マブラヴガールズガーデン外伝 月ヶ瀬ちゆる~マルチバースの流儀~ 作:マブラマ
ザルトゥーム学園柊校舎のチーム『カラフルブーケ』 勝利
同じくスカラ校舎のチーム『カオスメイデン』 勝利
『ピクシスマスール』『トレブルクインテット』 不戦勝
犯罪組織『双頭の斧』 引き分け
この一連の事件の渦中には、常に柊校舎のチーム『シリウスシュガー』の影がちらついていた。そして、そのチームの創設者こそ……月ヶ瀬ちゆる。
彼女は一体何者なのか? 謎に包まれた存在で、ほとんど何もわかっていない。知られているのは、本名が龍宮ちゆるということ。月ヶ瀬は母親の姓だ。T2元素を発見した張本人で、社交的で明るい少女。生徒会から認可を得て『メイズ研究同好会』を立ち上げ、一人で研究を続ける変わり者。頭脳明晰らしいが、怪しい実験を繰り返しては部室で爆発を起こすため、周囲からは「頭のいいバカ」と陰で囁かれている。そして、『シリウスシュガー』の中心メンバーであり、登校先はザルトゥーム学園柊校舎。『双頭の斧』のリーダーを務める謎の女性、コトハとは一度対峙したことがある。ユーロタワーやLOCからスカウトされそうになったが、後に白紙に戻った。『双頭の斧』の学園襲撃事件以降、彼女は世間から賞賛の嵐を受け、科学雑誌『ニュートン』の表紙を飾るほどの人気者になっていた。
「うーん、あたしって美人に見える?」
月ヶ瀬ちゆるが、雑誌の表紙を眺めながら呟いた。隣で紅茶を淹れていた桃園めるが、くすりと笑う。
「すっかり有名人ですね……」
「あたしのお父さんのことも書かれてるね。T1元素はお父さんで、T2はあたしが見つけたんだからね……もう分かってると思うけど、あの襲撃事件の前はT2元素はお父さんが発見したってことになってたの」
めるがカップを置いて、優しく頷く。
「ちゆるさんのお父さんは破天荒ですね」
「そう? あたしには普通に見えるけどなあ」
その時、ドアがノックされた。入ってきたのは、指揮官だ。
「ちゆる、める。生徒会室に来てくれ。生徒会長が話があるらしい」
ザルトゥーム学園本館。最上階、生徒会室。
指揮官は少し緊張した面持ちで部屋に入った。四王天神楽が生徒会長の席に座っている。
「いきなり生徒会長の呼び出しか……一体何の用事だ?」
神楽は慌てた様子で立ち上がった。
「すみません、急に呼び出してしまって」
「どうしたんだ? なんか慌ててるみたいだが……」
「時間がないため詳しく説明できません。端的に言えば、メイズにて大規模異常が観測されました。取り急ぎ、貴方には異常発生場所付近の想定座標をお送りします。緊急対応として、確認のためすぐさま現地へ向かって下さい」
ちゆるが首を傾げる。
「?」
「では、私は私で対応がありますので、これで失礼いたします」
神楽は足早に部屋を出て行った。指揮官は眉を寄せる。
「なんなんだ……?」
その時、指揮官のポケットからピコの声が飛び出した。
「ピコピコピーン! それについては、ボクが前に集めた情報ストックの中に、これかもってのがありそうです! いやぁ、前に暇すぎて1日をだらだらとネットサーフィンで潰した甲斐がありましたね!」
「おお、でかした! なんか言ってることがニートのそれっぽいが!」
「一言多くありません? と、とりあえず、今要約して共有しますね! ――えーっと、えっと……現在詳しいことはまだ判明していませんが、メイズでは時折想定外の異常現象が発生することがあります。その中の一つが、『異世界からやって来た』とされる人物の存在。極端に発見・保護されたという報告がありますね。まあ、大半はメイズシンドロームによる混乱や妄想の類というオチなんですけど……それで……あれ? なんだっけ?」
「おい」
ちゆるがため息をつく。
「少し不安だね……」
眼前に広がるメイズは、最初に目覚めたときと変わらない風景で、指揮官、める、ちゆるの三人を迎え入れた。灰色の岩肌が続く坑道、微かな重力の揺らぎが空気を歪める。指揮官は独り言のように呟く。
「(何で目覚めた時の事を思い出すんだろうな……)」
「指揮官」
「(いつもと違って周りが静かだからか? ピコの説明を聞いてから、どうも妙な予感が……)」
「指揮官ってば!」
「ん? ああ、悪い、ちゆる。どうしたんだ?」
「異常反応が観測された座標までもうすぐ着くよ」
