モンスターハンター~狩人レナードの軌跡~≪改稿版≫   作:ATA999

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第十八話 英雄の帰還

アプトノス車が村を出て、20分ほどが経過した。現在地が見通しの良い平野であり、移動速度が比較的のんびりとしているとはいえ、既に村は小さく点の様になっている。

 

これならば、姿は見えないだろう。

 

「はぁー……」

 

ピンと背筋を張っていたレナードは、大きく息を吐き床へ仰向けに転がった。

 

「おぉー、お疲れさんってなー」

 

その様子に、御者をしていたリューズはケラケラと笑う。そちらの方を無言で一睨みした後、レナードはアプトノス車の隅にいる存在へと目を向けた。

 

「……で? どういうつもりだ、ニャー」

 

その呼びかけに、顔を俯かせ尻尾を弄りながらもビクリと反応をしたネコニャーはまるで悪戯をして親に叱られる子供のようであったが、やがて意を決したかのようにキッと顔を前へと向ける。

 

「に、ニャーもごしじんさまにお供するのミャ!」

 

その姿は、ハンター用に作られる装備をそのまま小型化しアイルー用に再度設計でもされたかのような仕上がりだ。おそらくはレナードのザザミ装備に使用された端材を使用して創られたのだろう。これ程までに完璧な出来で仕上げられる職人を、レナードは一人しか知らない。

 

脳内で、小柄な老女が金鎚を肩に担ぎ高笑いをしている姿が容易に想像が付いてしまう。

 

「ふざけんな、今回は今までよりも遥かに危険なんだぞ。ベル達だって置いてきたんだ、狩場に出た事無いお前が来たって足手まといになるだけだ」

「そんな事無いミャ! ニャーだって、閃光玉とかペイントボールとか投げるくらいなら出来るのミャ!」

 

レナードとネコニャーは互いににらみ合い、一歩も譲らない。僅かに、レナードは違和感を覚えた。いつもならば――少々意外に思うかもしれないが――ご主人第一主義のネコニャーがここまで食い下がる事は滅多に無いのだ。常に自身の事を考えてくれている、自身の事を最も理解してくれている存在……この点において、レナードはネコニャーに対し全幅の信頼を寄せていた。

 

だからこそ、一瞬。ほんの一瞬だけ悲痛な表情を浮かべたネコニャーを見逃した。

 

「そもそも、ごしじんさまならなーんの問題も無いのミャー!」

「……っ!」

「たかがモンスター一匹、ニャーのごしじんさまならちょちょいのちょ~いで倒しちゃうのミャ!」

「……おい。おい止めろ」

「何を止める必要があるのミャ? だってごしじんさまは無敵のハンターで、周りが黙ってても古龍だって何とかしちゃうのミャー!」

「……お前までか? ずっと一緒に暮らしてきたお前まで、俺の事をそんなふうに言うのか?」

 

ポツリ、と。押し黙っていたレナードが言葉を漏らし始めた。

ほんの少しでも冷静に考えてみれば、ネコニャーの言葉と今現在取っている行動が矛盾している事に気が付く筈である。だが今レナードの精神状況は、思いも寄らない不意打ちを食らい緩と急両方から抑え込んでいた筈が揺れに揺れていた。

 

「だーい丈夫ミャ! ごしじんさまは、スッゴク強くて頼もしーんだからどんなモンスターだって朝飯前の晩飯時にちょちょいのちょーいで倒しちゃうのミャー!」

 

満面の笑顔を浮かべ、さぞ嬉しげにネコニャーは歌うように語る。

そんな訳も無いのに。不安に押し潰されそうになりながら、それでも事を始めてしまったという責任感から必死にそんな存在を演じていただけなのに。それを誰よりも傍で見てきていた自分は、誰よりも理解して然るべきだと言うのに。

 

「大体、ベル姉さま達ももうちょっとだけ頑張ってくれれば良かったのにミャ。まぁ手は抜いてない訳だし、あんまりそんな事言うのは不謹慎だからこれ以上は言わないけどミャ」

「止めろ……止めろよ……」

 

分かると言ってあげたい。泣きそうなレナードの表情を見てネコニャーは唐突に、そんな言葉を言ってあげたい衝動に駆られた。

もう無理をしなくていいのだと、穏やかな暮らしに戻ろうと言えるのならばどんなにか良い事だろう。

 

でも、それは言えない。言ってはいけないのだ。今自分に出来る事は、敢えて能天気な無神経な発言を繰り返しレナードの神経を逆撫でさせ、そして爆発させる事。敬愛すべき人が雁字搦めとなって溜めこんでいた鬱憤を、吐き出させる捌け口となる事なのだから。

 

(……こんな美味しい役。ベル姉さまやアイルー女になんか渡せないのミャ……!)

