未来悟飯に憑依した男の大冒険   作:ただのトーリ

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気の訓練

 ダイとマァムを連れて移動したのは開けた空洞。

 マトリフの住処である洞窟から繋がった修行場であった。

「あ、悟飯にこれ返しておくよ」

 ダイに声を掛けられ差し出されたのは、以前預けていた石となったドラゴンボールだった。

「ありがとう」

「礼を言うのはこっちだよ。それには助けられたんだ」

 どういう事だろうかとマァムに聞くと、何でも魔王軍との戦いで胸を貫かれるところだったらしい攻撃をドラゴンボールが受け止めて致命傷を避けてくれたとの事。

「ヒュンケルも驚いてたよ。まさか傷1つつかないなんてって」

「ヒュンケル?」

「あ、ヒュンケルっていうのは敵だったんだけど実は仲間で」

 

 慌てて言葉をつなげようとするダイの言葉がイマイチ分からずマァムに助けを求めると、苦笑しながら答えた。

 

「いろいろ誤解があったのよ。そのせいで敵対してしまったけど最後には分かってくれたわ……でも、彼は溶岩の中に消えてしまったの」

 

 最後の言葉に生存は絶望的であると感じが悟飯は気まずそうに目を伏せる。

 すこしの間、気まずい時間が流れるが時間は有限ということで修行に入ると告げると2人は慌てた様子で準備を再開した。

 

 

 

「まず、ダイとマァムには気の察知を覚えてもらうよ」

「私も?」

「ああ、これに関しては戦士の素質があるマァムにも十分有用な技術だと思うからね。以前、父親が戦士で母親が僧侶だったこともあって、回復魔法も使える僧侶戦士だって言ってただろう?」

「そっか、相手の気配がつかめればスピアハンマーも当てやすくなるかもってことね?」

「そういう事。ただ時間があまりないと思うからスパルタで行くからね」

「「はい!!」」

 

 

 

 悟飯が行った修業は、ブロキーナとの修行の際に組み立てた気の修行法である。

 初めて人に教える感覚ゆえに試行錯誤であったが、流石に教えることに長けたブロキーナの助言やもともと武道家として鍛えられた感覚によって次々と理論的に言語化されていった。

 そのおかげもあって、手探りで学んでいたブロキーナの時よりより効率的に気のコントロールについてダイとマァムに指南できるようになっていた。

 

 

 悟飯の前には目を閉じ、リラックスした姿勢で座るダイとマァムの姿があった。

 壁際には修行を見たいと申し出たエイミとマリンの二人がやって来ている。アポロはまだ体の傷がいえていない為休憩中。

 

 

「今から君たちの周りでそこそこ強い気を出す。それを目ではなく精神で察知するんだ」

 

 片手を前に出し、掌から2つの気弾を打ち出す。

 それらはダイとマァムの前に鎮座し、動かずに停滞する。

 

「……ッ!」

「すごい……」

 

 マリンたちが声を小さくしながらも驚く。

 彼女たちにとって悟飯のような闘気の使い方はまさに歴史上初の事であったからだ。

 

「なにか感じる?」

「うーん、よくわからないよ」

「わたしも」

 

 その言葉にうなずいて悟飯は2人に目を開けるように促す。

「……うわっ!? こ、これが気? こんな目の前にあったのに気が付かなかったのか俺」

「すごいわ、力強くて、それでいて優しい感じがする」

「まずは目で見ながら気を感じ取ってごらん。マァムの感じたそれも気の気配のその一端だから間違いじゃない。それをもっと明確に、可能なら目を閉じてたり死角にある物すら感じれるようになるのが目標だ」

「「はい!!」」

 

 目の前で気弾を動かしたり、素早く移動させたり、2人の背後に回したりと様々な位置に展開させその距離などを具体的に感じれるようになるまで繰り返す。

 するとやはりセンスが良かったのか、物の2時間ほどで目を閉じていても気の距離などについて感じ取れるようになった。

(すごい、ブロキーナさんほどじゃないけどこの二人の格闘センスは相当なものだ。すでに高速移動させた気弾の位置くらいなら大雑把に感じ取れるようになってる)

 

「よし、今度は2人は目隠しをした状態で俺と組み手だ」

「えぇ!? 目隠し!?」

「無理よそんなのっ」

「いいからやってごらん。互いに殴り合わないようにしつつ、俺を攻撃するのも重要だからな!」

 

