単独でダンジョンに挑むのは間違っているだろうか?   作:一般通過害悪

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おまたせしました。
ーー
前回までのあらすじ
ゼウス・ファミリアに御礼として称して向かうアル。
勧誘を断り男を見せる。
模擬戦を行うことになったぞ
ーー
今回の話。
ザルドとマキシムとの戦いだ。

ーー
注意点、独自設定が出るぞ。


少年、ゼウス・ファミリアへ赴く(終)

訓練場は広大な円形の石畳広場だった。

周囲は高さ十メートルの石壁に囲まれ、壁の上にはゼウス、ケルサス、五人のLv.5団員、そしてマキシムが肘を乗せて見物している。壁際には、怪我人治療のための医療班の2人が控えていた。

 

空は抜けるような青、晴天と呼べる清々しい心地の良い空である。

アルは『嵐乱』を纏い、腰には納刀状態の『竜風』を差している。

対するザルドは、全身を黒鉄のプレートメイルで覆い、片手に自身の身長よりも長い大剣を握っていた。

 

体格差は歴然としている。

十歳のアルが120c

十三歳のザルドが175c

軽く見ても55cmの差があることが分かるだろう。

 

「……抜かないのか?」

 

武器に手を置こうとせずに軽く構えを取るアルに向けて、ザルドは静かにそう言う。

 

「ええ。まぁ」

 

アルは視線をまっすぐにザルドへ据える。

無論、武器を抜かないのには理由がある。

魔物相手ならいざ知らず、人相手となると抑えが効かなくなるからだ。

 

旅の途中、何度もそれを経験してきた。

刃を握れば、殺してしまう。

いや、殺りすぎてしまうのだ。

 

「勘違いしないで貰いたいので言っておきますが、貴方を侮っているわけではありません」

 

これは事実だ。3歳上……アルからすると同年代の大派閥に所属する先輩冒険者となるザルドを侮れるほど、傲慢でもない。

では何故か。

 

「俺の技が、大派閥に所属する相手に、どこまで通じるか。それを知りたく」

 

一見すると煽りにしか聞こえない言葉だが、アルに煽る意図は微塵もない。

ただ純粋に、自分の実力を測りたいだけだ。

 

「ああ、無論、その資格があると証明して頂ければ抜くことも吝かではありませんよ」

 

ザルドの灰色の瞳が、一瞬だけ鋭く細まった。

 

「……なるほど」

 

大剣を肩に担ぎ、静かに構える。

 

「なら、遠慮はしない」

 

「ええ。こちらとしてもそれが望ましい」

 

 石畳に、ざりっ、と靴底が鳴る。

 

 そうして、ケルサスの大声が降ってきた。

 

「よーい、始め!!」

 

 

 

瞬間――地面が爆ぜた。

動いたのはザルドである。

黒鉄の巨躯が爆発的な加速で一直線に突進してくる。

五年間鍛え上げた脚力が、重装備の身体を瞬時に加速させた。巨大な大剣が、まるで雷鳴のように振り下ろされる。

 

ドゴォッ!!

 

石畳が砕け、破片が飛び散った。

土煙が上がり、視界を遮る。

だが、アルの姿はそこにない。

 

「大振りが過ぎますよ」

 

声が、ザルドの左耳元で囁いた。

 

「ッッ!!」

 

反射的に横薙ぎ払い。190cを超える刃が、唸りを上げて空間を裂く。

 

ブンッ!

 

しかし、それは虚空を斬るに留まった。

アルはその軌道を完璧に読み切っていたのだ。

ギリギリまで引きつけて――そして、わずか半歩。

だが、その半歩が決定的だった。

ザルドの灰色の瞳が驚愕に見開かれる。

 

(速い――!……完全に懐を取られた!!)

