単独でダンジョンに挑むのは間違っているだろうか?   作:一般通過害悪

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前回までのあらすじ。
アルは小竜を4頭仕留めて気絶した。
割って入るのは、ヘラの眷属レグナント。
彼女は強化個体を倒してレベル3になりました。

ーー
導入はバベルにある治療施設の一室です。


少年、生き延びる。

アルの手を包む温かさと独特な治療薬の匂いが朧げな意識を徐々に引き戻した。

 

最初は、ただの心地よい眠りの余韻かと思った。

だが、記憶の断片が次々と蘇る。

夥しいモンスターの群れ。

インファント・ドラゴンの咆哮。

風を纏い、一閃で首を薙ぎ、鱗を剥ぎ、内部を切り裂く。

四体目、最後の通常種を、エアリアルの連発で爆散させた瞬間。

 

(……そこで、意識が……)

 

視線を落とす。

自分の手が、優しく握られていた。

そこにいたのは、少しやつれたようなオオクチ様が居る。

灰色の髪が綺麗に纏められハーフアップに狼耳が伏せ、尻尾がだらりと垂れている。

いつものよれよれの着物姿……ではない、しっかりと着こなしている。故に目元のクマが目立った。

 

「あっ、起きたんだぁ。おはよう」

 

彼女の声は、いつもの抜けた調子。だが、アルの耳には、僅かな安堵が混じっているのが分かった。

 

「……オオクチ様……? ここは……いえ、分かりました。何処かの治療施設ですね?」

 

アルは体を起こした。肋骨付近の痛みはなかったのでそう判断した。オオクチ様は小さく頷き、手を離さず握り続ける。

 

「うん。御名答。ここはバベルの治療施設さ」

 

アルは周囲を見回す。白い壁、魔石灯の柔らかな光、薬草の匂い。まぁ、嘘ではないのだろう。

 

「四匹目の小竜を仕留めたところで、意識を失いました。……その後、どうなったんですか」

 

オオクチ様は尻尾を軽く揺らし、説明を始める。

説明は、事細かに記憶を辿るように淀みない。

 

「ん~、キミが気絶した直後、ヘラの眷属が通りかかって助けてくれたんだよ。運が良かったねぇ」

 

「ヘラ………ヘラ・ファミリア……が? えっと、確か、強化個体が残ってたはずなんですけど……」

 

「それね。その強化個体は、さっきも言ったヘラの眷属……レグナントって少女が討伐したんだってさ」

 

レグナント。

約五年前にヘラ・ファミリアへ加入した他の眷属たちに比べて比較的に見て新人。

レベル2の冒険者。

長い黒髪を紅いリボンで編み込んだ十二歳の少女。

 

因みに、言うと、強化個体との戦いでレグナントは深手を負い、一日前まで隣の病室にいたが、既に退院したという。

 

アルの血の気が引く。

 

別のファミリア――しかも、ヘラの眷属に助けられ、その眷属を巻き込んで重症を負わせたことに。

 

オラリオ外でも轟く、ヘラの悪名。

 

そんな神の眷属に、借りを造るなど――青ざめたアルを見て、オオクチ様は狼耳をぴくりと動かし、宥めるように言葉を続ける。

 

「ヘラはそこまで怒ってなかったよ。自分の眷属(レグナント)が退院する時に、彼女を連れてついでに寄ってくれてさ。要約すると、『その程度で目くじら立てるほど私は暇じゃない。だが、コイツには少し興味が湧いた。傷が癒えた後でいい。コイツに伝えろ。一人で私の拠点(ホーム)に来いとな。無論、美味な菓子を持って』って感じ。終始、和やかだったから安心しなよぉ」

 

アルは心底思う。

 

(行きたくねぇ……)

 

それと共に、ヘラの悪名を知らないのか、ケロッとしているオオクチ様を見つめる。

 

結構大物かもしれないなとか思いながら死地への覚悟をひっそり決めてた。

 

