モンスターハンター~狩人レナードの軌跡~≪改稿版≫   作:ATA999

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依頼人:とあるキャラバンの買い物客
ねえねえ、知ってる? ≪モンスターハンター≫と呼ばれるハンターって、とっても凄いのよ! 
なんでも、どっひゃーなハンターの事をそう呼ぶんでしょう? 
あと、私が知っていることと言えば、こう呼ばれるハンターはこの世で一番優しいってことかしら?



第十九話 モンスターハンター

 

「ふぅ……寒冷期じゃなくても、流石にこの辺は凍えるように寒いな」

 

そう呟くように漏らしたレナードの口からは、その言葉に応じるように白い息が吐き出されていた。

 

大陸南端にあるジャンボ村よりほぼ北端に位置するフラヒヤ山脈、通称≪雪山≫へと縦断した一行は、麓近くにある村である≪ポッケ村≫へ到着。その後、万全を期して体を休める事を考え呼び止めてくる村人達をやんわりと退け、早々に山へと登っていた。

 

最早クシャルダオラとの戦いに慄くような精神を持ってはおらず、事ここに至ってはむしろ胸に熱くこみ上げる想いが冷めぬ内に一刻も早く戦いを始めたいとすら思い始めていたのだ。山脈の山頂付近を見やるレナードの眼力は力強い。

 

「ごしじんさま、どうぞミャ」

 

そっとネコニャーが渡したのはホットドリンクである。雪山のように、寒さで身が凍え満足にパフォーマンスを発揮出来ない地においては必須と言えるアイテムであった。

 

「サンキュ」

 

当意即妙と言うべきか、はたまた以心伝心か。レナードが欲しいと感じた瞬間に差し出されてくる。おそらくネコニャーに聞けば間髪なく『良妻賢母』と言う答えが返ってくるだろうことは予想に難くないので、レナードも実際に聞きはしないのだが。

 

ふと、唐突に胸の内へ熱く込み上げて来るものがあった。

ホットドリンクを手にしていない方の手で、グッと心臓の辺りを押さえる。

これは一体何だと言うのだろうか。ただ単に、ホットドリンクの効果が出ているだけ……とは言えない。

 

そんな、直接的な物では無いのだ。じんわりと、柔らかくも暖かい温もり。きっと、仲間達との紡いできた絆が、築いてきた信頼がレナードの心の奥底で熱を発し始めているのだろう。

 

――だから。レナードは震えない。既に発すべき熱は得ているのだ。最早身も心も、震える必要性が無い。

 

『ルルル……』

「まぁ、なんだ。……待たせたな」

 

向かい合う古龍にふてぶてしい笑みすら浮かべ、ソコに立つ。≪雪山≫の山頂付近、雪煙る雪原地帯にて。それが最終決戦の始まりの光景であった。

 

 

 

 

 

 

『ゴハアァッ!』

 

降り積もる雪を巻き上げつつ、ブレスがレナードに向けて吐かれる。密林の時に比べ範囲が広い、即座に見抜き回避では無くエンシェントプレートを構えて防御姿勢に入る。

 

「オオオォッ!」

 

気勢を込めた咆哮と共にブレスを耐え抜く。意識が飛びそうになる程の衝撃はあった、あったがエンシェントプレートによって僅かに減衰された威力では、レナードを吹き飛ばす事も防具をズタズタに引き裂く事も出来ない。レナードの見開かれた瞳も、何一つ変わりは無かった。

 

ブレスを防いだ後、正面からは突っ込まず円を描く様にしてクシャルダオラから見て左から側面へと回り込む。

 

「うらあああッ!!」

 

鋼の甲殻に軋む音。攻撃は、弾かれなかった。鱗を引き裂き甲殻を破る程では無かったものの、だが確かに内部にダメージとして伝わっていた。

 

『グルアアッ!』

 