 

アルの右手の拳が、鎧越しの鳩尾にぴたりと押し当てられる。

外皮を傷つけず、内側に衝撃を叩き込む。

 

「グフッ!?」

 

 次の瞬間、ザルドは口から血を吐きながら後方に吹き飛んだ。

 

(凹ませる力で撃ち抜いたんだが………大派閥は新人でも良い防具を使わさせてるらしい)

 

だが、甲冑の胸部の部分は、凹みが見て取れず逆にアルの拳が痛みを感じていた。

ただ、感触は確かに、あった。

 

(今ので内部の臓器の一つや二つは損傷しただろう)

 

アルは追撃可能である好機に冷静に判断を行い、構えをとって静かにザルドへ視線を向けるに留まった。

 

ザルドは空中で体勢を立て直し、咄嗟に大剣を地面に刺すことで滑りながら着地した。

 

片膝をつき、ゲホッゲホと咳き込みながらも、冷静に思考を進めているようである。

 

(内側から……破裂したような痛み。鎧が意味をなさない打撃。確か、団長から聞いたことがある。極東近くの国に伝わる武術………)

 

ザルドは顔を上げ、静かに問うた。

 

「……八極拳だな?」

 

「………どうでしょう?」

 

アルが答える義理はない。

技を明かすことで不利になることを踏まえての返答である。

まぁ、内部に衝撃を与える技術を用いる武術はこの世界でも〝八極拳〟以外はないので無駄なのだが。

軽く構えを取り直す。その構えは、足の位置、重心の取り方。間合いも採寸、全てが実戦で練られたもである。

ザルドの方は大剣を杖にして立ち上がる。鳩尾の痛みは激しいが、まだ戦える。

 

 

「すげぇ……一撃でザルドを吹き飛ばしたぞ」

 

「どういう技だ?」

 

 壁の上で、五人のレベル5団員たちが驚愕の声を上げていた。

 

「動きが洗練されてる。間合いの取り方も完璧……相当数の実戦を受けてきた戦士のソレだな」

 

「あの足捌き、何だ? 瞬時に間合いを詰めやがった」

 

「レベル1でこれか……恐ろしいぜ」

 

ゼウスは白い髭を撫でながら、にやりと笑った。

 

「ほほう……八極拳とな。わしも久しく見ておらんわい」

 

ケルサスが腕を組んで頷く。

八極拳とは、極東の二大国家系ファミリアの一つ『王朝』に広まる武術の一つである。

 

『王朝』は玉皇大帝を主神とする中華風の国家で、『朝廷』と並ぶ極東の大国だ。

加えて、国民の多くが恩恵を得ずとも一定の強さを持つとされる異常国家でもある。

現在は、閉鎖的で排他的の隔離された国であり所謂、正式な書類を済ませないと外に出ることが出来ない。幾ら、ゼウスやへラと言った大派閥と言っても立ち入ることが難しい国となっている。

 

このため、ゼウスの久しく見ておらんという言葉が裏付けている。

 

「〝八極拳〟……習得が難しい武術を習得するとは、しかも技術と技量も確かに備わっている。年齢で考えても……有り得ないな」

 

ケルサスも一度、『王朝』に数人の団員とゼウスを連れて体験学習に赴き、無理だと諦めたものである。

 

そんな時。

 

「のう、ケルサス」

 

ゼウスが声を潜める。

 

「大分前に、外で噂になっておった少年の話、覚えておるか?」

 

そんなことをゼウスが言ってくる。

無論、物覚えの良いというか、衝撃的な話を忘れるケルサスではない。

 

「ああ。もちろんだ」

 

少年の噂を箇条書きにまとめよう。

 

1.闘国(テルスキュラ)のレベル4の頭領『惨姫』の殺害。

2.レベル2相当のワイバーンの討伐。

3.ラキア王国にスカウトされるが拒否、無理やり入れられそうになって抵抗、その結果、レベル1を数十人、レベル2の副団長、レベル3の団長を殺害。この被害を受けて、ラキア王国の主神であるアレスが勧誘を諦めた。

 

その他、多くの国に現れ()()を或いは()()を与えてきた一桁の子供。

無論、笑い話でホラ話と笑い飛ばすのは可能……というよりも余りにも荒唐無稽が過ぎる。

神の恩恵とは、ある意味、チート言い方を変えれば不正行為だ。

恩恵の有り無しでは、差ができてしまう。

 

