単独でダンジョンに挑むのは間違っているだろうか?   作:一般通過害悪

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ーー
これが限界ですなぁ。



少年、初めて冒険をする。

アルは笑みを浮かべたまま、打刀を構え直した。

 

疾風(エアリアル)

 

風が渦を巻き、体を包む。地面を蹴り、最前列の通常種の小竜の首筋に斬りかかる。

 

ガキンッ!

 

 

硬い竜鱗が刀身を弾き、火花が散る。

刃は浅く食い込むだけで、致命傷には至らない。

 

(……硬ぇ……だが、斬れるな)

 

次の瞬間、後ろから別の小竜の巨口が迫る。

牙が剥き出し、熱い息が背中を焦がす。

風を操り、体を横に翻す。

 

そのまま、空中へ跳躍――だが、そこは死角ではなかった。

天井と壁の隙間から、蝙蝠型のモンスター、バッドバットが数百、いや千近くの大群となって襲いかかる。

 

キィィィィ!鋭い牙と音波が空を埋め尽くす。

数十匹は一気に仕留めれるが、だがこの数は捌ききれない。

ガブリガブリと噛みつかれる。

 

疾風(エアリアル)!」

 

魔法を使い、噛みついているモンスターを無理やりに弾き飛ばす。

 

少ないながら肉を持っていかれるが直ぐに治癒(ヒール)を使用し傷を癒す。

 

反撃の一閃で道が開き、霧のように霧散する魔石の欠片が舞う。

それでも、数は減らない。

 

バッドバットの波が後続を押し寄せ、アルの視界を覆う。

着地と同時に、地響き。

 

コボルトの群れが吠え、インプが飛び、オークの

天然武器(ネイチャーウェポン)である木が振り下ろされ、シルバーバックの巨腕が横薙ぎ。

 

(……数が多い!!)

 

身体と共に刀を回転させ、周囲を薙ぎ払う。

コボルトの首が飛ぶ、インプが真っ二つ、オークの腹を裂く――だが、隙が生まれる。

 

ガツン!

 

通常種小竜の尻尾が横から叩きつけられる。

直撃。肋骨が軋み、鈍い音が体内に響く。

 

「グフッ……___」

 

衝撃で体が吹き飛び、苔むした壁に激突。

背中から聞こえてはイケない音がしっかりと聞こえた。

それに加え、打ちどころが悪く、脳が揺さぶられ視界が白く染まる。

 

 

周囲の咆哮、羽音、足音が渦巻く中。

危険極まりないダンジョンの内部で、アルは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

朧げな意識の底で、懐かしさを感じていた。

誰かに抱かれているような、言い知れぬ気持ちの悪さ。

 

ジタバタと暴れる。

何かが困ったように、子供を落とさぬようしっかりと抱きしめる。

 

『ただいま』

 

『おかえり、貴方』

 

夫婦だろうか。男女二人の声が重なる。

石やガラスを組み合わせたような模様が顔にへばりつき、輪郭すら認識できない。

男が近づき、女が大事そうに抱く子供の頬を突つく。

 

 

知らないはずなのに(知っているはずなのに)知っている(知らない)

 

 

忘れている(覚えている)

 

 

ああ、このまま沈んで……

 

 

 

 

 

 

「…………あ?」

 

 

(俺は……何を……ッ)

 

アルは自分が気を失っていたこと、モンスターの大群と四体の小竜との戦いの最中だったことを思い出した。

 

肋骨が軋む。背中が痛い。

折れた音が体内に響く。

痛みが意識を蝕む。

 

(……立ち上がらねぇと……)

 

ジリジリと近づくモンスターの群れを見据え、脚に力を込める。

だが、思いとは裏腹に体は動かない。

 

「ハァ……」

 

溜息が漏れる。

 

今更ながら、後悔が湧き上がる。

なぜ、迎え撃つことを選んだのか。

普通に考えれば、あの時、上層への階段まで突っ切って地上に帰還すればよかったのだ。

 

スキルの補正も把握できた。

一時的な階位昇華(レベルブースト)――レベル2相当の出力が可能なのだろう。

 