吼えると同時に、胴体を容易に引き裂ける鉤爪が横薙ぎにレナードを襲う。予期していた為に深追いせずに距離を保っていたレナードは危なげなく躱し、そのままクルリと向きを変え一目散に駆け出した。

 

≪雪山≫の頂上付近は主にエリア6,7,8の三エリアに区分されている。中でも今現在戦場と化しているエリア8は≪雪山≫の頂上があるエリアである。

 

レナードが駆け出した先は一見何も無い行き止まり。しかしよく見れば屈めば人一人が中に入り込めるような小さなトンネルがあった。頂上へと向かえる小道へと抜けるそこに、レナードは迷いなく飛び込んでいく。入口付近には、一抱えもある大きなタルが設置されていた。

 

「……ニャー!」

「わーかってますの、ミャ!」

『グルルゥ、アァ!?』

 

レナードを追いかけていたクシャルダオラが人一人がやっと通れる程度のサイズであるトンネルに突進をしたと同時に、待機していたネコニャーが≪爆雷針≫を起動させる。問答無用とばかりに一筋の雷霆が鋭い爆音と共に設置されていた≪大タル爆弾G≫目掛け、天空の彼方より一直線に飛来する。間にいたクシャルダオラをもついでとばかりに貫いて、だ。

 

エリア中に降り積もった雪を吹き飛ばし、または溶かしてしまうのではないかと思う程の爆風と高熱、大爆発がクシャルダオラのいる地点を中心とし炸裂する。

 

結果、クシャルダオラは上下二段構えの攻撃に連続でやられ、まるで巨獣の牙に食らいつかれたようなモノであった。

おまけに雷によって覆い被さるようになった姿勢は、奇しくも≪大タル爆弾G≫の威力を拡散させず全衝撃を胴体や大きく広げた翼部分で受ける事となってしまっていたのだ。

 

覆い被さる物体があってなお周囲に響き渡る轟音を発する大タル爆弾Gを褒めるべきか、それともそんな爆発を零距離で受けてなお息の根が止まらず五体満足であるかの古龍を称えるべきなのか。

 

いずれにせよ、流石にクシャルダオラ自慢の鋼の甲殻や翼膜も僅かに軋みを上げているのが見て取れていた。

 

「うしっ!」

 

そこまでを見届けていたレナードは、崖沿いに面した小道を頂上に向け一心不乱に駆けていく。ここまで来れば、頂上はもうすぐそこであった。

 

「ネコニャー! 回復薬グレート何個かくれ!」

 

駆けながら、傍らにいるネコニャーへ話しかける。今回、クシャルダオラとの戦いにおいて極力所持品を減らしてウェイトを減らす為に必要最低限しか所持せず同行するネコニャーに持たせてあるのだ。

 

その為クシャルダオラと相対していない余裕のある現状、当然レナードは手持ちにある分では無くネコニャーに話し掛けたのだが。何やら顔が青褪めているのを見て、レナードは大体察した。何か、詳しくは不明ながら悪い事が起きたのだ。

 

「あ、待ってやっぱり言わないで」

「か、回復薬グレートと念の為持ってきてたハチミツが……凍り付いちゃってますのミャー!?」

 

その報告を聞いてレナードは頬を引き攣らせる。通常、今回のような極寒の地や逆に火山の様な灼熱の地に赴く際は物品に相応の処理を施すものだ。

 

回復薬や回復薬グレートを入れてあるガラスビンには当然の事、そんな処理は施されてはおらずそのままでは常軌を逸した寒さによって使い物にならなくなる。同じ液状ながら回復薬は何故か固まらないのだが、ハチミツによって効果を増幅させてある回復薬グレートは中身のハチミツが固まってしまいビンから出なくなってしまうようであった。

 

