「お世話になりましたブロキーナ師匠」
ロモス郊外の森にて向かい合う悟飯とブロキーナ。
街の復興もひと段落付いたことで、ダイ達のもとへ向かう日がついにやって来たのだ。
「うん、短期間とはいえかなり良くなったね。でもどんな時でも油断せずに日々精進だよ」
「はい、常に相手が自身より格上と見定めて挑みます。また折を見て戻って来た時はお手合わせお願いします」
「うん、いってらっしゃい」
悟飯は懐からドラゴンレーダーを取り出し、何度かボタンを押してセンサーを起動させる。
するとかなり遠くの位置に一つだけ反応を発見。
因みにカプセルに入れているドラゴンボールはセンサーに反応しない様になっている為、現状レーダーが拾う反応はダイに預けた一つだけである。
「あっちか」
レーダーを仕舞い込み、今一度ブロキーナに礼をした後、武空術で空に駆け上がるとまっすぐ反応のあった方角へと飛んだ。
(修行のお陰か、気のめぐりが滑らかだ。舞空術も自在に扱える!)
短期間でも効果を実感できる修行の成果に笑みを浮かべつつ、遠くで戦っているであろうダイたちの元へとさらに速度を上げた。
「……確かこのあたりのはずなんだが」
いくつかの小さな小島が浮かぶ海の上に到着した悟飯。
周囲を見回すと何やら渦巻いた海流やら、そこそこ大きな島に生えた炎と氷の柱に挟まれた唯一人の手で作られたであろう塔が気になる。
(あの炎と氷、どう見ても自然物じゃないよな。なんだか嫌な感じもする……!?)
考えた矢先、島の中央に建設されていた塔から気球が飛び立った。
それは次第に高度を上げるが、それを逃がさないとばかりに氷と炎の柱からモンスターが飛び出してきた。
どうやら気球を狙っているらしく、悟飯が目を凝らすとその気球にはポップとマァムらしき姿が見えた。
「みんなっ!」
咄嗟に飛んで近寄るとモンスター相手に応戦していた見知らぬ人物が驚きの声を上げる。
「誰!?」
「そ、空をとんどるぞい!」
「魔王軍の手先か!?」
そんな中、こちらに気が付いたポップ達が目を見開いて叫ぶ。
「悟飯! 何でここに……いやそんなことよりすまねぇが手を貸してくれ! ここを脱出してぇんだ!」
「みんな、彼は味方です!」
二人の言葉に悟飯はとりあえずの目標を定める。
「モンスターを請け負う! みんなは何とかして避難してくれ!」
「すまねぇ! 数が多すぎるから気をつけろよ!」
ポップの言葉にうなずき、背を向け追撃を仕掛けてくるモンスターたちを凝視する。
(たしかあれはフレイムとブリザードだったか? 実体のないモンスターだったはずだから気弾で対処したほうがよさそうだ)
「だりゃりゃりゃりゃりゃ!!」
手からバレーボールほどの気弾を連射する。
「ギャー!」
直撃するとモンスターたちは一撃で爆散して消えていく。
「よし、思ったより耐久は高くないみたいだ。ただ数が多いな!」
気弾で打ち落とすが、無数に増えるその数にどうしても取りこぼしが気球を襲ってしまう。
「くそ! ……ん?」
(さっきからフレイムたちはあの炎や氷の柱から出てきてるみたいだ。ならあれを破壊できれば!)
