単独でダンジョンに挑むのは間違っているだろうか?   作:一般通過害悪

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ということで投稿です。

今回の話は、タイトルにある通り、中層にて特殊個体との戦闘と謎の男の出現です。




少年、漆黒のモンスターと対峙、謎の男現る

アルは中層に赴いていた。

 

昨日のこともあり普通であれば、ダンジョンに潜るのは控えたりするのだろう。が、アルにとって気にする程のものでは無いので通常運転だ。

 

現在は、13階層に降りてヘルハウンドを15、アルミラージを30、ハードアーマード20を殺した。疲労は無い。事前情報もあるため苦戦することもなく。息を整え、油断なくただただ進んでいく。

 

アルの今の目的は、レベル2であっても一対一は不可能だと言われているモンスター、ミノタウロスとの戦闘だ。

 

理由は簡単、一週間後にあるレグナントとの模擬戦前の慣らしである。

 

14階層は淡々と進んでいく。

出現したモンスターは全て始末した。

普通なら戦闘は避け、最小限に抑えるべきだろうが、新たなスキル『風の記憶』の効果で魔力の消費は極めて低く済んでいる。

 

加えて、『孤高の道標』の技術技能技量の最適化によって戦えば戦うほどに強くなる。そのため見つけ次第戦っているわけだ。

 

後は、単純に中層の魔物の魔石は上層よりも高く売れる為、金稼ぎだったりもする。

 

武器の性能についてだが、期待以上だった。

最初に使っていた村正の刀には及ばないものの、アルの戦闘スタイルによく合っている。

 

この武器が壊れたあとも、美遊に新しいものを打ってもらおう。そう思えるほどによい出来だ。

 

 

 

 

15階層に向けて続く階段を降っていき、降り終わったと同時に、空気が変わる。まるで水の中を歩いているような感覚が身体全体にのしかかる。心なしか息苦しさも感じてしまう。

 

(妙だな)

 

数分程度、歩いてみるが、不思議なことに一匹も魔物の影が現れない。アルは警戒を強める。

あまりにも静かすぎる。

 

瞬間。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

低く、重く、地の底から響くような振動が起こる。

ダンジョン全体が震えている。

 

(何だ、これは……)

 

アルの背筋に冷たいものが走った。本能が警告を発している。

それは、神がダンジョンに入り権能を解放した際に起こる現象だ。

 

ダンジョンは神を憎んでいる。

遥か、数千年前に蓋がされ地上からの道を閉ざされた時からずっと。

それに、呼応し、神を確実に殺すために黒色のモンスターを召喚する。

 

(……まさか)

 

ゴオオオオオオオ

 

音が、さらに大きくなるにつれ、壁が軋み、天井から小石がパラパラと落ちてくる。

 

通路の先から、何かが近づいてくる。

 

 

ズシン……ズシン……

 

 

重々しい足音は、確かに地が揺らす。

 

 

ドガァァァンン!!!

 

突如として、背後の天井が崩落した。

瓦礫が階段への道を完全に塞ぐ。

 

(……………まるで、誘い込まれたみたいだな)

 

前を見る。

通路の先、約三十メートル先にそれはいた。

 

 

全身漆黒。

その風体は、間違いなく『ミノタウロス』。

 

だが。

余りにも異様である。

通常のミノタウロスの1.5倍はあるであろう巨体に深紅に光る瞳。そして、全身から溢れる禍々しい気配がアルの肌を逆立たせる。

 

軽く見積もっても、レベル3相当の力を持つ怪物だろうと。

 

 

「ブオオオオオオオオ!!」

 

 

耳にこびりつく程の咆哮がダンジョンに木霊する。

 

咄嗟に耳を防ぐことで、聴覚を保護する。

咆哮と同時にミノタウロスの後方、唯一の逃げ道が天井の崩落によって塞がれた。

 

(前後封鎖……左右は壁………ということは逃げ道ないな)

 

耳から手を離し軽く息を吸い込む。

 

(やるしかない)

 

通路は幅約十メートル。天井の高さは五メートルほど。前後は瓦礫で塞がれ、左右は壁。

 

『風の記憶』で魔力消費は軽減されているが、ゼロではない。

この狭い空間で、Lv.3相当のモンスターと削り合えば持久戦は不利だろう。

 

魔力残量、現在九割。

だが、魔力を使い続ければ、急速に減っていく。

 

(とは言え、先ずは観察か)

 

アルがこの状況で選んだのは、相手の手札を知るための観察。

ミノタウロスが、こちらに向かって走り出し………

 

「は……?」

 

瞬き一つの間に、十メートルの距離を詰められた。

そのまま、剛腕が振り下ろされる。

 

疾風(エアリアル)!!」

 

全身に風を纏い横に滑り込んだ。

 

ドガアアアン!!