そうで、無ければ、ここまで戦い続けられた説明がつかない。

上層殆どのモンスターを一閃で仕留めるなど、あり得ない。

 

だからこそ、後悔する。

あの時、ああしていれば。

あの時、こうすれば。

 

もしも(If)が頭を巡る。

 

端的に言おう。

アルは調子に乗っていた。

旅を重ねたと言えど、十歳という年齢で驕るのも無理はない。

強い魔法とスキルに酔い、己を過信した。

 

 

何度も助言は受けていた。

 

何度も指摘はされていた。

 

何度も痛い目にも遭ってきた。

 

……何度も。

 

___ドクン。

 

(とはいえ……だ)

 

だが。

 

アルは、ここで死ぬわけにはいかない。

 

何故なら、ここで死ぬわけにはいかないから。

 

『立て。もう一度だ』

 

何度も地面を伏せさせてきた鍛冶師(恩師)の声が蘇る。

 

(ああ、分かっている)

 

息を吸い込む。

 

疾風(エアリアル)

 

風が再び体を包む。

足腰に力を込め、立ち上がる。

状況は劣勢。

 

いや、絶望的と言い換えようか。

 

レベル3相当の小竜強化種が1体。

レベル2相当の小竜は4体。

レベル1では苦戦するモンスターは複数。

 

だが、終わりが無い訳では無くなった。

 

逃走?

 

 

闘争?

 

アルは口元を歪ませる。

 

ここを超えた自分を想像する。

この絶望をひっくり返せば、どれだけの高みへ行けるのか。

 

得物(打刀)を握りしめる。

 

「さぁて……」

 

ゴキゴキと肩と首を鳴らし、向かってくるモンスターへと踏み抜いた。

 

 

やりますか(冒険をしよう)

 

 

 

 

 

 

八階層へと続く螺旋階段を、二人の少女は軽やかに降りていく。石壁に灯る魔石灯の光が、少女たちの影を長く伸ばす。女たちは、オラリオを牛耳る二大派閥の一つ、ヘラ・ファミリアの新人。

 

まぁ、新人と言っても、ファミリア内での話だが。

黒髪の方は七歳で加入し、わずか三年でLv.2。

茶髪の方はLv.1だがレベルアップも間近だ。

 

 

彼女達が目指すのは中層。

 

朝の、幹部勢からの扱きが終わり、昼時になったため、黒髪と茶髪は経験値を稼ぐために向かっているのだ。

少しの会話を交わしながら、八階層の入り口に入ったその時。

戦闘音を探知した。

 

まぁ、気付いたのは黒髪の方だが。

探知と言っても、スキルとかそういうものでは無く、単純な聴力である。

 

そのまま、戦闘音がした場所に向かうと、そこには夥しい量の魔石と、冒険者の死体があり、その中心に、一人の少年が居た。

 

いや、正確には今も尚、戦い続けていた。

インプ、オーク、シルバーバックといった八階層よりも下に現れる筈のモンスター達。

 

加えてあり得ないことは二つ。

 

上層の実質的な迷宮の孤王である小竜が五体。

しかも、その内、一体は、他の個体よりも青い鱗を持っている強化個体。

 

茶髪の方が助けようと動き出そうとして………黒髪が静止する。

 

ただ一言。

 

「見ていろ」

 

茶髪は仕方なく、少年の観察を始めると……たちまち釘付けになった。

 

それは、少年の技の練度の高さ故に。

 

「………有り得ないでしょ」

 

余りにも洗練され過ぎている。

 

魔法……なのだろう、風を使用しながら最小限の動きだけでモンスターの攻撃を完全に回避している。

 

魔法制御の難しさはよく知っている。

 

失敗したりして何度も自爆しそうになった経験もある。

 

レベル1として研鑽を積んできた茶髪だからこそ、少年の制御能力のおかしさに気付く。

 

まぁ、横の黒髪も知っているだろうが。

 

(あり得ない)

 

その練度は、とてもじゃないが少年が育める年月を有に超えている。否、そうではない。

 

