どうしても名前が出ていない前話は一人称にするしかなかったので。
混乱するかと思いますがお許しください!!
「それで、アンタはいったい誰なんだよ?」
呆けているとポップという少年が声を上げる。
「悪い……ちょっとばかり自分の身に起きたことの理解が出来ずに混乱してた」
「何か問題でもあった?」
小柄な少年……ダイというらしい少年は心配そうに見上げる彼に対し、男はそのはるか30㎝以上も高い。
「ああ。信じてもらえるかわからないんだが、今の姿は本当の俺じゃないんだ」
その言葉に3人は分かりやすいくらいに困惑した顔を向けてきた。
(そりゃそうか……。こんな事をいきなり言われても困るよな)
「えっと、とりあえず俺の事は孫悟飯と呼んでくれ」
咄嗟に肉体と同じ名前を名乗ることにした。何故かわからないが、自分の名前よりそちらを名乗るのが正しい事のように感じられた。
「ソンゴハン? 妙な名前だな」
「孫は家名で、悟飯が俺の名前だ」
「家名……? もしかして貴族の方?」
マァムが驚いたようにつぶやくが、彼──悟飯は首を横に振った。
「大層な者じゃない。もともと俺が住んでた家がそうだったってだけの話だ」
「ふーん? まあ、いろいろ興味あるけど今はロモスに向かおうぜ? 日が暮れちまうと門がしまっちゃうしさ」
「あ、そうだね!」
歩き出そうとする二人に対して、マァムはこちらを気遣うように並び立つ。
「怪我は平気?」
「ああ問題ないよ、さっきの魔法のおかげだ。ホイミと言ったっけ?」
「ええ、私ホイミが得意なの」
(ホイミ……やっぱりそうだ。俺が知ってるゲームと同じ名前の魔法だ……なんでそんなものが? ここは地球じゃないのか?)
悟飯は記憶をたどりつつ会話を続けると、彼らは魔王軍と戦うために旅をしている最中だという。
魔王、と聞いてやはりここはドラゴンクエストの世界なのだろうかと考えるが自分の知る作品の中に彼らの名前を見た覚えがない。
何より、ダイが連れている金色の羽スライム……ゴメちゃんなど見たことがないのだ。
(もしかしてここは、俺が知らないナンバリングの世界なのか? 参ったな、これじゃどうやって動いたらいいか分からないじゃないか……)
思わず頭を抱えたくなるが、意識を切り替え悟飯は前を歩くダイ達を見つめる。
(とりあえず右も左もわからないんだ。今は彼らと同行しつつ、なぜ俺がこんな状況になってるかを調べないと……可能なら元の世界に戻る方法があるか調べたいな)
以前の世界では特に生き甲斐やら大切な人といった類の未練を残していない彼だが、それでもいざ見知らぬ土地に放り出された今となればあの平穏な生活が如何によかったかを感じる。
目的も未来予想図もない現状としては「とりあえず元の世界に戻る」という目的のために行動することに決めた。
しばらく歩いていると、大きな門が見えた。
門番に声をかけるとボロボロな悟飯の姿に驚かれつつもなんとか入場の許可が下りる。
「この後はどうするんだ?」
「俺たちはお城に行って王様に会ってくるよ」
ダイの言葉にご飯は思わず瞬きをする。
「アポ無しで会えるほど親しかったのか? 相手は王様だろう?」
「悟飯さんは知らないのね。シナナ王はとてもお優しい王様で、民の声を聴くために普段から謁見をしてくださる良い王様なのよ」
悟飯の問いにマァムが応える。
(それにしたって身なりとか気を使うべきだろ。今まさに森を抜けてきたばかりだって素人の俺でもわかる汚れ具合だぞ)
「えっと、王様に会うんなら服の汚れとかさ、落としたほうが良いんじゃないのか?」
「あ、それもそうだね! じゃあ今日は宿屋に泊まって明日会いに行こうか!」
「えぇ? 今王様に会えばお城の高級ベッドで眠れるってのに安宿に泊まるのかよ」
提案を素直に受けるダイに対してポップは不満をこぼす。
その姿に内心呆れる。
(当たり前のように王様の好意に甘える気だったのか? うーん……このポップという子、ちょっと考え無しというか、甘ったれな感じがするなぁ)
「ポップ、私たちがお城に泊めてもらえるなんて決まってないのよ? 失礼じゃない!」
「わ、わぁったよ。そんなに怒鳴んなよ」
しかしマァムに怒鳴られすごすごと従うあたり、素直な性格でもあるようだ。
宿に泊まる話になったとき、自分がこの世界の金を持っていないことに気が付いた悟飯。
慌てて服の中を探ってみると、一つのカプセルケースを見つけた。
「なんだそりゃ。荷物か?」
ポップが目ざとく問いかけてくる。
「わからない」
「わからない? そりゃお前のだろ?」
