モンスターハンター~狩人レナードの軌跡~≪改稿版≫   作:ATA999

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依頼人:ジャンボ村の村長
やあ、最近絶好調のようだな。
そんなキミにちょっとしたお願いがあるんだ。詳細は直接会って話すとしよう。
厄介事だが、考えようによっちゃキミにも良い話かもしれないぜ!



第三話 ぜひとも、是が非でも!

「頼み……ですか?」

 

あのドスランポス狩りより約二ヶ月。ここに来たのが温暖期の初めだったので温暖期ももうすぐ終わるだろう、そんな頃。幾つものクエストを無事に達成させていき、いつものようにクエストに向かおうとしていたレナードに村長からクエストとは別に頼みがあるらしい。酒場に向かおうとした際、通り道で声をかけられていた。

 

「ああ、そうなんだ! 実は今度新しくハンターが来ることになったのはいいんだけど、そのハンターがキミよりも経験が浅い女の子みたいでさ。ある程度きちんとした先輩がいないと最悪早死にしちまうかもしれないだろ? そこでこれから行くクエストに同行させてもらえないかと思ってるんだけど、どうかな?」

 

村長はレナードの様子を窺うようにお願いをしてくる。

 

「あー……けど俺がこれから行くのはイャンクックですよ? 流石に、俺より若い初心者が行くにはちょっと厳しいんじゃないですかね。それに、俺みたいなのと行くより最近村に来たハンターの女の人がいたじゃないですか。女同士の方が良いんじゃ無いですか?」

「実は……もう断られてしまった後なんだよ」

「……それが駄目なら、教官とかでも」

「イヤ、教官だとイザと言う時に手助けしちゃいけないからなぁ……」

「ああ、そういやありましたねそんな規則……。確か、現役ハンターと違って定期的な収入やら何やら、様々な特権が与えられる代わりに狩りに出ちゃいけないんでしたっけ。あくまで教導目的に限るとか何とか」

 

補足しておくと、これには昔起きた二つの事例の影響がある。

一つは、十分に暮らしていけるだけの金をギルドから貰っていたにも関わらず、現役ハンターと一緒になって狩りに出ていたハンター教官がいた事。一時期は個人にも関わらず下手な王侯貴族や商人よりも尚稼いでいたという事で、色々と問題になった。

 

そして今回の場合、もう一つの事例が大いに関係している。

ある時、とある村で新人のハンターがいた。新人ハンターは、やる気こそ人一倍溢れてはいたものの実力の方は今一つ。その新人ハンターの事を、そのハンター教官は手塩に掛けて育てていたらしく、周囲からはまるで師匠と弟子、あるいは親と子のようになっていた。二人でよく一緒にクエストを達成し、実地で色々と教えたりしていた。

元来が腕のいいハンターであっただけに、ハンター教官は新人ハンターの隙をそれとなく埋める事で新人ハンターの実力を超える力を引き出すように働きかけていた。事実、その新人ハンターのクエスト達成率はかなり良いものとなっていたのだ。

 

ある時、その新人ハンターの元に評判を聞きつけた人が名指しでクエストを申し込んできたらしい。

しかしその時ハンター教官はどうしても抜けられない用事があり、一緒には行けなかった。新人ハンターは考えた、クエスト自体は問題は無い難易度、今まで何度も教官と一緒に行ってきたモノで慣れている。そろそろ一人でも問題なくこなせるのではないか、新人ハンターは一人でクエストを達成する事を決断した。

 

そして、事件は起きた。

 

数日後、新人ハンターは冷たい姿で村へと戻ってきたらしい。死体が戻ってきただけでもまだマシだ、普通その場で骨まで食われてオシマイなのだから。顔見知りになっていたアイルーが、小型のタル爆弾で怯ませた隙に何とか救出したらしい。しかし、あるいはそちらの方が酷い仕打ちだったのかもしれない。結局ソレを見たハンター教官は、絶望を顔に浮かべたまま村から消えてしまったと言う話だ。

 

ギルドは、例えば新人には飛竜種の討伐を頼まぬように、そのハンターの実力を鑑みた上で達成可能だと判断したクエストしか斡旋はしない。その大事な判断材料の一つが、どんなクエストを達成したのかの帳簿なのだ。帳簿を含めた種々雑多な情報を加味して、最終的に受付嬢がハンターへと提供するクエストを判断している。