故に、今挙げたものは大凡、恩恵を持たずに行うなど有りない……というよりも()()()()()()()()()()()()()()

そんな少年の話を忘れてしまえるかといえばNOだろう。

現代に産まれし定められし〝英雄〟

そう思ってしまうもの無理はないだろう。

 

「だとすると………余りにも荒唐無稽が過ぎるぞ。ゼウス………まさかと思うが……」

 

「うむ。そのまさかじゃろう。目の前の小童こそが、そやつじゃろうな」

 

 

 

場面は代わり、アルとザルドの展開は進んでいた。

 

(鎧が意味を為さない攻撃か……一番は当たらないことだが、あの速さに対応することは不可能。だとするなら攻撃で圧力をかけ続けるしかない)

 

 

ザルドは大剣を両手で握り直し、連撃を繰り出し続ける。

今度は一撃目より慎重だ。

 

大剣を振り下ろす――見せかけて、途中で止め、横薙ぎに切り替える。

 

シュッ!

 

しかし、アルは動じなかった。極限まで引きつけ、刃が肌を掠める寸前で身体を捻る。紙一重の回避。

ザルドは即座に大剣を引き戻し、突きへと繋げる。

だが、アルはすでに動いていた。重心を読み、わずかに横へ踏み込む。

 

ザルドの突きが虚空を貫いた。

バランスが崩れた――その瞬間。

 

アルの身体が瞬時に加速し、ザルドの懐へ滑り込む。一瞬で間合いを詰める歩法。

再度、鳩尾への打撃。

だが、今度は咄嗟に大剣を引き戻し、剣身で防御した。

 

ゴッ!

 

鈍い音と共に、ザルドの身体が後ろに押される。大剣越しでも、衝撃が腕に響く。

 

(うおっ)

 

しかし、ザルドは後退しながらも反撃の機会を窺った。

アルが追撃に来る――その瞬間を待つ。

だが、アルは追わない。

一定の距離を保ち、構えを取り直す。

 

(やっぱり、追ってこない。無理に攻めない……か。冷静だ………こっちとしては嫌だが)

 

 

このままでは、ジリ貧だとザルドは知っている。故に一か八か――全てを出す!

ザルドは深呼吸し、アルと向かい合った。

二人の距離、約五メートル。

石畳の上で、互いの視線が交錯する。

 

風が吹き、砂塵が舞う。

 

そして――ザルドが踏み込んだ。

 

縦斬り

 

アルは横に滑る。刃が空を裂く。

 

横斬り

 

アルは身体を低くして回避。

 

下から斬り上げ

 

アルは後方へ軽く跳ぶ。

 

三連撃。

 

しかし、ザルドは止まらない。

 

「【父神(ちち)よ、許せ、神々の晩餐をも平らげることを】」

 

並行詠唱。

魔法を詠唱を行いながら、剣を振り続ける。

四撃目、五撃目、六撃目

縦、横、突き。

 

アルは全てを紙一重で回避し続ける。

 

(魔力が膨れ上がっていく……決める気だな)

 

アルの口元が三日月を描いた。

面白いと。

七撃目、八撃目、九撃目

 

剣が空を裂き、アルの身体を掠める。だが、致命傷は与えられない。アルは最小限の動きで回避し続けていた。

そして、ザルドの詠唱が最終段階に入る。

 

「【貪れ、炎獄(えんごく)の舌。喰らえ、灼熱の牙!】」

 

ザルドは最後の詠唱と共に、全力で大剣を振り下ろした。大剣が炎を纏い、灼熱の一撃が振り下ろされる。

 

「レーア・アムブロシア!!」

 

 

 瞬間。

 

「――疾風(エアリアル)

 

アルの小さな呟きと共に、身体に風が纏われた。

そして――アルは炎を纏った大剣に向かって、あえて踏み込んだ。

 

「!?」

 

ザルドの目が見開かれる。

 

(避けない――迎え撃つのか!)

