モモンガさんのワノ国生活   作:ペペック

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モモンガ、パパになる? 不死者の王のお姫様

「ええ……マジか」

 

この世界に来てから、魔法や一部のスキルが使えることは確認済みではあったが、アンデッド作成スキルを使うのは今回が初めてだった。

てっきりユグドラシルの時のように魔法陣から現れるのかと思っていたら、まさか死体がそのままアンデッドになってしまうとは…

 

「あの、さっきのお母さんでしょうか?」

 

「オカアサン……? いえ、私は御方に産み出されしシモベにございます」

 

不思議そうに首を傾げるコープス・シスターに、モモンガをふむと考えこむ。どうやらアンデッドの人格は、素体となった人間とは完全に別の存在となってしまったらしい。

 

 

「まあいいか。じゃあコープス・シスター、まずこの赤ん坊の回復はできるか?」

 

 

コープス・シスターはアンデッドでありながら、信仰系系魔法に特化したゾンビだ。

自分自身やアンデッド系の味方を回復できないという欠点はあるが、仲間にヒーラーがいなかったり、MPポーションが切れてしまった場合にモモンガは呼び出している。

 

「御方のご命令とあらば、いかなる命令にも従います」

 

コープス・シスターに赤ん坊を手渡すと、まず彼女はいくつかの回復魔法を少しずつかけて赤ん坊の様子を見ていく。

なんでも成体ならまだしも、未熟で栄養不足の赤ん坊の身体では、いきなり回復魔法をかけるのは負担がかかるかららしい。

 

 

しばらく経過を観察していけば、徐々に赤ん坊の顔色がよくなっていく。

 

「ではあとは食事ですね」

 

コープス・シスターは、ドルイド系の魔法で1日に一回だけ食事アイテム………この場合は果物や野菜などを生み出すことができる。

それを使って赤ん坊でも食べれそうなフルーツでも生み出すつもりなのだろう。

 

「あら……」

 

しかし彼女は一度周囲を見渡すと、困ったように首を傾げる。

 

「どうした?」

 

「申し訳ありません。この場所では少々、心もとないかと……」

 

「なに?」

 

コープス・シスターによれば、この辺りは土地が汚染されているために魔法でも植物が育たないらしい。

 

「汚染か……この場合は毒なのか?」

 

ならばとモモンガは試しに、フィールド用の毒消し魔法を使って辺り一帯の土にかけてみる。するとその部分の土の色がやや灰色がかった生気のない色から、赤茶けた自然な色へとみるみる変わっていった。

 

「あ、効いたっぽい」

 

「まあ、さすがは至高の御方ですわ!」

 

念のため清潔(クリーン)で汚れも消した上で、改めて植物を生やしてみる。最初はちょこんと小さな芽が出たかと思えば、若木から大きな木へと一気に成長していき、四方に伸びる枝から青々と葉が繁りだす。その枝から木の実が鈴なりに実っていく。

 

「これは桃か」

 

コープス・シスターが実を一つもぎ取るのを見て、モモンガはインベントリから食事アイテム用の皿とスプーンを取り出す。

自身は料理人のクラスこそ持っていないが、木の実を潰すくらいならできるだろうと考え、皿の上に桃の実を乗せるとスプーンで磨り潰していく。もともと柔らかい実はそれだけで崩れ、柔らかい果肉と新鮮な果汁が甘い匂いを放つ。

 

ある程度解れたところで桃の果汁をスプーンで一匙掬い、泣きじゃくる赤ん坊の口に運ぶと桃の果汁を飲み込んだ。もう一口、さらにもう一口と少しずつ与えていけば、よほど空腹だったのか赤ん坊の食い付きはよかった。

 

一皿分が空になった頃、赤ん坊は満足したのかうとうとと瞼を閉じるとそのまま眠ってしまった。

 

(う、うわあ………考えてみたら本物の人間の赤ちゃんなんて初めてだけど、首据わってないからか安定しないな…)

 

せいぜいテレビや写真で見るか、ゲームの人間キャラクターぐらいしか見たことがない生の人間の赤ちゃん。それはモモンガから見てもとても小さく、肌は柔らかく温かい、なんとも脆い存在である。ほんの少しでも力を込めたらつぶれてしまいそうで物凄く怖い。

モモンガが赤ん坊の正しい抱き方がわからずオロオロしていると、みかねたコープス・シスターが代わりに抱っこしてくれた。

優しく揺すって赤ん坊の背中を優しく叩く姿は、アンデッドの青白い肌さえなければ聖母の姿絵のようだった。

 

「さて、どうするか……」

 

つい勢いに任せて引き取ると言ってしまった手前、この子は一度光月城に連れて行かなければならない。

そうなるとまずはおでん達に相談してみよう。

彼ならば悪いようにはしないはず。

 

 

ただ問題は、今回生み出してしまったコープス・シスターだ。

彼女が何者でどういう経緯で出会ったのか、アンダーカバーを練っておく必要がある。この世界には河松達のような異形の種族もいるらしいし、ならばそういう体で誤魔化すべきか。

 

「えっと……名前どうしよう」

 

種族名のコープス・シスターはワノ国っぽくない響きなので、怪しまれる可能性が高い。

 

「………じゃあシス子だ」

 

コープス・シスターでシス子。

自身のネーミングセンスはギルメンによれば相当ひどいらしいので、下手にひねると余計ひどくなるかもしれないと思い、逆に安直に決めてみた。

 