ハンター教官と一緒に行動されては、その判断が付かなくなってしまう。熟達なハンター教官の存在がノイズとなってしまうのだ。

 

これら二つの事例を重く見たギルドは、訓練ならばともかく、決して実際のクエストで手助けを行わぬよう固く禁じていた。

もしも教官が新人と一緒にクエストに出掛けて色々と手助けをしたとしたら、それだけで罰金に加え教官免許剥奪、更には再度のハンターへの復帰を禁じられている為、教官はただの人となってしまう。

 

(なるほど、それは今のこのジャンボ村にとっては看過出来ない事態だろうなぁ。あまりにハイリスク過ぎる)

 

「今度来るハンターの子は、キミと同じく優秀でね! なんと15歳でドスランポスやドスファンゴまでなら独りでもう倒してるって言うんだ!」

「はぁ、それはまぁ。確かに凄いですねぇ」

 

気の抜けた返事ながら、レナードは実際には感嘆していた。

 

この世界には、ゲーム内と違って様々な種類のハンターがいる。

実力は伴わないが、狩場の事は熟知している。故に、モンスターなどそっちのけで狩場に豊富に存在している素材を専門に集めている『採取ハンター』なるハンターも、世の中には珍しく無いのだ。明確な基準は無いが、基本的に採取ハンターにはドスランポスも倒せない人や高齢の為に半分引退している老ハンターがなる事が多い。ドスランポス級の難易度であるモンスターを倒せれば、贅沢を考えねば生計を立てる事は十分に可能だからだ。

 

この世界では、一流のハンターかどうか一種の目安としてイャンクックが取り上げられる事が多い。いくら別名が『怪鳥』で分類上は鳥竜種にカテゴライズされていようと、その見た目と攻撃方法が飛竜種とそっくりな事から、一部では飛竜に挙げられる事も多いのだ。

飛竜(偽)なイャンクックが倒せるだけの実力があれば、村レベルであれば十分一人でも維持、上手くいけば発展する事が出来る。

 

そういった判断基準で行けば、確かにその新人ハンターは若くして一流に足をかけている事になる。

 

「何を言ってるんだ! キミはもう既にイャンクックを討伐したじゃないか! それを考えれば、キミの方が優秀じゃないか!」

 

思わず、気恥ずかしさと共に苦笑いを一つ浮かべてしまう。

実のところ、レナードも既にイャンクックを討伐を済ませていた。それも二度、決してまぐれなどでは無い。今回のこの狩りでようやく≪クックシリーズ≫が全て揃う計算になっている。本来この地方においてクックシリーズは胴と腕と腰の三つしか無い。だと言うのに頭部防具と脚部防具まで存在してあるのは、偏にレナードの意見を実現させた工房のばあちゃんの尽力である。

 

イャンクック討伐が幾ら事実とはいえ、レナードとしてはあんまり開けっ広げに褒められると背筋の辺りがゾワゾワしてしまう。なので、慌てて話を戻す。

 

「とにかくっ! ……すみませんが、俺には無理です。少し待って、他の人に教わってください。――――おーい、パティ。クエストの承認お願い」

「はいはーい、分かりました! ペッタン、と」

「あ、ちょっと待った――」

 

ゴツいスタンプが押される音を尻目に、レナードは足早にその場を立ち去るのであった。

 

 

 

 

 

 

「う~ん、フラれちゃったかな」

 

腕組みをしつつ、村長は苦笑いを浮かべる。

 

「あんまり露骨におだて過ぎたかなぁ……? うーん、鼻を膨らませて喜ぶと思ったんだけどな。あの年頃は難しいよ」

 

ハンターにとっては知識は貴重な武器であり、財産だ。おいそれと他のハンターに教えるものでは無い。

村全体として考えてみれば、知識の共有とはそれだけハンターの質が上がる事となり、結果的に恩恵となって返ってくる。

だが翻ってレナードという一個人にとっては、それは何の利も無い行為だ。細々とした利はあるかもしれないが、少なくとも失う物の方が大きい。

それが理解出来る為、村長はあまり深追いはせずにいたのであった。レナードの拒否する姿勢は、常識的なハンターからすれば何らおかしくはない対応である。

 

「……あぁ、そうだ。この事を早くあの子に伝えておかないとなぁ……」

 

