未知の悪魔はデンレゼを理解する   作:ぷに凝

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未知の悪魔は傲慢を理解する

事態が一端の収まりを見せた後、レゼはデンジの同居人にして仕事仲間でもある早川アキの自宅に一旦囲われる運びとなった。

 

手配したのは支配の悪魔である。支配の悪魔はレゼを未知の悪魔に連れて行かれてからずっとレゼと未知の悪魔の動向を監視していたようだったが、未知の悪魔を排除できないと悟るとレゼを公安で匿う方針で固まったようだ。

 

実の所、未知の悪魔はレゼにこれ以上関与するつもりはなく、再び支配の悪魔がレゼに手を下したとしても未知の悪魔はそれを傍観するつもりだった。未知の悪魔の目的は叶ったのだから。

 

しかし、それをわざわざ支配の悪魔に伝えて誤解を解くこともしない。物事は動くように動くものだ。支配の悪魔もまた彼女なりの目的のために最善を尽くしているだけなのだろう。

 

それが周囲の人間にどのような被害を齎すかはまた別の話。

 

レゼとデンジを見送った未知の悪魔は「マスター」に事のあらましを伝えて勘定を済ませようとした。

 

「あなたが彼女を助けてくれたんでしょう。彼女の親ではないが、似たようなものとして礼を言わせてください。お代は要りません」

 

未知の悪魔は少々驚いた。ただの人間の経営者だと思っていたがマスターはレゼの置かれていた状況に薄々勘づいていたらしい。

 

「歳の功ってやつですよ」

 

そう言って「マスター」は笑った。

 

未知の悪魔はまたいつかこの「カフェ」に来ることをマスターに伝えた。今度はちゃんと普通の客として来店することにして。

 

◆

 

「そこの綺麗なお嬢さん、少しお時間いいですか」

 

数日後。

 

未知の悪魔が期間限定スペシャルトッピングチョコバナナクレープを食べていると、背後からしゃがれた男性の声がかかった。

「ナンパ」と呼ばれる人間の求愛行動かと思ったが、油断のない足運びや気配からしてそれは違うらしかった。

 

「公安対魔特異1課の岸辺です。少々お話がありまして、ご同行願えますか」

 

そこに立っていたのは、デビルハンターと思わしき風体の中年の男性だった。見てくれからかなり腕が立つらしいことがわかる。

未知の悪魔は鼻についたホイップクリームを指で取って舐めると「美味しいスイーツが食べられるお店に行きたい」と伝えた。

 

「ええ。部下に女性を連れて行くならここだと太鼓判を押された店がありまして。気に入っていただければよいのですが」

 

未知の悪魔は了承すると、岸辺と名乗ったデビルハンターの後をついて行った。

 

「ここです」

 

そこは、人の多い通りから少し外れた静かな横道をわずかに歩いた先に建つ、落ち着いた雰囲気の飲食店だった。

未知の悪魔から見ても中々の穴場スポットと言えるのではないだろうか。この岸辺という男は見た目に似合わずプレイボーイの気があるらしい。

 

「ずっと誘ってる女性が一人いるのですがね。もう何十年も断られています」

 

どうやら他の女性向けだったもののお下がりらしい。未知の悪魔はぞんざいな扱いに頬を膨らませて抗議した。

 

「きっと、もうその女性を誘う機会も無くなるでしょうから。このまま温めておいてもじき冷めるだけだったんですよ」

 

入店すると、店内も落ち着いた雰囲気で客もあまり多くない。

 

席についてメニューを開くと、目にしているだけでも楽しい数々のスイーツが未知の悪魔の視界を彩った。

 

「お好きなものを選んでください。私の財布事情が許す限りにはなりますが」

 

そうは言っても岸辺はデビルハンターなのだから随分貰っているだろう。と指摘すると岸辺は顔色一つ変えず頷いた。

 

「そうですが、悪魔に財布の中をすっからかんにされてしまってはこちらの顔も立ちませんので……もうごっこ遊びはいいか? 堅苦しい話し方は疲れる」

 

未知の悪魔は頷いた。

 

人払いもすでに済ませてあるようなので、早速本題に入ることを岸辺に促した。

 

「ソ連指導部は“ボム”から情報が漏れることを気にしている。マキマはすでにボムが日本を離れていると説明したが、向こうは信用しないだろう。実際、ボムは公安が囲っているんだからな。だがあんたの存在があるからマキマはボムに手出しができない」

 

運ばれてきたチーズケーキを切り分けて口に運びと、まろやかな甘みと酸味からなる刺激が未知の悪魔の味覚を楽しませた。

 

「マキマの提案はこうだ。ボムを始末できないせいで、じきにデンジの存在がバレて日本は各国から送られる刺客に対応しなければいけなくなる。だからボムの身柄を保証する代わりに、デンジを刺客から守るためにあんたに力を貸して欲しい」