 

拳が地面を叩き潰す。石畳が砕けクレーターのような穴が開いた。

 

「チッ」

 

(一発でも貰えば、終わりだな)

 

着地と同時に、ミノタウロスがこちらに視線を上げながら振り向くと同時に、再び拳が迫る。

 

今度は左からの攻撃を、アルは後方に下がることで回避。

 

(やはりと言うか攻撃力が異常すぎるな)

 

アルは、ひたすら躱し続ける。

右拳、左拳、両拳。

突進、薙ぎ払い。

 

全ての攻撃を、紙一重で回避する。

 

壁が砕け、地面が抉れ、地が揺れる。

だが、アルには当たらない。

 

(……見えてきた)

 

三十回か、四十回か。

 

ミノタウロスの攻撃を、全て躱し外すことで、アルは理解した。

 

(攻撃パターンは、五つ)

 

右拳の振り下ろし。

左拳の振り下ろし。

右→左の連撃。

両拳の叩きつけ。

突進からの薙ぎ払い。

 

全てが()()()()()()であること、魔法や遠距離攻撃と言った手札は無いことを把握した。

 

単純な力押しなら、漆黒のミノタウロスに分があるだろう………が、アルにはこれまで、培ってきた技術と技能がある。

 

故に。

 

負ける道理など無い。

 

 

ミノタウロスが、再び右拳を振り下ろす。

 

アルはふぅと息を吐きながら、しっかりと見る。

ミノタウロスの起こりを筋肉の動き、蠢く血管の活動、息遣い、その他諸々をしっかりと認識する。

 

(ここ)

 

ギリギリまで引きつけ、半歩だけ左に踏み込む。

拳がアルの右肩を掠めて地面を砕く。

 

完全に外したと思ったアルだがビリビリと頬に痺れが走る。

 

(……掠っただけで、これか)

 

風圧だけで皮膚が裂けたのだ。

 

「食らっとけ」

 

だが、アルは『竜風』を横薙ぎにカウンターの要領で振るう。

刃が、ミノタウロスの胸元を斬り裂いた。

血が飛び散る。

 

「………なるほど」

 

(防御力は低いな)

 

アルの攻撃はあっさりと通った。

 

ギルドで確認した情報では、ミノタウロスの皮膚は切り裂きにくい筈なのだが不自然な程に切れやすい。

これなら、数週間前に戦った小竜の方が硬かったように思える。

 

(強化種………だとすれば、明らかに有り得ない………が、この魔物が現れる直前に、起こった地響きとこの魔物は何か関係にあるのだろう………攻撃力と速度に特化した分、防御が犠牲になっている……とかか?……だとすると、無駄だと思っていた六角も使い道があるな)

 

 

「ブオオオ!!」

 

ミノタウロスは咆哮を放ちながら意に介さず、左拳を振り下ろす。アルは右に半歩で避け左腕を斬り裂く。

 

ミノタウロスの両拳の叩きつけを横に跳躍することで回避する。

地面が砕けると共に、石の破片がアルの頬に突き刺さった。

そこは、偶然にも数秒ほど前に裂けた頬である。

 

ただ、その程度、歯牙にもかけずに目の前の戦いに集中する。

この程度の痛みで反応はしない。

この現状を突破する方法は、既に頭に浮かんでいる。

 

(距離を稼ごうか)

 

アルは、軽く息を吐いて後ろに閃光のようなバックステップ。

それと同時に、時間稼ぎ用の六角を数本、投げつける。

 

ミノタウロスはそれを鬱陶しそうにしながら腕をクロスにして払おうとする。

 

だが、それは、『疾風(エアリアル)』の風を推進力として利用したモノ。

 

ミノタウロスの思惑とは裏腹に右に二つ、左に四つ、突き刺さる結果になった。

 

その小細工によって、アルは、ミノタウロスの距離を保つに足る十分な時間を稼ぐことができた。

 