これは一概にネコニャーの責任とは言えなかった。と言うより、レナードとネコニャーをパーティと考えればレナードの責任の方が大きいと言える。何せレナードとて≪雪山≫は初めてではあるものの、普段ならば欠かさず行っていた情報集めを怠ってしまいこうした情報を得ていなかったのだ。それになにより、ハンターが本職であるレナードと狩り場に出るのが初めてのネコニャーだ。幾ら普段は万事をそつなくこなすアイルーとはいえ、もっと気にかけておくべきであった。

 

(つっても、こんな時にうっかりが出るかよ……)

「――だがしかし! ここで泣いては、女が廃るミャ! ごしじんさま、ニャーの妙技、とくとご覧じるんだミャ!」

 

意気込み右手に取り出したのは、使い込まれた、だが良く手入れの行き届いた片手鍋。素早くポーチから、器用にも左手のみで取り出した火種とツタの葉や燃えやすいようささくれ立たせた枯れ枝を、無駄に空中へ放り投げて地面へ置く。何も修正していないにも関わらず綺麗な配置になっているのは流石といったところだろうか。

 

「……あー、後は任せた」

「任せてほしいのミャ! 周囲の雪を使って、湯煎して凍りついたのを溶かすミャ! ……溶けた後は、万全を期してニャーの肌で直に温めておくのミャ。ミャフフ、ミャフフフフ」

「……ゆっくりでもいいから、確実にやれよ」

 

束の間、家にいるような感覚に陥ってしまったレナードは首を振り気を取り直して頂上まで駆け登っていく。常日頃から常人離れした身体能力を見せていたレナードだが、流石に足場も悪く空気の薄い極寒の地でこれ程の動きは通常ならば見せられない。普通の人間はそもそも足を運ぶ事すら出来ず、気を使用したハンターですら生半な実力と装備では大差無い結果に終わるような環境なのだ。ここにきてレナードは、自分の身体能力が更に一回り強くなったかのように感じていた。

 

「ハッ……ハッ……ハッ……!」

 

先程から、明らかにいつもよりも体中からホットドリンクが発するものとは異質な熱がレナードの体を蝕んでいた。チラリと胸元を見やる。

 

懐を覗くと、そこには首から提げたお守りが二つ僅かに発光していた。ネコニャーから貰ったお守りだ、これがレナードのクシャルダオラ打倒への意志に具体的な力を与えてくれていた。

 

≪力の護符≫、≪守りの護符≫。

所持しているだけで効果を発揮する代物であり、そしてレナードの異常な身体能力に起因する中々に因縁深い物でもあった。

レナードが口にした≪力の爪≫、≪守りの爪≫は、これら二種の護符にそれぞれ≪老山龍の大爪≫を調合する事で生成されるのだ。そして大事な点は、これらの効果は重複するという事。

所持しているだけで鬼人の如き力を得たり、岩石の如く皮膚が硬質化すると伝えられているアイテムの効果が加算され、レナードは既に人としての限界を越えていた。

 

事ここに至って、レナードはクシャルダオラに負けるビジョンが見えてはこなかった。彼の古龍もまた、おそらくは人間風情に負けるなどとは欠片も考えてはいないのだろう。

 

密林での初めての邂逅において、レナードは完全にクシャルダオラに心で負けていた。屈服していたと言ってもいいかもしれない。何とか追い払えたのは、窮鼠が噛んだ一撃が、偶々猫の深追いを妨げたと言うだけの事。追うモノの気紛れが、獲物の命を救った。

 

今、ようやく『心』において、両者は同じ土俵に立つ事が出来たのだ。

 

行ける。

天高く、山頂より宙を落ちながら真下にいるクシャルダオラを視界に入れつつ、レナードはそういった理由からそんな確信を抱く。

 

「オオオァァァッ!!」

『ギオオッ!?』

 

護符の力で高まった筋力を気の力で増幅させ、位置エネルギーをも利用し狙う箇所は、鋼龍の左の翼。強靭さに柔軟さを高い領域で兼ね備えた翼膜であったが、流石にこの攻撃には耐え切れずブチブチィッという痛々しい音をさせ引き千切られた。これでクシャルダオラの宙を翔る滞空性能は激減するはずである。