「……言ってなかったが、自分の名前以外の記憶がないんだ。だからこれが俺の持ち物だとしても中身が何なのかわからないんだよ」
咄嗟に記憶がないとごまかすと、3人は驚いたり気の毒そうに悟飯を見たりする。
するとマァムが空気を換えるためも兼ねて「一泊代くらい気にしないで! ほら、部屋に行きましょう」と悟飯が寝泊まりする金すらも一緒に払って部屋へと向かってしまった。
部屋に引っ張られるようにして向かうと、ベッドが4つある大部屋を借りることができたらしく、そのうちの一つに腰掛けさせられる。
「すまない、どこかで稼げたら返すよ」
「気にしないで」
「なあ、それよりさっきのヤツ、中身調べないか? 記憶喪失なら、それが何かの手掛かりになるかもしれねーじゃん」
ポップの言葉に二人も興味をそそられたのかちらりと視線を向けてくる。
「そうだな、俺も気になってたからそうしようと思う」
そう言ってカプセルケースを開けてみると4つのホイポイカプセルが収められていた。
(……これは悟飯が生前持っていたのだろうか。一体何なんだろう)
カプセルにはそれぞれ1~4までの番号が振られていて、そのうち中身があるのは2番までだった。
因みに中身の有無についてはカプセルのふた部分に小さなランプがついており、そこを見ることで空かどうかがわかる仕組みだった。
「小さい筒だね。じいちゃんが昔くれた魔法の筒より小さいや」
「魔法の筒?」
「うん、デルパ・イルイルの2つの呪文で中に生き物を入れて持ち運べるようになる便利な筒なんだよ。偽物勇者が現れたときに使ったんだ」
「偽勇者とかいるんだ。とんでもないな」
「そうなんだよ! あいつら、ゴメちゃんを攫ってお金にしようとしてたんだ!」
ちらりと見ればゴメちゃんが憤慨するようにピィピィと騒いでいる。
「確かにきらきらしてきれいだもんな。悪いやつからしたらそういうふうに見えるのか。でもこんなにかわいい子を物みたいに扱うのは許せないな」
自然と漏らした言葉にダイは嬉しそうに笑い、ゴメちゃんも悟飯の頭の上に乗っかり親愛を示す。
「さて、話はそれたがこのカプセルの中身を見てみようと思う。少し離れてくれないか?」
「何するの?」
疑問を口にしながらも下がる彼らに1番のカプセルを手に応える。
「触ってて少し思い出したんだ。こうやって中身を取り出すんだって」
かちり、とボタンを押してから部屋の中央に放り投げる。
するとぼふんと音共に現れたのはそこそこのサイズのキャリーバッグが3つ。
「わ、物が突然現れた!」
「すげえ、なんだこれ」
「これもダイの言ってた魔法の筒なの?」
悟飯は中身が空になった1番カプセルを拾い上げつつ応える。
「これは一定の量までの道具などをこの小さなカプセルにしまって持ち運んでくれる道具なんだ。どのくらい入るかは試さないとわからないけど……すごく重宝してた気がするんだ」
「すげー……これ、先生が見てたらきっと大はしゃぎしてただろうなぁ」
「先生?」
「あー……俺たちに魔法や剣を教えてくれた先生だよ。アバン先生って言って、昔は魔王ハドラーを倒して世界に平和をもたらした勇者だったんだぜ」
(魔王ハドラーに勇者アバン? ……うーん、聞いたような聞かないような。なんか少し前にアニメでやってた気がするけど……みてないんだよなぁ。
もう少し詳しく聞いてみたいところだが、出てきた荷物が気になるのでいったん後にするか)
悟飯は出てきたキャリーケースに近づいてそれぞれを開けてみることにした。
1つ目は主に着替えや予備の道着などが詰まっていた。やけに重いリストバンドやインナーなどが入っていて、それを持ったダイが驚いている。
2つ目は少しボロボロだが医療品の類が詰め込まれていた。明らかに医療が魔法に補われているこの世界において、鎮痛剤や抗生物質などがそこそこの量が収まっていたのは非常に助かる内容で、悟飯は大事そうにしまった。
最後のケースにはあまりにも予想外なものが含まれていた。
「こ、これは……」
箱の中身を見て絶句する悟飯と、首をかしげる3人。
「なんだこれ。丸い石が7つと……巾着? 中身は、豆?」
「悟飯さん、なにか思い出したの? すごい汗かいてるけど」
困惑する悟飯に気が付いたらしいマァムが問いかけてくる。
ハッとして周りを見ると、ポップが丸い石を手に取ろうとしているところだった。
「す、すまない。どうかこれに触れないでほしい」
「え、あ、悪ぃ」
気まずそうに手を引っ込める彼に取り繕うように笑みを浮かべながら答える。