アルは、深く息を吐き、吸い込むと『竜風』をゆっくりと鞘に納めた。

 

それは、マキシムを相手にしたときに行ったモノと同じ構え。

 

「ブオオオ!!」

 

ミノタウロスが腕を頭の前でクロスしながら再び突進してくる。頭を守ろうとする事実から察するに、学習能力も確認できる。

 

圧力が途轍もないがアルは動かない。

 

あと十メートル。

 

アルは保つ。

右膝を地面に着くほどに曲げ、左足を前に。

片膝を地面に着かすような極限まで低い姿勢を。

 

 

あと五メートル。

『竜風』の柄の少し上に、右手を添える。

左手は、鞘を支える。

 

あと三メートル。

ミノタウロスの接近が完了し、拳が、振り下ろされる軌道に入った。その巨体が、アルの身体を覆い尽くす。

 

あと一メートル。

アルは目を閉じている。

視界を闇に沈め。脳内で世界を鮮明に写す。

 

ミノタウロスの呼吸、筋肉の軋み、拳が空気を裂く音。

 

ダンジョンを流れる微かな気流を捉えミノタウロスの巨体が生み出す風圧を感じる。

 

武器と、ミノタウロス、そして、ダンジョンから感じる殺意、憎悪をその身で受け止める。

 

ここまで、渡った死線。

 

全てが、今この瞬間に集約される。

 

(……見えた)

 

疾風(エアリアル)

 

アルの全身を、風が包み込んだ。

これまでとは、比べ物にならない濃密なモノ。

『風の記憶』の効果で、魔法の威力が増幅される。

それを、『疾風』を最大出力で発動することで、魔力が爆発的に消費されていくのを感じる。

 

「これは__我が全力の一撃」

 

ミノタウロスの拳が、アルの頭上に迫る。

その風圧だけで、地面が軋む。

 

「受けてみろ」

 

目を開き、極限まで低めた身体を射出。

全身を前方に叩き出す。

 

ミノタウロスの拳が振り抜かれるより、前。

アルの『竜風』が振り抜かれた。

 

「抜刀__神威(カムイ)

 

それは、極限まで低い姿勢から、全身のバネと風の推進力を乗せた抜刀術。不可避の二閃。

 

刃が、ミノタウロスの首と腕を斬り裂いた。

 

一瞬の静寂。

ミノタウロスの巨体が前のめりに倒れてくる。

筋肉の塊に潰されないように横に逃げる。

 

「ブ……オ……」

 

かすれた声と共に、ミノタウロスの巨体が、地面に崩れ落ち動かなくなった。

 

「……はぁ……はぁ……はぁはぁ、ふー…… うっ、おえっ」

 

アルは、その場に膝をついた。

全身が、悲鳴を上げている。心臓の鼓動が早い、息が苦しさと一気に疲労が訪れる。傷は、頬の破片だけ、ほぼ無いに等しいが身体はそれとは裏腹に倦怠感が襲う。

 

どうやら、一気に魔力を使ったのは流石に堪えたらしい。

 

(やっぱり、疲れるな)

 

だが、こんな所で倒れるは死を意味する。無理矢理にでも身体を動かす。頬に刺さる瓦礫を力任せに引き抜き地面に捨てる。

 

治癒(ヒール)

 

そのまま、残っている魔力で回復魔法を使い、頬の傷を塞ぐ。戦闘中に使わなかったのは、単に、その隙が無かったからだ。

 

防具である、『嵐乱』の効果もしっかりとあり、思いの外、魔力の消費をせずに済んでいる。

そのため、ここから地上までの帰還は可能だろう。

 

さて、討伐を終えてアルはミノタウロスに近づき、腹部分を切り裂いた。

そう、魔石の回収の為に。

 

………だが。

 

「魔石が無い……?」

 

そう、そこには、本来あるはずの物が見当たらないのだ。

 

普通であれば、魔物には核として魔石もセットで産まれるはずなのだが。

なぜなら、魔石が無ければ、活動は出来ず、そもそもとして生きることが出来ないのだから。

 

と言うのに、先程の漆黒ミノタウロスには無い。

 

まるで、ダンジョンそのものから、誕生を祝福されずに何かを排除するためだけに生み出された存在と言うように。

 

(…………そもそも、コイツが現れる前に起こった地響き、前後の天井が崩れたこと。これは無関係ではない)

 

周囲を見回す。

壁や地面には、無数のクレーター。

天井からは、小石がパラパラと落ち続けている。

そして、前後を塞ぐ瓦礫。

 

(となると、何かが居るのか?)