 

未知の悪魔は白ワインを喉に流し込みながら言った。

 

支配の悪魔からレゼを連れて行く対価はすでに支配の悪魔に払っている。これ以上の“お願い事”を受ける道理はないと。

 

「街中で人類を滅亡させかねないヤバい悪魔がクレープ店の待機列に並んでいることを見逃す理由は必要だ。あんたが借りてるその体は、1年前から行方不明者として届出が出てる。ポスターを見た誰かがあんたの顔にピンと来て警察に連絡が行ったら俺たちはあんたを悪魔として扱わなきゃいけないが、事前に話がついてたらそんな面倒な事態も避けられる」

 

未知の悪魔が乗っ取ったこの女性は、とある廃ビル内の一室で複数人の男たちに裸の状態で拐かされていたところだった。

女性はすでに薬物や激しい暴力で自我を喪失しており、廃人同然の状態であった。

 

男たちは人形のようになった女性を、実際人形のように扱っていたのだった。

 

人形ならば乗っ取っても問題は起きにくいだろう、ということで未知の悪魔はその女性を自身の器として選び、周囲にいた男たちをただの肉塊に変えてから外に出たのだ。

 

放っておけば死人になっていたものを動かしていることは、人間の尺度で罪になるのだろうか。

 

「あんたがその気になれば、俺もマキマもこの国の奴らも全員なす術もなく殺される。そうなってないってことは、あんたにその気はないってことだ。あんたが面倒に巻き込まれず平穏にこの国で過ごすための手伝いをさせて欲しいんだよ。それに極論、あんたは何もしなくていい。この話に頷いて貰えれば、あとは全部こっちでなんとかする」

 

岸辺は何か勘違いしているらしい、と未知の悪魔は切り出した。

 

未知の悪魔が人間社会のルールに則って行動しているのは、未知の悪魔の善意だとか規範意識によるものではない。自身の力を誇示することに興味がないだけだ。

 

未知の悪魔は自身の存在が広く知られることを嫌う。自身の未知が薄れることを嫌うのだ。だから未知の悪魔は今でこそこうして人間社会に馴染んでいるが、地獄に戻る際には今回関わった全員の記憶から未知の悪魔の記憶を消して去るつもりである。

 

だから未知の悪魔がどれだけ人間社会で暴れたところで、最終的に未知の悪魔の存在は消えて無くなるのだから全ての帳尻は合うのだ。元々未知の悪魔は人間の敷いたルールに従う理由はない。

それでも未知の悪魔が大人しくしているのは、等身大の人間の視点に興味があるからだ。その視点でしか見れない世界を見たかったからだ。それ以外の理由はない。

 

そのために公安に協力する必要性は皆無だし、彼らの協力も求めていない。必要ならば記憶を消して消えるだけだ。

 

岸辺の提案は前提条件で破綻しているのだ。それにも関わらず未知の悪魔に対して矮小な人間の分際で取引を持ちかけようとは、傲慢な振る舞いと言うほかない。

 

未知の悪魔は悪魔である。悪魔は人間の敵である。

 

だから、交渉は決裂だ。

 

「そうか」

 

そう言うと、岸辺は黙って席を立った。

 

「時間を取らせて悪かったな。失礼な態度を取ったことも詫びる。だが今回の話は覚えておいて欲しい」

 

岸辺は胸元から「名刺」と呼ばれる身分を示す一枚の紙をテーブルの上に置くと、そのまま店を出て行った。

未知の悪魔は名刺を手に取ると、その下から一枚の薄いメモが落ちた。

 

『マキマを殺す手伝いをして欲しい』

 

なるほど。

 

こちらの方が本題だったらしい。

 

未知の悪魔は運ばれてきたパフェにはむっと食らいつきながら、岸辺から持ち込まれた話を吟味した。

 

未知の悪魔に意義や理由は必要ない。

 

“面白そうかどうか”……たったそれだけで、凡百の存在を吹き飛ばしてしまう未知の悪魔の行動指針は決定してしまうのだった。

 

他者を傲慢と評しながら、自身が最も傲慢であることを自覚する未知の悪魔は、今はただお気に入りのスイーツ店を見つけてはしゃぐ無邪気な女性として振る舞った。




あとがき早川家

ア「デンジを殺そうとしたソ連のスパイが俺の家に……!? 何を考えてるかわからん。警戒しないと」
レ「デンジくんの彼女として相応しい行いをしないと……!」
デ「まぁなんとかなるべ」
パ「レゼ? あぁ、ワシの配下じゃ」

↓

ア「気が利くししっかりしてるし家事もやってくれるしデンジを叱ってくれる。よく来てくれた」
レ「信用してもらえて嬉しい!」
デ「レゼが母ちゃんみたいになった!?」
パ「ワシの配下じゃ」
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