「……バケモノ」

 

常日頃から格上の怪物に仕込まれているヘラの眷属から見てそれは直ぐに分かった……()()()()()()()()()()()

 

少年は、()()()()()()()()()()()()()()()

 

そうして、少年は一人で五体の小竜を除く全てのモンスターを狩り終えた。

 

「なに?……十分、あの子は頑張ったでしょ」

 

茶髪はそれを見て助けに入ろうとして、また、黒髪に止められる。

 

「言っただろう。見ていろ」

 

茶髪は溜息を吐き、黒髪に掴まれている右手を強引に引き抜こうとして………万力の様な力が伝わり、諦めた。

 

レベル2とレベル1の差。

 

茶髪は諦めるしかなかった。

再度、少年の戦いを観戦する。

不思議なことに強化種は動かず、4頭の小竜が少年に襲い掛かる。驚いたことに、小竜の攻撃をまるで、分かっているかのように得物で受け流しながら完全に回避して……否、掠っているため完璧にとはいっていない。

 

「………剣士を持っているな」

 

「いや、魔導でしょ?」

 

初めて、黒髪と茶髪の意見が食い違う。

 

少女達が言っているのは、発展アビリティについてである。

 

発展アビリティとはレベル2以降で稀に手に入れることの出来る、基本アビリティとは別の特殊な能力のこと。

 

『剣士』であれば、剣類を使用する時に補正が行う。

 

『魔導』であれば、魔法を使用する時に補正が行う。

 

黒髪と茶髪の言葉を参考にすれば、あの少年は最低でもレベル3の冒険者ということになるが……二人共に、少年の顔に見覚えはなかった。

 

ここから、簡単にパターン化をしよう。

 

1.オラリオ外のファミリア。

2.オラリオ内のファミリアだがレベルアップを報告していない。

3.そもそも、レベルアップをしてない無名の冒険者、所謂、初心者(ルーキー)だが、レアスキルの効果で一部発現させている。

 

「両方を所持していたとして……お前はどう見る?」

 

「単純にオラリオ外のファミリアじゃない?……ああ、それだと、知れ渡らないのがおかしいか……」

 

そう、オラリオ外でのレベル3と言うのは一躍英雄扱いされる。

何故なら、オラリオ外の魔物は基本的に弱く、あったとしても、レベル2が精々なのだ。

 

それに加え、少年の姿。

容姿からして十歳に成り立てか、少し上程度。

オラリオ外で子供がレベル3になったと言うことになれば自然と騒がれるものだ。

 

「だとすると……レベルアップ報告をサボっていたり?………現にヘルメスの所は詐称してるらしいからあり得なくはない………けど、まぁ、ないよね」

 

レベル3と言えば、ある一定で言えば一人で中層に潜れないこともない。

 

まして、あの技術の練度から見てそれより下に潜っている可能性も低くはない………が。

 

どうしても、少年の容姿がそれを潰す。

 

あの小さな身体をした者が居れば目撃情報の一つでも合っておかしくはないから。

 

「ねぇ。あの少年、小人族(パルゥム)だったりするかな……」

 

「いや、それはない」

 

茶髪の言葉は黒髪にバッサリ切られる。

茶髪もそれはそうかと簡単に納得する。

 

小人族(パルゥム)

差別ではないが、非力で魔法が使えるわけでもなく、五感が鋭いという以外取り柄のない劣等種族。そんな、種族にあんな戦い方を出来るのかと言われればNOだろう。

 

まぁ、一定より上であれば別ではあるが。

 

「だとすれば、何かそう言うスキルで一時的な発現を行っている……?現にうち(ヘラ)の団長さんとか変態爺(ゼウス)のとこの眷属さんもそう言うのあったし」

 

「まぁ………可能性としてはそれが一番高いと見ていいだろうな」

 

そんな、会話もそこそこに戦闘に進展があった。

 

「避けるだけじゃなく、首辺りの鱗を小さい攻撃で剥がしていた………?」

 

少年は避け続けるだけではなく、創意工夫を行っている。

故に、一匹の小竜の首を斬り裂き、驚いたことに一匹目を討伐した。

瞬時に、次の獲物を狙い定め襲いかかる。

 

数分も立たず、二匹目の首を斬り裂きその隙間に刀を突き刺し風で内部をズタズタにして爆散、二匹目を討伐。

 

三匹目、尾の攻撃を上に避け尻尾を足場に走り抜け両手をクロス、ズバッ、と首と胴体を泣き別れさせて三匹目を討伐……着地と同時に、ぐらりと身体が揺れる。

 

精神疲弊(マウンドダウン)!?)

