未知の悪魔はデンレゼを理解する   作:ぷに凝

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続きました!


未知の悪魔は羞恥責めを理解する

未知の悪魔は困っていた。

 

「ち、ちげぇって! 勝手に口から出ただけなんだって! レゼが一番可愛いから! マキマさんと同じくらい可愛い!」

「……」

 

レゼとデンジが喧嘩している。

 

具体的には、デンジが戯言のような言い訳を重ねるたびにレゼの機嫌がどんどん悪くなっている。デンジはもう喋らない方がいいのではないか、と未知の悪魔は率直に思う。

しかも、その喧嘩の根本原因は不可解なことに未知の悪魔にあるらしい。やはり人間に関わるのは難しい、と改めて未知の悪魔は人間という生物の不確実性を評価した。

 

レゼがどのような理由でこれほど不機嫌になっているのかは理解できる。

 

デンジが未知の悪魔の姿、正確に言えば未知の悪魔が操っている女性の容姿を褒めたのが気に入らないのだろう。未知の悪魔も、一般的な人間の恋愛観からして意中の女性を目の前にしながら別の女性を褒めるというのは自身の立場を危うくする危険性のある行動だと知っている。

 

さらにデンジが下手な言い訳を重ねたばかりに、未知の悪魔にかけた言葉に真実味が増してしまっているのもいただけない。これでは未知の悪魔を「めっちゃかわいい」と評価したことの裏付けをしてしまっているだけの現状だ。

 

未知の悪魔はそんな現状を見かねて、デンジを下がらせるとレゼと正面から向き合った。

 

「……なに?」

 

レゼは無表情だったが、その内心に沸々とした怒りが渦巻いていることは想像に難くない。未知の悪魔はそんなレゼの態度を柔らげるために言葉をかけた。

 

曰く──。

 

デンジが未知の悪魔に対して投げかけた「めっちゃかわいい」という容姿への評価は、あくまでデンジの性的趣向や好みの女性観に未知の悪魔の姿が奇跡的に合致してしまっただけであり、それはレゼの女性的魅力を貶めるような事実ではないこと。

 

加えて言えば、デンジは未知の悪魔と言葉を交わしたことがないのだから、デンジは未知の悪魔の性格や内面に惹かれたわけではなく、ただ純粋に容姿に惹かれただけで、それは一目惚れのようなものでありデンジと対話を重ねて絆を育んだレゼの優位性を脅かすものではないこと。

 

さらに言えば、恐らくデンジは視線の動きや過去の言動から豊満な女性の胸部に対して並々ならぬ執着心を抱いており、それは未知の悪魔の身体的特徴とも合致するが、結局のところ肉体に優劣など存在せずレゼの胸が未知の悪魔に比べて慎ましやかなものだとしてもレゼの胸には独自の魅力と需要が存在しており決してレゼの希少価値を毀損するものではないことを──。

 

「殺す」

 

そんな未知の悪魔の渾身の説得は、どうやら逆にレゼの反感を買ってしまったらしい。

 

「おぉい、レゼ! ヤベェって! ここで人殺したら逃げんの難しくなるぞ!!」

「人じゃない! 悪魔だよこいつは!」

「え、マジ?」

 

未知の悪魔は首肯した。自分は悪魔であると。

 

「えっ、じゃ殺した方がいい?」

「……殺せるならね」

 

本人を目の前にして随分な会話を繰り広げるものだ。と未知の悪魔は感心してしまった。

期せずして、レゼとデンジの両名と向かい合う形になった未知の悪魔。しかし、この二人が共闘して未知の悪魔を倒そうと目論んでいるという状況が、不思議なことだが未知の悪魔に奇妙な充足感を与えた。

 

もしかしたら、未知の悪魔は二人のこういう姿が見たかったのではないか──と。

 

「……なんかあの人すげぇ満足そうなんだけど」

「……意味わかんない」

 

そんな未知の悪魔の様子にデンジとレゼは困惑気味だ。

 

未知の悪魔はもう一度コーヒーに口をつけると、残りの分を飲み干してゆったりと席を立った。

その際わずかに前屈みになった未知の悪魔の胸元にデンジの視線が吸い寄せられたのが分かったが、すかさずレゼの肘がデンジの横腹を小突いた。さすが、国に従事して工作員をやっているだけある反応速度だ。