 

色々な不確定要素が脳を支配していき、思考が闇に沈んでいく……………。

 

その時。

パチパチパチと拍手の音が、響いた。

 

「!!」

 

アルは反射的に身構える

 

(どこだ……?)

 

周囲を見回す。

前方の瓦礫、後方の瓦礫、左右の壁、そして、天井。

だが、誰もいない。

いや、

 

(気配が……前方から?)

 

背筋に冷たいものが走る。

 

「なかなか、見事だったよ」

 

声がした。

前方から、いや、前方の瓦礫の後ろ。

 

その瞬間。

 

ゴゴゴゴゴ……

 

瓦礫が、音を立てて動き始めた。

左右に分かれ、道が開いていく。

 

(……何をした?)

 

アルは、目を見開いた。

そんな力も、存在するのかと。

 

そして。

 

その向こうから、人影が現れた。

黒いローブ。

 

フードを深くかぶっており顔は見えない。

だが、細身の体躯から分かるが凹凸のない胸元から辛うじて男である事が分かった。

 

男は、開いた道からゆっくりと歩いてくる。

 

「わざわざ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

軽薄そうな声を出しながら男をじっと見据えた。

 

「……誰か聞いても?」

 

アルの声は、低く警戒を孕んでいた。

 

「俺かい?」

 

男は、肩をすくめた。

 

「俺は……そうだな。ただの、先輩冒険者……さ」

 

「……先輩冒険者ですか」

 

信じれるわけがない。

それに、大掛かりな仕掛けをしたと言った。

男は、アルとの距離を五メートルほど保ったまま、その場に留まった。

 

「うちの主神様に君のことを頼まれてね」

 

「……主神ですか…………詳しく尋ねても?」

 

「ふふ。それは流石に言えないさ」

 

フードの奥から、紫色の瞳が覗いた。そのまま、パンッと手を叩くとこんなことを言ってくる。

 

「……さて、ぶっちゃけて君も限界でしょ。目立った傷こそ無いだろうけど、あそこまで濃密な魔力の消費は……さ? だからね。地上まで帰れる程度の体力を回復させるまでの時間稼ぎ………()()()()()()()()()()()()()()

 

アルは、静かに思考を巡らせた。

別に誘いを断って戻るのも良いが、ここは乗るが吉だろう。

 

「……随分とお優しいんですね。でしたらこちらとしても乗らない理由が無いじゃないですか」

 

「おっと? クソ度胸だねぇ」

 

男は、面白そうに笑った。

 

「じゃ、座りなよ。立ってるの、辛いでしょ?」

 

「……」

 

アルは、壁に背を預けて座り込んだ。

武器は手放さない。

男も、五メートルほど離れた場所にあぐらをかいて座った。

 

「さて、何か聞きたいことあるんじゃない?何でもは無理だけど、ある程度なら答えてあげれるよ?」

 

「……一つ、確認したいのですが、俺とミノタウロスの戦いは見ていた……と言う認識でいいんですか?」

 

「ん〜、まぁね、最初から最後まで、バッチリ見させてもらったよ」

 

隠すつもりがまるで無いかのようなその声。

アルは突き詰めるように言葉を繋げる。

 

「はっきり言いますが、アナタは闇派閥(イヴィルス)ですか?」

 

「ん〜」

 

男は何処か考えるような素振りをしながら続ける。

 

「まぁ、君がそう思うなら、そう思って構わないよ」

 

(それは肯定と言ってるようなものではないか……)

 

「レベルは?」

 

「さぁ? どうだろうね。少なくとも君よりは数弾格上さ」

 

男は軽く笑いながら、挑発するように言う。

 

「まっ、安心しなよ。次に会う時しっかりと包み隠さずに教えてあげるからさ」

 

「次……どう言うことですか?」

 

「言葉の通りさ。どうせ、すぐに会うことになるからね」

 

男は、にこにこと笑っている。

だが、その目は——笑っていなかった。

 

深い紫色の瞳が、じっとこちらを見つめている。

まるで、観察するように。

 

(……これ以上の問答は意味がないな)

 