 目隠し用のタオルと木の棒をそれぞれに渡すと2人はしぶしぶといった様子で目元を覆う。

 

「……やっぱり何も見えない」

「本当に出来るようになるの?」

 

 不安そうな2人だが、俺は彼らに向かって声をかける。

 

「さっきまでの修行と同じだよ。気の位置を探って俺と仲間の位置を調べるんだ」

 

「ううん……」

 

 2人はうなりながら構える。

 

 準備ができたところで俺は少しだけ気を開放し、拳を構えると二人は驚いた様子でこちらに向かって坊を構えた。

「すごい、今なにか大きくなったのがわかった!」

「ええ、これが悟飯くんの気なの?」

 

「よし、感じ取れたみたいだね。最初は加減するけどある程度出来るようになったら速度を上げるよ。いくぞ!」

 

 素早くダイへと詰め寄り拳を放つ。

 するとびくりと反応するが避けるまでは出来ず、モロに殴り飛ばされる。

「ぐぅっ」

 倒れ込む音にマァム反応する。

「ダイっ」

「油断するなっ、君も狙われているんだぞ!」

 

 流石に拳で殴るというのは憚れた悟飯は、掌底で肩を突き飛ばす。

 それでも相当な衝撃に彼女は大きく転ぶ。

 

「反応が遅いぞ! 相手は素早く動くんだ。察知した時点で即座に応戦出来るようにならなきゃ意味がないぞ!」

 ふらふらになりながらも、手ごたえを感じていたらしい二人は立ち上がり力強く構える。

 

(いいぞ、この調子なら短い範囲くらいなら気配の察知も出来るようになりそうだ!)

 

 

 

 

 

 5時間後。

「いてて……」

 マリンにホイミをかけてもらうダイ。エイミはマァムの治療を行っている。

 そんな彼らを眺めながら、悟飯は2人の成長に舌を巻いていた。

 

(すごい成長速度だ。1日かかると思っていた気の察知に関してはおおよそ完ぺきに捉えた。あとは反復練習を繰り返してその範囲を広げていくだけだ)

 

 既に日は落ちており、マトリフも帰って来たのだがポップはいなかった。

 どうしたのかと問えば、修行場においてきたという。もし爆弾が出来上がるまでに帰ってこれなかったら見込み無しとして救出作戦には参加させないつもりらしい。

 

(ピッコロさんみたいに厳しい人だ。でもそれくらいできないと多分命を落とすって思ったんだろうな。もし、あの時俺が耐えきれないと思ったらピッコロさんはサイヤ人との戦いに参加させなかったんじゃないだろうか……って、これは俺じゃなくて孫悟飯の記憶だろ。何言ってんだ俺は……)

 

 ここ最近、自分の記憶と感覚が孫悟飯そのものになりつつあるときがある。

 

 不快感こそないが、今ではどちらの自分が本当の自分なのか分からなくなる時があり、それが少しだけ不安になる。

 

(いつの間にか戦いに身を置くことに否定的じゃなくなってることもそうだ。最初は元の世界に戻るためって思ってたのに、今じゃダイ達の手助けをしたいと思ってる。以前の俺はそんな人間だったか?)

 自分の中で何が本心なのか分からなくなりつつある自分に苛立ちに近い気持ちが渦巻く。

 心を落ち着かせるために、洞窟を出て外の空気に触れようと考えた。

 

 

 

 夜風に当たりつつ、悟飯は目を閉じ瞑想を行っていた。

 その身体は漲る気によって自然と浮かび上がっている。

 

「すげぇ闘気だな。ブロキーナが太鼓判押したってのも頷けるぜ」

 声が聞こえ瞑想を止め、地面に降りた悟飯が振り返るとそこには焼き魚を素手で齧るマトリフの姿があった。

 

「よぉ、邪魔したか?」

「いえ、ちょっと考え事してた程度なので」

「そうかい、隣失礼するぜ」

 

 そういうと彼は悟飯の隣に腰を下ろす。

「お前さん、何か考え込んでるみたいだな?」

「……ええ、まあ。その……自分がちょっと分からなくなりかけまして」

「そりゃまあ詩的な表現だな? それともそのままの意味か?」

 