 

「セイヤァッ!!」

 

レナードの攻撃はまだ終わってはいなかった。着地の際に衝撃を吸収する為に身を伏せた状態から、体の捻りを最大限に利用して横薙ぎに振り抜いた。

 

その一撃はクシャルダオラの横っ面を引っ叩くように命中をし、未だ角が折れるに至ってこそいないものの古龍の巨体を吹き飛ばし横倒しにした。

 

「……ゆっくりでいいから。そこで一番巧く溶かしててくれよ、ニャー」

 

素早くエンシェントプレートを鞘に納め、レナードは駆け出す。

 

「――終わったら、それで祝杯なんだからな」

 

 

 

 

 

 

ようやく解凍作業が終わり、再度凍りつかぬよう加工を施したネコニャーが小さなトンネルから這い出てきた時、戦いは終結に近付こうとしていた。三者の立ち位置は丁度一直線上にあるようで、己が知り合い達を苦しめている傷だらけであるこちらに背を向けた怨敵の向こう側には、愛する主人もまた同様に傷だらけで立っていた。

 

 

狩りや戦いと言った荒事には無縁であった為ネコニャーに細かな機微こそ分かりはしないが、それでも両者は先程までの激しい戦闘音とは裏腹に微動だにしていなかった。だと言うのに、周囲の空間にはビリビリとした切迫した空気が漂っていた。クシャルダオラの、獣特有である剥き出しの荒々しい『殺気』。それとレナードの、積み重ねてきた経験に加え人々との想いの積み重ねによる『厚み』が拮抗する。戦いを止めている訳では無い、互いの隙を全力で突こうと一切無駄な動きはせずに牽制をしあっているのだ。

 

既に吹き荒れている猛吹雪の中この表現はどうかと思うが、正しく嵐の前の静けさであった。

 

両者の力関係は、実のところ非常に微妙なバランスであった。短期的に見れば、レナードに分がある。ネコニャーから授かった護符の力によって底上げされた身体能力は既に人の域には無く、鋼の鎧を身に纏う古龍にすら十分に通用する。だが同時に、その大本は古龍に比べれば非力に過ぎる人間なのだ。如何に出力に優れていようと、今度はその分燃料が早く枯渇してしまう。長期戦になれば、生物的に優れた古龍・クシャルダオラに軍配が上がるという訳だ。

 

その、両者の趨勢が丁度拮抗している時間が今この時なのである。必然、レナードが勝負を決めようと瞳に炎を滾らせない訳が無かった。

 

「…………」

 

僅かに、本当にほんの一瞬だけ、レナードはクシャルダオラの後ろに見える小さな小さな影に目をやった。

 

出て来るなよ……、という非難。折角離しておいたのに、まぁお前ならそうだよな……、という諦観。それでも、己が身を顧みず強敵との場に駆け付けてくれた自分への愛情に対するむず痒さ。様々な複雑な感情を含ませたその視線の真の意図を、違える事無くネコニャーは感じ取った。

 

「――ごっしじんさまー! これで、いいですかっミャ~!」

 

レナードの心が最高潮に高まり、徐々に深まっていく呼吸を見計らい。やがて深く深く吸った深呼吸を終え、レナードが息を止めた瞬間。ネコニャーはこれ以上ないぐらいに最高のタイミングで手持ちのポーチから取り出した閃光玉を放り投げた。

 

閃光玉を使用した経験が無いにも関わらず投擲のタイミングが絶妙であった事を、何も驚くことは無い。

狩りの事は全くの素人でも、事レナードが関わって来るならば。レナードの真意を汲み取る事に限ったならば。ネコニャーは他の追随を許しはしないのだ。

 