アルはそう思考を閉ざす。

目を閉じる。全身の力を抜き呼吸を整える。

 

男が、何かを言っているのが聞こえくる。

だが、もう、意識が遠のいていく。

疲労が、一気に押し寄せてくる。

意識は闇に沈んでいった。

 

 

 

 

「ん……あ……!?」

 

どれくらい時間が経ったのか。

アルは、ゆっくりと目を開けた。

 

「おっ、起きたか」

 

男が、すぐ近くにいた。

 

アルは反射的に身体を起こし、距離を取る。

 

「おいおい、そんなに警戒しないでよ。何もしてないって」

 

男は両手を上げて見せた。アルは自分の身体を確認する。

武器も装備も全て何もされていないのだ。

魔力も体力もほぼ全快だ。

 

「いやぁ〜。よくもまぁ、知らん相手の前で睡眠に入れるね!危機感が足りないんじゃない?」

 

「……自分でも驚いてますよ。まぁ、アナタのような人とも関わった事がありますのである程度の確信を持っていたんですよ?」

 

「ハッ、笑える」

 

そんな会話をしながら、アルは男に向かい会う。

 

「今回は助けてくださりありがとうございます。まぁ、そちらの自作自演かもしれませんが」

 

「のーこめんと。ほんじゃ、またな。道中は気を抜かずに行けよ?」

 

そう言って、男は背を向けて去って行く。

アルも、地上へと繋がる道へ歩いて行く。瓦礫は既に撤去されていた。

 

 

 

 

「ただいま帰りました」

 

拠点の扉を開けると、いつもと違う光景が目に入った。オオクチ様が、ベッドではなく、椅子に座っていた。しかも、珍しく背筋を伸ばしている。

 

灰色の髪を軽く束ね、尻尾は落ち着きなく左右に揺れていた。

 

「……おかえり」

 

オオクチノマカミの声は、いつもより少しだけ低かった。

 

アルは、一瞬だけ驚いたが、すぐに理解した。

 

(……ずっとこうしていたのか)

 

オオクチノマカミは、じっとアルを見つめた。

耳が、わずかに動く。

 

「随分と……遅かったね」

 

「はい。少し、手間取りまして」

 

「手間取った……かぁ」

 

オオクチノマカミはゆっくりと立ち上がった。

そして、アルの前まで歩いて、目の前で立ち止まり言葉を発する。

 

「怪我は?」

 

「ありません」

 

「本当に?」

 

「本当です」

 

オオクチノマカミは、しばらくアルの顔を見つめていた。そして、ふぅ、と小さく息を吐いた。

 

「……そっか。なら、良かったよ」

 

尻尾の動きがゆっくりになった。

 

「お腹空いてる?」

 

「えっと、はい。もしかして、用意してるんですか?」

 

「うん。君の帰りが遅くて作ったんだ」

 

オオクチノマカミは、いつもの調子に戻る。

 

だらりとした口調で、てくてくと台所に向かう。

アルは、その背中を見ながら、小さく笑った。

 

(心配されていたらしい)

 

出来る限り、日が暮れる前に帰ろうとアルは思った。

 

食事は簡素なもので野菜とその他をぶち込んだスープと、パン。

だが、疲れた身体にはちょうどいい。

 

アルは、黙々と食べた。オオクチノマカミは、向かいの椅子に座った。真面目な話をするからか、酒を持ってない。

 

「……それで、何があったの?」

 

アルは、スプーンを置いて、簡潔に報告した。

 

15階層で、特殊なミノタウロスと遭遇したこと。

Lv.3相当の強さだったこと。

辛勝したこと。

そして、例の男についても。

 

隠す必要は無いので、報連相をしっかりする。

オオクチノマカミは、黙って聞いていた。

 

「ふぅん」

 

話を聞き終えると、オオクチ様は小さく呟いた。

 

「魔石がないミノタウロスに怪しげな男……かぁ」

 

オオクチ様の瞳が、わずかに鋭くなり、しばらく黙りながら腕を組む。

 

「……まぁ、バベルから凄い音が聞こえると思ったから何かが起こったことは分かってたけどさぁ……」

 

オオクチ様はハァと溜息を吐きながらじっとアルを見た。その目には呆れと困惑が混じったようなものが感じれる。

 

「君は、やけに面倒事の渦中にいるね」

 

「そうですね」

 