「ごめん、実はまた少しだけ思い出したんだ。この球は、すごく大切な物なんだ。なんといえばいいのか……形見、みたいなものなんだよ」
形見と聞いて彼らは少し気まずそうにうつむいた。
聞けば彼らの師匠であるアバンという先代勇者は新たに襲ってきた魔王軍の総司令との戦いで命を落としてしまったらしい。
そして彼らの首に下げられたきれいな水晶を加工したネックレスは「アバンの印」と呼ばれる、一種の形見として大事にされていたのだ。
「この球はね……昔はとてもきれいな星を含んだ水晶玉だったんだ。だけど、ある人が亡くなってから球に込められた力が失われて石になっちゃったんだ」
「その人って、悟飯さんの?」
「師匠だよ。すごく強くて優しくて、泣き虫だった俺を一人前の戦士にしてくれた憧れの人だったんだ」
不思議と口が勝手に動いて、まるで自分の感想のように言葉が紡がれる。
今の言葉は、まさに孫悟飯の本心なのだと思わされた。
「アバン先生みたいな人だったんだね」
「凄くスパルタだったけどね。5歳の俺を何もない荒野に置き去りにして3か月生き延びろ、ってところから始まったからさ」
「うげー、俺だったら1週間も持たねぇよ!」
悟飯の言葉に調子を合わせたポップがふざけて乗っかる。
「俺もあの時は泣いてばかりだったよ。お母さんのご飯が食べたいって泣いたり、お父さんに会いたいって泣いたり……」
喋っていく内に自分の中で「孫悟飯の記憶」が自分の物のように馴染んでいくのを感じた。
一つ一つ、石となったドラゴンボールを手に取る。そのうちの一つを手に取ったとき、吸い付くような不思議な感覚が襲った。
(ああ、これが四星球だ。見た目は他と変わらないけどはっきりとこれだけは分かる)
「そして、これはお父さんのお爺さんから受け継がれてきた球。俺にしてみればお父さんの形見だね」
「そっか……なら大事にしまっておかないとな! なくしたら大変だぜ」
「そうだね、でもこれだけ回収しておこうかな」
(ポップの事を誤解してたな。甘ったれな性格だとおもったけど……彼は人の心に敏感で人を思いやれる優しい人だ。こうして俺のために明るく振舞ってくれるのが凄くありがたい)
悟飯は笑みを浮かべつつ、石となったドラゴンボールと一緒に収められていた袋を取り出し、ケースたちを再びカプセルにしまう。
「それはなんなの?」
「これはね仙豆という便利な物さ」
「ただの豆だろ?」
「見た目はね。見てて」
袋の口を開けて中を見ると7粒ほど収まっているうちの1つを手に取り、口に放り込む。
こりこりとした食感のあと、飲み込むとまるで先ほど受けたホイミとはくらべものにならないくらいの速度で傷が癒されていく。
「いい!?」
「傷がなおった!?」
「すごい、まるでベホマよ」
「……ふう」
ずっと残っていた鈍痛なども完全に消え去ると、体の内側からあふれ出るような気の高まりが膨らむのを感じた。
(……もしかしてサイヤ人の特性が出たのか? 瀕死から復活すると強くなるって言ってたけど、復活の定義って全快の事だったのか)
「ふっ、はっ!」
誰もいない場所に向かって突きや蹴りを放ち、さらに部屋の中で片腕の逆立ちして腕立て伏せをしてみると、驚くほど簡単にできた。
以前の自分は喧嘩すらしたことのない一般人だったが、この肉体は身体の動かし方を覚えているようで基礎的な動きは十分にできるらしい。
(ただ……失った左腕は戻らなかったか。そういえばヤムチャの顔の古傷とかも消えなかったし、何か条件があるのかもしれないな)
「本当に治ったのかよ。すげーな」
「それ、残り6つしかないんでしょ? 増やせたりできないの?」
「どうだろうな、やったことはないけどこれを昔作ってくれた人はすごく大変だって言ってたし、時期が来たら誰かに一つ預けてお願いするのもありかもしれないな」
(それにこの世界はあのドラゴンクエストの世界みたいだし、回復手段はいくらあっても足りないくらいだ。この身体が孫悟飯の物だとしても、油断せずに安全第一で行動するのが一番だ)
仙豆の入った巾着の口を締めて、道着の内側へとしまう。
その後、もう一つのカプセルを開けたのだがこちらはこちらでさらなる驚きを受けることになった。
「すげー量のお宝」
ポップの言葉に思わず全員が頷いた。
カプセルから出てきたのは一つの木箱で、その中には金銀財宝という言葉がよく似合う品々が無造作に詰め込まれていたのだ。
(これはなんだ? 今度こそ本当に身に覚えがない……悟飯の私物だろうか? でも荒廃した未来でこんなのを集めるような人だったか?)
