くした。その手が下りた時、全ての打ち上げタル爆弾が天に向かって突き進み、そして花開くのだ。

 

「――ならば、私も。この一手でもって、その末席に加えてもらおうかしら」

 

力が抜けたかのように、自然と降ろされる彼女の右手。その動きとは裏腹に、一斉に天へ向け薄闇を切り裂く様に爆弾達が先駆けとして舞い上がる。その様相は昇り竜の如し、天を駆け登る昇竜が、誇りを忘れ小賢しき知恵を身に付けた死肉漁りの飛竜共を食い荒らさんと近付いていく。

 

爆音、と呼ぶにも相応しくない程苛烈な音が辺り一帯に響き渡る。一帯を席巻するかの如く衝撃波が一陣の突風となって吹き荒れる。

 

世界が終ってしまうかのような凄まじい音はあらゆる物を呑みこんだ。男達の雄々しい歓声も、女子供の甲高い悲鳴も。そして、ガブラス達の断末魔の叫びすらも。

 

「ぃよーし! ドンピシャ、大成功!」

 

村長は飛び跳ねながら喜びを表す。

大量のタル爆弾は、見事にガブラスの大群のど真ん中に的中し、次々に衝撃波や爆風によって空を舞うガブラスを地上へと無慈悲に叩き落としていった。

 

「……確かに上手くはいったけれど。でも、まだよ」

 

横にいる彼女の、殊更に冷静さを保った言葉に頭を冷やされる。改めて、村長は場を観察する。

地上へと叩き落とされた数は予想以上に大量であり、ざっと見ただけで100頭近く。――200頭の内の、100頭だ。

 

天を見上げれば、先程とは違って散開したガブラス達が各々ジャンボ村の空を我が物顔で旋回していた。

 

(まるで、弱い獲物を見定めているみたいじゃないか……)

 

唇を噛みしめつつ、村長はそんな印象を覚えた。

 

「……おそらく、ガブラスの大きな翼が邪魔をして他のガブラスへ十分に爆発音や衝撃波が届かなかったのね。それであの位置で爆発したにも関わらずあれだけの数が……さあ、とにかくこれから作戦は第二段階へ移るわよ」

 

気持ちを切り替えるように、そう述べていく。

第二段階、村人やハンター達による飛竜との白兵戦が幕を開けようとしていた。

 




ガブラスの数とかは割とその場のノリで決めた適当なのです……。

前回はここらで更新停止してしまったので、明日投稿分から完全に新規という事になりますね。受け入れられるか、少々ドキドキしてしまいます。

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