未知の悪魔はデンレゼを理解する   作:ぷに凝

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未知の悪魔はお膳立てを理解する

ピンポーン

 

未知の悪魔はチャイムを鳴らした。

 

「嫌じゃあああああ!! 闇の悪魔の次はワシを殺しに来たんじゃあああああ!!!」

「おい、窓から逃げようとすんなよパワ子!! ニャーコが外に出ちまうだろうが!!」

「レゼ、パワーとニャーコは俺が見とく。出てくれ」

「うん、わかった」

 

ドアの向こうでは、阿鼻叫喚と言うべき惨状が繰り広げられているようだ。

 

「は〜い……うげっ」

 

ドアの向こうから姿を見せたのは、苦々しい顔つきをしたエプロン姿のレゼだった。

未知の悪魔は手に持ったドーナツの箱を掲げて「遊びに来た」と言った。ちなみにこのドーナツはクァンシの仲間の魔人の一人から譲り受けた者である。

 

「……どうぞ」

 

レゼは嫌々ながらも未知の悪魔を部屋の中に通した。「お邪魔します」と部屋に入る。

 

未知の悪魔は早川アキの自宅を訪問していた。

 

ドアを潜った瞬間、何かがドタドタドタと音を立てて奥の部屋に入っていった。

 

「こ、この部屋にいる最強の悪魔はワシが封印しておる。入ってくるな!!」

 

どうやら血の魔人が未知の悪魔から逃げ隠れたらしい。

 

「すみません、騒がしくて。マキマさんから話は聞いています。地獄で俺たちを手助けしてくれていたと」

「えっ? でも俺ぁこの人、悪魔だって聞いてるぜ。こんなカワ、いいツラしてんのに」

「悪魔が悪魔と敵対することってそんなに珍しくないし。ところでデンジくん、今なんて?」

 

未知の悪魔は初対面である早川アキに挨拶をすると、お土産として買ってきたドーナツを手渡した。

失言をレゼに咎められているデンジを尻目に「ありがとうございます」と受け取る早川アキは、未知の悪魔に近づく際わずかに緊張している様子だった。

 

「……闇の悪魔はとんでもない化け物でした。それを、あんな風に……いまだに信じられなくて」

 

早川アキはそう言って自身の左腕に視線を落とした。左腕は当然のようにそこにあるが、彼は闇の悪魔と交戦した際一度腕を失っていたのだった。

 

それが何故生えているのかと言えば、地獄から帰還した際に何故か勝手にくっついていたからである。

なんとも不思議なことがあるものである。通りすがりの悪魔が勝手にくっつけていったなんてことでも起きないとありえない奇跡だ。

 

そうでなくとも、早川アキは悪魔嫌いで有名らしい。未知の悪魔を警戒するのは当然ではある。

悪魔嫌いにしては、早川アキの周囲には悪魔しかいないのは笑っていいところなのか判断に悩むが。

 

「ところで、今日はどんなご用件で?」

 

そんな未知の悪魔の内心を知ってか知らずか、早川アキはそう聞いてきた。

未知の悪魔は答えた。「地獄戻りの怪我人たちに無理をさせないため、家事を手伝いに来た」のだと。

 

「そうでしたか、ありがとうございます。確かにまだ本調子ではないので助かりま……」

「アキぃ……! 闇の悪魔の怨霊がワシを見ておるぅ……」

「……すいません、ちょっと外します。パワー、お前自分で閉じこもっておいて……」

 

早川アキは血の魔人に呼ばれて彼女を介護しに行ったようだ。やはり、どこが悪魔嫌いなのかわからない。

 

「手伝いは嬉しいけど、そんなに困ってないですよ? もう体の不調は治ってるし」

 

夕食の準備の手伝いを申し出た未知の悪魔の厚意をすげなく断ったレゼは、台所に立って包丁を持った。

レゼとデンジの場合は怪我もすぐに治る。それでも痛みや違和感まで消えるわけではないので、万全ではないはずだ。

 

「いいって、レゼ。俺がやる」

「えっ、デンジくん? いいよ、休んでて?」

「レゼこそ休んでろよ」

 

そんなレゼを無理やり台所から追い出したのは、意外……というのもおかしな話だが、デンジだった。

 

「……デンジくん、帰ってきてからずっとあんな感じなんだ」

 

デンジは地獄から帰ってきた後、レゼに過保護気味な態度を取るようになったらしい。

それはきっと、レゼがデンジを庇って目の前で体を切り刻まれたことと無関係ではないのだろう。

 

「私たちはすぐ怪我だって治るのにね?」

 

と、レゼは笑って言う。そんなレゼに未知の悪魔は横並びで食器を拭きながら聞いた。

 

「だからそんなに機嫌が良いのか」と。

 

レゼはビクッと肩を振るわせて、未知の悪魔から目を逸らした。

 