 

未知の悪魔は警戒するレゼに対してこう言った。

 

「マキマはしばらく君を見逃すだろう。ソ連の方も、私が話を通しておく。これからどうするかは君が決めるといい」と。

 

それに対し、レゼは目を細めていった。

 

「……あなたは、一体誰なの?」

 

レゼは出会った時からずっとそうだったが、やはり未知の悪魔に困惑げな表情を見せた。デンジの方は「え? なに? どゆこと?」と事態を飲み込めていない様子だ。

 

レゼからしてみれば、未知の悪魔の存在は不可解なものだと理解できる。悪魔であることには気づいているようだが、会ったこともない悪魔がなぜか自分に親しげだというのは、そうでない悪魔以上に不気味に感じるものだろう。

 

しかし、未知の悪魔の行動に深い意義や理由は存在しない。誰しも戯れに生き物を殺すこともあれば、生かすこともあるだろう。それと同じこと。蜘蛛の巣にかかった哀れな蝶を解放するのと何も変わらない。

蝶がどこへ飛び立つのか、飛び立った先でどう生きるのかまでは関与しない。それが未知の悪魔の姿勢である。

 

だから、未知の悪魔が何者であるかなどレゼにとって重要なことではないし、レゼは今後の自分の身の振り方だけを考えるべきなのだ、と。

 

「……」

 

レゼは未知の悪魔の言葉を咀嚼して、嚥下するのに苦労しているらしい。

縁もゆかりもない誰かが自分のために何かをしてくれるという状況自体、レゼにとっては望外のことだろうから。

 

「なーんか、よくわかんねぇけど」

 

そしてレゼの姿勢とは対照的に、デンジの姿勢はわかりやすいものだった。

 

「これでレゼと一緒にいられるんだろ? 帰っちまったのかと思ってたけど、また会えるんなら俺は最高の気分になれるぜ。一緒に逃げる準備はもう出来てるしな」

「デンジ君……」

「レゼはどうしてぇんだ?」

 

デンジの明確な好意に、レゼは唇を引き結んで目に涙を溜めていた。

未知の悪魔の胸に目を持っていかれてたとは思えない満点回答である。

 

「私は……デンジ君と、一緒なら……どこでも……」

 

レゼは、俯きながらぎゅうっとデンジの服の袖を掴んで意思を示した。

 

「可愛すぎねぇ?」

 

デンジの率直な感想。

 

未知の悪魔は人間を好意の対象とすることが極めて稀だが、完全に同意できる内容だった。

これも「れいこくなおんなすぱい」の「はにーとらっぷ」というやつなのだろうか。

 

ところでこれは純粋な疑問なのだが、どうしてレゼはデンジと電話ボックスの中で出会ってすぐにデンジのことを殺さなかったのだろうか。任務を考えればあそこで始末してしまうのが最も確実だったはずである。

さらに言えばそこから1週間デンジと関係を深めたのも、必要ないと言えば必要ない期間だ。夜の学校デートに関しては完全に私情が入っているだろう。

 

思うにレゼは夏祭りの日、一世一代のデンジへの告白が失敗したことでヤケになって暴れ出したのではないかと未知の悪魔は考えているのだが、そのあたり本人の意見をぜひ聞きたい。

 

「なんでそんなこと知ってんのォ!?」

 

デンジが驚いているが、未知の悪魔は耳まで真っ赤になってるレゼに聞いているのだ。

 

未知の悪魔は出会って短い時間……恐らくは「カフェ」にデンジを呼んだ時点でレゼは任務を私情で捻じ曲げており、その後の行動は全部嘘どころか完全にレゼの主導で行われた任務という名のイチャコラデートでしかなかったというのが未知の悪魔の推測だ。その答え合わせを本人にできるのはまたとない機会である。

 

「どうなんだい? 実際の所」と未知の悪魔は聞いた。デンジも「マジ?」とぷるぷる震えて何も言わないレゼに瞳孔ガン開きで信じられないような視線を向けた。

 

「……私、この人嫌い」

 

蚊の鳴くような小さな声が、答え合わせの全てだった。

 

未知の悪魔は心が温かなもので満たされた。

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