 

アルの身体が瞬間的な加速で炎の大剣に肉薄し風の流れで軌道を受け流した。

 

炎が、アルの身体の横を通り過ぎる。髪が焦げる匂い。

しかし、致命傷ではない為、無視だ。

 

そして。

 

アルはザルドの懐へ、完璧に潜り込んでいた。

至近距離。ザルドの空いている顎が、目の前にある。

 

「これで眠ってください」

 

寸勁。顎への一撃。脳を揺らす確かな打撃。

 

「ガ……ッ……」

 

ザルドの瞳が虚ろになった。膝から崩れ落ちる。そして――地面に倒れた。

 

戦闘不能である。

 

「そこまで!!」

 

 ケルサス団長の声が訓練場に響いた。

 

「勝者、アル!」

 

治療者二人が即座に駆けつけ、ザルドの治療を開始する。

 

「外傷はないが内部………」

 

「ここじゃあ、ダメだ。おい!ハイス!ミツメ!手を貸せ!!治療室に運ぶぞ!!」

 

 二人は協力してザルドを見るがどうやら外傷から見るより内部が酷いものだったらしい、二人の団員にそう指示を送る。

そのまま、ザルドは治療室に運ばれる形で戦場から姿を消す。

アルは静かにその様子を見守った。

 

(強かった)

 

ザルドの最後の一撃。並行詠唱。あれは、本物の覚悟があった。

鍛錬が生み出した、確かな技術と精神力。

だが、何処か、物足りないと思ってしまうアル。

 

(強かったが………まぁ、俺の敵ではない)

 

とは言え、武器の有り無しでは時間が掛かってしまうことは把握出来た。

 

(手っ取り早く、首を跳ね飛ばすことが出来たらな…………っと)

 

ぶんぶんとアルは首を振り邪念を払う。

今はあくまで模擬戦であり殺し合いではないことを思い出すように。

 

そんなアルにケルサスが声をかける。

 

「次の試合は十分後だ。それまでに準備を整えろ」

 

アルは軽く頷き待つことになった。

数人の団員がザルドを担いで運び去った後、マキシムが訓練場に降り立った。

 

両手にはそれぞれ片手長剣の二刀流で構えを取るマキシム。

黒髪の少年の瞳には、熱い闘志が燃えている。

 

「よろしく頼む、アル!」

 

明るく、力強い声。

アルは軽く頷き、再び素手を構える。

 

「よろしくお願いします」

 

マキシムが一瞬、眉をひそめた。

 

「……お前、ザルドには素手で勝ったけど、俺にも素手で来るのか?」

 

「ええ。まずは」

 

「まずは……?」

 

「ザルドさんにも言いましたが必要なら抜かせていただきます」

 

その言葉に、マキシムがニヤリと笑った。

 

「そうか。なら、俺が抜かせてやるよ!」

 

ケルサスの声が響く。

 

「よーい、始め!!」

 

 

マキシムが地を蹴った。

 

初動から全力。

二刀を構えた青年が、アルへと一直線に突進する。

 

その速度は、先ほどのザルドを上回っていた。

だが、アルは動じない。

少年は静かに呼吸を整え、間合いを測る。

 

五歩、四歩、三歩。

 

マキシムの右剣が閃いた。横薙ぎの一閃。だがその太刀筋は陽動。本命は左からの突きだ。

 

アルは半歩、斜め後ろへ下がった。

右剣が空を切る。

そして左の突きが迫る。

 

その刃先を、アルは手刀で弾いた。

 

(速い!)

 

マキシムが内心で驚きの声を上げる。

レベル2である自分よりも遥かに速いアルの速度に。

だが攻撃の手は緩めない。

すぐさま体を回転させ、両剣を振るう。

 

連撃。一太刀、二太刀、三太刀。

 

アルは全てを躱す。

半歩下がり、身を捻り、低く沈む。

まるで風のように、剣戟の隙間を縫って動く。

相手の動きを読み、間合いを制御している。

 

「原初の炎よ——」

 

マキシムの口から詠唱が零れた。

 

(流石に、大派閥。並行詠唱は基本装備ですか)

 

並行詠唱。

先程のザルドも行った、戦いながら魔法を編み上げる高等技術。

 