めるが頷く。
「そうみたいですね。指揮官さん、このまま進みましょう。何が待っているかは分かりませんね」
「本来なら、メイズ探索はチームで動くべきなのに、二人で任務に参加して貰う事になってさ」
ちゆるが明るく手を振る。
「ううん、あたしは気にしてないよ。それにどんな異常なのか早く確認したいしね」
「ちゆるさん、楽しんでませんか? まあ、いきなりの用事でしたからね。皆さん、外せない用事があったのでしょうがないですよ」
ラミと白奈はバイト、七彩は父方の実家に帰省しており外せない用事があるらしい。
「それに、ひとりじゃありませんから!」
「あたしとめるちゃんは指揮官と一緒って事だよ」
「信頼してくれるのは嬉しいが……俺の機体は戦闘に参加出来ないからな。いざという時には、めるが戦うんだぞ?」
「あたしは後方支援で遠距離で戦うよ♪」
「……ちゆるも戦うんだぞ?」
「分かってるって」
指揮官は心の中で思う。
「(心強いがメイズシフターの大群と遭遇でもしたら、める一人じゃ戦力的に不安だな……)頼りにしているが、それでも敵次第で、逃げるのも選択肢だ。油断せずに警戒を続けるぞ」
「あー、メイズでの異常反応がどんなのか見たいわ!」
「深追いはするなよ? ヤバそうなら即座に回れ右して、生徒会に報告を――」
次の瞬間、奥から戦闘の音が響いた。
ガガガガガガ!
金属が軋む音、爆発の轟音。どうやらメイズシフターとの戦闘に挑んでいるのは、MG……ではなく、指揮官が元にいた世界で活躍する戦術機だった。
《―――ちゃんっ……!》
少女の声。しかし、めるとちゆる……どちらでもない。これは明らかに第三者の声だ。
「……何か言ったか?」
「い、いえ、私じゃないです。回線にノイズが混じったんでしょうか」
「あたしでもないわ……それに、ノイズにしてはハッキリと聞こえる」
《タケルちゃんっ!》
「まただ! 確かに声が聞こえたぞ!」
「そうみたいね……それに“タケルちゃん”って誰? まさか、指揮官の知り合い?」「え? 知らないぞ俺は」
「―――所属不明の機体を確認したよ! あれは……」
冥夜の声が轟く。
《おおおおおおおっ!》
「1、2、3……全部で6機! メイズシフターの群れに囲まれてるのか!」
「でも、あんなMG見たことがないです……どこの所属なんでしょうか?」
「うーん、双頭の斧のMGではないし……違法パイロットがこんな機体乗ってる訳ないしね」
「……テロリストか?」
「わからない……指揮官、データを送るよ」
指揮官の目が細まる。
「……あの機体は……あれは、不知火? それに武御雷……?」
「え?」
「(くっ……頭の中で、何かが、俺はアレと似た機体を知っている……? だめだ……思い出せない……)」
「指揮官さん、大丈夫ですか!?」
「ああ、とにかく、あの群れに接近して状況を把握しよう!」
「(あれが観測された異常の正体なの? とにかく調査しないと)」
ガガガガガガガ!
武の声が苦しげに響く。
《ぐっ……クソ! 何だこいつら……! 次から次へと襲ってきて……! また頭痛が……頭が、割れそうだ……》
《タケルちゃんっ、しっかりして!》
《御剣は白銀の直掩に! 全機! フォーメーションサークルワンで敵の少ない方向へ移動!》
《すまん……委員長》
《まったく……いつもの調子はどこ行ったのよ!》
《……悠長に話しすぎ。4時方向から3体来てる》
《10時方向からどんどん来てます!》
《ここはボク達が引き受けるからタケルは下がってて!》
《すまん、みんな……!》
《タケルちゃんっ、上から来てるよ!》
《くっ!》
《でやぁぁぁぁぁぁぁっ!》
ザンッ!
《―――あわやのところであったな》
《悪い、冥夜。助かった……》
《礼には及ばん。しかし、状況は思わしくないな》
《ああ、此奴ら一体一体は大したことないみたいだが……》
《わたし達、すっかり囲まれちゃってるよっ!》
《流石に多勢に無勢。おまけに地の利もない》
《タケルさんは調子を崩していますし……》
《白銀だけじゃない。さっきから機体も不調を訴えてるわ。何なのよ、この妙な場所は》
《ボク達は装備の補給も出来ず損耗する一方。このままじゃジリ貧だよ……!》
《泣き言を口にしても始まらない。生ある限り抗うのみだ》
《こんな場所で……死んで……たまるか……!》
ドォン!