首をかしげていると、1枚の封筒を木箱の中に発見した。
中身を取り出してみると「当面の生活費」とだけ書いてあった。
「なんだよ、金には心配なかったじゃん」
ポップの言葉に「ははは、そう、みたいだな」と笑って合わせるが、その内心は困惑が渦巻いている。
(これは誰からの手紙だ? 悟飯本人なら封筒に入れておく必要はないし、金銀財宝より食料単体のほうが貴重な未来だったはずだ。……となると、この手紙の送り主はこの状況に送り込んだ張本人? 漫画やラノベで言えば神様、とか?)
神、と思い浮かべてナメック星人の老人を思い出すが首を横に振って否定する。
確かにドラゴンボールの世界には様々神様が存在しているのは知っている。だが、未来においての孫悟飯はその神々との接点など地球の神しか居ない。
そしてその地球の神はピッコロが人造人間に殺されたことで一緒に消えている。となればこれを自分に送り付けるなど不可能だ。
(……いや、そもそもこの世界がドラゴンボールの世界とは違うんだ。もしかするとこの世界独自の神様かもしれない。
だとするとそんな神様は何で俺を呼んだ? それも悟飯本人ではなく、赤の他人を憑依させて……)
考えがぐるぐる回る中、とりあえず換金する分だけの貴金属だけを袋に詰めて取り出しカプセルに収納する。
「宿代を助けてもらった代わりに食事を奢るよ」
「いいの!?」
「さっすがぁー! ゴチんなりまーす!」
ダイとポップは嬉しそうに喜び、マァムだけちょっと遠慮気味に──ただやはり嬉しそうにほほ笑んだ。
そろって廊下に出た次の瞬間、隣の部屋の扉も開いた。
「ん?」
「お?」
同時に顔を見合わせるとあちらも悟飯たちに気づいたようで振り向く。
剣士、魔法使い、ガタイのいい戦士、そして僧侶の女。
(よく見る代表的な勇者パーティーみたいな格好してるな)
するとなぜか彼らは悟飯ではなく、その後ろにいるダイ達を見て青ざめる。
「「「「「あぁー!」」」」
その声にダイも目つきを吊り上げて廊下に飛び出る。
「お前たちは偽勇者!」
「偽勇者?」
先ほどそのような会話を聞いたばかりだったので驚いて聞き返すと、偽勇者と呼ばれた剣士が慌てて「わーわー!」と声をかき消そうと必死に声を上げた。
「勘弁してくれよ、俺たちゃ足を洗ったんだぜ」
「そうそう、今は真面目に冒険して世のため人のために働いとるんじゃよ」
「「うんうん」」
偽勇者の言葉に魔法使いが賛同すると、残りの二人も必死に頷く。
「真面目にぃ? 例えば?」
「そりゃ弱いモンスターとかを追い払って謝礼をもらったり?」
「適当な武術を兵士たちに教えて給料もらったり?」
「それっぽい魔法を教えてやったり?」
「あと怪我した子を治してあげたり?」
(……真面目と言っていいのかなこれ)
眉を寄せていると、同じことを思ったらしいポップがそれを口にして口論になるも、自分たちがアバンの弟子であることを証明するとあっさり白旗を上げて「本物の勇者じゃねーか! すげー奴だったんだなお前ら!」となれなれしく肩を組んできた。
「飯食いに行くんだろ? 俺たちのおすすめを教えてやるよ! 一緒に行こうぜ!」
と、気が付けば彼らと一緒に食事に行く羽目になるのだった。