あの子、とは件の有望な新人ハンターの事だ。断られたことを知らない為、もしかするとクエストの為に準備を進めているかもしれない。もしそうだとすると、安請け合いをしてしまった手前、この事を伝えるのに村長としても少々心苦しくもある。

 

「……あれ、いない? この辺にいてくれって言っておいたんだけどな。オーイ、パティ? あの子、セイディはドコ行ったか知らないかい?」

「えー? さっきレナードさんの後を追うように桟橋の方へ行きましたよ? てっきり二人で行くものだと思ってたんですけ、ど……?」

 

タラリ、と汗が垂れ。明朗快活な村長にしては珍しく、口ごもるような仕草をし。

パティもパティで、その想像力豊かな頭でもって容易に現状のまずさに思い至り。

 

「「――ま、いっか……ア、アハ、アハハハハ!」」

 

真に息の合ったタイミングで、仲良く二人して問題を放り投げるのであった。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

あの船頭の待つ桟橋へと歩く俺の足は、どこか活気の無いものとなっていた。

先程、村長の話を聞くまでは晴れやかに感じていた陽光にもどこか悪意を感じるように思えてしまうのは、やはり心境の変化だろう。

 

「別にさぁ、一人が絶対に良いって訳じゃないんだよ……? いやホント」

 

他のハンターと狩りの仕方があまりに違うのだ、例えパーティを組んだとしても中々噛み合わないだろう。仲間に遠慮しながらでは、とてもではないが自分の力を活かし切る事は出来ない。

他人が遠回りする危険な道を、レナードは力技で苦も無く歩けてしまうのだ。

 

「――――ぉいぃ!」

 

『ハンターは使えるものは全て使う。それが最善』

 

正論だ。

この言葉をレナードは、未だ否定できずにいる。何せ客観的に見れば、一理どころか紛う事無く正しいのだからどうしようもない。

 

レナードとて、分かってはいるのだ。

全力の溜め斬りを武器が耐えきれないと言うのなら、耐えられるだけの素材で作ってもらえばいい。そうすればいずれは、この、大剣すらも半ば片手剣の様に振り回す事の出来る常人離れした腕力でもって、並み居るモンスター共を容易く狩り尽くして――

 

「――ってぇっ!」

 

(本当に、それでいいのか?)

 

また、お馴染みの展開だ。分かっている、こんな疑問は優越感からくる独善的な感情である。

その言葉に異議を唱えるという事は、レナード自身どこかで『卑怯染みた怪力のみに頼ってモンスターを狩る』事に違和感を持っている証左に他ならない。あるいは知識に固執するのもまた、それから目を逸らす意図が無意識の内にあるのかもしれない。

 

勘違いしてはならない、雄大な自然の中ハンターとして在る為に力は確かに必要なのだ。

だが、人の身に余る力。ただそれのみを追求した瞬間、おそらく自身は対等な仲間を失う。レナードはそんな気がしてならないのだった。

 

仲間とは、己の足りない所を補いあうものでは無いのか。独りで在る事が可能なこの力の前に、対等な仲間など有り得ないのだ。

 

(背中に背負っている蛇剣【蒼蛇】よりも、この両腕の方が頼もしく見える時点で、おかしい。それは、確かにおかしいはず……なんだ)

 

「――って下さいっ!!」

 

レナード自身、直視したくはない心の状況を客観視すると、だ。

要するに、怖いのだろう。周りから浮いてしまうのが。

まるで、歪なバランスを保つかのように。体が強くなればなるほどに、精神の方が弱くなってきている気さえレナードにはしてくる。

 

その行き着く先は何なのか。

人は異端を忌み嫌う、それがどんなに有益なものであると理解出来たとしても。村人からは強すぎる力を見て、怖がられ。同じハンターからは、自分には無いと嫉妬され疎まれ。果てには、隔離でもされてしまうのではなかろうか。

 

多種多様なサブカルチャーに毒されてきたレナードの脳裏には、そんな情景がどうしても目に浮かんでしまう。

ただの被害妄想なのかもしれない。ただ単に、凄いなと賞賛されてオシマイなのかもしれないし、存外世界的に見れば大した事も無いレベルの怪力なのかもしれない。

 

何より、この村の人達がそんなふざけた事をするなど予想もつかない。

 