オオクチノマカミは、じっとアルを見つめた。

そして、ふぅ、と息を吐いた。

 

「……まぁ、いっか。今は、生きて帰って来たことを喜ぶとするよ」

 

「はい」

 

「じゃあ、ステイタスの更新、しよっか」

 

「お願いします」

 

 

 

ベットに座り上着を脱いで背中をオオクチノマカミに向ける。

 

「じゃ、いくよー」

 

温かい指先が、背中に触れた。

しばらくして、オオクチノマカミは、ゆっくりと指を離した。

 

「はい。どうぞぉ」

 

「ありがとございます」

 

上着を着直し振り返り紙を受け取り目を落とす。

 

---

 

アル

Lv.1

力:B715→A832

耐久:B795→A810

器用:S912→S999

敏捷:B756→A822

魔力:S925 →S999

 

【精癒:H】

 

《魔法》

宿願を此処に(イテル・アンソロジー)

・速攻/治癒/全治癒

・風属性

・各詠唱

・三段階位魔法

・第一階位:詠唱式『疾風(エアリアル)

・第二階位:詠唱式『治癒(ヒール)

・第三階位:詠唱式『風の祝砲。生誕の祝福。久遠の親愛。裂翼を銀糸で縫い。欠骨を琥珀で繋ぎ。宿痾を星屑に溶かし。呪縛を夜天に払う。蒼天の彼方。精霊は詠う。生きよ。翔きよ。果てなき世界へと。風の調べに乗せ。血の記憶が霧に溶けゆくとも、虚空に散るとも、我らは永遠の風となり、汝を見守る。知らずとも良い。ただ、告げる。我らは汝を愛している』

 

【】

 

【】

 

《スキル》

孤高の道標(インサニア・ループス)

・単独行動時に全アビリティに超高域補正

・単独戦闘時のみ発展アビリティ『剣士』『魔導』を一時発現。

・戦闘時、技術、技能、技量、最適化

・戦闘後、獲得経験値増加

・思いの丈に応じて補正

 

風の記憶(レミニス・ケンティア)

・発展アビリティ『精癒』の獲得

・自身の魔法効果向上

・魔法使用時の魔力消費軽減。

 

 

剣技刻印(ソードアーツ・エングレイブ)

・会得した剣技を刻印、再現性を向上

・刻印された技の威力・精度が向上

・新たな技の習得速度が上昇

・現在刻印済み:『神威』

---

 

アルは、紙を見つめたまま、動かなかった。

オオクチノマカミが、横から覗き込む。

 

「見ての通りだよ。レベルアップは出来ないね。君という人間を満たす偉業は途轍もなく高い所にあるらしい」

 

オオクチノマカミは、肩をすくめた。

 

「でも、能力値はすごく上がってるよ。器用と魔力がカンストだし、力と耐久と敏捷もAになった」

 

見て分かると思いながらアルはオオクチ様の次の言葉を待つ。

 

「それに、新しいスキルが出てるね」

 

「はい。【剣技刻印】ですね」

 

「うん。君が使った技を刻印する能力みたい。で、その『神威(カムイ)』っていうのが、刻印されたみたいだね」

 

アルは、頭を傾げる。

どう言う意味なのかまるで理解できないから。

 

「……なるほど」

 

「どう思う?」

 

オオクチ様が、アルの顔を覗き込む。

アルは、少しの間考えた。

 

「……便利ですね」

 

オオクチノマカミは、くすりと笑った。

 

「まぁ、確かに。でも、これって結構すごいスキルだと思うよ」

 

そのまま、身ぶり手ぶりで説明をしてくれる。

 

「技っていうのは、何度も何度も練習して、身体に染み込ませるものでしょ? でも、このスキルがあれば、一度成功した技を、スキルとして固定できる。つまり、いつでも同じ威力で出せるってことだね」

 

簡単に言うと〝一度成功した技を記録・保存できる能力〟である。

また、スキルで刻印された技は使用した際よりも、威力が増加され、疲労時でも精度が保たれ、咄嗟の時でも確実に出せるそういうスキルだと思ってもらえれば良いだろう。

 

「それと、もう一つ、器用と魔力がカンストしてるのはかなり珍しいね」

 

「……そうなんですか?」

 

「うん。普通は、Lv.1でカンストまで行く人って、ほとんどいないからね。大抵、A〜Bくらいでレベルアップしちゃうし、Sまで行くのはそれは珍しいことなんだよ?」

 