疾風(エアリアル)

 

風がアルの体を包む。

それは、お馴染みの速度と防御力が増す身体強化魔法。

 

「人理を照らせ」

 

マキシムの双剣が紅く輝き始め魔力が刃に収束していく。

アルが仕掛ける為に踏み込んだ。

 

〝寸勁〟

 

至近距離からの掌底がマキシムの胸板を狙う。

青年は咄嗟に左剣で防御。

 

「ッ!」

 

衝撃。マキシムの体が半歩後退する。剣で受けたにも関わらず、その威力は凄まじい。十歳の少年とは思えない打撃力。

 

「我らは道を違えない——」

 

(おー………凄い集中力だな)

 

だが詠唱は止まらない。

マキシムは後退しながらも、魔法の構築を続ける。

その集中力は見事と褒めずには居られない。

 

アルは追わずに、再び間合いを取り、マキシムの動きを観察した。

詠唱完成を待つつもりか。

 

それとも。

 

「この身に不屈を纏い——」

 

マキシムが再び前に出た。

 

今度は慎重だ。

先ほどの掌底で、ザルドが一方的に負けたアルの近接戦闘能力の高さを理解したのだろう。

剣を交互に振るいながら、確実に間合いを詰めていく。

 

アルは冷静に対処する。

 

右、左、右上、左下——全ての太刀筋を読み、最小限の動きで回避していく。

 

「おいおい……マキシムの連撃を完璧に防いでやがる」

 

「……本当に末恐ろしい」

 

観客席から見ている団員たちから見ても圧巻の一言。

数多の窮地を潜ってきた大派閥の一等級冒険者であってもだ。

その動きには、死と隣り合わせで培われた実戦経験が滲んでいるのだから。

 

「辿る覇道の果てへ至ろう——」

 

詠唱が佳境に入る。

マキシムの双剣から立ち上る魔力が、空気を震わせた。

 

その時——

アルが低く沈んだ。

 

八極拳の歩法。マキシムの懐に一気に潜り込む。マキシムの目が見開かれた。

 

この距離では()()使()()()()

 

「故に——」

 

詠唱を完成させようとするマキシム。だが、アルの掌底が胸に迫る。

 

 

完璧なタイミング。

 

だが——

 

「この身は正道を歩む!」

 

マキシムが叫んだ。

詠唱の完成。

 

マキシム持つ魔法は【プロメテウス】という火属性の魔法。

炎を放つのが通常だが………その他にもある。

それは、その魔力を全身に纏うこと。

 

【プロメテウス】は放出系でもあると同時に、付与(エンチャント)魔法でもあるのだ。

アルの掌底が炎に触れてしまう。

 

「!」

 

少年が初めて、驚きの表情を見せた。

 

熱い。

 

疾風(エアリアル)』で防御力を上げていても、熱が伝わってくる。

 

マキシムがニヤリと笑う。

 

「俺の魔法は、放つだけじゃないぞ!」

 

マキシムの膝蹴りがアルの腹部を狙う。

至近距離であり、躱せない。

 

アルは両腕で受けた。

 

衝撃と熱。

 

アルの体が初めて後方へ吹き飛ぶ。

三メートル、四メートル、アルは空中で体勢を立て直し、着地した。

 

訓練場に静寂が落ちる。

アルは自分の両手を見た。軽い火傷だ。

戦闘に支障はない。

 

「……なるほど」

 

初めて、小さく笑った。

 

「マキシムさん。強いですね」

 

「へへ、お前もな!」

 

マキシムが構え直す。

 

炎はまだ消えていない。その瞳には、さらに熱い闘志が燃えている。

 

(炎を纏われた今、素手だと色々と面倒だな。仕方ない。使うか…………これは模擬戦。これは模擬戦。これは模擬戦。よし。使うぞ)

 

アルもゆっくりと腰の『竜風』に手を伸ばした。

 

「では——抜かせていただきます」

 

シャキン、という清冽な音が訓練場に響いた。

 

アルが腰から抜いたのは、一振りの打刀。

 