「な、なんのことかな」

 

未知の悪魔は気づいていた。レゼがデンジを見る視線に妙な色が混じっていることと、わずかな所作から滲み出るレゼの機嫌の良さに。

デンジがレゼを気遣って、あれこれと世話を焼こうとするたびにレゼは困った顔をしながらも少々危険で、粘ついた視線をデンジに送っていたのだった。

 

レゼは早川家で過ごす中でデンジとの関係性にも変化が生じたらしく、以前まで二人の間に漂っていた初々しさのようなものは薄れて、代わりにお互いを支え合う新婚夫婦のような信頼関係が構築されていた。

レゼとデンジは未知の悪魔から見て「恋人以上夫婦未満」と言っていい関係性に出来上がっていた。

 

お互いの存在を失ってしまうかもしれない、という危機感を抱かせた地獄での出来事は二人の関係性を大きく変えたらしい。

 

そう考えると気になることがある。と、未知の悪魔は思ったことをレゼに聞いた。

 

「それでセックスはしたのかしら。そこが気になるわ、あなた」と。

 

レゼは横転した。

 

「なっ、なっ、なぁ……っ!? なに言って……!?」

 

目を見開いて、信じられないような表情で未知の悪魔を見るレゼ。顔は真っ赤だ。頬の赤らめは演技とのことなので、これも演技だろうか。工作員にしてはウブがすぎる。

 

それに何を言っているのか、と聞かれても未知の悪魔の方が困る。

性交はすでに済ませたのかと端的に聞いたのだ。これ以上わかりやすい質問もないと思うが。

 

「直接的すぎるって! もっと、こう……言い方とかあるでしょ……!?」

 

言い方を変えれば良いのだろうか。では「交尾したのか」とでも言えばいいのだろうか。未知の悪魔としてはそちらの方が風情がなくて嫌なのだが。

 

「そもそもそんなこと聞くのがおかしいんだけど……」

 

なるほど、未知の悪魔は話題選びを失敗してしまったようだ。この手のことはよくやる。なにせ人間も完璧にしている者はほとんどいないので正解が分かりづらいのだ。

 

「それで、したのか?」と未知の悪魔は再度聞いた。

 

「……し、してない」

 

この返答には流石に未知の悪魔も落胆した。どうやらレゼはデンジと性交するつもりがないらしい。最近の若い人間は皆こうなのだろうか。

 

「へっ!? い、いや、そういう意味じゃ……! ま、まだ早いっていうか……デンジくんの気持ちもあるだろうし……二人きりになれるタイミングが……私の準備の方も……」

 

レゼがモゴモゴし始めた。

 

顔を真っ赤にして、髪をいじりながら甘ったれたことを言い出したので、未知の悪魔は肩をすくめてレゼの耳元で囁いた。

「マキマが江ノ島旅行を計画している。未知の悪魔はそれについていくつもりだ」と。

 

「え……マキマはそれを了承したの?」

 

していない。が、どうせ支配の悪魔は未知の悪魔の行動を止めることはできないだろう。

 

「あなたってかなり強引だよね……」

 

今更である。

 

そして続けて言った。「この旅行に早川アキと血の魔人も誘おうと思っている。というか、連れていく」と。

 

「アキくんと、パワーちゃん……?」

 

未知の悪魔は頷いた。元々二人とも行く予定だった旅行だ。幸い地獄での後遺症もそれほどではない。二人とも旅行に行けないわけじゃないだろう。

 

「えっ、待って。私とデンジくんは……?」

 

まさにそこである。

 

未知の悪魔が早川アキと血の魔人を旅行に連れて行く。そして、デンジとレゼは適当な理由をつけて早川家に置いていく。

 

するとどうなるだろうか。

 

「家に二人きり……」

 

その通り。

 

まだなにか言う必要があるだろうか。

 

「……」

 

レゼが食器で顔を隠し、耳まで真っ赤になった。

 

一体ナニを想像したのだろうか、この淫乱爆発娘は……。これだから北国出身は困る。

 

「それは関係ないでしょ……」

 

レゼが食器から目線だけ未知の悪魔に向けて抗議の声をあげる。

 

ともかくそういうわけなので、レゼには早川アキ達が家を留守にしている数日間で勝負を決めて欲しいわけだ。心配せずとも勝率は高いと踏んでいる。

 

なにせ、デンジの方もチャンスを窺っているようだったから。

 

「……デンジくんは、さ」

 

レゼが皿をゆっくりと洗いながら、紅潮した顔のまま真剣みを帯びた顔で言った。少し真面目そうな話だ。

 

「田舎のやり方と都会のやり方、どっちが良いのかな……」

 

と思ったらドスケベイソップ寓話だった。

 

この女、完全に色ボケしているようだ。と、未知の悪魔は呆れと苦笑の息を吐いた。

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