 彼の口調そのものはふざけているが、その目はうそを見逃さないとばかりにまっすぐ悟飯の目を見つめている。

 実のところ、悟飯はブロキーナに自分がこの身体の持ち主ではないことを伝えている。だが大まかに事情を聞いた時彼の言葉は次のように簡素だった。

『別人の身体で見知らぬ土地に放り出されたとしても、君は君だよ。そこにどこの誰も否定する余地なんてないよ』

 

 その言葉に救われた気持ちになった悟飯だが、今回の悩みはその根幹を揺るがしつつある。

 気が付けば悟飯は無意識に独り言のようにつぶやき始めていた。

 

「もし、俺を俺たらしめている一番の要素……()()()()()()が別のものに知らずのうちに置き換わっていたとしたらそれは俺と言えるんでしょうか」

「……」

 

 

 きっかけはドラゴンボールに触れてからだった。

 その頃から少しずつ記憶に変化が起きている。

 

 そもそも、ドラゴンボールに触れたのはこちらで目が覚めた当日で徐々に、という表現はおかしいかもしれないが明らかにあれがきっかけだと自分の中で感じている。

 

 

 他にも以前の自分の名前が思い出せなくなっている。

 その場のウソであった記憶喪失がまさかこのような形で本当になろうとは思いもよらなかった。

 その入れ替わりとばかりに孫悟飯の記憶が詳細に思い出せるようになっている。

 消えていく記憶がこれほど恐ろしいと思わなかったのだ。

 

 この世界に来て僅か半月程度、その程度でこれほど進行するのであれば半年後にはどうなっているのか。

 

 一通り、独白のような心の吐露を終えるとマトリフは背伸びをした後こう告げた。

 

「しらね」

「え」

 

 まさかの3文字。

 ブロキーナとは大きな違いである。しかし彼の言葉はその後も続いた。

 

「お前さんが抱えてる問題ってのは理解した。そりゃずいぶんな恐怖だろうな……自分が自分で無くなる恐怖ってのはその当人にしか理解できねぇもんだ。だがなそんなおめぇに一番の薬を教えてやる」

「薬?」

「なくなっちまったもんはそう簡単に取り戻せねぇ。そりゃ人間も記憶も同じ、いや記憶は何かのきっかけで取り戻せるかもしれねぇがやり方がわからねぇ事をウダウダ悩んだって生産的じゃねぇし何より気分が悪いだけだ」

 

 身もふたもない言葉に思わず悟飯は笑いそうになった。確かにその通りだなと、先ほどまでの鬱屈としていた気持ちは気が付けば少し上向いている。

 

「だったらな、これからの記憶で「お前」を作っていきゃいいんだよ」

「俺を、作る」

「そうだ、今こうして悩んでることすら消えるわけじゃねぇ。だったらせいぜい悩め! 悩んで悩んで、そうやって過ごす自分こそが俺なんだって思っちまえ。そうすりゃ少なくとも自分が誰なのかなんて不安を気にしてる余裕ねえだろ」

「……ぷ、あははは! 確かにそうですね、忙しくしてる間は気にしてる余裕ないですね」

「おうよ、んでもって今みたいに笑っちまうのもいいぜ。お前さんはちょいと考えすぎなんだよ。このご時世、生きてるだけでめっけもんなんだ。だったらもうちっと頭空っぽにした方がいろんなもん詰め込めるってもんだ」

 

 最後の言葉を聞いて、思わずドラゴンボールの代表的なオープニング曲が頭に浮かぶ。

「頭空っぽの方が夢詰め込める……」

 思わずつぶやくと、それを聞いた方がマトリフがニカッと笑った。

 

「いいじゃねえか。差し引きゼロにして問題なし! って開き直っちまえ」

「はは、そうですね。もう少し単純に考えてみることにします」

「おうよ。俺はそろそろ寝るぜ。お前も早めに寝ろよ? 予想じゃ明日あたり事が動きそうな予感がするんだ」

 その言葉に悟飯は頷き、洞窟内に戻っていく彼の背中に頭を下げるとそれに対し振り返りもせず手をヒラヒラさせた。

 

 

(俺が誰とか、これからどうなるかとか……そういうのは脇に置いておこう。とりあえず平和にならないと悩む余裕もないんだ。平和になってから元の世界に戻るとか自分が誰とか悩もう)

 

 心の中で呟いた悟飯の心はすっかり軽くなって、今にも空を飛べそうな程自由になっていた。

 

 

 

 




マトリフ師匠ってかっこいいですよね。
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