マブラヴガールズガーデン外伝 月ヶ瀬ちゆる~マルチバースの流儀~ 作:マブラマ
スカラ校舎の広場は、午後の陽光が柔らかく差し込み、遠くからメイズの低く響く振動が微かに伝わってくる。
ユリア・バーンズはベンチから身を起こし、目を輝かせてストレンジの幻影を指差した。
日向ぼっこの余韻が残る彼女の頰は、好奇心で上気している。
「へえ、異世界の”衛士”さんたち? それで世界が壊れちゃうかもって話? 面白いわ!じゃあ、私たちも混ぜてよ、指揮官。カオスメイデン、協力するわよ♪」
榊野ヒイロはノートを閉じ、腕を組んで静かに頷く。
彼女の視線は、武たちを一瞥し、すぐにストレンジのタイムラインの幻影に注がれる。
下着集めの趣味とは裏腹に、その瞳は戦場を思わせる鋭さだ。
「馴れ合うのは好きじゃないけど……この島がヤバいなら、仕方ない。協力する。報酬は後でいいよ」
ストレンジはマントを軽く翻し、黄金の光を収めながら応じる。
「協力、感謝する。だが、時間がない。ヴェノムメイズシフターは、純夏の『残響』を追っている。あの化け物は、並行世界の歪みを餌に成長する。ちゆる、君のT2元素が鍵だ。分析を急げ」
ちゆるは目を細め、ポケットから小型のスキャナーを取り出す。
彼女の指先が素早く動き、空中にホログラムを展開する。
「了解! このシフター、普通のメイズシフターじゃないわね……重力異常がT2元素と共鳴してる。純夏ちゃんの量子電導脳が、引き金かも。48時間以内に封じ込めないと、島全体が飲み込まれちゃうよ」
アイリスディーナが、苛立たしげに足を踏み鳴らす。
「……私達じゃどうにもならない。ストレンジ、何とかしろ!」
ドクター・ストレンジが、静かに答える。
「私が倒すことが出来るが……」
「が?」
「正直、盛り上がりに欠ける」
テオドールが、苛立った声を上げる。
「いいよ。そんな余計な気を回さなくて!!」
武が拳を握りしめ、歯を食いしばる。
「クソ……何か良い方法はないのか!?」
千鶴が、眉を寄せて呟く。
「あんなのどうやって倒せば良いのよ……戦車級より厄介だわ」
ユリアが、首を傾げて尋ねる。
「戦車級? それって新型のMG?」
指揮官が、ため息をつきながら答える。
「多分、違うと思うぞ」
慧が、無表情に提案する。
「こうなったら私と千鶴が突撃して自爆でもすれば倒せる」
千鶴が、目を丸くして叫ぶ。
「ちょ、何で私が!?」
指揮官が、慌てて制止する。
「おいおい……」
その時、広場の端から甲高い声が響いた。
「ダメだダメだ! 全然勝てそうに見えないぞ! 私が良い策を教えてやる!」
武が振り返り、声を上げる。
「誰!?」
冥夜が、剣の柄に手をやりながら、来訪者を観察する。
「そなた達も衛士のようだな。その強化装備……東ドイツの」
ベアトリクスが、目を細めて呟く。
「ニコラ?」
現れたのは、ベアトリクス・ブレーメ率いるヴェアヴォルフ大隊の副官でありヴォルクヴァルテ中隊の中隊指揮官、ニコラ・ミヒャルケ。
大尉の階級で、ベアトリクスより2歳年上。
彼女は興奮した様子で駆け寄り、敬礼を決める。
「少佐!? 少佐、ここにいたんですね! 私、探しましたよ」
アイリスディーナが、冷ややかに言う。
「シュタージの衛士……ベアトリクスの部下か」
ニコラが、声を張り上げて威嚇する。
「言葉を慎め!ベルンハルト大尉。我らが親愛なる大隊指揮官、ベアトリクス・ブレーメ少佐の前だぞ!跪け!命乞いをしろ!」
武が、思わず呟く。
「ムスカ大佐の名台詞だな……」
ニコラが、怪訝な顔で尋ねる。
「ムスカ大佐? 誰だその男は」
ベアトリクスが、くすりと笑いながら答える。
「映画のキャラクターよ。ふふ、私のことが本気で好きなのね。ありがとう」
ニコラが、頰を赤らめ、慌てて否定する。