それと、三日が経過していることが分かった。

傷はもう一人の眷属、アニスの回復魔法と適切な処置とバベルの医療者達の尽力の甲斐もあり後遺症の心配はないらしい。

アニスの説明は以下の通り

茶髪ショートヘアのエルフ。

レグナントとは同期で、よく行動を共にする十五歳。

 

治療費は、怪物進呈で狩りまくった魔石の換金で払ったという。

拾ってくれたのは、又もや偶々、中層に潜っていたゼウスの眷属だとか。

 

(……二大派閥に挨拶か)

 

オオクチ様はそのまま、アルの耳元に口を寄せる。

 

「それと、この件の関しては、ギルドから周りに吹聴しないようにって言葉をもらったから、気をつけてね。レベル1で数千の魔物と小竜四体討伐なんて大々的に報じたら、都合悪いんだってさ。それと、これはキミの身を守るためでもあるらしいよ」

 

公表版はこうなる。

 

〝八階層で怪物進呈が前後から挟み込むようにから発生。二組のパーティー死亡。生き残った一人は、運良くゼウスとヘラの眷属に助けられた〟

 

アルは〝助けられた冒険者〟の括り。

旅で色々な組織の隠蔽工作を見てきたアルは、何も言わず頷く。

 

「レベルアップ可能なら別にいいけど、『報告に来るな。報告にくるなら最低二年後にしろ』だってさ」

 

数千を超えるモンスター、迷宮の孤王4頭、偉業が過ぎる。

至上最速レコードとなれば要らぬ、やっかみ……ならまだ良いが、現在、姿を晦ましている闇派閥(イヴィルス)、アパテー、アレクト、ルドラ、そして、()()()()に狙われる可能性があるため。

 

冒険者ギルド的に〝未来の英雄候補〟を失う訳には行かないのだ。

 

オオクチ様は、提案に乗る代わりに小屋と教会の修繕代を交渉。

OKされ、一日前からゴブニュ・ファミリアが改装中だという。

話を聞き終え、アルの身体はベットに崩れた。

散々寝たはずなのに、眠気が襲う。

オオクチノマカミはそれを察し、尻尾をゆらりと振る。

 

「さて、そろそろ、私は御暇するよ」

 

病室を出る。

ぽつんと残されたアルは、深い、深〜い息を吐き、ゆっくり目を閉じた。

 

 

 

二日後の早朝、退院許可が下りた。

アルは病室を出て、廊下を歩く。

一日前には、偉いのだろう太ったエルフの長に詳細を聞かれたため、受け答えを行った。

その会話から、ある程度、何者かによるモノだと察したが特段気にする必要もなかったので追及はしなかった。

 

バベルの正面玄関へ。

扉を開けると――空は憎いくらいに美しい晴天。

太陽が点々と日照りを降らせ、街並みを金色に染める。深呼吸。

久しぶりの地上の空気。

石畳の感触。

 

 

生きている――その、現実がじんわりと染みてくる。

 

 

数分歩く。

遠くに、教会が見えた。

以前とは別物。白い壁は新しく塗り直され、赤い屋根瓦が朝陽を反射。ステンドグラスが虹を落とす。

門扉は新調され、小さな花壇に色とりどりの花が咲き始めている。

 

ゴブニュ・ファミリアの仕事は、完璧だった。

アルは立ち止まり、教会を見上げる。

風が吹き、髪を揺らす。

 

「……帰る場所か」

 

小さく呟き、歩みを再開。

 

目的は裏手の小屋。まるで別物。壁は補強され、屋根は葺き直され、扉は新しく、窓にカーテンが見えた。

煙突から、ほのかに湯気が立ち上る。

アルは扉に手をかけ、ゆっくり開ける。

 

「……ただいま。帰りました」

 

「おぉ〜、お帰り。アル」

 