刃長は二尺三寸ほど。十歳の少年が扱うには長い得物だが、その構えに一切の迷いはない。八極拳の沈身と、居合の予備動作が融合した独特の構え。

 

「おお、遂に抜くのか!」

 

観客席から声が上がった。

 

「さて……どう言う戦いを見せてくれるか」

 

「でも、あの構え……ただの剣士じゃねえぞ」

 

「マキシム、気ぃ抜くなよ!」

 

先輩たちの声援を背に、マキシムがニヤリと笑う。

 

「いいじゃねえか!!」

 

炎を纏った双剣を構え直す青年。その体からは、先ほどまで以上の闘気が立ち昇っていく。

相手が武器を抜いたことで、さらにスキルが発動し力が漲り始めた。

 

「……あの構えは……ケルサス、お主は知っておるのではないかの……」

 

ゼウスが小さく呟く。白髪の老人の瞳に、鋭い光が宿った。

 

「ああ………少し違っちゃいるが、村正の構えだな」

 

センジ・村正はアルにとっての師匠であると共にゼウス・ファミリアにとっても知らない人物ではない。

 

なんせ、一週間前にはある依頼の任せ、それと共に軽い模擬戦を行った感じ。

 

「村正に弟子がいるってのは聞いたことない……と言うより言われなかったが……多分だが、あの少年がソレだろうな」

 

 

そんな、ゼウスとケルサスの話を他所に、アルとマキシムの戦いは始まる。

 

マキシムが先手を取った。

炎を纏った双剣が、アルへと迫る。

右上段からの斬撃、左下段からの薙ぎ払い。

 

同時攻撃。

 

だが、アルの『竜風』が閃いた。

右剣を受け流す。刃を滑らせ、力を逸らす。

そして流れるように体を沈め、左剣を躱す。

打刀が鞘に戻る——いや、戻りかけて止まる。

 

それは、居合の予備動作。

 

「ッ!」

 

マキシムが咄嗟に後退した。

本能が危険を告げたのだろう。

あの体勢から放たれる抜刀術は、致命的な威力を持つと。

 

「……良い判断です」

 

アルが静かに言う。

刀を完全に鞘に納め、再び構える。

先ほどと同じ、八極拳と居合の融合した構え。

 

「危ねえ、危ねえ。お前、今の本気だったろ?」

 

「…………いえ、訓練場ですから峰打ちで済ませますよ」

 

「峰でも当たったら痛えよ!」

 

マキシムが笑う。だが、その瞳は真剣だ。

 

「原初の炎よ——」

 

再び詠唱が始まった。

今度は最初から。

魔法を完全な形で放つつもりなのだろう。

アルは動かない。

 

少年は静かに呼吸を整え、間合いを測っている。

刀を抜く機会を、冷静に探っている。

 

「人理を照らせ——」

 

マキシムが前に出る。

 

双剣を振るいながら、確実に詠唱を進める。

 

一撃、二撃、三撃。

 

アルは全てを躱す。

だが、今度は躱すだけではない。

躱しながら、間合いを詰めている。

 

一歩、また一歩。

 

マキシムの懐へと近づいていく。

 

「我らは道を違えない——」

 

マキシムの双剣が速度を上げた。

 

縦横無尽に振るわれる炎の刃。

 

だがアルは、その全てを読んでいる。

 

五年間、死と隣り合わせで培った戦闘経験。

 

相手の太刀筋を、呼吸を、重心移動を——全てを観察している。

 

そして、見つけた。

 

隙。

 

マキシムが左剣を振り上げた瞬間。

右半身が一瞬、開くことを。

 

アルが一気に間合いを詰める。

 

「この身に不屈を纏い——」

 

マキシムの詠唱が続けて慌てない。

左剣を下ろし、アルの踏み込みを迎え撃つ。

刀と剣がぶつかり合った。

 

キィン!

