マブラヴガールズガーデン外伝 月ヶ瀬ちゆる~マルチバースの流儀~ 作:マブラマ
食堂街の喧騒が、遠雷のように戻ってきた。
純夏は、ぽっかり空いた空間を見つめたまま、指を握りしめる。
温もりは、もう残っていない。
「……タケルちゃん?」
振り返ると、いつもの武が、アイリスディーナたちと談笑しながらこちらに歩いてくる。
いつもの、ちょっとだらしない笑顔。
ボサボサの髪も、制服も、すべてが「こっちの世界」のものだ。
武が手を振った。
「おーい、純夏! どこ行ってたんだよ?」
純夏は瞬きを繰り返し、首を振る。
「……ううん、なんでもない」
だが、胸の奥に小さな棘が残った。
まるで、別の世界の欠片が、こっそり刺さったみたいに。ドクター・ストレンジは、黄金の円環を閉じながら、静かに告げた。
「――残り47時間47分。あの少年は、すでに『裂け目』の向こうへ還った。だが、次は……」
彼は純夏を見た。
第三の目が、少女の心臓を覗き込む。
「君の番かもしれない」
純夏はリボンを握りしめ、小さく息を呑んだ。
「……え?」
次の瞬間――
ヴェノムメイズシフターが出現し、純夏を襲いにかかる。
黒い霧のような影が、地面から湧き上がり、毒々しい触手を伸ばす。
純夏の悲鳴が、食堂街に響いた。
「……!」
ドクター・ストレンジは即座に反応し、武達をスカラ校舎にテレポートさせた。
黄金の光が一閃し、周囲の景色が瞬時に変わる。
スカラ校舎の広場に、皆の姿が現れた。
「こっちだ!」
武達はスカラ校舎に移動したものの、目の前にはカオスメイデンのユリア・バーンズとインスカーレットの榊野ヒイロがいた。
ユリアは日向ぼっこを楽しむようにベンチに座り、ヒイロは下着集めのノートを広げていた。
二人は突然現れた集団に、わずかに目を細める。ユリアは明るく指揮官に話しかける。
「ヤッホー、指揮官。誰なの? その人。でも面白そうじゃん♪」
アイリスディーナが、苛立たしげに呟いた。
「全然面白くない……」
武が頭を押さえ、苦しげに顔を歪める。
「うぅ……また頭痛が」
冥夜が、剣の柄を握りしめながら、武を睨む。
「いやはや、鑑がこれほど酷い目に遭ったとは……タケル、鑑の事ちゃんと見ておけよ」武が肩を落とし、謝る。
「悪かったよ……」
テオドールが、腕を組みながら武をからかう。
「アンタ、トラブル多過ぎだろ……」
武が即座に反論する。
「そんなことねえよ。テオドールさんと比べて俺は少ない方だぞ」
ユリアが、興味津々に首を傾げる。
「何々? 何の話してるの?」
指揮官が、頭を抱えて呟く。
「俺達には理解出来ない領域だ」
ドクター・ストレンジが、虚空を睨みながら、重く告げる。
「『ヴェノムメイズシフター』想像以上の化け物だな」
ちゆるが目を輝かせ、興奮気味に言う。
「こんなメイズシフター、見たことないよ! 調査していいかしら?」
アイリスディーナが、即座に警告する。
「死ぬぞ?」
ユリアとヒイロは状況を把握できてないため、ドクター・ストレンジは事の経緯を全部話した。
黄金の光を指先から放ち、空中にタイムラインの幻影を映し出しながら、
異世界の来訪者、歪みの原因、インカージョンの脅威、そしてヴェノムメイズシフターの出現までを、淡々と説明する。
二人は最初こそ驚いた顔をしたが、ユリアはすぐに笑みを浮かべ、ヒイロはノートを閉じて真剣に耳を傾けた。