珍しく、オオクチ様が出迎えてくれる。

着物は新しく、狼耳がぴょこんと跳ね、尻尾が嬉しそうに揺れる。

内部も――綺麗に整頓されている。

埃一つなく、家具が新調されている感じのようだ。

 

「さぁさぁ、ステイタス更新しよっか」

 

促され、ベッドに座る。

背中に指が這う。

オオクチ様の困惑したような、興味深そうな声が聞こえてくる。

 

「……あれ?…………ふ~ん」

 

ステイタスの描かれた紙を渡してくる。

アルは紙を握りしめたまま、ゆっくりと息を吐いた。

 

アル

Lv.1

力:F 380 → B 715

耐久:F 350 → B 795

器用:E 494 → S 912

敏捷:F 385 → B 756

魔力:E 492 → S 925

 

【精癒:I】

 

《魔法》

宿願を此処に(イテル・アンソロジー)

・速攻/治癒/全治癒

・風属性

・各詠唱

・三段階位魔法

・第一階位:詠唱式『疾風(エアリアル)

・第二階位:詠唱式『治癒(ヒール)

・第三階位:詠唱式『風の祝砲。生誕の祝福。久遠の親愛。裂翼を銀糸で縫い。欠骨を琥珀で繋ぎ。宿痾を星屑に溶かし。呪縛を夜天に払う。蒼天の彼方。精霊は詠う。生きよ。翔きよ。果てなき世界へと。風の調べに乗せ。血の記憶が霧に溶けゆくとも、虚空に散るとも、我らは永遠の風となり、汝を見守る。知らずとも良い。ただ、告げる。我らは汝を愛している』

 

【】

 

【】

 

《スキル》

孤高の道標(インサニア・ループス)

・単独行動時に全アビリティに超高域補正

・単独戦闘時のみ発展アビリティ『剣士』『魔導』を一時発現。

・戦闘時、技術、技能、技量、最適化

・戦闘後、獲得経験値増加

・思いの丈に応じて補正

 

風の記憶(レミニス・ケンティア)

・発展アビリティ『精癒』の獲得

・自身の魔法効果向上

・魔法使用時の魔力消費軽減。

 

オオクチノマカミはアルの肩越しに紙を覗き込み、尻尾をゆらゆら振る。

 

「……うん。合計1000オーバーかぁ。すっごい跳ねてるねぇ。器用と魔力はSになっちゃってるし……」

 

興味深そうに呟き、指でアルの背をなぞる。

 

「風の記憶……か。うん。いいスキルだね」

 

アルは頷く。

魔法の威力、精度、持続、全てが底上げされるということは、戦場での選択肢が広がる。

 

だが、オオクチ様は少し困ったように首を傾げる。

 

「とは言え……残念なことに、()()()()()()()()()()()()

 

「……? えっと、それはどういう?」

 

「言葉通りの意味だよ。君の戦いは()()()()()()()()()()()()()……魔石の数から最低でも、千五百体のモンスターと小竜四頭討伐……それで偉業じゃないなら何なのさって感じだね」

 

眉を寄せるアルに、やれやれという身振り手振りで困惑を表すオオクチ様。

 

「でも、悪いことじゃないよ。レベル1のステイタスはレベル2になってもそのまま蓄積されるからね。いい感じに言えば、これから研鑽を積めば、他の冒険者より強くなれる可能性ができたってことさ」

 

なんでも、レベルアップ時にはレベル1の時のステイタスをそのまま蓄積するらしい。簡単に言えば全アビリティがCの冒険者と全アビリティがAの冒険者が居るとする。

 

その場合、二人が同じアビリティになったら、蓄積値が量が多い全アビリティAの人物が相対的に強くなる。

 

まぁ、そんな感じ。

取り敢えず、レベルアップについては無理なので、置いておこう。

 

「それじゃあ、これからのことについて話し合おう」

 

「はい」

 

「まず、助けてくれた両派閥、ヘラとゼウスのホームへ君一人で行ってもらうよ」

 