 

金属音。火花が散る。

だが、アルはそこで止まらなかった。

刀を剣に押し付けたまま、体を捻る。

相手の剣を固定し、そのまま肘打ちを放つ。

 

「っ!」

 

マキシムが咄嗟に頭を引く。

肘打ちは空を切った。

だが体勢が崩れる。

 

アルが刀を引いた。

横薙ぎの一閃。マキシムの脇腹を狙う。

 

「辿る覇道の果てへ至ろう——」

 

体勢が崩れたまま、右剣で刀を受ける。そして左剣を突き出す。カウンター。

 

アルが後退した。

刀で左剣を弾き、間合いを取る。二人の距離が再び開く。

マキシムの瞳に熱い光が宿る。

 

「故に、この身は正道を歩む!」

 

そして、詠唱が完成する。

双剣から解き放たれた小規模の太陽が、アルへと迫る。

訓練場を照らす紅蓮の業火。

団員たちは息を呑む。

 

アルがどう対処するのかを。

 

冷静に刀を鞘に納めた。

 

疾風(エアリアル)

 

風がアルの身体を包む。

そうして、片膝が地面につくほどの低い姿勢を保つ。

 

「スゥ___」

 

息を吐き………一気に吸い込んで、空間が縮んだと錯覚するほどの踏み込みを行った!

 

「は?」

 

気が付くと炎弾は一刀両断され、アルの掌底がマキシムの懐に置かれていた。

 

「失礼します」

 

マキシムの胸板に、確実に掌が触れた。

そして、次の瞬間……マキシムの意識は途切れた。

マキシムの体が、ゆっくりと後ろに倒れた。

 

ドサリ、という音。

 

訓練場に静寂が落ちる。

 

「……え?」

 

「今、何が……?」

 

「見えなかった……」

 

「速すぎんだろ」

 

観客席がざわめいた。レベル5である筈の団員たちですらも視ることが出来ない速度である。

 

これが【風の記憶(レミニス・ケンティア)】の効果なのかもしれない。

 

アルは静かに膝をつき、倒れたマキシムの首筋に手を当てる。脈を確認する。問題ない。気絶しただけだけのようだ。

 

治癒(ヒール)

 

温かな光がマキシムを包む。気絶から回復させるほどの力はないが、体の負担を和らげることはできる。

 

「そこまで!!勝者……アル!!」

 

ケルサスが高らかに告げた。

その言葉で、ようやく観客たちが現実を理解する。

 

「マジかよ………」

 

「レベル2が、レベル1に負けた……?」

 

「あの一瞬で決着が……」

 

「そういうレアスキル……か?」

 

白髪の老人が満足そうに頷く。

 

「見事じゃったのう」

 

「ああ。炎弾を一刀両断しながら踏み込み、そのまま八極拳の寸勁を懐に叩き込んだ。完璧なタイミングだった」

 

ケルサスが腕を組んで言う。

 

「あの構え……やはり村正の弟子か」

 

「間違いなかろうな。あの冷静さ、あの間合い取り方……そして、あの居合と八極拳の融合。村正の技を、少年なりに消化しておる……しかも、格上狩りとは………下界の未知というやつじゃのう」

 

 

 

 

「……う……」

 

「っと。もう、目を覚めるんですね。大丈夫ですか?」

 

アルの声は表向き心配そうにマキシムを見下ろしている。

 

「思ってないことは言うもんでもないぞ……俺、負けたのか?」

 

「はい。アナタの負けです」

 

「……………そっか」

 

マキシムが苦笑する。

 

ゆっくりと体を起こし、首を回す。痛みはないのだろう。アルの『治癒』が効いているのか。

 

「お前、マジで強いな……」

 

「ありがとうございます。マキシムさんも素晴らしい戦いでした。あの並行詠唱、見事でした」

 

「………でも負けちまった」

 

「まぁ、そうですね」

 

「なぁ………お前から見て何が足りないとか分かるか?」

 

ふむと考える。

 

「修行不足ですね」

 

「ハハ、意外と辛辣だな。でも、俺、お前のこと気に入ったぞ!」

 

マキシムが立ち上がり、アルに手を差し出す。

 

「これからも、よろしくな、アル!」

 

アルは一瞬、驚いたような表情を見せた。

そして、小さく笑って手を取る。

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

二人が握手を交わすのだった。

 

十歳の少年と、十三歳の青年。

 