「シス子……偉大なる御方より名を賜れるとは、恐悦至極にございます!」

 

一方のコープス・シスターはなんだか大げさなくらい喜んでくれている。

 

「さてと……じゃあ光月城に戻ろうか」

 

歩きだそうとする直前、モモンガは一度チラリと近くの木を眺めてからその場を後にしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけで、この子を拾ってきてしまいまして……」

 

「そうですか、花の都からここまで……」

 

光月城に帰還したモモンガはまずおでんに報告しようとしていたところ、彼はちょうど日課の裸踊りに出掛けたところだったらしく不在であった。

なので代わりにトキに相談してみれば、彼女はモモンガが勝手に赤ん坊を引き取ってきたことを咎めるどころか、死んでいたかもしれない命を救ったことに感謝さえしている。赤ん坊を憐れむ彼女もまた、二児の母親として放っておく気にもなれないのだろう。

 

ちなみに説明しただいたいの設定は、瀕死の母親から赤ん坊を託されたという点は同じだが、コープスシスターに関しては母親の付き人という設定にしてみた。

念のため怪しまれないように、コープス・シスターのデフォルト装備であるシスター服からモモンガのインベントリに入れっぱなしになっていた、ボロボロの黒いローブに着替えさせてある。青白い肌については『汚染された土壌の影響』と言ってしまえば、すんなりと信じてもらえた。

 

こうしてシス子も光月城に厄介することとなり、共に赤ん坊を養うことが決まった。

 

「では、名前はどうしましょうか」

 

トキの言葉にそういえば母親からも名前を聞いてなかったなと、モモンガはまだはたと気づく。

 

まずは赤ん坊の性別を調べてみようと、トキは小さい身体を優しくまさぐっていく。

 

「あら、女の子ですね」

 

「では名付けはトキさんにお任せします」

 

モモンガは自分で考えないほうがよさそうだと判断し、女児の名付けはトキに任せることにした。

彼女はまず半紙と墨と筆を取り出して畳の上に広げ、候補になりそうな色々な漢字を一文字ずつ書いていく。

 

植物を表す漢字、空を表す漢字、健康長寿を表す漢字など、縁起のよさそうなものを並べてみては、何がいいだろうと腕を組んでうんうん唸っている。

 

「モモンガさんはどれがいいと思いますか?」

 

「え、えっと……」

 

チラリと半紙を見るも、ただ一介のサラリーマンでしかなかったモモンガからすれば、どれもこれも難しい漢字ばかりでなんて読むのかなどわからない。

 

「あはは……あいにく難しい漢字は詳しくなくて…」

 

素直にわからないと述べれば、トキは優しく微笑みつつ一文字ずつ意味を教えてくれた。

 

「ちなみにこれはどういう意味ですか?」

 

「これは『喜び』を意味する漢字ですね。読みは『キ』になります。ちなみにこちらは『箆』、読みはかんざしですが『の』と読む場合もありますね」

 

トキ曰く、漢字には一文字ごとに意味があるそうで、それらから『将来こんな子に育ってほしい』と願いを込めるのだそうだ。

モモンガはしばし悩んだ末、先ほどの漢字を二文字選ぶことにした。さらに女の子だし姫とつけるのもいいかもしれないと、あと一文字だけ加えてみる。

 

そこから名前の響きを考慮し、漢字の並びを変えたりしてようやく納得のいく出来映えになり、トキは先ほどよりもやや長い半紙に赤ん坊の名前書き記していく。

 

「では喜姫箆。貴女は今日から光月(こうげつ)喜姫箆(きいの)ですよ」

 

モモンガは安心したように息を吐き、シス子はパチパチと軽く拍手する。

赤ん坊も意味を理解しているかはわからないが、キャッキャッとモモンガの腕の中で無邪気に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、赤鞘九人男の一人カン十郎は森の外れに潜んでいた。

懐から巻物を取り出した彼はバサリと広げた真っ白な紙に、自前の筆で絵を描いていく。出来上がったのは漆黒の翼を持つカラスで、完成と同時にその絵はまるで紙から飛び出すかのように実態を持つ。

 

次に文を取り出す。

それはカン十郎……いや、黒炭カン十郎が、おでんに関する情報をまとめた密書である。

今日の報告をまとめた紙をカラスの足にくくりつける。

 

「よいか、これを必ずやオロチ様のもとへ届けよ」

 

カン十郎の命令にカラスは頷くようにガアと鳴き、黒い翼を羽ばたかせて夜の闇に消えていく。

 

 

(……それにしても、あの骨男は一体何者だ?)

 

 

おでんが拾ってきた、素性の知れない骸骨の輩。

オロチの間者としての指命を受けるカン十郎は、当然のごとく彼を援軍ではないかと警戒していた。

今日も外を出歩きたいと言い出す彼の後をこっそりとつけて動向を記録していたが、今日見ただけでも男の持つ能力は常軌を逸している。

 

死体を動かし、

衰弱する赤ん坊を癒し、

汚れた土を清め、

さらには大きな木を繁らせる。

 

特に汚染された土壌を浄化する異能は、オロチの今後の計画を遂行する上では最大の障害となりうるだろう。

一体何の悪魔の実でどんな能力だというのだ?

 

(とにかく、オロチ様にご報告しなければ)

 

ひとまず光月城に戻ろうとするが……

 

 

 

「あの……」

 

 

「ん?」

 

急に声をかけられ、振り返ってみれば……




今作のヒロインちゃん、名前でわかるとは思いますが平行世界の『あの子』です。
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