その日の朝、光月城は騒然としていた。
『カン十郎が襲われた!?』
家臣の一人、カン十郎が何者かに襲われて重症を負った状態で発見されたらしいのだ。
赤鞘の侍達はいずれも強者揃いだが、彼ほどの傑物がこれ程の深手を負うなど、襲撃者は一体どれほどの強敵なのだろうか。
「まさかオロチに……!」
身体中に包帯を巻かれて魘されている親友の姿に、錦衛門は最悪の可能性を浮かべつつ、拳を握りしめて義憤を燃やしている。
「………」
一方のモモンガは彼らの顔色を伺いながら、何か手伝えることがあったら言ってくださいと告げて桶の水を取り換えに行くのだった。
数日後………。
仲間達の看病の甲斐あってか、カン十郎は無事に意識を取り戻した。
「おおカン十郎! 無事だったか!」
「…………」
布団の傍らで嬉しそうに笑うおでんに対し、カン十郎は何やら戸惑っている様子だ。
「おでん様…?」
「身体は大丈夫か? どこか不具合はないか?」
一度自分の身体を見やり、カン十郎は驚愕している。
「なぜ某は、こんな怪我を……!?」
様子がおかしいカン十郎の反応に一同は話を聞いてみると、なんと彼はところどころ記憶が曖昧になっているらしいことが判明した。
幸いおでんや赤鞘との思い出までは消えていなかったようだが、結局襲撃者が何者かはわからずじまいだった。
「………」
モモンガは自室に戻ると、周囲に情報漏洩防止用の魔法をしっかりとかけてから向かいに座る人物を見下ろす。
「いかかがでしたか?」
モモンガにそう問いかけるのは、喜姫篦をあやすシス子だ。
「ああ、見たところは完全に馴染んだようだ」
「さすがは御方の御業ですわ」
モモンガからの報告に、彼女はこうなることをわかっていたかのようにほくそ笑むのだった。
以前からカン十郎が怪しいと睨んでいたモモンガは、彼に影の悪魔による監視をつけてその動向を探っていた。その結果、彼の正体がオロチのスパイであったことを知ったのである。
最初こそおでんに伝えるべきか悩んだが、新参の自分と長いこと過ごしてきた同僚とでは信頼の差が大きい。
それにおでんの性格を考慮すると、不用意に明かせば敵であるオロチにバレる可能性も高い。
その結果、下手に混乱を招くのは危険過ぎると判断して黙認を選んだわけである。
しかし、だからと言って放置するモモンガでもなく、ゆえにまずどうやってカン十郎を無力化するべきか、集めた情報から有益なものをいくつか選んだ。
この世界では『悪魔の実』という特定の木の実を食べた者は、強大な異能を持つかわりにカナヅチになったり『海楼石』という鉱石で無力化することができるようになるらしいことは光月の面々から聞いている。
そしてカン十郎もその能力者らしいので、モモンガはまずシス子や召喚した傭兵NPCに近辺を探らせ、海楼石製の拘束具をオロチに気付かれない範囲で可能な限り掻き集めた。
手錠、鎖、珍しいものだと釘という形状もあるが、この石の効果が自分にも及ぶのか、念のためにモモンガは鎖を自分の腕に巻きつけて試してみたりする。結論から言えばこの石の力は、モモンガやシス子には効かなかった。
そしてモモンガは彼が一人になる瞬間を見計い、スタン系・麻痺系・睡眠系等々の魔法やスキルを過剰なまでに使って抵抗力を奪い取り、殺さない程度に重症を負わせてからカン十郎を拘束した。
そしておでん達を観察して理解したこの国の侍という人種の精神の頑強さを考慮して、念には念をとカン十郎の身体を鎖で全身を雁字搦めにし、四肢を手錠で固定し、さらには肉ごと引き千切られないようにと脇腹から体内に埋め込むように五本ほど釘を打ち込んだ。
この甲斐あってかカン十郎を無力化することに成功したモモンガは、まず情報収集をしようと『コントロールアムネジア』で彼の記憶を覗いてみた。
………そこから垣間見た彼の過去は、悲惨というものではなかった。
彼は黒炭一族の分家筋の出だったらしいが、彼と彼の家族は何一つ悪行を犯していなかったのにも関わらず、黒炭の関係者というだけで非業の死を遂げていたらしい。
そこをオロチに付け入られ、今の人格に成り果ててしまったわけか。これはたしかに狂気に染まるのも致し方ないだろう。
さらに厄介なのは、今のカン十郎は本当の意味で中身がない。仮初のおでんの家臣としての誇りどころか、元々の主であるはずのオロチへの忠誠すら彼にとってはそういう『役』を演じているだけにすぎないのであった。
仮に拷問したとして、大した情報を吐かないだろうことは想像できる。無論このまま彼を野放しにもできないが、ならばどうするか……
思い悩むモモンガに助言をしたのは、意外にもシス子だった。
『モモンガ様、ならば彼の演技力を逆に利用してみてはどうでしょうか?』
シス子の見解によると、カン十郎の演技は計算からシミュレートしているものではなく、他者の魂を憑依させているような感覚で演じているらしい。
ならばオロチや黒炭に関する記憶だけを全て消し、自分は最初からおでんの家臣であったのだと思い込ませてみてはどうかと提案した。
少し迷ったがモモンガとしてもカン十郎からオロチ側へ情報が漏洩されることは避けたいので、どのみち記憶は消さなければならない。
最悪彼を始末することも視野に入れた上で記憶を弄り、斑になった記憶を不自然に思わせないためにあえて瀕死の状態にして光月城の前に放置したのだ。
カン十郎の意識が戻ってからもしばらく様子を見ていたモモンガだったが、彼は特に怪しい動きを見せていない。どうやら上手くいったようだ。
当面は問題ないだろうと安堵する一方で、モモンガの右手に力がこもる。
(………クソが)
カン十郎の記憶を通して、オロチがどのような計画を企てているかを知ることはできた。
おでんが定期的に行っていた裸踊りの真相は、ワノ国での彼の支持率を低下させるためのものであり、その間にとある海賊団の戦力を揃えるのが狙いだったらしい。
すでにモモンガの中ではおでん達は新しい友人となっている。そんな彼らにこのような屈辱を与えるオロチという外道に怒りがこみ上げるも、アンデッドゆえかすぐさま鎮静化されてしまう。
(いいさ、だったらこっちも利用してやるよ)
幸い、オロチから提示された期間は長く設けられている。それだけの時間があるならば、モモンガのやり方でこの状況を逆転させるための準備もできるはず。
「まずは現状の見直しからだな。シス子、お前の知恵も貸してくれ」
「御心のままに」
赤子をあやしながら頭を垂れるシス子とともに、改めてこれからの計画を整理していくモモンガだった。
書いてる間
「さすがに都合が良すぎるんじゃないか……?;」
↓↑
「でもモモンガさんだしなあ……」
こんな気持ちを行ったり来たりしながら書いてます。