「……ヘラさんの所は一人と言うのは分かるんですが、ゼウスさんの所はオオクチ様も同行した方がいいのでは?」

 

主神であるヘラ直々に一人で来いと言っているため、分かるのだがゼウスのところは何も聞いていないアル。

礼儀的に一人で行くのはどうなのか、と疑問に思いそう確認する。

オオクチ様は、あっ、言ってなかったねと言う感じで説明してくれる。

 

「それなんだけど、ゼウスから『一度見てみたいから一人で寄越せ』ってさ。そんな訳で、まぁ。頑張ってよ」

 

「分かりました………。えっと、既に、面会の約束とかは取ってあるんでしょうか?両派閥共に忙しい身であると考えて居るのですが」

 

「それは私が取りに行くから大丈夫だよ…………って、何その目」

 

アルの信じられないという目に思わず、オオクチ様は素でそう聞いてくる。

 

「いえ、自分で取りに行くものだと思っていたので……オオクチ様も主神として動いてくれるんだなぁと、感動しただけです」

 

「なっ、心外だなぁ。私だって主神として君を助けてくれた人たちにこう言う行動ぐらいはするさ。……まぁ、そう思われても仕方ないけど」

 

オオクチ様はぶつくさ言いながら尻尾を遺憾ですと言う風にぶんぶんと振る。

 

次は手土産。

 

ヘラ・ファミリアの構成メンバーは女性ばかりであり菓子折りと紅茶とかが良いだろう。

 

ゼウス・ファミリアの構成メンバーは男性ばかりであり、酒と男心をくすぐるものがいいだろう。

 

アルの裁量次第だろう。

次に確認するのは、武器と防具について。

チラリとチラリと確認して自身の相棒である短刀と打刀の姿が無いことにアルは落ち着かなかった。

 

「そう言えば……俺の打刀と短刀って……」

 

アルの声が沈む。

オオクチ様は小さく頷く。

 

「うん、想像の通り。木っ端微塵で原形すら残ってなかったみたい」

 

「……そう、ですか」

 

分かりやすいぐらいに落ち込むアル。

恩師(赤髪の鍛冶師)が造ってくれたものであり、二年という月日を共にした相棒達。

思い入れも高く少し悲しさを感じる。

 

とは言え、道具は消耗するもの。

今までありがとうと心の内で感謝した。

 

(まぁ、落ち込むのも無理はないよね)

 

オオクチ様も、アルの武器に対する思い入れはあるのは手入れの時間で察している。

 

「…………ええと、うん。明日に新しい武器を買いに行くといい。色々と思う所もあると思うけど、新しい武器に出会えると思えばワクワク……しないかぁ。まぁ、見つけて来るといいよ」

 

オオクチ様はなんとか励まそうと頑張るがアルの捨てられた犬の様な顔にタジタジになってしまうのだった。

 

「あっ、そうそう。君も見た通り、小屋と表にある教会を改装したんだ。今から見に行こう。なぁに、君の様な男の子が喜ぶように色んな仕掛けを造ってもらったりもしたんだ!」

 

微妙な空気に耐えられなくなったオオクチ様は小屋と面にある教会の内部の確認を提案する。

 

アルとしても、見てみたい気持ちはあったので案内をお願いすることにした。

 

まぁ、()()()()()()という言葉に惹かれたというのもあるが。

 

そんなこんなで、今日という一日は終わったのだった。

 




ーーー
アル。レベルアップ成らず。
一ヶ月そこらで、レベルアップ出来る訳が無いんだよなぁ。
どっかの白兎はバグです。
あの子は比較になりません。

オシリス・ファミリアについて。
原作の情報から20年以上前に壊滅したと確認していますので、40年の現在では、〝現存〟としています。
物語的にも絡ませればな……と思っていたり。


次回はアルの師匠、〝赤髪の鍛冶師〟現る。
その横には、初対面の少女の姿が………。
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