マブラヴガールズガーデン外伝 月ヶ瀬ちゆる~マルチバースの流儀~   作:マブラマ

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第3話 東独の英雄

ザルトゥーム学園の地下坑道、メイズの入口近く。

重力の揺らぎが空気を歪め、灰色の岩肌が微かな振動を伝える薄暗い空間で、二つの影が激しくぶつかり合っていた。金髪碧眼の女性将校、アイリスディーナ・ベルンハルトの拳が、鋭く弧を描く。

彼女の白皙の肌は、坑道の薄明かりに氷細工のように輝き、大尉の階級章が制服の肩で冷たく光る。

コールサイン:シュヴァルツ1。

第666戦術機中隊の元中隊長。

政治的な駆け引きに長け、現場の判断を優先する才色兼備の女性将校。

だが、黒い噂――実兄を国家保安省に密告した英雄。

本人は否定も肯定もしない。

ただ、兄の志を継ぐために、自らの手で引き金を引いた。

それ以来、下劣な行為を拒み、革命の同志を求めてきた。

「――この女が! シュタージの犬め、テオドールを巻き込んでまで、私の兄の遺志を汚す気か!」

アイリスディーナの声は、氷のように鋭く、しかしその瞳には、兄の処刑の記憶が宿る。対するベアトリクス・ブレーメの動きは、獣のように低く、容赦ない。

彼女の声が、唸るように響く。

「ふん、相変わらずの綺麗事ね、アイリスディーナ。あなたこそ、ベルリン派の甘っちょろい理想で、祖国をBETAの餌食にする気か?ヴェアヴォルフの名にかけて、貴様のような裏切り者を、粛清してやるわ!」

武装警察軍の戦術機大隊「ヴェアヴォルフ」大隊長。

少佐の階級。

モスクワ派の尖兵。

スパイ摘発、亡命者狩り――手を汚すことを厭わない攻撃的な性分。

部下からの信頼は厚いが、他者への態度は冷徹。

アイリスディーナとは、士官学校の顔馴染み。

かつての親友が、今や宿敵。

ユルゲン・ベルンハルトの思想に傾倒し、シュタージの監視を人類統一の手段と信じる。

東ドイツを犠牲にしても、BETAに対抗する「一つ」の人類を夢見て。

最期は、テオドールとの一騎打ちで、管制ユニットを短刀で貫かれ、果てるはずだった。二人は、坑道の岩肌に転がり込みながら、互いの拳を振り上げる。

アイリスディーナの優れた操縦センスが、素手でも鋭く、

ベアトリクスの接近戦の装備を思わせる猛攻が、容赦ない。

――喧嘩は、決着の寸前で止まる。黄金の円環が、再び展開する。

ドクター・ストレンジのマントが、風を巻いて舞い降りる。

彼の指先から、魔術の鎖が伸び、二人の動きを封じる。

アイリスディーナの腕を、ベアトリクスの首筋を、柔らかく、しかし確実に絡め取る

「白銀武達はともかく、アイリスディーナとベアトリクスはこの世界に来た時点で空気が重くなっている」

純夏が目を潤ませ、ストレンジにすがるように尋ねる。

「何とかならないの? ストレンジさん」

「早く元の世界へ戻してくれ! 私には東西ドイツを救う使命があるんだ!」

アイリスディーナが鎖を振りほどこうと身をよじる。

一方、ベアトリクスは冷ややかに笑う。

「私もよ。早く戻ってアイリスディーナとの決着を付けなきゃ……ね?」

ストレンジの第三の目が、静かに瞬く。

「君達を元の世界に戻すことは困難だ。が、君達以外にこの世界に来たモノも恐らくいるだろう」

「テオドールもここにいるのか!?」

「ああ、テオドール・エーベルバッハも恐らくここにいるだろう」

ストレンジは淡々と説明を始める。

空中に、光の糸が再び絡み合う。

「白銀武達の出現によって異なる世界が繋がり、並行世界の君達がこの世界に飛ばされてしまったわけだ」

「成る程……って私達は完全にとばっちりじゃないか! 早く元の世界に返せ!」

武が慌てて頭を下げる。

「わ、悪かったよ!」

美琴が肩をすくめ、明るく言う。

「ボクはこのままでもいいけどね~」

ストレンジは手を挙げ、皆を制する。

「とりあえず整理しよう。まずグループ分けで君達は207B分隊。アイリスディーナとベアトリクスは『シュヴァルツェスマーケン』だ」

武が頷く。

「その方がしっくり来るな」

「待て! ストレンジ。ベアトリクスはヴェアヴォルフで…シュタージの衛士なんだぞ!」

「今は争ってる場合じゃないわ。アイリスディーナ……」

武が苦笑する。

「しかし、アイリスディーナさんはとんでもない事件に巻き込まれてるんだな……」

「事件どころではない。これは革命だ!そのおかげで私とベアトリクスはハインツ・アクスマンのせいで絆を壊されたからな」

「東ドイツを乗っ取った長官の皮を被ったソ連のグレゴリー・アンドロポフも最期まで最悪な男だったわ。彼は目の前の現実が見えていなかった」

武が肩を落とす。

「なんか俺だけしょぼくないか?」

アイリスディーナが拳を握り、励ます。

「そんなことないぞ!お前だってBETAを殲滅し人類を救うために戦ってたじゃないか!」

ベアトリクスも、珍しく優しく微笑む。

「そうよ。自信を持ちなさい。あなたは素晴らしき英雄よ?」

「その励まし方やめてくれ……」

ストレンジの声が、重く響く。

「とにかくだ。このままでは世界が更に縮んで『インカージョン』を起こしてしまう。そうなれば世界は滅亡だ」

「よく分からんが、どうすればいいんだ?」

「他にも別世界から来た衛士達がいる筈だ。そいつらを全員確保する。人数はわからないが、そう多くはない筈……インカージョンが始まるまでに全員元の世界に送り返せば解決だ」

純夏が息を呑む。

「え?」

武の顔が青ざめる。

「俺達を元の世界に戻すって事は……」

アイリスディーナが静かに頷く。

「……ああ、私とベアトリクスは既に死んでいる。それに表舞台から退場したんだ。だから遠慮なく送り返してくれ」

武の言葉が、喉に詰まる。

「……」

冥夜が剣を握りしめ、決然と言う。

「わかった。他ならぬ私達の覚悟だ。暴言吐くのは野暮だからな――そなた達の意思を尊重する」

アイリスディーナの瞳に、炎が灯る。

「ああ―――よし! 総員傾注!これより別世界の衛士を捕獲する作戦―――『ブレーメシュトローム作戦』を開始する!」

武が拳を握る。

「よおし、俺達もやるぞ!」

純夏が明るく頷く。

「うん!」

指揮官が頭を抱える。

「……話がついていけない」

めるが苦笑する。

「そうですね」

ちゆるが目を輝かせる。

「衛士捕獲作戦。うーん、これは近距離で探さないとね♪」

神楽がため息をつき、皆を見回す。

「………話は纏まりましたか?これで本当に、島の安全が守れるのですか。メイズの異常も、T2元素の暴走も……すべてが繋がっているのなら、早急に動くべきです。生徒会の権限で、全面協力します。ですが、無茶は禁物です。48時間の猶予――一秒も無駄にできない」

 

 

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