放物線を描き投げられた閃光玉は両者のほぼ中央へ投げ込まれ、等しく両者の元に光の花を咲かせた。違いがあるとすれば、投げ込まれてきた方向か。レナードが正面から投げ込まれた為に心構えしていたのと違い、クシャルダオラからすれば背後から突然投げ込まれた形となる。瞼を閉じたレナードと、視界に入って来た異物を確認する為にむしろそちらを凝視したクシャルダオラ。周囲に吹き荒れる猛吹雪がかえって仇となった、卑小な存在であるアイルーの存在を完全にクシャルダオラの認識から隠す形となっていたのである。

 

レナードは全力疾走で駆け寄っていく。今が、今こそが絶好の機会なのだ、家族がその身を賭してまで作ってくれたこの好機、何が何でも逃す訳にはいかなかった。

だがしかし、目を固く閉じ苦しげに悶えながらも、クシャルダオラは接近するレナードを無抵抗に近付かせはしない。

 

『グル、ルアアアッ!』

 

目が潰されていようと、モンスター特有の優れた感覚でレナードのいる場所に当たりを付けたクシャルダオラは、限界ギリギリまで力を蓄えたブレスを至近距離から一直線に解き放つ。降り落ちた雪を巻き上げ解き放たれるソレは、一連の戦いを通じても最大の威力を秘めていた。

 

「く、オオオッ!?」

 

形振り構わず跳ぶように真横へ躱したならば、あるいはレナードは無傷で終わる事が出来ただろう。だがその一撃を、レナードは完全には躱さない。完全には躱さず、本当に僅かばかり、ブレスの中心から半身となる程度の動作しかせず痛々しい大怪我を対価に即死だけを免れた。

 

人知を超えた暴風に砕ける強固な防具、切り刻まれる肉体、色鮮やかな赤い血飛沫が純白の雪原に花を添える。碌な回避行動を取らなかった体や防具は、ほぼ直撃した事によりズタボロと化していた。それでも尚、見据える先は懲りもせずにクシャルダオラの頭部。不可思議な力の源である角にあった。

 

「ごっ、これでぇ、終わりだァッ……!」

 

捻じりに捻じり込む肉体。練り込まれた気が白一色の世界の中、赤く染まり行く。既に、レナードは最大の攻撃を解き放つ体勢に移っていた。

相対するは反動に動けぬ体躯を抱えた古龍。皮肉にも、古龍種の強力過ぎる一撃は放った張本人すらもまた苦しめていた。放った反動を殺しきれずにクシャルダオラもすぐさまには動けないのだ。

 

「前は、お前に負けたがな。今度は、お前が、負けたんだよ……!」

 

吹雪く雪が目に入り、視界が霞む。だと言うのに、目の前の古龍の姿がはっきりと見える。まるで『次は此方の番だ』とでも言うかのように、小さく吼え受けて立つかのように微動だにしないその姿を。

 

更に赤が大きく燃ゆる。

 

「もッ、もう一度、言ってやる……! ――お前が負けて、俺が狩ったんだァ!!」

 

紅の太陽が、突如雪山に出現した。そう思わせる程に煌々と込められた気に全てを込めて、遂にレナード最強の一撃が解き放たれる。込められたものは筋力と気だけでは無い、紡いできた他者との想いが、溜めこんできた己自身の経験が、そういった生まれた時から始まった全てがこの一撃に込められているのだ。

 

『グ、グルルウッルッオオォ……!』

 

激突する頭部と大剣。

傾ぐ体躯、首だけが引き千切られそうな程の衝撃、しっかりと踏みしめていた大地が罅割れてしまうような力でもって振り抜かれた一撃は……しかしクシャルダオラの角を叩き折るには至らなかった。

 

未だ額にしつこき敵の爪牙を乗せたまま、クシャルダオラは歓喜していた。

耐えた。生への執着か、古龍としての誇りか、いずれにせよ確かにこの身は宿敵の一撃を確かに耐え抜いたのだ。

 

『ルルル……』

 

