パプニカへと旅立つダイ達を見送って3日が過ぎた。
悟飯は持ち前の身体能力を駆使して、街の復興作業に従事していた。
人が運ぶ数枚の瓦礫を軽々と持ち運ぶ彼の姿に、人々はより一層心をひらき気が付けばロモスにおいて悟飯の名を知らないものはいなくなりつつあった。
崩れて道をふさぐ瓦礫もやすやすと除去する悟飯は、復興作業を通して徐々に体と気の使い方について学び始めていた。
「ふう、こんなものか」
町はずれの広場に瓦礫を下す悟飯。
この場所は、再利用が難しいと判断された瓦礫を集積する場所として指定され、そこに運ぶ役目を悟飯は担っていた。
ロモスの民衆は「英雄にそんなことをさせられない」と答えていたが、悟飯からしてみれば力仕事以外の技術が全くない自分より技術者のみんなが街中で建築などをしてくれた方が効率がいいと、説得する形で納得してもらっていた。
また外壁はいまだに崩れたままなので、瓦礫捨てのついでに町の外周を回ってモンスターたちが街に入り込まない様に警戒するのもその役目だった。
「精が出るね悟飯ちゃん」
声がして振り返ると、崩れそうな瓦礫の頂上に腰を下ろす細身の老人がいた。
「どうもブロキーナさん」
ブロキーナと呼ばれた老人はひょいひょいと軽い足取りで、瓦礫を降りてくる。
(相変わらずすごい身のこなしだ。少しでも加減を間違えば崩れそうな瓦礫を一切崩すことなく降りてる。相当の重心操作が無いと不可能な動きだ)
目の前まで下りてくると彼は丸いサングラスをきらりと光らせる。
「例の話、考えてくれた?」
「えっと……弟子になるという話ですよね。それについてはまだちょっと」
「うーん、君ならすぐに僕を超えられると思うんだけどなぁ」
「そう言ってくれるのはうれしいんですが、まだ鈍ってる部分や掴めていない感覚が多いので」
(二日前に初めて会ったばかりだってのに、やたらと弟子に誘ってくるんだよなぁ。やっぱ悟飯の持ち前の才能とかを見抜いてるのかな)
◇ ◇ ◇
ブロキーナとの出会いはダイ達が旅立った翌日の事だった。
復興作業を手伝っていたところ、まだ集積地が決まってなかったために街中に山積みにされていた瓦礫が崩れてしまい、ちょうど近くを歩いていた子供が巻き込まれかけるという事件があった。
咄嗟に動いたのが悟飯と目の前にいるブロキーナであった。
ブロキーナは崩れる瓦礫をまるで柳のように受け流し、周囲に被害を出さずに収めてしまった。
悟飯は子供の前に立ち、僅かな瓦礫のかけらや岩を拳で打ち落としていた。
子供を開放し、老人に助けてもらった事の礼を言うと開口一番こう告げたのだ。
「君、僕の弟子にならない?」
それが目の前の老人、いや武神流の拳聖と呼ばれたブロキーナとの出会いだった。
◇ ◇ ◇
ブロキーナは悟飯の働く姿をいつも見つめており、時折助言をしては「弟子にならない?」と誘ってくる。
助言自体は的確で、それを受けて治せばそれまでより遥かに体のキレがよくなっているため、悟飯としてもありがたい存在であった。
しかし弟子入りしてしまえば、いざ復興が終わったときにダイ達のもとへ行く妨げになると思って断っている。
と、思ったことを告げてみたところ……。
「別にいいよ? 帰って来た時に修業をまたみてあげる」
と、軽い調子で弟子入りしても遠出する許可をもらえたのだ。
「い、いいんですか?」
「うん。武者修行と思えば旅も悪くないよね。ただ時間が出来たら顔を出しに来てね。変な癖がついてないか見てあげるから」
「……わかりました。よろしくお願いします」