 

「――うるせぇぇ!! 止めろっつってんだろうがッ!!」

「……っ!? ……何がですミャー? ――ちゃーんと口に出してくれないと、ニャーはさっぱり分かりませんミャ!!」

「……何で俺なんだよ! もっと俺より優秀な奴だっているだろうがよ!」

 

恥も外聞も無く弱音を吐いていく。

対等である為に何かしらの努力をし続けなければならない『仲間』では無く。幻想など存在しえない、幻滅される可能性の無い、等身大の姿で最も長く共に在り続けた『家族』だからこそ、レナードは身の内の心情を惜しげも無く漏らしていくのだ。

 

 

「俺は英雄なんかじゃねーんだよぉ、ちくしょう……。ふざけんなよ、こええんだよ、どうしようもなくアイツがこえーんだよぉ……」

「…………」

 

それらの言葉の数々を、ひたすら前を向き御者に集中していたリューズには、決して耳に入る事は無かった。入る事は、無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

旅立ちのさいに村長は、セイディとベル、そしてレオンの激励を『緩と急』と表現し、片方だけでは駄目なのだと述べた。結論から言うとそれは正しくは無かったのだが、その考え自体は合っていた。

 

緩急の両者では無く。言葉を此方から発信する、与えるだけでは駄目だったのだ。それらと同程度に、当事者であるレナードから言葉を引き出さなければいけなかった。

それをネコニャーが行った以上、レナードという鼎は、少々グラつきながらも確かに立つ事が出来た。

 

三本の足で立ち上がった彼は、僅かな拭いきれぬ怯えを含ませながらも真っ直ぐに前を向く。出来れば万全の状態で赴きたいという気持ちが無くはなかったが、レオンの言った「今ある状況で最善を尽くしていけ」という言葉が、強くレナードの背を押した。

 

「あの……ごしじんさま」

 

おずおずと、もじもじしながらネコニャーがレナードに話し掛ける。荒療治の為であったとはいえ、敬愛しているレナードを傷付ける行動を取った事を後ろめたく思っているからの態度であった。

 

その心境を完全に把握こそしてはいなかったものの、言外に、精神的に立ち直った事を示す為レナードはやんわりと微笑み「どうした?」とネコニャーに尋ねる。その両手は後ろに回され何やら小さな体に隠されていた。

 

「お、お守りを……行商人のお婆ちゃんから、買ったのミャ。二種類あったけれど、その、どっちがいいか分かんなかったから、両方買ってきたのミャ。……よ、良かったら、お邪魔で無いのなら、受け取って欲しいのミャ!!」

 

そのお守りを眺め、レナードは驚愕を顔に浮かべる。次いで浮かべた表情は、心に響いたかのような満面の笑み。

 

「……ネコニャー。邪魔なんて思うかよ、本当に嬉しい。……きっと、この二つ馬鹿みたいに高かったんだろうな」

「えと、こっそりやりくりして貯めてたへそくりを使わせてもらったのミャ。これぐらい高い方が、ご利益あるかなって思ったんだミャ……ミャハハ、ホントはもっとすぐ役に立つ物を買おうと思ってたんだけど、もうごしじんさまが全部揃えられてたからミャ」

「本当に、本当にありがとう! ――お前のおかげで、更に勝率が高まった」

 

レナードがネコニャーを力強く抱き締める。想定以上の情熱的な感謝の言葉を貰え意識が半ば飛んでいるネコニャーを尻目に最善を尽くす事を心に誓ったレナードは、やや赤く腫れた目でもって見えてきた≪雪山≫を前にして、クシャルダオラと戦う事に対して腹を括るのであった。

 

 

 

 

 

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