「はぁぁぁあ!!」
気を開放し、近くに集まっていたフレイムたちを吹き飛ばす。
「な、なにをするきだ!?」
フレイムの一体が驚きの声を上げるがそれを無視して右手を額のところに合わせる。
「魔閃光!!」
通常の気功波をさらに強化した光が炎の柱へと迫る。
破壊したか、と思われたその瞬間悟飯は違和感を感じた。
「なんだ!?」
直撃の少し手前で魔閃光が僅かに減退したのだ。
そのせいか直撃させ、大きくダメージを与えたのはいいが破壊には至らなかった。
「くっ、でもモンスターが出てこなくなった。今のうちに……っ、みんな!」
振り返って気球を見るとフレイムたちに取りつかれた事で炎上し、海で渦巻く海流に落ちようとしている瞬間だった。
「くそっ!」
慌てて飛んでいこうとした次の瞬間、複数ある無人島のいずれかから膨大なエネルギーが放たれモンスターたちだけを消し去ってしまった。
「な、なんだ今のは!? 気功波とはちがう、けどものすごいエネルギーだった……はっ、そうだみんなは!?」
呆気に取られて固まってしまっていたが、慌ててみると渦潮とは離れたところにかろうじて着水していた。
「よかった……」
とりあえず追撃も止んだことで、悟飯は一度彼らと合流することに決めた。
見失わない様に気で位置を把握しつつ、悟飯は尾行に細心の注意を払いつつ向かうと岩場の洞窟奥に彼らはいた。
「お邪魔します」
初対面の人物に驚かれないよう、声をかけてから洞窟の陰から顔を出す。
「「悟飯!」」
「悟飯くん!」
駆け寄るダイ達三人と、知り合いであることを聞かされていたらしい大人たちはこちらをじっと見つめている。
「よかったぜ! お前が来てくれたんなら鬼に金棒だぜ!」
「もうロモスはいいの?」
「ああ、向こうでの復興も落ち着いたし思わぬ出会いで修行も出来たから少しは力になれると思う」
そう答えるとごほん、とわざとらしくせき込むボロボロの鎧を着た老人が歩いてくる。
「すまないダイ君たち、そちらの青年はどちら様かきいてもいいかね?」
「あ、すみませんバダックさん」
「ば、バーダック!?」
思わず驚きの声を上げてしまい全員の声が重なる。
すると老戦士はカラカラと笑いながら手を横に振る。
「ちがうちがう、わしの名前はバダックじゃ。どうしたんじゃそんなに驚いて」
「あ、ああすみません。その、父方の祖父の名前とそっくりだったのでつい」
「ほう、おぬしの祖父の名前はバーダックという名前じゃったのか。それはそうと名前を伺っても?」
その言葉に落ち着きを取り戻した悟飯は背筋を伸ばし皆の顔を見ながら名乗る。
「始めまして、孫悟飯といいます。ダイ君たちとはロモスの森で倒れてたところを救ってもらった縁から旅の手伝いをしようと決めていたんですが、魔王軍の襲撃を受けて壊滅的な被害に遭った街を放っておけず復興の手伝いをしてから来たんです」
可能な限り簡潔に自身の経歴を伝えてみたところ、その場にいた人々が納得した様子で自己紹介を始める。
皆ボロボロで、中には顔に酷い火傷を負った女性もいた。
聞けば敵に炎を操る化け物がいたとポップが説明する。
「仙豆と言います。これを食べればどんな傷も治る仙薬です」
「いいのかそんな貴重なものを……」
「構いません、あの優しいマァムが放っておくはずもないのに今も火傷があるということは、かなり酷い火傷なのでしょう? ホイミでは治せる怪我に限度があるはずですから」
(俺の大怪我の時も辛うじて動くことができるレベルに納まった程度だった。多分火傷がひどすぎてホイミじゃ焼け石に水なんだ)
その言葉に彼らは頷く。
「……すまない、恩に着る」
仙豆を受け取るとアポロは横たわるマリンの元へ向かう。
「マリンっ、これを食べてくれ。つらいとは思うがこれだけで良いから、たのむ!」
口元に食べやすくつぶした仙豆を押し込むと、意識があったたらしいマリンはゆっくりと口を動かし、ごくりとそれを飲み込んだ。
直後焼け爛れた肌や炭のように炭化した肌が、まるで脱皮のようにぽろぽろと剥がれ落ちその下にはつるりとしたきれいな肌が再生していた。
「おお!」
しばらくするとマリンは目を開け、身を自分で起こすと顔を何度も触って「うそ、治ってる」とつぶやく。
それを目の当たりにしていた全員は驚き目を見開く。
アポロは何度も頭を下げ、エイミとマリンからも涙ながらに感謝を口にした。
「跡が残らなくてよかったです。女の子の顔に傷なんてつらいでしょうから」
そういうと、いつの間にか近くに来ていた厳めしい顔立ちの老人がこちらをギョロリとにらむように見つめてきた。
「見た事ねぇ薬だな。残りはいくつある」
「あと二つです」
「馬鹿野郎が、いくら顔の怪我を治すためとはいえ数少ない霊薬を使っちまったってのか! ……と言いてぇところだが、女の顔と保身を天秤にかける間もなく選んだその心意気は気に入った」