蒼い瞳に仄かに火が灯り始める。

既に目の前の排除すべき宿敵は、今の体力と引き換えの一撃を放った事で敵とはなり得ない程に弱っている筈である。所詮は古龍と人間、何かの間違いでここまで長引いてしまったが、本来はそもそも戦う事など出来る訳が無い筈の力量差なのだ。

 

はてさて、どう調理するべきか。まず以て四肢をもごうか、それとも四肢はそのままに頭から喰ろうてくれようか。いや、天高く舞い上がり宙より大地へ叩きつけるというのも捨てがたい。とまれかくまれ、まずはこの、未だ額に載せられたままであるこの目障りな爪牙を払いの

 

「――ルオオアアアアッ!!」

『グ、ガウッ!?』

 

振り抜いた一振りは、クシャルダオラの頭部を大地に杭打機の如く叩きつける。叩き折れた立派な角も頭部の近くに落ちており、その瞬間あれ程に吹き荒れていた猛吹雪が夢か幻であったかのように収まっていく。

 

「はあっ……はあっ……」

 

衝撃によってレナード達がいる位置より下の雪が雪崩を起こし、低く響く重低音を響かせあらゆる物を呑みこみながら下降を続けていく。ポッケ村とは正反対なので、問題は無い。

 

荒れる呼吸、震える全身、霞む眼差しで警戒を続けるが、クシャルダオラは微動だにしない。最早完全に、古龍・クシャルダオラは事切れていた。

 

「…………」

 

今までの狩りのように、歓喜の声を上げる事は無い。高揚感を表すように高く腕を突き上げる事もしない。腕が上がらずそもそも出来ないという事もあるが、出来たとしても上げなかっただろう。

 

不思議な感覚であった。

仲間達に害を齎す強敵を屠った安堵のようにも感じ、また目標でもあり越えるべき壁でもあった存在を無くしぽっかりと穴が空いた寂寥感のようにも感じ。そして、それらのどちらでも無い。

 

そういった感情を胸に抱きながらレナードは、ぱったりと前のめりに倒れてしまう。

 

「ミャー!? ごしじんさまー!? しっかりするんだミャー! キズは浅いミャー!?」

 

幸い降り積もる雪のおかげで殆ど痛くは無い。とはいえ、新たな痛みは無いというだけで、最後のブレスによってズタズタに切り裂かれてしまった傷が、意識した瞬間から酷く主張を始めていた。

 

「に、ニャー……奴を、剥ぎ取れぃ」

 

痛みによって薄れ行く意識の中、プルプルと震える人差し指で指差し傍らにいるネコニャーに指示した最後の内容は、傷の治療では無くクシャルダオラの剥ぎ取りであった。

 

 

 

 

 

 

 

どいつもこいつも、足が地に着いていない。

それが、周囲をグルリと眺めレオンが抱いた感想であった。総勢にして50名程か、老若男女、肌の色、体格、装備に至るまで種々雑多な者達。そんな、共通点を見つける事の方が難しい者達の集いであったが、しかし一様に落ち着きの無さを露わにしている。

 

大都市・ドンドルマが威信にかけて召集した強者どもという触れ込みであったが、古龍を相手取るというだけでこんなものなのかと見切りをつける。これならば余程、あの村で出会った少女達の方がまだ気骨があった。

 

「れ、レオンさん……僕達、大丈夫なんでしょうか?」

「…………」

 

無言でポカリと頭を小突く。少年の名はアルト、先達の言う事を良く聞き若者らしい短慮さは感じられないのだが、如何せん覇気に欠けるきらいがある。

本来であるならば、一匹狼である自分は仲間も弟子も必要ないのだが、恩義ある人物からどうしてもと要請されてしまえば致し方なかった。

 

「うぅ、痛いですよレオンさん……」

「フッ……何、あんなデカブツ。ガンナーの良い的だ、ジャニスだけでもいける。別にオレ一人でも余裕何だがな」

「やー、流石にわたし一人じゃ無理だって」

「や、やっぱり今からでもあの人に救援を求めた方が良いんじゃあ」

「……もう呼んだ。直、来るはずだ」

 