だが、レナードは一度それを経験していた、彼自身がかつて暮らした村で。

いや、何もそこまでとは言わないし言えない。排斥されてしまうようなそんな大層なものでは無かったし、人柄もジャンボ村に負けず劣らぬ牧歌的であった。何よりそうなる前にその場から逃げ出してきた。

 

それでもその感情は、何もしなければいずれ芽吹く事は確実であった。ただ単に、周囲の忌避の感情が大樹となる前にレナードがその場から逃げ去ったというだけで。

 

そっと溜息を吐きつつ、桟橋の先に近づく。いつものように、あの若い船頭がスタンバイしている。陽気に片手を上げて来たので、幾分草臥れた様子でレナードも片手を上げて応答する。

 

(ん、何だ。……後ろ? 後ろを振り返りゃいいのか?)

 

どこか慌てたジェスチャーをしてくる若い船頭に、後ろを見ろと囃し立てられる。

振り向くと、パタパタと、こちらも慌てて駆け寄ってきている見慣れない若い女のハンターが一人。

 

はてさて、何だろうか。

何か、パティか村長の伝え忘れた事でも言いに来てくれたのだろうか。レナードは胸中で思案する。

 

ぼんやりとそう思いながらも、レナードは未だうじうじと片隅で考え事を続ける。その為、ぷらぷらと足は依然船頭のいる船の方へと惰性で動いていた。

 

 

「――ああ、つまりはあれか」

 

悩みと言うのはほとんどの場合、順序立てて考えれば何かしらの道筋は見えてくるものだ。

例に漏れず、思考の果てにレナードはふと気づく。

 

(もしも、俺の力を見ても尚恐れず、それを最大限生かす事を考慮に入れてのパーティを組める人物がいるのだとしたら。俺の怪力や耐久力が、キワモノ揃いのハンター達同様「個性」と仲間に認められれば。俺のこの油汚れの様に頑固で鬱陶しく心にこびり付く悩みは、ある種解解決に至るんじゃあ無いか?)

 

「ちょっと、待ってくださ~いっ!!」

 

そう、思い至った瞬間。レナードの目の前はそれはそれは濃密なピンク色に染まるのであった。後、凄まじい異臭。

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、本当に申し訳ありませんでしたっ!!」

「……つまり、あれか。さっきから声を掛けてたのに、俺が何やら考え事に夢中で気づきやしない。これでは一人でクエストに行ってしまう。マズイ、どうしよう。そうだ、何かを投げつけて足止めすればいいんだ。ごそごそ、いいところにペイントボールがあるじゃないか。――で、投擲。見事命中し今に至る、と?」

「……は、はいぃ」

「…………」

「うっはぁ~、頭からべっちょべちょだぞー。くっさくて鼻が曲がりそうだー」

「……今の流れで何か、言いたいことはあるか?」

 

一応、だ。一応、人として最低限の務めとして、レナードは何か悲しい誤解が無いかどうか聞いておく。

 

「考え事して歩いてちゃ、危ないですよ? メッ!」

「そうか、そんなにオシオキされたいか」

「ああっ!? ご、ごめんなさいごめんなさいぃっ!! 調子に乗ってゴメンナサイッ!?」

「普通に、こっちの船頭さんに声を掛ければいいだけにも関わらずだ。俺にだだっ広い狩り場で使うモンスター用のペイントボールを投げつけてきたのは、あれか。――俺に殴り飛ばされたいとかいう酔狂な、あれか?」

「全然違いますです、ハイ! ただ単に足を止めたかっただけなのですが、ハイ! 少しばかり、パニックになってしまってですね。それでこんな事になってしまいました!」

 

清々しい程に綺麗に頭を下げてきているこの緑髪少女、名前をセイディというらしい。レナードが話を聞くと、どうやらこのセイディこそが先ほど村長が頼み込んできた新たなハンターらしい。つい昨日ジャンボ村へ到着したばかりらしく、確かに見た事は無い顔だった。

 

「ふぅ……もういい。もう怒ってないから、君はとっとと帰んな」

「……えーと、ですねぇ? もうお船が桟橋から出発してしまっている現状、ちょっとお家に帰るのは無理なんじゃないかなぁ……と」

「…………」

 