と、驚くほどあっさりとした武神流への入門が決まった瞬間であった。
それから復興作業の傍ら、ブロキーナ老師との修行の日々が始まった。
突きや蹴りの打ち方を微調整されるところから始まり、組手や訓練のやり方などを伝授してもらう。
身体が覚えているとはいえ、やはり素人である部分が如実に出ていたようで突きにしろ蹴りにしろ、妙な癖が付きかけていたらしく最初の二日ほどは矯正に費やした。
ブロキーナ曰く「随分上達が早いね。いや、君の場合は元々学んでいた武術が馴染んだ……といった方が正しいかな?」とのことで、悟飯の戦闘力と技術のちぐはぐさがだいぶましになったとの事だった。
「まあ、まだまだ治すところはあるけど今の時点でも結構強いよ。片腕が無いのが惜しいくらいだね」
「ははは……」
悟飯が笑ってごまかすと、それを見たブロキーナは「言いたくなるまで待つからね」と言ってそれ以上追及してくることはなかった。
武神流への入門とは言ったが、実際のところは基礎的な動きの修行しかしておらずブロキーナから明確な技を教えて貰っていない。
その事を一度聞いてみたところ。
「悟飯ちゃんはすでに完成した流派を学んでるでしょ。そこに武神流を改めて教え込んでも、混ざって型が崩れちゃうだけだから、基礎を整えてあげるだけで十分だと思うんだよね」
と、あまりにも軽い調子で答えた。
「悟飯ちゃんは身体もキレもやや粗削りなところがあるけど全盛期の僕以上に出来上がってるのに、身体の動かし方だけが素人でちぐはぐなんだよね。最初はその大怪我が原因でバランスが崩れちゃったのかって思ったんだけど、どうにも違うみたいだし……だったら僕の手で矯正してあげようかなって声かけたんだよ」
(ああ、それは納得だ。俺の身体や感覚は未来の孫悟飯そのものだけどそれを使ってるのは一般人だからな。いわゆるF1カーを使いこなせていない一般人が公道でノロノロ運転してるように見えたんだろうな)
「ありがとうございます。訳はちょっと言えないんですが、俺は戦いの経験が皆無でして」
「うん、そんな感じだったね。でもロモス襲撃の時は戦えてたみたいだし……天性の感ってやつかな?ともあれ僕の下でそれを鍛えれば、先に行った仲間のもとに合流しても足手まといになることはないと思うよ」
「知ってるんですか?」
「まあね、彼らの師匠、僕の知り合いだから」
「え!?」
「最初は調べる気なかったんだけどさ、君の仲間って聞いて気になって調べたらアバンの使徒って呼ばれてるらしいじゃない?実はわし、魔王ハドラーを倒す旅に同行してたんだよ。おどろいた?」
「お、驚いたなんてもんじゃないですよ。そんなすごい人が近くにいるなんて思いませんでした」
「ふふふ、でもわしも驚いたよ。近くで魔王軍が暴れてるって聞いて様子を見に行ったらモンスター相手に片腕の男の子が大立ち回りしてるんだから。年甲斐もなくワクワクしちゃった。
特に途中で見せた闘気術のアレ、僕も知らない技だったからね。修業付けてあげる代わりに僕にあれの使い方教えてくれる?」
「え、ええ。うまく教えられるかわかりませんがそれでよければ」
「いいよ、感覚的な説明でも掴むから。じゃあ、修行再開しようか」
「はい!!」
こうして拳聖ブロキーナと孫悟飯の修行が開始された。
向かい合う二人。
距離にして5mほどで構えを取る悟飯に対し、ブロキーナは腰に手をまわしたまま動かない。
「おいで」
手招きをするように軽く手を動かすブロキーナに悟飯は一瞬躊躇するが、すぐさま意識を切り替えて踏み出す。