不承不承といった様子で絞りだすようにレオンが述べた時、そっとレオンの頬を風が撫でた。

 

「どうやら、お目当ての人間が来たようだぞ」

「え?」

 

アルトが聞き返そうとしたその時、ハンター達が詰めていた部屋の入口付近が俄かにざわめき出した。

 

次いでこちらに向かってきているのだろう、次々に人が左右に別れていきその集団に対して道を開ける。集団の数は三人……いや、三人と一匹であった。いずれも見るからに錚々たる武具を身に付けている。

 

間に誰もいなくなり、間近で相対した時。清らかな、一陣の風が吹いた。

 

「ようやくのお出ましか……遅いぞ」

「うっせ。これでも必死に来たんだぞ、昨日まで砂漠行ってたんだからな。リューズが虚ろな顔して操船してたぞ、気持ち悪い」

 

ただ面と向かって世間話をしているだけだと言うのに、威圧感が凄まじい。まるで巨大な龍と対峙しているかのような存在感が感じ取れる。レナード本人も然ることながら、何より身に纏っている防具から発せられる目に見えぬオーラが恐ろしく肌を刺すのだ。

 

決して目の前の男に、屈辱にも自身が気圧されたなどと気取られぬよう、背筋を伸ばし丹田に力を込める。見かけだけならば、これで互いに同等の装いとなった筈である。

 

「にしても、老山龍・ラオシャンロンにこの人数か……俺一人でいんじゃね?」

「…………」

「……くすっ」

 

奇しくも似たようなセリフを言った二人を見比べ、アルトは笑みを零してしまう。そんなアルトをジロリと睨んだ後、レオンはレナードに向き直る。

 

「フンッ、まぁ何でもいいが。ギルドも万に一つも失敗はしたくないという事だろうよ、少々お寒い状況なのは否めないが。お前が声を掛けて鼓舞してやればいいんじゃ無いか、現役唯一の≪古龍討伐者≫殿?」

「お前ね……別にそれなら、お前がやればいいだろうが」

「フッ……オレは一匹狼だぞ。何でそんな連中の面倒を見てやらねばならんのだ?」

「えー? って言うけどお前、今アルトの面倒みてんじゃん?」

「…………」

 

都合が悪くなると顔を背け横を見るレオンに苦笑を浮かべ、遠巻きにこちらを取り巻き様子を窺っている一団の方へ向き直る。

 

「じゃあ、まあ。こういうの、苦手だから一言だけ」

 

 

風は、世界を駆け巡る。ハンターにとって特別な意味を持つ温暖な気候の村にも、未だ発展途上な新進気鋭な村にも、寒風吹きすさぶ雪に閉ざされた小さな村にも、浜風豊かな海に寄り添う村にも、温泉で有名な村にも、等しく巡り行くのだ。

 

「――さあ、一狩り行こうぜ!!」

 

高々と拳を振り上げそう語るレナードに感化され、その場にいたハンター達は気勢を発しながら次々と拳を天へと振り上げていくのであった。

 




という訳で、モンスターハンター~レナードの軌跡~は終了とさせて頂きます!

時折ネタが湧いて書く場合ももしかしたらあるかもしれませんが、書いても中編や短編でしょう。明確な続編は書くつもりはありません。まあまあ綺麗に終わったのでは無いでしょうか。



一日一話という事で、なんだかあっという間に過ぎ去っていった感があります。

小説が終わったという事で色々と想いを書きたくはありますが、多分gdgdになる気がするのでこの辺で。オンラインもたまにやったりしているので、MH4Gでもし会ったら話しかけてやってください。どんな奇抜な方でもウェルカムですぜ。

読んで下さった皆様にはありがと300万zって事で……。
それでは(* ̄▽ ̄)ノ~~ マタネー♪


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