「い、いえ、私は少佐の事が……一番大事に想ってるだけですから」
ベアトリクスが、視線を移す。
「で? 後ろにいる女性は」
ニコラの後ろから、ナタリー・デュクレールが現れ、彼女は堂々と胸を張り、自己紹介する。
「難民解放戦線のナタリー・デュクレールよ。カナダ在住のフランス人よ」
アイリスディーナが、警戒を強める。
「難民解放戦線……テロ組織の構成員か!?」
ナタリーが、静かに頷く。
「ええ、でも救われるべき人間を救いたい気持ちは本物よ」
ベアトリクスが、鼻で笑う。
「フッ……よく分からないけど衛士じゃないって事ね。で? その女性は?」
ナタリーが、肩をすくめて後ろを振り返る。
「知らないわ。何かずっと後ろからついてきて怖いのよ」
ナタリーの背後に、静かに佇むのは竹宮千夏。
訓練兵時代の伊隅みちるの同期。
福岡出身で、カールで終わる長いポニーテールを持つ、少し巻き毛の長い灰色の髪。
青い瞳。
背が高く、スリムな体格。
第207訓練部隊の一員である彼女は、第16訓練飛行のF分隊を構成する4人の衛士のうちの2番目。
燃えるような藤澤月子や世間知らずの三浦園子とは異なり、千夏は各チームメンバーの幸福をとても気にかけていた。
性格は落ち着いてみちるに似ている。千夏は、無言で皆を見据える。
「……」
テオドールが、頭を抱えて呟く。
「マジで何なんだよお前ら……」
ニコラが、声を張り上げて皆を叱咤する。
「それより貴様等、ヴェノムメイズシフターを倒したいんだろ?貴様達は本物の衛士だ。衛士にしかできない衛士だからこそできる戦い方があるはずだ!」
純夏が、心配そうに言う。
「でも、タケルちゃん達の不知火と御剣さんの武御雷はボロボロでまだ修復出来てないんだよ~」
アイリスディーナが、拳を握りしめて提案する。
「いや、私達の機体がある。バラライカ、チボラシュカ、アリゲートル……4機だけあれば戦力になる筈だ!」
ドクター・ストレンジが、目を輝かせて頷く。
「うむ! あの力を結集すればドルマムゥすら敵ではない!」
めるが、首を傾げる。
「ドルマムゥ?」
テオドールが、怪訝な顔で尋ねる。
「誰だ?そいつは」
ストレンジはマントを軽く翻し、第三の目を細めて空を睨む。
黄金の光が指先から放たれ、空中に漆黒の虚空が開いた。
そこに映るのは、巨大な炎の顔――無数の触手が蠢き、宇宙の深淵を思わせる闇の存在。
「ドルマムゥ。ダーク・ディメンションの支配者。時間も空間も、因果律すら喰らう『永遠の闇』だ」
彼は指を鳴らす。
幻影のドルマムゥが咆哮し、炎の奔流が広場を焼き尽くすように広がる――もちろん、ただの映像だ。
「こいつは『交渉』で倒したことがある。時間ループに閉じ込め、永遠に繰り返す苦痛を与えることで降伏させた。だが、あれは“盛り上がり”に欠ける。衛士の戦いとは違う」テオドールが呆れたように呟く。
「つまり……お前は“カッコよく倒したい”ってことか?」
ストレンジは肩をすくめ、にやりと笑う。
「魔術師にも演出は必要だ。ヴェノムメイズシフターも、ただ封じるだけじゃつまらない。衛士の魂、T2元素、並行世界の残響――すべてをぶつけて、派手に決めてほしい」
ちゆるが目を輝かせる。
「つまり……T2元素で共鳴を増幅して、衛士の機体で直撃!?それでヴェノムシフターの核を破壊すれば、歪みも収束する!?」
ストレンジが頷く。
「その通り。だが、タイミングは一瞬。純夏の『残響』が最大になる瞬間――それが、48時間後の“臨界点”だ」
武が拳を握りしめる。
「……つまり、俺たちで派手に決めるってことか」
ストレンジはマントを翻し、背を向ける。
「私は“盛り上げ役”に徹する。後は――衛士の戦いだ」
遠くで、メイズの振動が一段と強くなった。
ヴェノムメイズシフターの気配が、島全体を包み始めている。