立った一歩踏み込んだだけで滑るかのように間合いを詰めてブロキーナへと鋭い拳を放つ。
「ひょい」
「がっ」
しかしそれをまるで柳の葉が揺れるかのように受け流し、あまつさえ回転を込めた蹴りが悟飯の頬を強く打ち付けた。
「でりゃあ!はぁ!たたたたたた!!」
一撃食らったくらいでは手を止めず、さらに蹴りを織り交ぜて襲い掛かるがそれらはすべてブロキーナにひらりひらりとかあわされていく。
(なんで、こんなに当たらないんだ!?速度では負けてないはずなのに)
「素直すぎるんだよ」
まるで心の声にこたえたようにブロキーナがつぶやくと同時に彼の拳が悟飯の顔面へと迫る。
「くっ」
咄嗟に腕を前にして受け止めようとするが、その拳はインパクトの直前に軌道を変えて腹部へと突き刺さる。
「がはっ」
(なんて、重い……!老体の細腕でこんな威力が出るものなのかっ)
「いいかい、格闘において最も重要なのは力でもなく速度でもない。駆け引きだよ」
「うっ」
いつの間にか背後に回り込まれていた事に身を強張らせ、回し蹴りを放つがそこにはすでにブロキーナの姿はなかった。
「常に相手の行動を予測し、その裏を突く」
「はっ!?」
声が下から聞こえ目線を落とすと、そこには水面蹴りを放つブロキーナ。回し蹴りの影響で片足立ちだった軸を払われバランスを崩すも、即座に身体を捻り片手を器用について後ろへ飛ぶ。
が、それも予想していたようで、空中を飛んでいた悟飯の背中をブロキーナの膝が直撃する。
「がはっ」
受け身も取れずに地面に転がる悟飯。
それを静かに見つめて、説明を続けるブロキーナ。
「君は片腕がないというハンデを背負っている。それは隠しようもなく敵はそれを必ず付いてくる」
(……確かに、さっきの回避も両腕が使えていれば別の対策も打てたはずだ)
「でもそれは別に弱点でも何でもない。むしろ有利とすら考えられるんだよ」
「え?」
「よく考えてごらん。相手は君の弱点を突いてくるんだ。つまり狙ってくる手段が絞り込めるんだよ?」
(狙ってくる手段が絞り込める……?)
「……あ!」
その言葉に悟飯は頭をたたかれたかのような衝撃を受けた。
「気づいたみたいだね?やっぱり君はとても賢い。そう、弱点を相手が狙ってくるのであればそれを誘いとして使えばいいんだよ。例えるなら敢えて右手だけの攻撃を繰り返して相手の意識を上半身に向ける。すると必然的に腕のない左側に回り込もうとするだろうね。当然君はそれを嫌がり身体を捻る……なんて素直なことはしない。初めてそこで蹴りなどを使ってあたかも
「俺の技で仕留める、ですか」
「うん正解。君には戦いの中で見せる相手を騙し、誘い込むという手段が少なすぎる。なまじ身体能力が高いからある程度の事が出来ちゃうせいで、その辺りがどうしてもおざなりなんだ。だから今後はとにかく僕が意地悪な攻撃をするから凌ぐ手段を模索してご覧」
「はい!よろしくお願いします!ブロキーナ師匠!」
「ふふ、やりがいがある子で楽しいね」
この日から十日ほど、修行と復興支援を繰り返す日々が続く。
ブロキーナの修行は厳しいというより、ひたすら悟飯に足りていない経験を積ませる方向に特化しており、旅立ちの前日まで続けられた。
現時点での主人公は、一般人と孫悟飯が完全に同期がとれていない為ちぐはぐな状態です。
歩く際に「まず右足を前に出してから、左足に力を入れて……」みたいに頭で考えてから動かしてる状態。そのくせ、技や技術は一流。
ブロキーナから見た印象は「プロ級のドライビングテクニックを持った、エンジンのかけ方も知らないド素人」でかなり奇妙な状態。