ばしん、と背中を叩くようにして悟飯を褒めるとにやりとあくどい笑みを浮かべる。
そしてすぐに顔を引き締め、さらに質問を投げかける。
「見たところおめぇさん左腕が無ぇみてぇだが、戦えるのか?」
あまりにも明け透けな態度に周りはぎょっとするが、それに対して悟飯はしっかりと頷く。
「問題ありません、途中とはいえ武神流のブロキーナさんに許可をいただいて来たので」
「ほう……おめぇさん、あいつに会ったのか」
「知り合い、ですか?」
「知り合いも何も俺はブロキーナの爺と一緒にハドラー相手にドンパチやってた仲間だっての」
「「「「えぇ!?」」」」
驚きの声は悟飯だけでなく、ダイ達三人からも上がった。
どうやら知らなかったようだと察した悟飯は改めて体の前で片手の拳のみだが胸の前に構えた礼をする。
「師匠のお仲間でしたか、失礼しました。お名前を伺ってもいいでしょうか」
すると老人は鼻に指を突っ込みながらそっぽを向いた。
「良いってそんなかしこまんな。俺はお前の師匠でも何でもねぇんだから気楽にしろっての。俺はマトリフってんだ」
つっけんどんな態度に苦笑しつつ悟飯は頷く。
「それで話は逸れちまったがこいつのためにおさらいと行こうじゃねえの」
マトリフは悟飯にわかりやすく置かれている状況を説明してくれる。
・ダイたちが脱出した島の名前はバルジ島、その中央にあるバルジの塔にパプニカの生存者たちが身を隠していたがそこに魔王軍の氷炎将軍フレイザードが襲撃。
・三賢者の奮戦空しく敗北。そこにダイ達一行が到着し戦闘に入るもフレイザードは「氷炎結界呪法」という禁術を発動。それにより結界内にいるダイ達の力が5分の1になるという恐ろしいものだった為苦戦。
・仕方がなく撤退を試みるが、その際にパプニカの姫レオナがフレイザードにつかまり氷漬けにされる。
「何とか脱出したはいいけど、モンスターの襲撃で気球ごと落されそうになった所に来てくれて助かったぜ」
ポップが悔しそうに締めくくった。
(なるほど、結界か……あの時俺の魔閃光が弱まった気がしたのはそのせいか)
あの時放った悟飯の魔閃光は間違いなく破壊するつもりで打ち込んだ。中央の塔に影響がないように加減したとはいえ破壊を仕損じるとは到底思えなかったのだ。
それが失敗した理由が気になっていた為、今回の情報は納得いくものだった。
「それでいつ救出に行くんだい?」
「それなんだけど、バダックさんが爆弾を作ってくれることになってるんだ。製作に少し時間がかかるからその間は動けないんだ」
ダイの言葉に「自分が行けばすぐに塔を壊せる」と言いかけたが、思いとどまる。
見たところダイ達には疲弊の色を感じる。怪我こそないが、今スグに突撃を仕掛けたとしても疲れが残った身体では何が起きるかわからない。
「……まず、バダックさんの爆弾を待つことに賛成だ。見たところダイの身体に疲労が残ってるように思う。だから体を休めつつ、待機中は少しでも技を磨く方針にしたほうが良いと思う」
その言葉にダイは悔しそうにうつむく。
(レオナという子は知り合いだって話だったな。……それを思うと動けない時間は辛いだろうけど、ここは堪えてもらうしかない)
「いいこと言うじゃねぇか、俺もこいつの意見に賛成だぜ。それにダイの修行にはこいつがうってつけだ」
マトリフはにやりと笑みを浮かべながらダイの頭を杖でこつんと叩く。
「お前さん、まだ空の技を極めてねぇんだろ?」
「ッ、はい。先生の修行を途中までしか受けれていないので」
「それでも今の位だけ戦えるなら戦士としちゃ十分素質あるぜ。悟飯つったか、お前さん気配を読む事は出来るよな」
「はい、ブロキーナさんから『闘気に関しては僕以上だね』と太鼓判をいただきました。教えることはできると思います」
「アイツより上ってすげぇな。ダイ、お前はこいつから気を読む技術を叩き込んでもらえ。それが空の技を覚える近道だ」
「は、はい!」
「マァムは修行で傷ついたダイたちの治療に専念してやってくれ。あとそこのへっぽこ魔法使いのガキ、お前は俺と修行だ」
「えぇ!? なんで俺!? っつーかへっぽこってなんだよへっぽこって!」
「へっぽこをへっぽこと言って何が悪い。てめぇがしっかりしてりゃ落ちる気球から仲間を連れて脱出だってできたのに、それも出来ずに助けてもらうばかりの野郎がいっちょ前な口を利くんじゃねぇ!」
ごつん、と杖でポップの頭を叩くと痛がる彼の首根っこを掴んで洞窟の外へと歩き出す。
「バダックの爺さん、アンタはそこにあるもんすきに使え」
「わ、わかったぞい」
ずりずりと出ていく彼らを見送った後残された悟飯たちは思わず空笑いするしかなかった。