知り合いの友神は少ないがある程度、常識は知っているオオクチ様はそう言う。

 

「まぁ、君の場合、レベルアップが出来ないから、その分能力値が上がって行くんだろうけどね」

 

レベルアップ………偉業。アルにとっての偉業は何なのか。

 

「で、このまま、能力値を上げ続けよう。偉業についてはよく分からないけど、いつかは君に相応しいモノが見つかると思うから。焦らずに行くといい」

 

「はい」

 

アルは、紙を畳んだ。

オオクチノマカミが、あくびをする。

 

「んー、眠くなってきた」

 

「お風呂はもう入ったんですか?」

 

「ううん。君を待ってたからまだだね。まぁ、1日入らなくても変わらないさ。明日の朝、君に頼むよ。ああ、それとも、今から一緒に入る?」

 

「……遠慮しておきます」

 

「ふふ、そっか。なら、また、明日の朝にでも洗って貰おうかな」

 

オオクチノマカミは、てくてくと自身のベッドに向かった。そして、ベッドにダイブ。

 

「おやすみー」

 

「はい。おやすみなさい」

 

アルは、自室に向かった。

階段を上りながら、改めて今日のことを振り返る。

特殊なミノタウロスに闇派閥の男、新しいスキル、色々と詰め込みすぎである。

 

(明日はギルドに行って、魔石の換金と報告しに行って…………)

 

アルは、小さく息を吐いた。部屋に入り、防具を脱いでハンガーに掛け、武器を立て掛け、ベッドに倒れ込んだ。

 

(その後は、ダンジョンに行って………思いの外、苦戦は今のところは無いし……十八階層まで降りるとしよう)

 

寝返りを繰り返しながら、数分が過ぎていき疲労が、一気に襲ってくる。

 

 

意識はすぐに闇に沈んでいった。

 

 

 

その夜。

オオクチノマカミは、ベッドで目を開けていた。

尻尾を、ゆっくりと揺らしながら、天井を見上げている。

 

「……Lv.1で、S 999を二つ、か」

 

小さく呟く。

 

「しかも、新しいスキルまで」

 

オオクチノマカミは、ゆっくりと起き上がった。

窓の外を見る。

 

月が、静かに輝いていた。

 

「……まったく、最初の眷属がこうも特異だと困っちゃうね」

 

誰にともなく、呟いた。

 

「神威……ね」

 

オオクチノマカミは、小さく笑った。

神の持つ、常時発動のものと読みが違うだけの技。

アルがなぜそう名付けたのか、オオクチノマカミにとって是非とも聞きたいところだ。

 

「面白いことになってきた」

 

そして、再びベッドに倒れ込んだ。

 

「……まぁ、いっか」

 

尻尾を揺らしながら、目を閉じる。

 

「アルが生きて帰ってくるなら、他はどうでもいいし」

 

小さく呟いて、オオクチノマカミは、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほ。昨日ぶりだね」

 

18階層にある安全階層、『リヴィラの街』に降りたアルを待ち受けていたのは、昨日、別れた黒いローブの怪しい男だった。




ーーということで解説ですーー
〝抜刀_神威(カムイ)〟
神速の抜き打ちを放つ抜刀術。元ネタ、参考元はFateの河上彦斎の技。
技名は、ふと思いついた物を適当に言っただけです。放つ時に、〝技名言いながら放つと威力が強くなる〟的なことを旅で知り合った人物に言われたのを思い出したからです。思いの外、威力が出たので今後も必殺技を思いついたらアルは技名を叫ぶことにしました。

・漆黒のミノタウロス
ご察しの通り、闇派閥の神が神威を解放した影響により、ダンジョンが産み落とした怪物。
推定レベルは4
レベル3であっても一発でも当てられたら、文字通り肉餅になる規格外の力と、レベル2の上澄みなら辛うじて捉えられる速度で接近してくるフィジカルモンスター。
ただ、魔力反射は持っていないし物理に弱い。
尚、魔石の代わりに発達した脳があり、胸を貫いたとしても頭さえ繋がっていれば反撃してくる可能性があったり。

・謎の男
飄々とした薄ら笑いを浮かべる男。
自身の主神の命令を受けてアルを観察している。
詳細は次回。設定は固めてます。
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