所属は違えど、確かに芽生えた友情。

 

「なあ、アル」

 

「はい?」

 

「今度、一緒に迷宮(ダンジョン)に行こうぜ!」

 

マキシムの提案に、アルは少し考える。

 

(……中層に潜れる……か。断る理由はないな)

 

「……機会があれば」

 

「よし! そんときゃよろしくな!」

 

熱血漢の青年と、冷静な少年。

対照的な二人だが、互いの強さを認め合っていた……のかも知れない。

取り敢えず、ゼウス・ファミリアの訪問は悪くない結果に終わった。

模擬戦を終えて軽い、ゼウスとケルサスの2人と()()()()()をして今日は解散となった。

帰りの道中、ちらりと見えるへラ・ファミリアの拠点を見つめて軽く溜息を吐いた。

 

(明日はへラか…………やだなぁ)

 

そんなことを思いながらアルは帰路に着くのだった。




ーー設定まとめーー
アルの現状の戦闘力。
レベル1上位→レベル2上位
【孤高の道標】の擬似的な冠位昇華と『疾風』のバフによる大幅な性能の向上。
【風の記憶】の効果向上は身体強化の向上。今回の出番は無かったけど放出も小規模だが行える。
『疾風』は現状、バフとしては〝アイズ〟の〝テンペスト〟のようにレベル1を覆せれるレベル。
対人間においてはレベル以上の力を発揮する。
今回はころころしないという決まりがあったため、結構制限して戦ってる。

ーー噂の真偽とその他の独自設定ーー
・闘国のレベル4『残姫』について。
嘘偽り無く殺し合いをした。とある理由からアルの記憶はないが殺したと言う現実を理解している。残虐で残忍な性格をしたアマゾネス。アルとの死闘の末に満足死。
・レベル2相当のワイバーンについて
事実。小人族の学者フェアレスの依頼の一環として受けたもの。
・ラキア王国との関係
誇張されているが、ほぼ事実。副団長と団長はぶち殺した。
・他、残虐、又は救い
誇張されている。ただ、結構好き放題にやってたので尾ひれはひれがつきすぎていたり。
ーー
八極拳について。
アルが使えているのは、獣人傭兵ルナリスに教わったから。
ルナリスが『王朝』出身だからと考えてもらえれば。
・『王朝』について
極東の2大国家系ファミリア『朝廷』と『王朝』。
二つとも戦国、三国してるから互いに不干渉。
日本のような国があるなら中国っぽい国ぐらいあるだろうと思い独自設定として登場。

ーー
現状のザルド1とマキシム2のステイタス。
ザルドは原作通り。
レベル1
力A 耐久A 器用A 敏捷D 魔力E
スキル
【神饌恩寵】
魔法
【レーア・アムブロシア】
※偉業を達成すればレベルアップ可能

レベル2
マキシム:力D 耐久D 器用E 敏捷C 魔力E
発展アビリティ
連舞
連撃における斬撃の補正。
スキル
【逆境不撓】
・一定以上の逆境時に任意発動
・逆境時、力と耐久に高補正
魔法
【プロメテウス】
詠唱魔法
炎属性
付与可
詠唱式『原初の炎よ。人理を照らせ。我らは道を違えない。この身に不屈を纏い、辿る覇道の果てへ至ろう。故に、この身は正道を歩む』

マキシムの戦い方は完全オリジナルです。

ーー
良い話の内容
・後ろ盾
・他ファミリアを呼んで行う共同訓練の参加可能
とかですね。
ーー
ヒロインについて
特に決めてません。展開次第です。
一応、言っておくと作者はハーレムが苦手なのでハーレムにはなりません。
誰か一人を選ぶのか、選ばないか。ですね。

ーー
取り敢えずこんな感じで。
※詠唱とかどっかで見たことあるぞぉと思っても気にしないでください。作者にそういうは苦手なので調べて似通ってしまう可能性は十分ありますので。

感想、評価、お待ちしています。
ーー

次回は、へラ・ファミリアへ。
レグナントとアニスと対面。
へラの真意とは……。
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