単独でダンジョンに挑むのは間違っているだろうか?   作:一般通過害悪

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書きたいことを書き殴る小説です。


少年、オラリオに行き主神を得る

オラリオの正門は、朝の陽光に照らされて鈍く光っていた。

 

石畳の道はまだ冷たく、馬車の轍が残る水溜まりが鏡のように空を映している。門をくぐり、商人や冒険者の群れに紛れて、少年は一人、ゆっくりと歩を進めた。

 

十歳の少年は、背丈こそ低いが、雰囲気はすでに大人びている。

荷物は、小さな革袋一つと腰の打刀、胸付近に忍ばせている短刀。服は旅の埃を纏い、靴底はすり減っている。

それでも、足取りに迷いはない。

 

「……ここが迷宮都市」

 

十歳の子供とは思えない落ち着いた声が聞こえる。

門を抜けると、すぐに賑わいが押し寄せてきた。

露店の呼び声、酒場の喧騒。空気には鉄と酒と、どこか甘い香りが混じっている。

 

少年……アルは立ち止まり、ゆっくりと周囲を見回した。

 

「さて……」

 

アルは革袋から、旅で手に入れたお金を確認しながら露店に足を運んだ。

 

「はふっ、はふ」

 

近くにあったベンチに座り、露店で買ったものを口に運びながら再度、耳と目を使い辿れる情報を精査する。

この街に訪れた目的がある。

 

 

それは冒険者になること。

 

 

なぜ、冒険者になるのか。簡単なことで、儲かると聞いたから。

 

物心付いた頃からアルは一人であった。

自分が生まれた日を知らないし、親の顔も知らない。

ただ、気が付けば放浪の旅をしていた。

 

一人で歩き、一人で寝て、一人で飯を食う。悲しいとか寂しいとか、そういう感情は最初から持ち合わせていない。むしろ、誰かと分ち合うことの方が面倒に思えるそんな性格をしている。

まぁ、案外、一人という訳でもなかったのだが。

 

露店で買ったのは、串に刺さった鶏の肉と、粗末なパン。

旅の合間に行った魔物退治をして手に入れた小銭で買った。

味は悪くない。

 

そんなことを考えながら周囲の喧騒を耳を傾け、アルは情報の整理を行う。

 

(冒険者になるには主神となる神様を見つけて恩恵を受けないと……か。大凡、おっちゃんの言ってた通りだな)

 

放浪の旅である程度、人と関わりを持ち噂話は旅の途中でいくらでも耳にした。

迷宮都市。二大派閥ゼウスとヘラ。その二つが今、この街を牛耳っているという。

 

(となると、まずは神様を見つけねばならんか。だが、どこから手を付けるべきか)

 

アルは串の肉を最後までかじり、パンをちぎって口に放り込んだ。次の串に手を伸ばそうとして……視界の端で小さな影が動いた。

 

 

直ぐ隣、アルの買った串肉の袋から取り出したのだろう串を持ちながら噛み締めて居る小さな少女が座っていた。

 

灰色の長い髪が朝陽に透けて、まるで糸のように揺れる。

そして、頂点に見える耳とお尻付近に見えるふさふさの尻尾、着物はよれよれで、裾は泥と埃で汚れている。

表現するなら街の片隅にいる孤児のような格好だ。

少女は無遠慮に肉を頬張っていた。

 

「んぐ……んぐ……!」

 

頬がぷっくりと膨らみ、満足げに目を細めている。

アルは瞬きを忘れた。

見惚れたというものではない。

 

(……コイツ、常識が無いのか?…………いや)

 

怒りより先に、不信感とともに妙な違和感が胸をよぎった。

少女はから溢れ出る気配は明らかに人間ではない。

背丈はアルよりさらに低く、しかしその瞳には――食欲が宿っていた。

 

「……あの」

 

アルは静かに声をかけた。

少女は、串を咥えたまま顔を上げた。

 

「ん?」

 

「それ、俺のなんですが」

 

アルは少女の持つ串を指差しながらそう言う。

少女は目をぱちくりさせ、それからにやりと笑った。

 

「良いじゃん。一つぐらい」

 

「いや、一つとかそういう問題ではなく。そもそも、人のモノを勝手に食べるのは、人としてどうかと……」

 

「ん……それなら問題ないよ。私は人じゃない。神様だ。だからキミの物言いは通らないよ。それに、これは、もう私が口を付けたものだ。だから私もの」

 

アルは、少女の言っている意味が理解できなかった。

ただ、的は射ているように思ってしまう。

同時に気掛かりなことが一つ。

 

「神………と、言いましたか?」

 

「そうだよ。神様。神名はオオクチノマカミ。まぁ、神と言ってもモドキと言うのが正確なんだけどね」

 

オオクチノマカミはそう困ったように言った。

アルは、オオクチノマカミの口の周りに付いた肉汁を取り出した布で拭い取りながら、好都合だと内心ほくそ笑んだ。

 