正直、完全に気が付いていなかった。

現状レナードは、未だしつこく首から上にこびりついているペイントボールを何とかかんとか目元だけでも取り除いている訳だが。ペイントボールは、ペイントという名前ながら、そのピンク色ではなく臭いこそが最大の特徴となっている。強烈なまでの臭気によって、ハンターは獲物の位置を狩場のドコにいても嗅ぎ分けられるようになるのだ。それを今、顔面に受けたという訳だ。

当然、レナードの鼻などとうの昔に使い物にならなくなっている。見ればその臭いの影響で、若い船頭も歌を歌わず鼻を摘まんでいる。今まで必ず、この船頭の調子っぱずれの歌を聞かされながら乗っていた訳で、レナードとしては調子っぱずれなBGMが無いとどうにも違和感がある。

 

良くも悪くも、あの鼻歌が狩りに行く際のお決まりとなっていたのだ。

 

「――セイディ。なぁ、セイディ」

「な、何ですか……?」

「君には、ご両親から頂いた立派な体があるというのに……!」

「泳げと!?」

「行けるって、君が新世代のハンターなら。鎧とか着けてても、きっと泳ぐことも出来るはずだから。多分」

「し、新世代って何なんですかぁ!? 後、きっととか多分とかでやらせようとしないで下さいよ!?」

「全く、そうぞうしいぞーお前らー。歌う事も出来やしない、おいらの唯一の楽しみだってのにー……」

 

何だか最後の方は、レナードとしても割と楽しくなっていたような気がしないでもない。

 

 

 

 

 

 

へばりついたペイントボールの除去も一段落つき、ようやく落ち着いたレナード達は、改めて自己紹介をする事にした。

 

「レナードだ。年は18、主に使うのは大剣。今までにドスランポスとドスファンゴ、後これから行くイャンクックも討伐した経験がある」

「セイディです。年は15になります、はい。えと、片手剣を使ってまして。これまでに倒したのはドスランポスとドスファンゴです、はい」

 

ボーイッシュな印象を受ける短めのライトグリーンの髪と、同じく瞳を持った少女だ。パッチリとした目と裏表のなさそうな表情からは、素直そうな印象を感じられる。

 

「おいらの名前はリューズな、年は16だー。んーこれまでに倒したのはー……心の弱気かな。しっかり覚えとけー」

 

間違いなく2秒で忘れる。

 

「――で、だ。これから俺は、イャンクックを討伐に行くんだけど……」

「はい! ぜひ、ご一緒させていただきたいと思っています!!」

「うん、それ無理」

「は……ええっ!?」

 

この世の終わりの様な表情でレナードの方を見てくるセイディ。中々表情が豊かだな、この子などと思いながらも、レナードはその意思を曲げるつもりは無かった。

 

「そんなに……ペイントボールって気持ちが悪いんですか……?」

「この臭いみたいに、頑固でしつこい奴だなー。女が腐ったみたいな奴だぞ」

「む。言っておきますけど、女は腐ったりしませんからねっ」

「……分かってると思うが。別に、このペイントボールで嫌がらせをしている訳じゃないからな?」

「おう、おいらは最初っから分かってたぜーははは」

「え、えと!? わ、私もはい! 最初っから分かってましたけどっ」

 

コント染みた流れについ、頭を抱えて空を見上げてしまったレナードは悪くない。

 

「まず、セイディ。お前はそもそも準備が足りてないんだ」

「準備が足りてないだなんて、そんな事無いです! ちゃんと不足の無いように、十分に色々と持ってきましたし」

 

確かに、出るわ出るわ。非常に多く物が入れられる筈のポーチが、9割がた持ってきた物で埋められている。

 

これでは逆に入れ過ぎだろう、狩場から何かを持ち帰る事も碌に出来はしない。

中身も中身だ。

回復薬やペイントボール、砥石やこんがり肉はまだ問題ない。だが、石ころやネンチャク草、ブーメラン、ペイントの実、果てはガンナーでないと全く使う事の無いカラの実等々……明らかに必要のない物までポーチの中には入っていた。

 

ところで、もしもあの時ペイントボールではなく石ころ投げつけられてたらと思うと、レナードとしてはゾッとする。一応殺傷性の無いモノを選ぶだけの理性は残っていたという事か。

 

だが、それとこれとは話が別だ。

 

「……ただ持って来ればいいってものじゃあ無いだろうが」

 