 

茶髪の心配は形となった。

最後に残った四匹目の小竜の突進攻撃をもろに受ける………と共に、少年の口角が上がった。

 

「フッ…………やったな」

 

黒髪の視線には少年の得物である打刀と短刀が小竜の腹部に深々と突き刺さっている。

 

「エアリアル!」

 

ボフッと竜の内側から風が全てを切り刻む。数多の傷口から、風が吹き出るように開かれていく。

 

「エアァリァル!!」

 

更に傷口が膨大する。

竜の鎧と化していた鱗が勢いよく、弾け少年の頬に突き刺さる。

 

されども、竜は頑丈だ。

 

自身よりも非力で矮小な下等種族(人間)に殺られるなど竜としての誇りにかけて絶対に阻止すると。

 

そのまま、自身の身体が貫通されていようがお構い無しに竜はすぐ横にあった壁に向けて全速力でぶつけよう突進を始めるが。

 

コンマ数秒差。

 

少年が早かった。

 

 

「エアァリァルゥゥゥゥ!!!!」

 

 

爆散。竜の強靭な皮が鱗が内部の風に耐えきれずに弾け飛んだ。

ダンジョンの全方向に向けて凄まじい突風が巻き荒れる。小規模の暴風が吹いたように。

 

降りしきる血と血肉の雨。地面に破片が転がり、討伐した証として小竜の一回り大きな牙と魔石が地面に突き刺さった。

 

茶髪は唖然とする。

 

(勝っちゃった………でも)

 

少年は女の思うよりも遥かに強く、強靭で器用で、正しく漢であった。瞬間、青い鱗の強化種が動き始めた。

 

のしのしと地面を揺らしながら少年のもとへ歩いていく。

 

だが、少年は既に動けない。

 

精神枯渇(マインドゼロ)により一歩たりとも動けず立ったまま気を失って居るのだから。

 

「へっ?」

 

それと同時に動いたのは黒髪の少女であった。その脇には茶髪が持たれている。

 

「蜥蜴………貴様の相手はこの私だ」

 

そのまま、少年と青い小竜の間に黒髪は降り立つ。

黒髪はそのまま、茶髪をぽいっと少年のもとに捨てる。

 

「アニス………()()()()()()()

 

「は?………いやいやいや!普通に考えよ?そのモンスター、レベル4相当だよ!?勝てるわけないよ!」

 

茶髪、アニスの言う通り、目の前の小竜のレベル4相当だ。

レベルは2の少女が大凡(おおよそ)勝てる通りはない。

 

………だが。

 

アニスの言葉を鼻で笑いこう言った。

 

「ふん。生きている限り……血が流れる。故に死ぬ。ならば殺せない。道理はない。………まぁ、本音を言えば私も冒険をしてみたくなったそれだけだ」

 

自らの得物を抜き放つ。

 

「ちょっ、ほんとに!?ああ!もう!分かった。この子は任せて!ちゃっちゃと終わらせてよね!レグナント!」

 

黒髪……レグナントは答えない。

ただ、口元を獰猛な肉食獣のように歪ませる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

初めて会っただけの男の『冒険』に。

さぁ、やることは単純だ。

 

 

『冒険をしよう』

 

 




ーーー
最後の二人組はお察しください。
あっ、言っときますがレグナントと強化個体との戦いはカットです。
因みに、アルくんは上半身は裸です。防具は全部ぶっ壊れて、武器も小竜と一緒に爆発四散しました。
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