「それは良好。実は俺。冒険者になる為にこの街を訪れまして。神様を探して居た所だったんですよ」

 

「ふむ、それで?」

 

少女神はアルに拭われながら、残りの串を一口で頬張り飲み込んだ。

 

「はい。率直に言います。俺を眷属にしてください」

 

「ふ~ん。いいよ」

 

何の気負いもなく、そう答えた。

ノータイムのオーケーである。

オオクチノマカミが付け足す。

 

「私の眷属になるなら何個か注意事項が有るけどいい?」

 

「構いません」

 

「先ず、ファミリアの拡大とか興味ないし、働く気もない。ファミリアの決定権は全部あげる。守ってほしいのは一つだけ。毎日たらふく飯を食わせて養ってね……と言うこと。それだけ守ってくれたらいいよ。………あっ、言っておくけど零細だからキミが最初の眷属ってことになるから。そこのとこ、よろしくぅ」

 

アルは頷いた。

恩恵と引き換えに、食わせる。

単純明快でとても良いと思う。

 

「では、早速ですが。拠点に案内をお願いします。そこで恩恵をください」

 

神は最後の串を咥え、満足げに頬を膨らませながら立ち上がる。

 

「ん~、おっけー、まぁ、ついてきな。歩きながら話そう」

 

少女神はよたよたと歩き出し、アルはその後を追う。

石畳の道は朝の陽光に温まり始めていた。

商人たちの声が遠ざかり、代わりに路地の奥から漂う酒と油の匂いが強くなる。

振り返りもせず、ぽつりと呟いた。

 

「私が拠点にしてる所は今は廃教会になっちゃった場所の裏手にある、崩れかけた小屋さ。そこが私の――いや、私たちの住処になる」

 

「……成る程……それで一つ確認しておきたいのですが」

 

「ん?」

 

「呼び方はどうすれば?」

 

「うーん。別に何でもいいよ。キミが呼びたいように呼ぶといい」

 

アルは少し考えて言う。

 

「では、オオクチ様と呼ぶとします」

 

「うん。良いじゃない? 以後、そう呼ぶといい。そう言えば君の名前は?」

 

「アルと言います。家名はないただのアルです」

 

「ふ~ん。今日からよろしく。アル」

 

彼女は先を急ぐように歩を速め、よれよれの着物の裾を翻す。灰色の長髪が風に踊り、まるで小さな妖精のようだった。

アルはその後を、革袋を肩に掛け直しながら追う。靴底のすり減った音が、石畳に軽く響く。

 

案内を受けた先は、蔓や蔦が巻き付いた大凡、住める場所では無さそうな小屋。

 

外壁は朽ちた木材が剥がれ落ち、屋根は苔むし、隙間から風がヒューヒューと音を立てて吹き抜ける。

それでも、雨風を完全には防げそうである。

 

内部は散らかり放題だ。

床には古い酒瓶や食べ物の残骸が転がり、壁際には蜘蛛の巣が張り巡らされている。

 

衛生的に言えば宜しくないの一言。

旅の馬宿に比べれば十分すぎる環境だろう。

 

家具はまぁ、無いこともないが触ろうとは思えない程に汚れている。

使えるもので言えば、タンスや丸い机、あとは寝床なのだろうベッドである。躊躇なく、オオクチ様はベッドに向かい、座るとパンパンと横を叩きこう言ってくる。

 

「ほら、寝転んで。恩恵を刻むよ」

 

欲を言えば、そんな所に寝転びたくないアルだったが、ゴネても何にもならないと理解して、ハァとため息をつき上着を脱いだ。

 

アルの身体は、薄暗い教会の中でも分かるほどの無数の傷跡が身体中に刻まれていた。

 

オオクチノマカミの動きが止まった。

 

「……」

 

無言でアルの身体を見つめている。

 

(……この子、傷だらけだ)

 

まるで、鞭に打たれたかのような跡、刃物で斬られた痕、何かに噛まれたような傷、引っ掻かれたのか三本の抉れた胸元、そして、焼けた爛れた皮膚。

 

どれ一つとして、偶然ついた傷には見えない。

全てが、生きるために、戦い生き残った少年の生き様を示すもの。

 

「……どうかしました?」

 

アルが、不思議そうに心ここにあらずの神に問う。

オオクチノマカミは、はっとしてこう返す。

 

「ん〜、なんでもないよ。じゃ、寝転びな」

 

オオクチノマカミは、傷跡をなぞるように丁寧に指を動かした。

 

(……うーん、よく死んでないな。この子)

 

多くの傷は明らかに命に届き得るものばかり。オオクチノマカミは内心でそう呟く。

 

そんな、神の気も知らずアルはベッドに寝転ぶ。

埃の匂いが鼻を突き、お腹にごつごつした感触が伝わる。だが、今は我慢のしどころだろう。

 