《っ!? 何だ? ぐ……頭痛が……誰が、撃ったんだ?》
「援護します! 下がって下さい!」
《タケルちゃん! 味方が来てくれたみたいだよ!》
《いや……あのような戦術機は見たことはない。いったいどこの機体なのだ?》
「そこの所属不明機のパイロット。こっちの回線は通じてるか?」
《隊長の榊です。まずは援護を感謝します。あなたたちの所属を伺えますか?》
「質問してるのは指揮官の方だけど……ま、いっか。双頭の斧でもなければ違法パイロットではなかったみたいだね」
「……ともあれ会話に応じてくれる相手で良かったよ」
「私達、生徒会の指示でメイズの異常調査に来たんです!」
「君達はどこの校舎の人かな?」
《生徒会……? メイズ……? 校舎……?》
《意味不明》
《聞きたい事は色々ありますが、まずはこの場を切り抜けてからにしませんか?》
「…確かに聞きたい事は山ほどあるが、話はあとだな。める、ちゆる! まずはメイズシフターを片付けるぞ!」
「はい!」
「了解したよ!」
ガガガガガガ!
「このあたりの地形や敵はわかっている。一旦こちらの指示に従ってくれ。出口まで先導する」
《そうする他になさそうね……。全機ついてきて!》
《了解!》
「話が早くて助かるわ」
《そうとなれば俺も戦闘に……ぐ……!》
「はい、君は暫く休んだ方が良いよ」
謎のパイロット達を救出した指揮官とめる、ちゆる二人はメイズの入り口手前まで離脱した。
《す、すまねえ……》
「(なんかシンパシーとか感じるな。自分で戦えないって言うのは……)」
数分後
「ふぅ……ここまで来ればもう大丈夫だよ。みんな降りて良いわよ」
《そなた達には、改めて礼を言わねばなるまいな》
「あっ、機体のハッチが開いていきます!」
戦術機の管制ユニットのハッチを開き、白銀達は機体から降りた。白銀武、鑑純夏、榊千鶴、彩峰慧、珠瀬壬姫、鎧衣美琴はそれぞれ不知火から。御剣冥夜は武御雷から。
「あたし達も降りて話を聞きましょう♪」
「ああ……そうだな」
三人ものMGから降りる。
「私はこの部隊の隊長、榊千鶴です。……それで、まず貴方たちは何者なの?」
「こ、これはご丁寧に……! 私は桃園めるって言います! し、シリウスシュガッ……」
「あたしは月ヶ瀬ちゆる。シリウスシュガーのメンバーだよ。そしてザルトゥーム学園柊校舎メイズ研究同好会の部長でもあるよ。よろしくね!」
「うぅ……舌噛んじゃいましたぁ……」
「大丈夫大丈夫」
「慣れない話し方するから……」
「私は御剣冥夜だ。まずは先程の助成を感謝する」
「あははっ。なんだか愉快な人たちだね。ボクは鎧衣美琴。よろしく」
「珠瀬壬姫です。えへへ、優しそうな人達で安心しました」
「彩峰慧……」
「これはどうもご丁寧に! ですが、メイズシフターをご存じないんですか?」
「メイズシフター?」
「ええ~っと……」
「見覚えのない代物と言えば、そなた達の戦術機もだ。一体どこに所属する衛士なのだ?」
「衛士……? 戦術機……?」
「恐らく彼らのMGとそのパイロット達の事だね」
「エムジー?」
壬姫の頭の中に思い浮かんだのはかつてイギリスで誕生したスポーツカーのブランドのMGだと勘違いしていると思われる。
「てっきりボク達と所属が違うだけの味方だと思ってたけど、全然話が噛み合わないね……」
「(もしやと思ってたが、この連中は―――)」
「無理して動いちゃダメだよ! タケルちゃんっ!」
「少し休んで、少し調子は戻ったからな。俺だけ挨拶しないわけにもいかないだろ……?」
「でも、すごい汗だよ。足もフラフラだし……」
「私も一緒に肩を貸そう」
「冥夜まで……悪い」
「大丈夫か? かなり具合が悪そうだが……」
その後、白銀達が乗っていた不知火と御剣冥夜が乗っていた武御雷は風紀委員会によって没収されたが、生徒会長の神楽の計らいにより客人として扱うことになった。