確かに多めにアイテムや素材を持ち運んでくるという事自体は悪い事では無い。予想以上に長丁場になった際、それはきっと神の恵みのように感じる事もあるだろう。だがだからといって、まず間違いなく邪魔になる物を持ってきていい理屈にはならない。

 

ここはこの子の為にも、一つずつ確認していく事にしよう。これも乗りかかった船だからなと、レナードは乗りかかった船の上でそう呟いた。

 

「何故、タル爆弾も用意していないのに石ころを持ってきたんだ?」

「それは……いざと言う時に、ネンチャク草と合成する為です」

「だろうな、素材玉が出来る組み合わせだ。で?」

「えっと、ツタの葉と組み合わせてけむり玉を作っておけば、いざと言う時に体勢を立て直せるかなと……」

「そうか、まぁそれも悪くは無いだろう。……が、その答えは同時に君の勉強不足をも露呈している」

「ど、どういう事ですか……?」

 

レナード自身、先生役が少し楽しくなってきた。ピン、と指を跳ね上げ教え導くように語っていく。

 

「ヒントはイャンクックの生態、だ」

「イャンクック、の……?」

 

ここまで言っても分からないという事は、イャンクックか道具か、どちらかの知識が足りていないという証左である。とりあえず身に染みて分からせるため、レナードはコチンとデコピンをする。予想に反してゴチンと音を立てたのは、きっと気のせいだろう。

 

「ぐ、ぬおおぉぉぉっ……!」

「うーわ、ソートー痛そーだぞ」

「イャンクックは見た目の耳の巨大さを裏切らず、非常に聴覚が優れている。その為、奴の近くで音爆弾やタル爆弾をさく裂させればしばらくの間硬直して隙をさらけ出す訳だ。硬直が解ければ怒ってしまうが、逆に言えば、それまでの間は攻める絶好の機会でもあるし、逃げ出すことだって簡単に出来る。それこそ大タル爆弾を奴の近くに置くことだって、十分に可能だ。そして、こんな事はパティか村にいるハンターにでも聞けば、少額のゼニーと代わりに快く教えてくれていたはずだ。――さて、準備が十分に足りていたはずのセイディさんは、一体どうしてこの事を知らなかったのかな?」

 

少しセイディからして見れば、言い方が嫌味ったらし過ぎたかもしれない。僅かにレナードはそう思うものの、何よりここは絶対にテキトーな事をしてはいけない場面だ。

今ここでセイディが手にする教訓は、ハンターにとっては非常に重要な教えとも言える。

だからこそ全力で教え、諭す。あるいは脅す。これがよく骨身に染みるように。

 

非常に嫌な役回りだが、先達としてはせねばならない義務なのだ。

 

「…………」

「それに、な。――君、その装備レザーシリーズだろう?」

「は、はい。そうですけど……?」

「さっき俺は確かに聞いたよ、ドスランポスとドスファンゴを倒したってな。――で? 何で、防御力が一番低くて、発揮されるスキルは採取のみという、他のハンターならズブの新人か採取の為にしか使われないような、そんな防具を身に纏ってる?」

「それは……」

「それは? 金を集めて工房でより防御力の高いチェーンシリーズを揃えても良かったし、それこそ俺の今着ているランポス装備だって、君なら揃えられたはずだ」

 

セイディの得物はハンターカリンガ改、マカライト鉱石と鉄鉱石と大地の結晶で作れる金属製の代物だ。つまり、ドスランポスやドスファンゴの戦果には手つかず。売るなり加工するなりすれば、どうとでも今より良い防具を揃えられたはずなのだ。なのに、セイディはそれをしなかった。おそらくは時間を惜しんで、絶対に払わねばならない労力を払わなかった。

 

「身を守るべき防具もお粗末なまま。かと思えば、対象の情報も碌に知ってはいない。故に、持ってくるべき物も持ってきてはおらず、だ。正直、話にならないんだ。セイディ、君は事前にやるべき事をしていない。それはハンターにとっては許しがたい怠慢だ。ソロならまだいい、準備不足のそいつ独りが死んで、ほんの少し後処理でギルドの仕事が増えるだけだ。その程度ならギルドに迷惑を掛けてやればいいさ、それが彼らの仕事だ。だがもし、一緒に狩りに出向く仲間がいたら? 君のせいで仲間が全員窮地に追いやられるかもしれない。はは、とんだ死神疫病神だな。……セイディ、俺は君を死ぬと分かっているクエストへと連れて行くつもりはさらさら無いよ。――言い方を変えよう、しっかり知識を身に付けて、顔を洗って出直して来い」