「よし、じゃあ。いくよ」

 

 

オオクチ様はアルの背中に〝神の血(イコル)〟を垂らす。

 

背中に熱が走り、何かが刻み込まれる感覚。まるで魂の奥底に直接文字が焼き付けられるようだった。数分程度、紙に書く音が聞こえて。もういいよと言う声がした。

 

「ステイタスだよ」

 

紙を受け取った。

 

アル

Lv.1

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

《魔法》

宿願を此処に(イテル・アンソロジー)

・速攻/治癒/全治癒

・風属性

・各詠唱

・三段階位魔法

・第一階位:詠唱式『疾風(エアリアル)

・第二階位:詠唱式『治癒(ヒール)

・第三階位:詠唱式『風の祝砲。生誕の祝福。久遠の親愛。裂翼を銀糸で縫い。欠骨を琥珀で繋ぎ。宿痾を星屑に溶かし。呪縛を夜天に払う。蒼天の彼方。精霊は詠う。生きよ。翔きよ。果てなき世界へと。風の調べに乗せ。血の記憶が霧に溶けゆくとも、虚空に散るとも、我らは永遠の風となり、汝を見守る。知らずとも良い。ただ、告げる。我らは汝を愛している』

 

【】

 

【】

 

《スキル》

孤高の道標(インサニア・ループス)

・単独行動時に全アビリティに超高域補正

・単独戦闘時のみ発展アビリティ『剣士』『魔導』を一時発現。

・戦闘時、技術、技能、技量、最適化

・戦闘後、獲得経験値増加

・思いの丈に応じて補正。

 

 

ーー

 

アルは紙を見つめたまま、静かに息を吐いた。

 

「最初から魔法とスキルが発現してるなんて、運がいいね。良い拾い物をした気がするよ」

 

オオクチ様はベッドに寝転がったまま、尻尾をぶんぶんと揺らしながら言った。因みに、スキルからある程度のことを察したりしている。

 

アルは無言で思考を進める。

 

(初期値は置いとくとして、魔法とスキルが発現してるな。魔法……疾風と治癒……三つ目は置いとくとして。スキルか)

 

そして、ベットから立ち上がり少し離れ、先ずは第一階位の魔法を試みる。

 

疾風(エアリアル)

 

瞬間、アルの周囲に淡い風が渦を巻いた。

風は彼の体を優しく包み、髪を揺らし、埃を払う。足元から立ち上る風は、まるで彼を護るかのように。風は彼の動きに合わせて流れる。

 

歩けば風が先導し、振り返れば風が後を追う。まるで

 

(…………なんだ?)

 

 

それに何処か〝懐かしさ〟を感じる。何かが思い出せそう………そんな、()()()()()()が胸を掻き乱す。

 

 

風は何に対してか分からないが「大丈夫」と囁いているようだった。疾風(エアリアル)を解除すればその胸のざわめきは自然と消えていった。

 

 

次は『治癒(ヒール)』。

アルは腰の打刀を抜き、左手の小指に浅く刃を当てた。ぷつり、と血が滲む。

 

治癒(ヒール)

 

傷口が光に包まれ――血が止まり、皮膚が塞がり、傷跡すら残らない。ダンジョンでの戦闘後の回復に重宝することになりそうだ。

 

 

最後は第三階位の魔法を。

アルは深呼吸し、詠唱を始める。

 

「風の祝砲。生誕の祝福。久遠の親愛。裂翼を銀糸で縫い。欠骨を琥珀で繋ぎ。宿痾を星屑に溶かし。呪縛を夜天に払う。蒼天の彼方、精霊は詠う。生きよ。翔きよ。果てなき世界へ………と…」

 

 

 

視界が歪…………む。

 

 

 

 

「…………あ?」

 

 

気が付けば、アルはベッドに寝ていた。

 

「あっ、起きたんだね。おはよう……と言っても、もう夕方なんだけどね」

 

オオクチ様の声が直ぐ隣で聞こえてくる。腰を上げようとして……有り得ない程の頭痛がした。

 

そのまま説明を受ける。どうやら、第三階位の詠唱を行う途中で精神疲労(マインド・ダウン)によって気を失ったらしい。

 

 

第三階位を発動させるには魔力が足りないことが確認できた。

 

数分程度で、頭痛が無くなったアルはベッドから降りて軽く地面に掃いた。

そのまま、袋から簡易的な寝袋を取り出し掃いた地面に敷く。流石に埃まみれのベッドに寝たくないアルは「一緒に寝ようよ〜」というオオクチ様の申し出を断るのだった。

寝袋に潜り込む。外はすっかり夕暮れ。

廃教会の裏手から聞こえる虫の声と、遠くの街の喧騒が混じり合う。

 

明日から、本当の冒険が始まる。

 

 

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