 

ピンク色に体を染めたまま、舌鋒鋭く言い放つ。

本当に顔を洗いたいのはレナードなのだが。この空気の中でそんな言葉はさすがに言えない。

 

セイディは俯きながら、唇を噛みしめ拳を握りしめ震わせていた。

 

「(泣くなよ? ホント、泣かないでくれよっ、頼むから……!)泣くのか? 泣いてどうにかなるって甘く考えてるんなら。――今すぐハンター辞めちまえッ!!」

 

その言葉に跳ね上がるようにこちらを見て――否、睨みつけてくる。僅かに目尻に浮かんでいる涙など感じさせない、ギンッと強い眼差しだ。

 

「……私のいた村は、今村に住んでいるハンターが父一人だけです。その父も、数か月前に怪我をしてしまい、狩りに出られなくなってしまいました」

 

押し殺すように、呻くようにセイディの独白が始まった。

 

「私は、元々父の跡を継いで村のハンターになるつもりでした。ですが、最近は近くの森に住むモンスターが俄かに増えてきていた為に、それに重なるように起きたハンター0の事実を、村長は重く受け止めたのでしょう。村に定住してくれるハンターを募集する事も無く、村の全員を連れて、どこか別の場所へ集団で移住をしようと言いました」

 

……その村長の判断もそれ程間違っているとは言えない。ハンターは実力も然ることながら、その人格もピンからキリまである。そしてどちらが多いかと言うと、キリの方が圧倒的に多くあるのだ。おそらくその村長はそういったリスクを全て加味して、人命を何より優先してその判断を下したのだろう。

 

と言うか何だろう、この語りは。レナードとしては、何やら嫌な予感がする。

もう少し具体的に言えば、自身が悪者になりそうな予感が。

 

「私は食い下がりました。私がハンターになって皆を守って見せるから、と。最終的に村長は、「集団移住するその日までに、お主の父が倒したように飛竜であるイャンクックを倒せたら」と、集団で村を捨てずに済む条件を言ってくれたんです。……ここまでくるのには、正直言って本当に怖かったですよ? そりゃあ、少しずつ着実に進んでいかなきゃいけないのは分かってました。もっと凄い防具で身を固めて安全に……。でも、期限まで後二週間強……。悠長にやっていると村長との約束に間に合わないんですっ……! 多分、村長もそれを知ってて言った条件だと思います。ドスランポスも、ドスファンゴも本当に大きくて怖くて、そんな相手にこんな装備じゃあ頼りなくって震えが止まらなくて……。それでも、頑張ったんです。だって私は、あの村の風景が好きだからっ……!」

 

レナードは、今しがたまでのキャラ付の為に平静とした表情の裏で、じっとりとした汗が滴り落ちるのを感じていた。特に脇汗が凄い。

自分のここまで頑張ってきた理由。頑張ってこれた原動力を話した為だろう、セイディの頬は僅かに紅潮している。先程から涙もうっすらと滲んでいる為、尚更セイディの健気度が半端なものでは無い。

 

(――ていうか何だよリューズ、そんな目で見てきてんじゃねぇよ!? 知らなかったんだからしょうがないだろうがっ、これじゃあ俺がただ後輩苛めてただけみてぇじゃん!? 何だよ「好きだからっ……!」って!? 反則だろ!!)

 

片方からは懇願するようなキラキラと、もう片方からは軽蔑するようなじとーっとした眼差しを受け、レナードは「あ~、う~」と唸った後、ガシガシとランポスヘルムを外し髪の毛を掻く。手を止めた瞬間、腹は据わっていた。

 

「分かった、分かったよもう! こうなったら、乗りかかった船だから。俺が傍で面倒見てやるから、イャンクックでも何でも倒せよ……」

「ありがとうございますっ!!」

「おー、よかった、よかった。やっぱりレナードは良い奴だなー。さっきまでのいじめっ子口調も、本当はセイディの事心配して言ってたんだろー?」

「んな事、本人の前で言うなボケ!!」

 

ここに、仮初ながらパーティが結成されたのであった。

 

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